GX(グリーントランスフォーメーション)は、再生可能エネルギーや脱炭素技術を軸に、産業構造そのものを変革する動きです。世界ではこの分野に多くのスタートアップが参入し、技術革新と商用化が加速しています。

2025年5月29日に開かれたイベント「GX INSIGHT HUB」(Venture Café Tokyo、KPMGコンサルティング共催)では、KPMGコンサルティング(以下、KPMG)プリンシパル 渡邊 崇之による講演のほか、GX領域で活躍する海外スタートアップが登壇したパネルディスカッションが開かれました。

「GX INSIGHT HUB」は、GXをテーマに世界のスタートアップと日本企業が共創する場として2026年3月まで月1回のペースで開かれるイベントで、今回が初回の開催となります。本記事では、KPMG渡邊による講演や、スタートアップ3社によるパネルディスカッションの内容を基に、GXの最新トレンドを読み解きます。

拡大するGX市場

※このパートはセッション冒頭のKPMG渡邊による講演内容を基に編集しました。

近年、GX分野では風力・太陽光・地熱などの再生可能エネルギー、自動車・蓄電池、住宅・建設物・次世代電力マネジメントなど各領域で、数多くのスタートアップ企業が立ち上がっています。たとえば、風力・太陽光・地熱では再生可能エネルギーを家庭で活用するスマートハウスの導入、自動車・蓄電池ではEV(電気自動車)の性能を高めるとされる全固体電池の開発が挙げられ、世界中で各分野への投資が活発化しています。

脱炭素社会の実現を、金融とテクノロジーで支援するグリーンフィンテックの分野も注目です。カーボンクレジット(二酸化炭素削減量を取引できる証明書)の市場は世界的に拡大しており、日本では2026年度にGX-ETS(排出量取引制度)が本格導入される予定です。これにより、排出量のモニタリングやカーボンクレジットの発行・取引に向けた需要が高まり、スタートアップのグローバル展開が加速していくとみられます。

ただし、海外スタートアップが日本市場で事業を展開するには、技術の商業化に向けた日本企業とのコネクション作りや、協業パートナーの探索が不可欠です。多くの日本企業も、海外の先端技術をどう取り入れるか模索しており、マッチングと信頼関係の構築が鍵になります。

KPMG 渡邊

KPMG 渡邊

GXスタートアップからみた日本市場の魅力

セッション後半ではカナダ、オランダ、フィンランドにそれぞれ本社を置き、日本進出を果たしたGX関連のスタートアップ企業3社の関係者が登壇したパネルディスカッションが開かれました。

左から BluWave 中村氏、Circularise 久米氏、上野氏、TactoTek 皆川氏、KPMG 渡邊

左から BluWave 中村氏、Circularise 久米氏、上野氏、TactoTek 皆川氏、KPMG 渡邊

【登壇企業】

・BluWave(本社:カナダ)

2017年設立。AIを活用した再生可能エネルギー発電予測やEV充電最適化などのサービスを提供

登壇者:中村 雅文氏(日本法人事業開発部長)

・Circularise(本社:オランダ)

2016年設立。ブロックチェーンを活用した製品トレーサビリティプラットフォームを提供

登壇者:上野 浩太郎氏(日本法人プロジェクト・オペレーション・リード)、久米 彩花氏(日本法人マーケティングリード)

・TactoTek(本社:フィンランド)

2011年設立。プラスチック素材に関する独自の技術を保有

登壇者:皆川 勇輝氏(日本法人セールスマネジャー)

※皆川氏はTactoTekの日本での代理店を務めるコーンズテクノロジーのオートモーティブチーム リーダーです。

【モデレーター】

KPMGコンサルティング プリンシパル 渡邊 崇之

-日本やアジア市場の魅力について

中村氏(BluWave):日本市場とそれ以外の東南アジア、中国、インドの市場とではその魅力に相違があり、東南アジア、中国、インドにおいては、成長著しい市場にいかにビジネスを適応・展開させていくかという点に魅力を感じています。一方で日本市場に関しては、人口動態等を踏まえると同様の成長性は見込めないものの、先進的な技術を有する日本企業とのパートナーシップを通じて、グローバル展開を図ることが可能であるという点に可能性を見出しています。

上野氏(Circularise):アジア進出に際し、同地域におけるグリーンリテラシーの水準を国別に検討した結果、日本が最も高いと判断し、日本を進出先として選定しました。同時に、欧州において各種規制が強化されつつある現状を踏まえ、欧州市場にビジネス基盤を有する、特に日本の製造業のお客様との連携を強化する目的もあります。

皆川氏(TactoTek):当社は自動車業界をメインターゲットとしています。日系自動車メーカーはアジア市場においても国際的に高い競争力を有しており、中国やインドの自動車関連企業の動向を見ても同地域の市場は著しく成長しており、日本やアジア地域は当社にとって最重要市場と認識しています。

-GX技術の商用化や、本国から日本への海外展開のメリット、障壁

上野氏(Circularise):欧州においては、まず法制度が整備され、それに企業が追随する傾向がみられる一方で、日本においては、業界団体による自主的な業界規制が先行し、それがルール形成の主軸となる傾向があります。

皆川氏(TactoTek):グローバルに活動する日本企業の経営層はすでにGXの重要性を認識しているものの、現場レベルにまで十分に浸透していないという構造的な障壁が、日本国内には依然として存在しているのではと考えています。

渡邊(KPMG):一般的に、GX技術は商用化に至るまでに数多くの課題が存在します。たとえば、量産体制の構築には多額の投資が必要となるなど、実現に向けたハードルが高いとされています。

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