今期から計上しない旨の注記が必要 グローバル·ミニマム課税に係る四半期開示の留意点
旬刊経理情報(中央経済社発行)の2025年6月20日号(No.1746)にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
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この記事は、「旬刊経理情報(中央経済社発行)2025年6月20日号(通巻No.1746)」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
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この記事のエッセンス
- 四半期会計期間等において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができる。
- 四半期会計期間等において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことを選択するときは、その旨を注記する必要がある。
はじめに
2021年10月、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題」に対処するための解決策として、「第1の柱(市場国への新たな課税権の配分)」および「第2の柱(グローバル・ミニマム課税)」が国際的に合意された。このうち、「第2の柱」については各国国内法での対応が求められている。これを受け、日本においても、令和5年度税制改正においてグローバル・ミニマム課税制度のうち所得合算ルール(Income Inclusion Rule :IIR)に相当する規定が法人税法等において創設され、内国法人の2024年4月1日以後に開始する対象会計年度より適用を開始している。また令和7年度税制改正により、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule :UTPR)および国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up :QDMTT)が法制化され、2026年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用される予定である。
本章では、ASBJより公表された実務対応報告44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下「実務対応報告44号」という)および実務対応報告46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「実務対応報告46号」という)に基づき、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等ならびに税効果会計に関する会計処理および開示を説明したうえで、2025年6月第1四半期決算における留意点について解説する。
なお、文中の意見に関する部分は私見であることをあらかじめお断り申し上げる。
グローバル・ミニマム課税制度の概要
グローバル・ミニマム課税制度は各対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度の総収入金額が7.5億ユーロ相当額以上の多国籍企業グループを対象に、国・地域ごとに最低でも実効税率15%の課税を確保するルールである。
グローバル・ミニマム課税制度はIIRとこれを補完するUTPRおよびQDMTTから構成される(図表1)。
(図表1)グローバル・ミニマム課税制度の概要
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| IIR (所得合算ルール) |
軽課税国に所在する子会社等に係る実効税率と最低税率(15%)の差分を最終親会社等の所在する国において上乗せ課税するルール。 たとえば、日本に最終親会社がある多国籍企業グループのなかに、実効税率が最低税率(15%)に満たない国に所在する子会社等がある場合、その満たない税率に係る一定の額を、その最終親会社等が「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」および「特定基準法人税額に対する地方法人税」として納税しなければならない。 |
| UTPR (軽課税所得ルール) |
多国籍企業グループの最終親会社等が軽課税国に所在している場合や、その最終親会社等の所在地国でIIRが導入されていない場合など、IIRでは十分に課税されない場合に、UTPR導入済みの国に所在する多国籍企業グループ内の子会社等に上乗せ課税するルール。 これは、IIRのバックストップとして設けられたルールであり、UTPRに基づく一定の額は、上述の子会社等の所在地国で納税することになる。 |
| QDMTT (国内ミニマム課税) |
各国が自国内に所在する会社等についてその最低税率が15%に至るまで課税を行うためのしくみ。 これにより、自国内に所在する会社等の実効税率が15%を下回ることによるIIRやUTPRに基づく他国からの上乗せ課税を防ぐことができる。 |
1. グローバル・ミニマム課税制度に係る当期税金の取扱い
(1)連結財務諸表および個別財務諸表における取扱い
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度および事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上するとされている(実務対応報告46号6項)。
このように、実務対応報告46号では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上する時期について、連結財務諸表も個別財務諸表もともに対象会計年度に計上することとされている。ただし、グローバル・ミニマム課税制度は、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違するという特徴があることから、連結財務諸表の場合と個別財務諸表の場合でその理由については異なっている(図表2)。
(図表2)対象会計年度に計上することとした理由
| 区分 | 対象会計年度に計上することとした理由 |
|---|---|
| 連結財務諸表 | 連結財務諸表においては、対象会計年度となる連結会計年度に計上することで、税金等調整前当期純利益と、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を含めた法人税、住民税および事業税等とが対応することとなる(実務対応報告第46号第BC6項)。 |
| 個別財務諸表 | 個別財務諸表においては、親会社等の所得(利益)に対する税には直接該当しないものの、納税義務を生じさせる事象が対象会計年度となる当事業年度において生じている(実務対応報告46号BC7項)。 |
(2)見積りに関する取扱い
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を対象会計年度に見積り計上するに際し、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難な場合があり、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積計上することが困難となる可能性がある。
そのため、ASBJから、実務対応報告46号を適用する場合に、実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」(以下「補足文書」という)が公表されている。ASBJが補足文書を公表するのは、これが初めてではあるが、補足文書は、企業会計基準等を追加または変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書であるとされている。またASBJでの議決および公開草案の公表は必要とされないが、ASBJにおいて審議したうえで、了承を得ることになっている。
補足文書では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、適用初年度において従来の財務諸表の作成にあたって入手している以上の情報を入手できない場合に考えられる見積りの一例が示されている。
この補足文書は、適用初年度だけでなく、適用初年度の翌年度以降であっても、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難である場合には、参考とすることが考えられるとされている。したがって、2025年6月第1四半期においても参考とする企業が多いと考えられる。
(3) 開示
1. 貸借対照表における表示
グローバル・ミニマム課税制度については、申告および納付期限が各対象会計年度終了の日の翌日から1年3か月(適用初年度は1年6カ月)以内とされており、通常の法人税等の申告期限の翌事業年度での申告および納付が認められている。
したがって、通常の法人税等と異なり、グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、連結貸借対照表および個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示するとされている(実務対応報告46号8項)。
2. 損益計算書における表示および注記
i) 連結損益計算書における表示および注記(実務対応報告46号9項、10項)
連結財務諸表においては、税金等調整前当期純利益とグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等との対応関係の観点から、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、「法人税、住民税及び事業税」等の適切な科目(企業会計基準27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、「法人税等会計基準」という)2項なお書き、9項)に表示するとされている。なお、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記することとされている。
ii)個別損益計算書における表示および注記(実務対応報告46号11項、12項)
個別損益計算書においては、課税の源泉となる各子会社等の個別計算所得等の金額は、親会社等の個別財務諸表上、法人税等会計基準4項(7)において定義する所得には含まれないことから、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、「法人税、住民税及び事業税」等の適切な科目(法人税等会計基準9 項)の次にその内容を示す科目をもって区分して表示するか、「法人税、住民税及び事業税」等の適切な科目(法人税等会計基準9 項)に含めて表示し当該金額を注記することとされている。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合、「法人税、住民税及び事業税」等の適切な科目(法人税等会計基準9 項)に含めて表示することができるとされている。なお、この場合は当該金額の注記を要しない。
2. グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果の取扱い
連結会計年度および事業年度の決算における税効果会計の適用にあたっては、ASBJが実務対応報告44号の適用を終了するまでの間、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされている(実務対応報告44号3項)。 当該取扱いは、四半期財務諸表および中間財務諸表においても適用される(実務対応報告44号3-2項)。
3. 2025年6月第1四半期決算での留意点
(1) 四半期財務諸表における取扱い
四半期財務諸表および中間財務諸表においては、当面の間、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができるとされている(実務対応報告46号7項)。
この取扱いが適用できるのは「当面の間」とされているが、具体的には、ASBJが追加的な検討を行い、当該取扱いを改正するまでの間であることが想定されている。現時点でASBJにおいて当該定めを見直すような動きがないことから、2025年6月の第1四半期決算においても、引き続きグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができると考えられる。
このような定めが設けられたのは、年度と同様の方法により計算することが困難な場合があるという背景があったことを考えると、多くの企業が2025年6月第1四半期決算においてもこの定めを適用し、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税を計上しないことになると考えられる。
(2) 四半期財務諸表における注記事項
「(1)四半期財務諸表における取扱い」の四半期会計期間等において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことを選択するときは、その旨を注記することとされている(実務対応報告46号13項)。
当該注記は「その旨」を注記するだけではあるが、当該注記が行われているということは、当四半期会計期間等を含む対象会計年度にグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が生じると考えられるが、それを計上しない取り扱いが適用されていることを意味し、対象年度の業績を意識している財務諸表利用者に有用な情報が提供されることになる。
なお、当該四半期財務諸表における注記の定めについては、2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されるため(実務対応報告46号15項)、この2025年6月第1四半期決算から必要な注記であることに留意が必要である。
(3) 見積りの変更による影響
グローバル・ミニマム課税制度の適用初年度の翌年度以降は、情報を入手する体制の構築等により申告に向けて入手可能となる情報が増加し、さらに申告が行われた年度以降は当該体制の整備や実績値の把握等によって、より精緻な見積りが可能となると考えられる。したがって、企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積った金額と翌事業年度の見積金額または確定額との間に差額が生じる可能性がある。この差額については、各事業年度において財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積っている限り、誤謬にはあたらず、当期の損益として処理することになると考えられるとされている(実務対応報告46号BC11項)。
ここで、「(1)四半期財務諸表における取扱い」の四半期会計期間等において、グローバル・ミニマム課税制度を計上しないことを選択している場合にも、四半期会計期間等において当該見積りの変更による影響額を損益に計上するのかどうかという論点が生じるが、実務対応報告46号7項は、あくまでも当四半期会計期間等を含む「対象会計年度に関する」グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができるとされているだけであり、見積りの変更による影響を計上しないことができるとまでは言及されていない。
(4) 四半期貸借対照表における表示
グローバル・ミニマム課税制度に係る申告および納付期限は、各対象会計年度終了の日の翌日から 1 年 3 カ月(グローバル・ミニマム課税制度に関する申告書を最初に提出すべき場合には 1 年 6 カ月)以内とされている。そのため、適用初年度である2025年3月期に長期未払法人税等に計上したグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、2025年6月第1四半期決算では固定負債に計上されたままになるが、2025年6月第2四半期決算においては流動負債に振り替える必要がある点にもあらかじめ留意する必要がある。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
テクニカル・ディレクター 公認会計士
三宮 朋広(さんのみや ともひろ)