本稿は、2025年7月31日(木)に実施したオンサイトセミナーの採録レポートです。
【開催概要】
2025年7月31日、KPMGコンサルティングは「気候変動適応事業の成功に向けた先進技術と実践アプローチ」をテーマとしたセミナーを開催しました。会場には企業の経営企画、新規事業開発部門、スタートアップ、自治体関係者など幅広い参加者が集まり、最新の気候変動適応事業の動向や、実際に取り組む企業の事例が紹介されました。 本セミナーでは、遮熱材、再生可能エネルギー、保険、バイオ技術など多様な分野の先進的なアプローチが取り上げられ、気候変動適応の取組みを経営戦略へと統合するためのヒントが示されました。 |
気候変動適応の意義と適応事業の課題
気候変動が起因とされる異常気象、水不足、洪水、熱波は、すでに顕著な形で私たちの生活・社会・企業活動に重大な影響を及ぼしています。脱炭素、いわゆる「緩和」への道のりはきわめて困難であり、必要規模には達していないものの、一定の国際的な合意のもとで資金とリソースの投入は続いています。これに対し「適応」、すなわち回避困難な気候影響に備えて社会・経済システムを調整することに対しては、資金とリソース、そして何よりも社会的な関心そのものが相対的に少ない状況です。世界有数のハザード大国である日本の社会と産業には、防災や環境変化への備えにかかわる知恵が蓄積されています。
日本の高密度な都市・産業集積の中で磨かれた防災・減災の知見と技術は国際的にも高い水準にあります。また長寿命・高可用性を実現する工学・材料、空調や水質管理などの環境技術、それらを支える現場運用力は、今後世界から求められるものです。こうした取組みは、経済安全保障全般への寄与にもつながると考えます。
講師:KPMGコンサルティング 執行役員 パートナー 足立 桂輔
KPMGコンサルティング 足立 桂輔
オープニング:気候変動適応事業の成功に向けた先進技術と実践アプローチ
2025年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した「気候関連財務情報開示基準」では、適応は経営に不可欠な要素と明記され、特に「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の3つを整理して実行につなげることが求められています。これにより、自社のレジリエンスを高め、持続的な価値創造へと結びつけることが可能になります。
本セッションでは、「適応事業は効果が見えにくい」という課題に対して、適切なKPIを設定し、投資対効果を数値で可視化することが、投資家や顧客に対する説得力を高め、取組みの魅力につながるという点について解説しました。最後に、気候シナリオを経営計画やサプライチェーン全体に織り込むことで資産価値や資金調達力を守り、市場における競争優位性を築くことができるという点を踏まえて、各社の適応事業への期待を示しました。
講師:KPMGコンサルティング マネジャー 白杉 誠基
KPMGコンサルティング 白杉 誠基
セッション1:遮熱材で築く持続可能な気候変動対応ビジネス
猛暑下における屋内職場環境を改善する「IS遮熱シート」の紹介を通じて、製品品質と施工体制、豊富な実績を背景にした、遮熱による労働環境改善と気候変動適応の両立を示しました。
講師:石蔵商店 建材事業部 代表取締役 石蔵 義浩 氏
セッション2:地域コミュニティの強化に向けた損保ジャパンの取組み
全国ネットワークを活かした地域防災・減災の支援活動の紹介を通じて、「損保ジャパンでよかった」と実感してもらえる存在を目指し、地域と連携したリスク対応を強化する姿勢について紹介しました。
講師:損害保険ジャパン カルチャー変革推進部 サステナビリティ推進グループリーダー 加藤 拓 氏
セッション3:気候変動への適応と緩和を両立する「ボトルフリープロジェクト」
マイボトルへの給水ができる浄水型ウォーターサーバーを公共施設や学校、事業所へ設置し、猛暑における水分補給対策とワンウェイプラスチック削減を同時に実現する「ボトルフリープロジェクト」を紹介しました。
講師:ウォータースタンド DX推進部 ESG推進室 室長 小野 優雅子 氏
セッション4:農業分野における気候変動適応策としての営農型太陽光発電
営農型太陽光発電を通じ、農地の遮光環境改善と再生可能エネルギー創出を両立することで、猛暑・少雨などによる農作物の品質低下や収穫量減少といったリスクを軽減し、持続可能な農業経営を支える取組みを紹介しました。
講師:千葉エコ・エネルギー 代表取締役 馬上 丈司 氏
セッション5:地理的情報データで解く気候変動リスク
MSCI GeoSpatial Asset Intelligenceを活用し、企業拠点と災害リスクを組み合わせて定量的に分析する取組みから、サプライチェーンの物理的リスク可視化による戦略的意思決定支援ソリューションを紹介しました。
講師:MSCI Climate Consultant 川崎 冬樹 氏
セッション6:防災マネジメントを支援するクラウドサービス
災害時の情報収集・判断・行動を一括支援するクラウドサービスを通じて、平時・緊急時・復旧時にわたり防災マネジメントを支える仕組みを紹介しました。
講師:日本工営 流域水管理事業本部 流域マネジメント室 課長 田川 隆康 氏
セッション7:タンパク質設計で拓く気候変動「適応」ビジネス
バイオものづくりとタンパク質設計を活用した新素材の紹介を通じ、避けられない気候変動への適応策としてのバイオテクノロジーの活用を示唆しました。
講師:Spiber 取締役兼代表執行役 関山 和秀 氏
今後の展望とメッセージ
本セミナーを通じ、参加者は「気候変動適応はもはやCSRの一環ではなく、経営戦略とリスク管理の中核に位置付けるべき課題」であることを再認識しました。
各社の事例を通じて、気候変動への適応は企業単独で完結するものではなく、自治体や研究機関など多様なステークホルダーとの連携・協働によって推進していく必要があることが強調されました。
KPMGコンサルティングは、今後も企業の気候変動適応事業の支援を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきます。