本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

二輪車の主要市場である東南アジアにおける最新のBEV市場の動向を解説し、日本企業の事業機会を探ります。

1.東南アジアの二輪車市場

東南アジアは二輪車の主要市場です。インドネシアが域内最大市場で、ベトナム、タイ、フィリピンが続きます。2024年の二輪車販売台数は、インドネシアが633万台(世界3位)で、ベトナムが265万台(同4位)、タイとフィリピンがそれぞれ168万台となりました。

東南アジアの二輪車市場は通勤・通学用の量販モデルが中心で、排気量110~125ccのガソリン車が主流であり、日系OEMのシェアが高いマーケットです。二輪車は日本企業にとってグローバルシェアの高い産業分野ですが、東南アジアでの市場シェアの高さが寄与しています。

【図表1:東南アジア主要5ヵ国における二輪車販売台数】

東南アジアの二輪のBEV市場動向_図表1

出所:下記参照先の資料よりKPMG作成

2.東南アジアにおけるBEV市場の現状

東南アジアでは二輪のBEV普及拡大を目指す動きがあります。この背景には大気汚染対策、カーボンニュートラル対応、産業育成といった目的があり、タイとインドネシアは購入補助金スキームを導入しています。

2024年時点の二輪のBEV市場はベトナムで年間数十万台(低速モデルが中心)と推定されるほか、インドネシアとタイでは数万台となっています。二輪車市場全体に占めるBEV比率はベトナムで10%を超えている可能性がありますが、インドネシアとタイでは2%以下です。

現状、東南アジアで販売されている二輪のBEVのほとんどは中国製モデル(地場企業の独自ブランドを冠したリバッジモデルを含む)です。BEVの主要部品である駆動用モーターや電池を開発・生産する地場企業はほとんどなく、中国から完成車やノックダウン(KD)部品、主要コンポーネントを輸入する構図となっています。

内需縮小に直面している中国企業が東南アジアに販路を求める動きがありますが、二輪車のBEV分野でも同様のことが起こっています。中国製品の流入を受けて、国産化を目指す動きがあり、インドネシア政府は購入補助金の給付要件に国産化レベル(TKDN)を設定しています。

【図表2:インドネシアとタイにおける二輪のBEV市場と購入補助金スキーム】

東南アジアの二輪のBEV市場動向_図表2

出所:下記参照先の資料よりKPMG作成

3.二輪のBEVの競争環境と事業機会

東南アジアで販売されている二輪のBEVのほとんどは中国製のインホイールモーター(ハブモーター)を搭載しており、モーター出力は1~4kWです。これは、ガソリン車の主流である排気量125ccクラスにパワーで見劣りします。既存の二輪車の利用環境を踏まえると4~11kWのモーター出力が必要で、この出力帯のパワートレインに事業機会が見込めます。

すでにインドでは地場系メーカーや日系を含む外資系サプライヤーが4~11kWクラスのミッドドライブモーターを量産しており、東南アジアに市場参入する可能性もあります。

二輪のBEV市場を巡っては、バッテリースワップ(電池交換)に関する規格化においても競争が起こっています。インドネシアなどで議論されている交換用電池の規格化はユーザーの利便性向上につながりますが、一方で、OEMやサプライヤー、充電サービス事業者にとっては自陣営に有利な規格が導入されるか否かが重大な問題です。

東南アジアの二輪車市場で高いシェアを持つ日系企業においては、規格化への関与に加えて、デファクトスタンダードを狙う戦略も考えられます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 中田 徹

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