CSRD開示25%削減:EUオムニバス法案のポイント

本稿では、その関連法案のうちサステナビリティ報告義務(CSRD、CSDDD、EUタクソノミーの開示)の25%削減に関連する部分をその道程とともに解説します。

本稿では、その関連法案のうちサステナビリティ報告義務(CSRD、CSDDD、EUタクソノミーの開示)の25%削減に関連する部分をその道程とともに解説します。

2025年2月26日にEC(欧州委員会)は、いわゆるオムニバス法案の第一弾(First Omnibus Package on sustainability)を公表しました。

本稿では、その関連法案のうちサステナビリティ報告義務(CSRD、CSDDD、EUタクソノミーの開示)の25%削減に関連する部分をその道程とともに解説します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

Point

  • サステナビリティ報告義務25%削減に関するオムニバス法案

2025年2月26日に、サステナビリティ報告義務25%削減に関するオムニバス法案の第1弾と第2弾が公表された。本稿では、第1弾のうちCSRD、CSDDD、EUタクソノミーに関連する法案の主な概要を説明する。

  • 3つの関連する法案

関連する法案は、「C S R DおよびCSDDDの延期だけを含む法案」(本稿では「延期法案」と仮称)、「25%削減のための関連法案の改正を含む法案」(本稿では「コンテンツ法案」と仮称)、「EUタクソノミーのレベル2を改正する法案」(本稿では「タクソノミーレベル2法案」と仮称)の3本が該当。

  • 今後の留意点

延期法案は早期の成立が見込まれるが、コンテンツ法案は審議が長期化すると予想する向きが多い。2027年1月までにコンテンツ法案が成立しない場合には、現行のCSRD/ESRSに基づく開示を行わざるを得ない可能性がある。

Ⅰ.Road to Omnibus:オムニバ ス法案に至る道程

1. 欧州の選択("EUROPE'S CHOICE")

オムニバス法案に関して世間が喧しくなってきたのは昨年末くらいからです。この法案は急に出てきた話のように思われている方が多いですが、実際は昨年の夏からつながっているお話になります。2024年7月16日に欧州議会選挙後最初の本会議が開催されました。選挙では右派といわれるグループが議席を伸ばしました。その2日後の7月18日にフォン・デア・ライエン委員長の再任が決定したといわれておりますが、その際に公表した文書が「欧州の選択」です。これは2029年までの5年間の任期を見据えた政策文書です。

そのなかで、Clean Industrial Dealを掲げ、第1次フォン・デア・ライエン体制の目玉政策であったEuropea Green Deal 達成のためにEUの競争力強化が必要であると謳っています。この政策文書のなかで前ECB総裁のドラギ氏の手によるいわゆるドラギレポートの公表を予告し、それをもとに競争力確保の“Clean Industrial Deal”を策定すると意思表明していました。

2. ドラギレポート

2024 年9月に「欧州の選択」で予告されていたドラギレポート( The future of European competitiveness )が公表されました。このレポートは、EUの競争力戦略全体に関する分析を行ったPart A とセクター別の産業政策等に関するPart Bから構成されています。Part A の末尾で競争力回復のための手段の1 つであるSimplification(簡素化)の政策としてreporting obligations(報告義務)の25%削減、SMEs(中小企業)については50%削減を提案しています。

ドラギレポートは絶対的な指針ではありませんが、この後のEUの競争力回復政策の根幹となります。

3. ブダペスト宣言

EUは11 月8 日まで行われた非公式の欧州理事会において、ブダペスト宣言( Budapest Declaration on the New European Competitiveness Deal )を公表しています。そのなかの4 番目の項目として報告義務の削減を要求しています。同宣言では、”simplification revolution “を掲げ、”clear, simple and smart regulatory framework “ 、” reducing administrative,regulatory and reporting burdens, in particular for SMEs”を求めています。報告義務に関しては、ECに対して最低25%削減に関する法案を2025 年上半期に策定することを求めています。

4. ブダペスト宣言後の記者会見

“ブダペスト宣言”後の記者会見に登壇したのは3名でした。檀上は、ハンガリーのオルバン首相、ミシェルEU大統領、フォン・デア・ライエンEC委員長です。委員長は記者の質問に答える形で、”triangle of the EU Taxonomy Regulation, the CSRD and the CSDDD・・・the content of the laws is good – we want to maintain it and we will maintain it - but the way we get there, the questions we are asking, the data points we are collecting, is too much – often redundant, often overlapping – so our task is to reduce this bureaucratic burden without changing the correct content of the laws “.( 抄訳:EUタクソノミー、CSRD、CSDDDの内容については満足しており、維持していきたい。しかし、開示項目(data points)は多すぎるし、重複もある。法律の適切な内容を変更することなく、行政面での負担を削減していきたい)と回答しています。ここでオムニバスという言葉を使いながら、EUタクソソノミー、CSRD、CSDDDが報告義務の負担削減のターゲットであることが判明しました。また、委員長としては3 法の内容に変更を加える意図はなく、主に手続き面の削減を意図していると理解されています。

ちなみにEUタクソノミーは、グリーンな経済活動を定義(たとえば、太陽光発電はグリーンな経済活動ですが、石炭火力発電はグリーンな経済活動ではありません。ガソリン車の生産はグリーンな経済活動ではありませんが、EVの生産はグリーンな経済活動です)グリーン売上割合、グリーンCapEx割合、グリーンOpEx割合の3つのKPIを開示させるEUの法律を指します。この3つのKPIは、ESRSに基づくサステナビリティ開示に含まれます。

またCSRD( Corporate Sustainability Reporting Directive、企業サステナビリティ報告指令)は、EUのサステナビリティ開示に関する法律です。開示基準であるESRS(European Sustainability Reporting Standards、欧州サステナビリティ報告基準)は、CSRDの下位法令に位置づけられています。

そしてCSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive、企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)は、EUの人権・環境に対するDDに関する法律です。DD結果をCSRD/ESRS開示に反映することが想定されています。

5. ミッションレター

2024 年12 月に出されたミッションレター (MISSION LETTER)は、EC委員長から(上級)副委員長等に送られる職務内容に関する書簡を指します。実際には9月に一旦送られているようですが、12 月に正式に第2 期フォン・デア・ライエン体制が開始されることから改めて送られたものです。Omnibus Package の主担当であるセジュルネ上級副委員長のレターには”You will ensure that existing rules are fit-for-purpose and focus on reducing administrative burdens and simplifying legislation. You must contribute to reducing reporting obligations by at least 25% – and for SMEs at least 35%.”(抄訳:現行ルールをその目的に照らして、事務管理的な負担の削減と法令の簡素化を推進すること。報告義務の少なくとも25%、中小企業では35%の削減に貢献すること)と記載されており、報告義務の25%削減、中小企業は35%削減(ドラギレポートの50%を修正)を求めています。

セジュルネ氏の担当はProsperity and Industrial Strategyであり、ECのDG GROW
(Directorate-General For Internal Market,Industry, Entrepreneurship & SMEs、域内市場・産業・起業・中小企業総局)を所管します。DG GROWを所管するセジュルネ氏を担当にしたことは、競争力回復に対するECの本気度を示していると考えられます。なぜなら、EUタクソノミーとCSRDはDG FISMA(Directorate-General for Financial Stability, Financial Services and Capital Markets Union、金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局)、CSDDDはDG JUST(Directorate-General For Justice& Consumers、司法・消費者総局)の所管であり、DG GROWの所管ではなくその法律の成立に直接的な関与がなかったと思われるからです。
 

6. 競争力コンパス

2025 年1 月29 日に競争力コンパス(”Competitiveness Compass for the EU”)を公表しました。EUの競争力回復に関して3 つの柱(Closing the innovation gap(米中とのイノベーションの差を埋める)、A joint roadmap for decarbonization and competitiveness(脱炭素政策と産業政策・経済政策・貿易政策との統合)、Reducing excessive dependencies and increasing security( 専制主義国家への依存から脱却した経済成長と安全保障)を掲げています。これらを推進するファクターとして5つのenablers(手法)を定義していますが、そのうちの1 つがsimplificationです。Simplificationによって開示義務の25%削減( 中小企業は35%削減)、CSRD・CSDDD・EUタクソノミー開示の削減を最初に行うこと、大規模企業を2 つに分割し小さい方に対して負担を削減することを示しています。

7. ワークプログラム2025

2025 年2 月11日に2025 年度のECのワークプログラム( Commission work programme 2025)を公表しました。このなかでオムニバス法案を3つに分けて、順次提案することにしています。第1弾のサステナビリティに関するオムニバス法案は2025年第1四半期、第2弾の投資に関するオムニバス法案は2025年第1四半期、そして第3 弾のオムニバス法案は2025 年第2四半期に提出するとしています。

Ⅱ.サステナビリティ報告義務 25%削減に関するオムニバス 法案の主な概要

こうした流れのなかで、2025年2月26日に第1弾と第2弾のオムニバス法案が公表されました。本稿のテーマは冒頭申し上げましたとおりサステナビリティ報告義務25%削減に関する部分ですので、第1弾のうちそれに関連する法案の主な概要を説明します。

1. 法案の本数と形式・改正対象の法令

関連する法案は3 本あります(図表1参照)。最初の1本はCSRDおよびCSDDDの延期だけを含む法案です。本稿では「延期法案」と仮称します。2本目は25%削減のための関連法案の改正を含む法案です。改正のコンテンツを含むことから、本稿では「コンテンツ法案」と仮称します。最後はEUタクソノミーのレベル2を改正する法案です。本稿では「タクソノミーレベル2法案」と仮称します。

レベルというのは法律のランクのことです。レベル1が最上位、次がレベル2です。CSRDはレベル1ですがその下位法令であるESRSはレベル2 です。いずれもbindingといわれ法的拘束力があります。レベル3までありますが、レベル3 はnon-bindingといわれ法的拘束力はないです。たとえば、ガイドライン、FAQなどがこれに該当します。

図表1のL列は延期法案、コンテンツ法案、タクソノミーレベル2法案のレベルを表しています。延期法案とコンテンツ法案はレベル1ですので通常の立法手続によって法案が成立することになりますが、延期法案については早期の成立を目指すことを目的として通常の立法手続でなくUrgent Procedure のプロセスを経ることになっています。このプロセスでは、他の審議中の法案よりも優先順位を高くして早期に採決することになります。

通常の立法手続では、最初にECがEU議会とEU理事会に法案を提出します。これは2025年2月26日に完了しています。その後EU議会とEU理事会は、それぞれがEC案に対する修正案を確定させます。その後両者が協議し修正内容に関して合意することで法案が成立します。実際には合意までのプロセスを円滑化するためにECを入れた3 者で協議(これをtrilogue といいます)し、合意すると成立します。この成立した法律が官報であるOJEU(Official Journal of EU)に掲載され、法律に定められた一定の日数を経過すると発効します。成立した法律がDIREVTIVE(指令)の場合にはEU加盟国がそれぞれ国内法として成立させること(transposition)をしないと各加盟国内で有効な法律にならないです。REGULATION( 規則)の場合には成立すればそのままEU加盟国の国内法として有効になりますので、国内法制化の必要はないです。

タクソノミーレベル2 法案はCOMMISSION DELEGATED REGULATION というレベル2 ですので、ECがまず採択し、EU議会とEU理事会が反対の意思表示をしなければ、そのまま成立します。現在ECの採択に向けて2025年3月26日まで意見募集中であり、適用開始日を2026年1月1日と予定しています。

図表1 サステナビリティ報告25%削減に関連するオムニバス法案

  法案の仮称 形式 L 改正法令
延期法案
国内法制化期限:2025年12月31日
DIRECTIVE
(Urgent Procedure)
1 CSRD
CSDDD
コンテンツ法案
国内法制化期限:法案発効後12ヵ月
DIRECTIVE
(通常の立法手続)
1 監査指令
会計指令
CSRD
CSDDD
タクソノミーレベル2法案
適用開始日:2026年1月1日
( 2025年3月26日まで意見募集中、その後ECが採択)
COMMISSION DELEGATED REGULATION
(EC採択後、議会・理事会による反対がなければ成立)
2 開示委任規則
気候委任規則
環境委任規則

出所:KPMGジャパン作成

2. 延期法案

延期法案自体の国内法制化を2025 年12月31日までとしています。CSRDについては、2 年延期を定めています。具体的には、非上場大規模企業の適用開始日を2年延期し、2027年1月からに変更しています。大規模企業は、①総資産25百万ユーロ超、②売上50百万ユーロ超、③平均従業員数250名超のうち2つ以上を満たす企業を指します。本邦グローバル企業の現地法人はこのカテゴリーに該当することが多く、2 年延期は重要事項だと思われます。ちなみに現行のCSRDでは適用開始日が2025年1月からです。

CSDDDについては、その国内法制化と適用開始時期の1年延期を定めています。
現行のCSDDDの国内法制化は2026年7月26日まででしたが、これを2027年7月26日までに1年延期しています。適用開始時期については、実際は1年延期というよりも、現行のCSDDDで3つある適用開始のカテゴリーのうち最初のカテゴリーを廃止することで、自動的に1年延長することになっています。

現行のCSDDDではEU域内の企業について①平均従業員数5,000 名超、世界売上15億ユーロ超、②同3,000名超、同9億ユーロ超、③同1,000 名超、同4.5 億ユーロ超の3つに分けており、①の適用開始を2027年7月26日、②を2028年7月26日、③を2029年7月26日としています。延期法案では①を削除し、②と③を残したうえで適用開始時期をそれぞれ2028年7月26日、2029年7月26日のままとしています。

現行のCSDDDでは、EU域外企業については、①EU域内売上15億ユーロ超、②同9億ユーロ超、③同4.5億ユーロ超の3つに分けており、①の適用開始を2027年7月26日、②を2028年7月26日、③を2029年7月26日としています。延期法案では①を削除し、②と③を残したうえで適用開始時期をそれぞれ2028年7月26日、2029年7月26日のままとしています。

 

3. コンテンツ法案

コンテンツ法案自体の国内法制化は、その成立・発効後12ヵ月以内とされています。

図表1にあるように監査指令、会計指令、CSRD、CSDDDを改正しています。このうち監査指令と会計指令の改正は、実質的にCSRDの改正と同じです。なぜなら、CSRDの第1条は会計指令の改正、第3 条は監査指令の改正と構成されており、

たとえばCSRDの開示内容は会計指令の改正の中に定められているからです。ちなみにコンテンツ法案で改正されているCSRDの第5 条はCSRDの国内法制化と適用開始日に関する条文であり、改正対象は後者です。

監査指令については、以下のような修正がなされています。

  • 限定的保証基準のECによる採択義務を削除し、合理的保証への移行するために必要としていた評価及び合理的保証基準のECによる採択義務を削除しています。
  • 保証基準を採択可能としています。保証基準の採択には条件が付されており、デュープロセスを経ていることなど、高いレベルの信頼・品質を備えていること、EUの公益に資することが要求されています。また、コンテンツ法案の前文で2026年までに保証ガイドラインを公表することにコミットしています。

会計指令については、以下のような修正がなされています。

  • CSRDの対象を大規模企業のうち平均従業員数1,000名超としています( 大規模グループの親会社も同じ閾値)。
  • ESRSの改訂をできるだけ早く(ASAP )かつ遅くともコンテンツ法案発効後6ヵ月以内にECが採択予定( コンテンツ法案前文)としています。
  •  C S RD適用対象外の企業向けに、voluntary( 任意)なサステナビリティ報告基準としてVSME( Volunt a r y Sustainability Reporting Standard for non-listed SMEs:2024年12月にEFRAG からECへ提出済のものをベースとする見込)をレベル2 法令として採択予定であるとしています。
  • セクター別基準の採択に関する条文を削除しています。
  • 平均従業員数1,000名以下のバリューチェーン上の企業にVSMEを超える情報を求めないというvalue chain capの導入を行っています。
  • CSRD域外適用の要件のうち、グループレベルのEU域内売上を1.5 億ユーロ超から4.5 億ユーロ超に変更しました。また、支店の売上についても0.4億ユーロ超から0.5億ユーロ超に変更しました。
  • EUタクソノミーの開示については、CSRDの適用対象となる大規模企業のうち平均従業員数1,000名超の企業であっても、売上4.5 億ユーロ以下の場合にはEUタクソノミー開示をオプションとし、開示する場合に部分的なEUタクソノミーへの準拠による開示も容認するとされています( 大規模グループの親会社も同じ閾値)。

CSRDについては、以下のような修正がなされています。

  • その適用開始時期の非上場大規模企業に関する条文に平均従業員1,000名超であるという条件を追加しています( 大規模グループの親会社も同じ閾値)。

CSDDDについては、以下のような修正がなされています。

  • ステークホルダー ( stakeholder )の定義において、製品/サービス/オペレーションから影響を受ける個人・コミュニティを「直接」の影響を受けるものに限定するなどし、エンゲージメント対象を関連するステークホルダー( relevant stakeholders)に限定しています。
  • デューデリジェンス(DD )の対象から原則として契約関係のない間接的なビジネスパートナー ( indirect business partner )を削除し、契約関係のある直接的なビジネスパートナー ( direct business partner)に限定しています。
  • 間接的なビジネスパートナーを対象にするのは、負の影響( adverse impact ) の可能性の高い説得力のある情報(plausible information )がある場合に限定しています。
  • 従業員50 0名未満の直接的なビジネスパートナーからは負の影響を識別・評価するためのマッピング(mapping)に際して、VSMEを超える情報を求めることを原則として禁止しています。
  • 負の影響に関する最終手段( l a s t resor t )としてのビジネス関係の終了(termination)を削除しています。
  • モニタリングによる評価の見直しを1年から5年に変更しています。
  •  ベストプラクティスを含むガイダンスを半年早めて2026年7月に公表、その他のガイダンスは予定どおり2027年7月までに順次公表するとしています。
  • 民事責任に関するEU全体の体制(EU-wide liability regime)を放棄し、各国の制度に依拠することに変更しています。
  • 当局から課される罰金の(上限の)下限( 世界売上5%)を削除し、ECからガイダンスを提供する予定であるとしています。
  • 採択する気候変動の移行計画にimplementing actionsを含めることを要求しています。

 

4. タクソノミーレベル2法案

この法案はEUタクソソノミーの3つの委任規則(レベル2はdelegated が使われるので日本語では委任という言葉を当てます)の改正を含んでいます。開示委任規則については、以下のような修正がなされています。

  • グリーン売上割合・グリーンCapEx割合・グリーンOpEx割合の算定において、累積の売上・CapEx・OpExが分母の10%未満である場合には、その経済活動の売上等がグリーンであるか否か(グリーンである場合は分子に参入)を評価することが不要になりました。
  • 上記3 つのKPIに関するテンプレートが簡素化されました。
  • 銀行が算定するグリーンアセットレシオ(GAR )について、コンテンツ法案による

CSRDの対象とならない企業に対するエクスポージャーを算入する必要がなくなりました。気候委任規則・環境委任規則については、環境目標のうち汚染に関するDNSH(Do No Significant Harm)要件が緩和されました。

Ⅲ.今後の留意点

1. 法案の審議

3 本のうち延期法案については前述のようにUrgent Procedure を採用しており、既に成立・発効しました。成立すれば、本邦企業の現地法人(非上場の大規模企業)に課されるCSRD/ESRSに基づくサステナビリティ報告義務は、2年間延期になります。タクソノミーレベル2法案もレベル2であることから、大きな混乱なく成立する可能性があります。

一方で、コンテンツ法案は審議期間を見込むことは難しい状況と思われています。そもそも延期法案をUrgent Procedure としたことの意図は、早期に延期法案を成立させたうえで、審議の長期化が見込まれるコンテンツ法案の合意に向けて集中することにあると考えられています。仮にコンテンツ法案が2027年1月までに成立しない場合には、現行のCSRD/ESRSに基づいて本邦企業の現地法人(非上場の大規模企業)によるサステナビリティ報告が始まる可能性があります。コンテンツ法案の審議動向には留意が必要です。

2. 新ESRSとVSME

また、サステナビリティ開示基準であるESRSの改正にも留意する必要があります。現行のESRSはCOMMISSION DELEGATED REGULATION としてレベル2の法令となっています。改正される見込みの新ESRSも同様にレベル2の法令になり、法案の採択者はECになります。現時点で改正法案(新ESRS案)は公表されていませんが、ECは2025 年3月27日に現行のESRSを開発したEFRAG(旧欧州財務報告諮問グループ)に対して2025 年10月31日までに新ESRSに関するtechnical adviceを提出すること、それに関するスケジュールとワークプランを2025年4月15日までに提出するように要請しました。4月15日のEFRAGの審議資料によると2025年7月末までにドラフトを公表する予定とされています。

また新ESRSについては、2027年からの適用開始だけでなく、2026 年からの早期適用も可能性として考慮していることが明らかにされています。新ESRSの内容と開発スケジュール等は、本邦企業のサステナビリティ報告に関するプロジェクトの対応スケジュールにも大きく影響すると考えられます。

コンテンツ法案ではESRSの改訂の方向性について①重要性のない開示項目を削除する、②定量的な開示項目を定性的な開示項目よりも優先する、③必須の開示項目と任意の開示項目を明確に区別するとしています。現時点で最終的な新ESRSの内容を予想することは難しいのですが、上述の現行のVSMEに含まれる開示項目は新ESRSにも含まれる可能性があると考えられます。CSRDプロジェクトにおいて現行のVSMEに含まれる開示項目への対応の十分性を確認することは有意義ではないかと思われます(図表2参照)。

図表2 イメージ:新ESRSとVSMEの関係

図表2 イメージ:新ESRSとVSMEの関係

出所:KPMGジャパン作成

3. 包括的な体制構築

3 つの法案のうち特にコンテンツ法案については、法案よりも厳しい内容で最終化されるのか、あるいは緩和された内容で最終化されるのか、不透明な状況です。2年間の延期を有意に利用して、EUだけでなく本邦有価証券報告書におけるサステナビリティ開示にも効率的に対応できるように体制を整えておくことが肝要ではないかと思料いたします。

執筆者

あずさ監査法人
金融統轄事業部 兼 サステナブルバリュー統轄事業部
加藤 俊治/テクニカル・ディレクター

関連リンク