2024年12月5日に開催されたスタートアップ交流イベント「Tsukuba Startup Night 2024」(つくば市主催、Venture Café Tokyo共催)に、KPMGコンサルティングのシニアマネジャー 加藤 菜穂子と、プリンシパル 渡邊 崇之が登壇しました。
同イベントは2018年に始まり、スタートアップがつくば市で活動する意義やスタートアップエコシステム形成のポイントを議論し、参加者間の交流を通じて新しいチャレンジを促すものです。
本稿は、KPMG 加藤、渡邊の発言内容をもとに編集しました。
シンガポールにおける日本企業の可能性
つくば市は2024年10月、シンガポールを拠点に日本企業のサポートをしている会員制プラットフォーム「JSIP」と連携を始めました。JSIPは2021年に設立された法人で、東南アジアでの新規事業に取り組む日本の大手企業やスタートアップの支援に取り組んでいます。
KPMGコンサルティングの加藤がモデレーターを務めたセッション「つくば×JSIPアワー シンガポールからアジア・世界へ」では、日本企業のグローバル戦略におけるシンガポールの立ち位置や、現地での活動のポイントが議論されました。
シンガポールの法規制に詳しい加藤は、「シンガポールは政府支援や国際アクセスが充実しており、東南アジアのゲートウェイとして日本のスタートアップにとって重要な位置付けになります。シンガポールでは特にアグリテック、ヘルスケア、バイオテクノロジーの分野で日本とのコラボレーションを望む声が多いです」と説明しました。
一方、シンガポールには特有の規制法令が存在するとして、「税務、財務、監査などワンストップの専門家の支援が不可欠で、KPMGコンサルティングはシンガポールとのネットワークもあり、幅広い支援ができます。KPMGシンガポールからは、日本と同様にシンガポールは少子高齢化などの課題を抱えており、シンガポールで日本の専門知識やテクノロジーを活用してほしいとの要望があります」と述べました。
同セッションには、2024年11月にリスボンで開催されたKPMGプライベートエンタープライズ主催の世界大会「KPMG Global Tech Innovator Competition 2024」に日本代表として参加し、優勝した株式会社Thermalytica(サーマリティカ、つくば市)の小沼 和夫代表取締役兼CEOも登壇しました。
2021年4月に設立されたThermalyticaは、物質・材料研究機構(NIMS)の材料科学から生み出された超断熱材TIISA®の幅広い温度領域での高い断熱性を、水素サプライチェーン、航空宇宙、建築などさまざまな分野へのソリューション提供を通じて、クリーンエネルギーへの転換とエネルギー効率の向上を図り、地球温暖化対策に対峙しています。
左から、Thermalytica 小沼 和夫氏、KPMG 加藤
小沼氏は、Thermalytica社が2024年11月にシンガポールに新たな拠点を設立したことについて、「2023年11月にスリングショット(シンガポール企業庁が主催するアジア最大級のディープテック分野スタートアップのピッチコンテスト)で優勝し、シンガポール政府の支援を受けられたことが非常に大きいです。我々はTIISA®※を断熱塗料として使っており、暑い国ほど需要が高まります。断熱塗料で何とかしようという時に、東南アジアで勝負しようと考えました」と説明しました。
シンガポール出身でもあるという小沼氏は、日本とシンガポールとのビジネス環境の違いについて、「日本企業では会議をしても持ち帰ることが多いですが、シンガポールではすぐにイエスやノーを出すように求められるため、相手と会う時の準備が違います。シンガポールを含む海外では、ビジネスで人と違うことをしようとする傾向があり、スタートアップという概念も日本とはまったく違うと思います」とも話しました。
日本でも広がるインパクト投資
KPMGコンサルティングでスタートアップの展開支援や新規事業の立ち上げ支援に携わる渡邊は、「DEEP TECH FOR A REGENERATIVE PLANET-地球の未来をこの手で救う」と題されたセッションに登壇しました。
セッションでは、「再生させる」ことを意味する「REGENERATIVE」(リジェネラティブ)という言葉を切り口に、経済的なリターンだけでなくポジティブな社会的・環境的インパクトの創出が求められるスタートアップ企業へのインパクト投資の高まりについて議論が交わされました。
KPMG 渡邊
渡邊は、経済的なリターンと社会・環境に関する課題解決との両立を目指すインパクト投資について、社会的に意義のある事業を行っているスタートアップ企業への中長期的な視点での投資が増加している近年の情勢を踏まえ、「リジェネラティブを経済一般における“消費”と対立する概念と捉えたときに、リジェネラティブを推進する銘柄の社会性に注目すると、通常の経済性重視の銘柄と異なる価値・性質を持つと言えます。その観点で、インパクト投資は分散投資という観点でも意味を持つと考えられるようになってきたのではないでしょうか」と説明しました。
さらに、「欧米ではインパクト投資が1つの考え方として定着し、多額の資金が投入されています。日本でも、最近は経済性・社会性の双方を見ながらの分散投資を行うポートフォリオ組成もあり得ると認識されつつあります」と付け加えました。
また、ディープテック(先端技術)のスタートアップについて、渡邊は、「技術の理解や効果の測定が難しいため、投資家や金融機関、技術を持っている事業者が、近い距離にいることが重要だと思っています。ある技術がどういう価値を生み出すのか、また課題解決につながるかどうかを理解するには実際に現場でモノを見て、技術的課題を含めて理解することが必要と考えます。ディープテックがつくば市に集積し、つくば市にインパクトを起こしている人たちが大勢いるという環境は、投資家や支援者にとって、1ヵ所で技術の価値や課題を確認できるという観点で価値があると考えます」と指摘しました。
※TIISA®は株式会社Thermalyticaの登録商標です。