本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。

マイクロプラスチックに関する規制や影響評価が進むなか、自動車業界においてもタイヤ製品などの海洋・河川への影響低減という新しい課題が求められています。本稿では、マイクロプラスチックの規制動向や、それに伴う自動車業界への影響、環境との両立について考察します。

1.マイクロプラスチックとは

生物に対する影響が明らかになりつつある、マイクロプラスチック(Micro Plastics、以下、MPs)に対する規制化やさらなる影響評価・研究が進められています。そもそも、MPsとは何なのでしょうか?一般的な概念としては5mm以下の微小なプラスチック粒子という意図で使われており、その初出は20年ほど前の学術論文のなかで、大きなプラスチックと区別するための用語として使われ始めました。

この新しい注目対象であるMPsは、生成過程から1次MPsと2次MPsという2種類に分類されます。1次MPsは微小なプラスチックが直接環境に放出されるもので、家庭用品へ添加されたマイクロビーズや各種工業製品のみならず、化繊衣類や自動車のタイヤなど日常生活のなかでも発生します。

2次MPsは、より大きなプラスチックが自然環境中で摩耗、破砕することなどにより細分化されたものであり、海岸に漂着しているプラスチックごみを思い浮かべるとさまざまな製品が発生源となっていることが想像できます。

【図表1:マイクロプラスチックの分類】

マイクロプラスチック規制と自動車業界への影響_図表1

出所:各種公表資料を基にKPMG作成

これらMPsは人間を含めた生態系に悪影響を及ぼすことが懸念され、多くの研究が行われています。たとえば、水生生物が環境規制物質を含有するMPsを直接摂取することによる内分泌かく乱作用や炎症作用、水中の有機ハロゲン化合物や重金属をMPsが吸着し、生物が摂取することにより細胞・個体レベルで影響を引き起こすなどさまざまな研究結果が報告されています。

2.世界の規制動向

世界各国では、MPsに対する規制が進んでいます。たとえば、洗顔料や洗浄剤など代替製品がある1次MPsについては、米国では「Microbead-Free Waters Act」、EUではREACH規則により、一部製品への使用が禁止されています。さらに、2022年に開催された国連環境総会第5回会合では、海洋環境を含むプラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある文書を策定するという決議が採択されました。

これを受けて、政府間交渉会議が2024年11~12月に韓国・釜山で行われた会議(INC-5)を含めて5回開催されていますが、まだ合意には至っていません。

【図表2:マイクロプラスチックに関する規制事例】

マイクロプラスチック規制と自動車業界への影響_図表2

出所:各種公表資料を基にKPMG作成

3.自動車業界への影響

自動車業界においても、マイクロプラスチック問題への対応が求められています。EUでは最新のEuro 7でタイヤから排出されるMPs低減のために、摩耗量が規制対象となっています。さらに、プラスチックペレット損失防止規則が施行される予定です。

これにより、プラスチックペレットを取り扱う経済事業者(リサイクル、輸送業含む)は、規模に応じた管理計画作成や許認可などの各種許認可を取得する必要があります。これらの規制により、自動車の生産~使用~廃棄段階におけるMPsの発生対策が強化されることとなります。

4.大気と海洋との両立

車両の使用時におけるMPs排出量低減のための対策として、タイヤの低摩耗化とともに車体重量の低減が有効な手段となります。一方、自動車の走行時のCO2排出量を低減することが可能な電気自動車(BEV)は重いバッテリーを搭載しているため、タイヤ摩耗量が大きくなり、使用時のMPs排出量が増加する可能性があります。

このため、自動車メーカーはCO2削減など、大気への環境影響物質の放出量削減という従来の環境課題に加え、MPsという海洋・河川への影響低減という新しい課題との両立が求められることが必要となると考えられます。

※本文、もしくは図表内のデータについては下記のサイトを参考にしています。

執筆者

KPMGコンサルティング
スペシャリスト 伊藤 登史政

お問合せ