1.EU ELV規則のタイムライン

EUは循環型経済への移行を目的とし、リサイクル市場形成の促進などを政策目標として、ELV指令(欧州廃車指令)の改正を行うというロードマップを2020年9月に公開しました。2023年には、EUの法律発議権を持つEU委員会(以下、委員会)から規則(案)が公表され、内容および立法手続きの途中経過が公表されるたびに、関係機関からポジションペーパが発表され続けています。

さらに、2025年6月にEU理事会(以下、理事会)から政治的に許容可能なスタンスを示した案(General approach)が公表され、同年9月にはEU議会案が採択されました(図表1)。これにより、EUの立法権を持つ機関それぞれのスタンスが明らかとなり、特にリサイクル材の最低含有義務比率(以下、リサイクル材使用義務)が公表されているプラスチックに関しては、製造工程における廃材(PIR材)をリサイクル材として認めるか否かが大きなポイントになっています。

一方、金属材料に関するリサイクル材の含有義務については、具体的な方向性が明確になっておらず、どのような対応が求められるのか、気になるところです。

【図表1:欧州廃車指令(ELV指令)改正に対するタイムライン】

EU ELV規制における金属のリサイクル材含有義務について 前編_図表1

2.金属に対する規制内容

金属材料に対する規制事項として、リサイクル材含有量、リサイクル材含有率報告や磁石材料を対象とした取り外し義務などが案に記載されています(図表2)。また、金属材料の代表格である鉄・アルミや銅はリサイクル市場が形成されており、廃棄物の質に応じたカスケード利用が成立しています。そのため、高品質の材料を使用している自動車へのリサイクル材使用義務はサプライチェーン全体への影響が大きく、この点、理事会および議会の方向性は一致しており、EU委員会の影響評価ののちに定めることになっています。この方向性がどのように定まったのか、見ていきます。

【図表2:ELV規則(案)における金属材料への要求】

EU ELV規制における金属のリサイクル材含有義務について 前編_図表2

3.鉄鋼のリサイクル材含有率についてのEU理事会議論

ヒントになるのは2024年12月に開催されたEU理事会環境公聴会です。この会議の議題の1つとして、「鉄鋼のリサイクル材最低含有義務比率(リサイクル材使用義務)を影響調査なしでELV規則に記載するとしたら何パーセントか?」という質問に対して各国の意見が表明されました(図表3)。

意見表明国のうち、影響が大きいと想定される自動車生産国に絞って回答を整理すると、質問に対して数値比率を回答した国はオランダのみであり、義務化に反対した国が2ヵ国(チェコ、オーストリア)、多くの国はEU委員会による影響評価を待ったうえで定めるという回答でした。EU委員会もエビデンスが不十分であり、ELV規則の採択後に影響評価を進めるということを述べています。1年ほど前の議論ですが、影響調査をしてからという妥当な進め方に落ち着いたと思われます。

【図表3:EU環境理事会における鉄鋼リサイクル材使用義務に関する各国コメント】

EU ELV規制における金属のリサイクル材含有義務について 前編_図表3

4.自動車産業としての影響

プラスチックのリサイクル材需要増が特定樹脂の価格高騰を招いているように、リサイクル前提の金属材料であっても、自動車品質のリサイクル材は局所的な価格高騰、または供給不足を引き起こすといった影響が想定されます。そのため、リサイクル含有率の義務比率がどの程度になるのか?特に各OEMが現状使用しているリサイクル材比率に対して、どの程度増加しそうなのか?という点が注目されています。これについては後編で詳しく説明していきます。

本文ならびに図表1の自動車生産台数順位は、下記データベースを参考にしています。

本文記載の法規情報については、下記を参考にしています。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 伊藤 登史政

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