本連載は、2025年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

1.サプライヤーリスク管理の重要性

KPMGが全世界主要企業のCEOを対象に行った「KPMGグローバルCEO調査2024」において、「今後3年間の企業成長に対する脅威」を選ぶ問いに対し自動車業界CEOが最も多く挙げたのは「サプライチェーンリスク」でした(図表1)。未曽有の環境変化に直面する自動車業界において、パンデミックや自然災害、サイバー攻撃、品質不正など予期せぬ危機が多くの企業の操業停止や生産遅延を招き、成長戦略を脅かしてきました。
とりわけ、サプライチェーン全体に潜むリスク、特にサプライヤーリスクは、経営者にとって大きな懸念材料になっていると考えられます。

【図表1:自動車業界CEOが考える今後3年間の組織成長に対する脅威】

重要性を増すサプライヤーリスク管理と調達部門の新たな役割_図表1

出所:「KPMGグローバルCEO調査2024」

図表2に主要なサプライヤーリスクを示しました。世界各地に広がっており多数のサプライヤーが関与する自動車サプライチェーンにおいては、リスクの全容把握は容易ではありません。一次サプライヤーだけでなく、その先の二次・三次、さらには原材料レベルの供給先まで、幅広くリスク管理を行う必要があり、「情報が得にくい」「調査範囲が膨大」という声が現場からは聞かれます。

【図表2:主要なサプライヤーリスクの例】

重要性を増すサプライヤーリスク管理と調達部門の新たな役割_図表2

出所:KPMG作成

2.調達部門が担うべき役割

こうした状況下、調達部門に求められる役割が変化・拡大しています。従来のコスト削減や納期遵守をKPIとした業務から、サプライチェーン全体のリスクを可視化し能動的に対策を企画・実行することが求められています。

近年では最高調達責任者(CPO)を設置し、その強力なリーダーシップの下でサプライヤー評価やリスク対応の体制を強化する企業が増えています。調達部門は単なるフロントエンドの組織から、サプライチェーン再編や危機対応を主導する戦略的企画機能を担う組織へと進化しつつあります。

リスク管理の要となるのは、網羅性より重要性です。全取引先・全リスクの把握が理想的ではあるものの、リソースや情報収集手段には限界があります。そのため、企業は自社の事業継続や競争力維持に直結するリスクや重点サプライヤーを特定し、焦点を絞って情報収集を行い早期に対策を打つ必要があります。

たとえば、地政学的リスクが高まれば、影響の大きいサプライチェーンにおける代替手段の確保等が不可欠となります。重要なサプライヤーの事業承継問題が発覚した場合は、金融機関や外部専門家を巻き込んだ連携支援が効果的です。リスクの種類ごとに、的確かつ迅速に対策を打ち出せる体制づくりが鍵となります。

3.サプライヤーリスク管理におけるチャレンジ

実効的なリスク管理を支えるのは、データ活用と情報連携です。リスク評価基準の標準化、対象サプライヤーの特定ルールの策定、供給網の可視化ツールの整備など、企業を越えた取組みも一部ではみられます。人工知能(AI)や外部データベースを活用し、サプライチェーン全体の早期警戒やシナリオ分析を強化しながら、企業内外の情報共有を促進できる基盤が重要です。

加えて、リスクが高まった局面などでは調達部門が主導して素早く多面的な対策を実行する必要があります。リスク対応力が不足しているサプライヤーには指導や支援を行い、一方で改善が難しい場合は新規サプライヤーへの切り替えを検討します。経営自体に課題を抱えるサプライヤーについては、再生支援やM&Aによる支援等を積極的に展開することも考えられます。これまで以上に、調達部門には事業継続、危機回避、産業エコシステム維持にかかわるミッションが求められています。

サプライヤーリスク管理は一過性の課題ではなく、自動車サプライチェーンにおける構造的なチャレンジです。競争力を維持しグローバル市場での価値提供を続けるためには、調達部門が戦略機能の一部を担い、必要に応じて業界内で情報・知見を共有しながら変化に即応できるダイナミックなリスクマネジメント体制を構築することが必要と考えます。

日刊自動車新聞 2025年11月17日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMG FAS
インテグレーション&セパレーション部門
サプライチェーンCoE
執行役員 パートナー 岡本 晋