本連載は、2025年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

1.世界の潮流:自動運転は社会実装のフェーズへ

自動運転車(以下、AV)は、今や研究開発段階を超え、実装と事業化のフェーズに突入しています。米国ではウェイモなどのテクノロジー企業が都市部での無人ロボタクシーの運行を進め、カリフォルニア州やアリゾナ州では有償サービスとして定着し始めています。州ごとの柔軟な制度運用と、民間の投資意欲が相乗効果を生み、都市レベルでの実用事例が増えている状況と言えます。

欧州では完成車メーカー、政府、公共交通事業者が協調し安全性と制度整合性を重視した段階的導入を進めています。レベル3を市販化する完成車メーカーの出現や、EU各国でスマートモビリティ政策との統合を進める動きなど、都市設計の一環として自動運転を捉えるアプローチが特徴的です。

中国では国家主導の下、主要都市で無人ロボタクシーがすでに運行しており、今後さらなる拡大計画を表明している企業も存在します。政策、インフラ整備、技術開発の三位一体で社会実装を加速させるモデルは、市場開拓の1つのモデルとなる可能性を感じさせます。

このように、各国での進展は形を変えつつも社会実装は進展しており、また共通して「自動運転=社会インフラ」という認識が浸透しつある状況だと言えます(図表1)。

【図表1】

世界にみる自動運転の普及と日本流の実装について_図表1

出所:KPMG作成

2.日本の立ち位置と可能性

日本は高い技術力を誇り、各完成車メーカーによってレベル2+およびレベル3の市販車が市場に投入されています。しかし、公共空間や都市交通への組み込みという点では、制度設計や社会実証のフェーズでやや慎重さが目立つ状況です。限定された特区での試験運用は存在するものの、日常的なサービス提供には至っておらず、グローバルの実装スピードとのギャップが広がりつつあります。

一方で、このような状況は見方を変えれば、日本が「共創の舞台」として成熟していることを示しているとも言えるでしょう。制度が安定しており、交通インフラの品質も高く、加えて高齢化・地方移動の課題など、AVが解決し得る社会的ニーズが顕在化している日本市場は、海外企業にとっても魅力的な実証・展開のフィールドに映っているはずです。

実際、米中の自動車メーカーや中国のAVプラットフォーマーが、日本の自治体や民間事業者との協業を模索し始めています。仮に日本企業が海外プレイヤーと連携し、自社のソフトウェア、センシング技術、交通制御技術などを都市実証のなかで活用していくことができれば、新たな価値創出の可能性は飛躍的に上がります。海外先進プレイヤーの日本市場への参入は、「共創によるイノベーション機会」として捉えるべきでしょう。

3.共創型実装大国へ

今後、日本が取るべき方向性は、「守り」ではなく「開かれた共創」を前提とした戦略にあります。制度面では、限定区域でのレベル4運行を可能にする柔軟なルール整備を進め、技術実証から社会実装へのフェーズ移行を促す必要があります。その際、日本自身が持つ交通課題や地域ニーズを次世代モビリティによって解決することを目的とし、単に海外に追いつくためではない、という視点を根底に持つことが重要です。

そしてAVを単体製品としてではなく、都市サービスのAVを活用する事例も生まれており、今後はこれらの成功事例を全国に展開していく仕組みづくりが鍵となるでしょう。

日本の自動車産業は、これまでグローバルなサプライチェーンと製品品質で世界をリードしてきました。今後はそれに加え、都市デザイン、移動サービス、プラットフォーム設計といった「サービスとしてのモビリティ」領域においても、国際連携を通じた価値共創の姿勢を持ちながら、パートナーシップを起点とした競争優位を築くことが求められます。

日本市場は、国際的な連携の中心地となるポテンシャルを持っています。自国製にこだわるのではなく、世界の先進事例やプレイヤーとつながりながら自動運転社会の新たなモデルを構築していく――。その準備はすでに整っており、必要なのは「開かれた姿勢」と「(したたかな)共創への一歩」を踏み出すことにあると確信しています(図表2)。

【図表2】

世界にみる自動運転の普及と日本流の実装について_図表2

出所:KPMG作成

日刊自動車新聞 2025年6月2日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社 の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMG FAS
執行役員 パートナー 
自動車セクターリーダー 井口 耕一