KPMGは世界の主要企業のCEOを対象とした調査を毎年実施しています。

第10回目となる「KPMGグローバルCEO調査2024」は、2024年7月25日から8月29日に、主要11ヵ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)と11業界(資産運用、自動車、銀行、消費者・小売、エネルギー、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、技術、通信)の企業経営者1,325人に対して、経済およびビジネスの展望、今後の経営戦略などについて調査しました。グローバル企業のCEOが考える経営課題や過年度からの推移に関する分析結果を報告します。

CEOはAIに大きな投資をし、激動の世界情勢を乗り切る

10回目となる今回の「KPMG グローバルCEO調査2024」は、昨今の地政学的および経済的に不安定な環境下でも、CEOは自社の未来に依然として自信を持っていることを明らかにしました。

今日のCEOが直面する課題は、AIの導入競争や高まる地政学的懸念など、広範かつ複雑なものとなっています。こうした外部の課題に加え、従業員のスキルアップや働き方などの内部の課題もあり、CEO は長期的な成長を視野に入れつつステークホルダーと迅速かつ柔軟に関係を築くことが求められています。

本調査は10年前に開始し、主要国および主要業界の年間売上5億米ドル以上の企業を率いるCEO約1,300人を対象に実施しました。

過去10年間は、新型コロナウイルスによる経済的・社会的インパクト、インフレの再燃や地政学的緊張など、不測の事態が数多く発生しました。このような環境下、CEOは前例のない数々の課題に適応しなくてはならず、大きな重圧を受けるとともに世界経済への自信を低下させました。

しかし、CEOはなおも忍耐強くビジネスを持続可能な成長に導いています。日々変わりゆくニーズに適応するために、AIに大きな期待を寄せ、また人的資本を強化することで経営基盤を築き続けています。今回の調査では、CEOは自社の未来について前向きに捉えており、92%(日本:81%)のCEOが雇用を増やすことを検討しています。また同時に、今後は従業員のスキルを強化する必要があることや、優秀な人材を確保するために、企業が従業員へ提供する価値(EVP)を高める必要があることを認識しています。ESGについては、ステークホルダーからの非難を回避し、さらに重要なこととして正しい行動を取るために、熱意と警戒心のバランスをとることが重要となるでしょう。

この10年間はパンデミック、インフレ、AIの台頭と、不安定ともいえる変化を繰り返してきましたが、CEOは将来への投資の必要性を主張しています。これまで以上に粘り強く、迅速で、かつ革新的であることが求められる中、将来を見据えた大胆な戦略を立て、テクノロジーと人材に適切な投資をするCEOは長期的な成長を実現することができるでしょう。これまでCEOはステークホルダーとの信頼を築くためにあらゆる手段を模索してきましたが、イノベーションやテクノロジーへの投資、人材を中心に据える成長戦略、そしてESGとサステナビリティ活動こそが価値創造の源泉であると認識を新たにしています。

Bill Thomas
グローバルチェアマン兼CEO、KPMGインターナショナル

economic outlook

世界経済の成長見通しに自信を持っているCEOの割合は、取り巻く環境の複雑さから調査開始時の2015年(93%、日本:N/A)よりも低くなっているものの、昨年、一昨年とほぼ同水準の72%(日本:74%)と堅調な結果となりました。

過去10年間の「世界経済の成長見通し」に対するCEOの自信

  

取り巻く環境の複雑さや多様性の高まりにより、72%(日本:88%)のCEOがビジネスを長期的に成功させることに対してより大きな重圧を感じています。CEOが感じているこの重圧は、成長に対する主要な脅威の変化によってもたらされているかも知れません。今回の調査において、最大の脅威は「サプライチェーンの課題」であり、「オペレーショナルリスク」、「サイバーセキュリティ」、そして昨年は最大の脅威であった「地政学的不確実性」が続いています。

過去10年間で、2024年の成長に対する最大の脅威がどのように変化したか

  

*Note 1 equals the top risk.

過去10年間のビジネスの成長に対する脅威

  1. サイバーセキュリティ
  2. オペレーショナルリスク
  3. 最先端技術/破壊的技術
  4. 地政学的不確実性
  5. 環境/気候変動
  6. サプライチェーン
  7. 規制リスク
  8. 戦略リスク
  9. レピュテーショナルリスク

この10年間、CEOはイノベーションやテクノロジーへの投資を増加させ、人材を中心に据える成長戦略を推進し、そしてESGとサステナビリティ活動こそが価値創造の源泉であると認識を改めることで、企業を成長させてきました。今後3年間の最優先課題としては、デジタル化の推進とバリューチェーン全体での活用(18%、日本:19%)、生成AIの理解と事業全体への導入・従業員のスキルアップ(13%、日本:13%)、ESG重点テーマの実行(13%、日本:21%)を挙げました。自社のビジネスをデジタル社会に適応させ優秀な人材を育成・確保することで、CEOは短期的な課題に対応するだけでなく企業の持続的な成長につなげています。

AI outlook

KPMGが10年前に初めてこの調査を発表した時、AIはまだ話題になっていませんでした。今はAIがビジネスリーダーにとって最優先事項であり、従業員もその無限の可能性を積極的に受け入れようとしています。CEOがAI投資を率先していることは心強いですが、導入を急ぐあまり倫理的かつ変革的で本質的なAI実装を損なわないようにすることが重要です。ビジネスのあらゆる局面で価値を生み出すには、すべての従業員がその取組みに参加する必要があります。適切なスキルを習得し、AIが持つ本当の力を引き出すことに重点を置くことで、企業が世界経済を長期的かつ持続可能な成長軌道に戻すという大きな役割を果たす可能性があるのです。

David Rowlands
グローバルAIヘッド、KPMGインターナショナル

CEOにとって、過去10年間で最も大きな変化をもたらしたのは技術革新であり、過去9回の調査のうち6回の調査において最先端技術/革新的技術が成長に対する脅威の上位3つに挙げられています。

KPMGが10年前に本調査を初めて発表した当時、AIは画像認識、自然言語処理、自動運転などの領域でのブレークスルーにより注目を集めていました。2024年には、64%(日本:72%)のCEOが経済状況に関わらずAIに投資する意向を示しています。今日のAIの使用事例は多くの話題を呼んでいますが、CEOは、AIが日常生活のあらゆる側面を変革する可能性を考慮して今後の課題に取り組む必要があると認識しています。

従業員のスキルアップが肝要

AIが仕事を奪うという話題に注目が集まっていますが、76%(日本:79%)のCEOがAIは雇用に影響を与えないと回答しています。一方で、従業員がAIを十分に活用するためのスキルを持ち合わせていると考えているCEOはわずか38%(日本:35%)であり、58%(日本:49%)は若手の従業員に必要なスキルを見直す必要があると回答しています。 

鍵となる投資先

すべてのCEOが何らかの形でAIへの投資を計画しており、昨年に続き資本的支出(CAPEX)の増加を示唆しています。CEOは、AIが効率性と生産性をあげる可能性(16%、日本:16%)、将来に備えて従業員のスキルを向上させる可能性(14%、日本:13%)、組織のイノベーションを促進する可能性(13%、日本:12%)を認識しています。一方、昨年と同程度(63%、日本:50%)のCEOは、AIへの投資は今後3年から5年以内に回収できると考えています。

AI導入時の倫理的課題

AIの倫理的な利用と導入に十分な配慮が求められるなか、CEOはAIの急速な導入に伴うリスクを強く感じています。半数以上のCEO(61%、日本:65%)は、AIを導入する際に最も難しい問題として倫理的な課題を挙げています。さらに、規制の欠如(50%、日本:48%)とスキルと能力の不足(48%、日本:43%)も課題として認識しています。

Talent outlook

今回の調査結果は、CEOが従業員に期待することと従業員が企業に期待することのギャップが広がっていることを示しています。世の中が急速に変わっていくなか、企業が従業員にどのような価値を提供できるかも変わってきています。優秀なCEOは、生活が厳しい時こそ従業員が柔軟な働き方を求めていることを理解しており、人材に投資し、育成し、支援することでそのギャップを埋められると考えています。

Nhlamu Dlomu
グローバルHRヘッド、KPMGインターナショナル

この10年、従業員が柔軟な働き方、そして個人の信念と企業の価値観の一致を求めるなかで、CEOは働き方改革に取り組んできました。優秀なCEOは成長戦略の中心に人材を置き、現在そして将来の期待に応えるために、従業員とより良好な関係を築いています。

一方、本調査は、オフィス回帰が引き続きCEOの検討課題となっていることを示しています。83%(日本:79%)のCEOが今後3年以内に「週5日出社」に戻るとし、2023年の64%(日本:75%)から大きく増えているように、多くのCEOがパンデミック前の働き方に戻す姿勢を強めていることが明らかになりました。この傾向はCEOの年齢が高いほど強くなっており、40~49歳のCEOは75%(日本:N/A)、50~59歳では83%(日本:N/A)、60~69歳では87%(日本:N/A)となっています。また興味深い結果として、男性CEOの84%(日本:N/A)が3年以内に「週5日出社」に復帰すると予測しているのに対し、女性CEOは78%(日本:N/A)にとどまっています。さらに、87%(日本:92%)のCEOが、出社頻度が高い従業員には、魅力的な仕事や昇給、昇進で報いる可能性があると述べています。

「週5日出社」論争のジェネレーションギャップ

  

今後3年以内に「週5日出社」復帰を予測するCEOの割合

  

CEOは企業の成長に影響を与える人材の問題も認識しています。およそ3分の1(31%、日本:24%)のCEOは、近い将来に多くの従業員が退職すること、それに代わる十分なスキルを持った労働者の不足を懸念しています。人材不足が懸念されるなか、80%(日本:91%)のCEOは人材確保のために、企業は地域社会での技能開発と生涯学習への投資を続けるべきであると述べています。このような地域での取組みにより、92%(日本:81%)のCEOは、今後3年間で雇用を増やす意向を示しています。

過去10年間の「従業員数の増加」を期待するCEOの割合

  

ESG outlook

今回の調査は、ESGとサステナビリティに関して経済界がどれだけ前進したかを示しています。ほんの数年前までは、環境、社会、ガバナンスへの取組みは誇らしいことと見なされていただけで、企業の成長戦略に組み込まれていませんでした。今回の結果は、ESGが最優先事項であり、持続可能な成長が依然として世界のビジネスリーダーにとって重要な目標であることを示しています。2024年においては、社会的流動性や気候変動などの問題が政治色を帯び二極化し、CEOの新たな課題となっていますが、CEOはサステナビリティの重要性を理解しているので、取組みを放棄するのではなく伝え方を変えるなど、粘り強さと迅速さを見せているのは喜ばしいことです。

John McCalla-Leacy
グローバルESGヘッド、KPMGインターナショナル

今回の調査結果は、ESGにおける環境、社会、ガバナンスに対して企業がどのように対処しているかを明らかにしています。ESGの信頼と評判への影響が高まる一方で、抱える課題の政治色が強まっていることがCEOの重圧となっています。

10年前、CEOは環境リスクを最優先に考えていませんでしたが、今はESGの期待に応えられないことによる負の側面として、およそ4分の1(24%、日本:32%)のCEOが競合他社を優位に立たせてしまうと考えています。他には、自身の任期への脅威となること(21%、日本:23%)や、人材確保が困難となること(16%、日本:13%)も挙げています。

CEOが積極的に行動を起こす姿勢も示しており、CEOの4分の3(76%、日本:82%)は、収益性が高くとも企業の評判を損ねるビジネスは売却してもよいと答えています。また、68%(日本:91%)は取締役会が懸念したとしても、政治的または社会的な論争の的となるESGの問題には意見を表明すると回答しています。

66%(日本:74%)のCEOは、ESGに関して今後予想されるステークホルダーや株主からの厳しい評価と高い期待への準備ができていないと考えており、それらを軽減するために何らかの対策を講じることを示唆しています。興味深い結果として世代間の違いがあり、若い世代のリーダー(40歳から49歳)の43%(日本:N/A)がESGの施策への外部からの監視に耐える自信を示しているのに対し、50歳から59歳のCEOは33%(日本:N/A)、60歳から69歳は30%(日本:N/A)という結果となっています。

また、社会的流動性や気候変動などの問題が政治色を帯び、二極化してきていることが、CEOの新たな課題となっています。その結果、一部のCEOはESGの取組みを伝える方法を工夫し、69%(日本:77%)のCEOは気候関連の戦略は維持する一方で、ステークホルダーのニーズに合わせて、社内外で使用する言語や用語を変えたと回答しました。一例として、政治的、社会的な観点から包括的な「ESG」という用語よりも「サステナビリティ」などの一般的な用語を使用しています。

ESGに関するCEOの見解

  

ESGに関するCEOの見解

最後に、30%(日本:37%)のCEOは、気候変動に関する目標を達成するための最大の障壁は、サプライチェーンの脱炭素化に伴う複雑さであると述べています。この問題は、現在の世界的な地政学的緊張や主な世界貿易ルートに影響を与える活動によってさらに複雑化しています。企業が環境目標について報告を開始する2025年に向けて、CEOの見解や企業がどのような影響を受けるか興味深い点と言えます。

業種別の分析(英語サイトに移動します)

「KPMGグローバルCEO調査2024」について

10回目となる今回の「KPMGグローバルCEO調査2024」は、2024年7月から8月に企業の経営者1,325人を対象に実施し、CEOのマインドセット、戦略と戦術に関するインサイトを調査しています。

年間売上5億米ドル以上の企業を対象とし、その3分の1は100億米ドル超です。本調査は、主要11か国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)と11業界(資産運用、自動車、銀行、消費者・小売、エネルギー、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、技術、通信)のCEOを対象としています。

注)いくつかの数値に関しては四捨五入を行っているため、必ずしもその合計が100%にならない場合があります。