スマートシティの社会実装には、(1)場づくり、(2)先端サービス実証・実装、(3)インパクト創出が重要だと考えます。本連載では、(1)~(3)の施策について、KPMGの取組みを織り交ぜながら紹介していきます。
第2回は、国内の大多数を占めている人口が小規模な自治体において、ローカルスタートアップを支援することによって町・村が維持し続けるための生活サービスなどDXの実装を目指すKPMGの取組みを背景・概要および東成瀬村での事例を中心に紹介します。
なお、本連載は、2024年12月よりSCI-Japanに連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
小規模自治体の現状と課題
2020年時点で国内における基礎自治体は総数として約1,700ありますが、そのうち半数の967自治体(56%)が人口3万人以下の言わば「町・村レベル」になります。2024年では、全体の63%にあたる1,081自治体に達すると想定され、「町・村レベル」の自治体が大多数を占めることになります。
【人口規模別の基礎自治体数割合】
出所:「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)3.都道府県・市区町村別の男女・年齢(5歳)階級別将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所)を基にKPMG作成
こうした自治体は財政が脆弱であり、基準財政収入額を基準財政需要額で除した3年間の平均である財政力指数が0.4未満、つまり収入で財政需要の大半を賄えないという自治体が「町・村レベル」では半数を占め、人口規模が小さくなればなるほど顕著になります。
【自治体の人口規模別財政力指数割合】
出所:「令和4年度地方公共団体の主要財政指標一覧 5.全市町村の主要財政指標」(総務省)を基にKPMG作成
際立つ地域資源や政治環境がない一般的な「町・村レベル」の自治体で生じている事態として想定される状況としては、「人口が減少する」⇒「人口減少に伴う需要減退により産業が衰退する」⇒「人口や産業衰退の結果としての税収減による公共財源が縮小する」⇒「公共財源縮小による地域に住み続けるためにエッセンシャルなライフラインサービスの維持が困難になる」⇒「ライフラインサービスの劣化により住み続けることが困難になる」⇒「結果としてさらに人口が減少する」、という負のスパイラルに陥っていることが想定されます。
これまでは負のスパイラルに対して、個々別々の対策が講じられてきており、一定の成果を挙げた好事例も多数あります。一方で、そうした成果にもかかわらず、大多数の「町・村レベル」の自治体における負のスパイラルは進展している状況にあります。
小規模自治体におけるローカルスタートアップ活躍支援を通じた社会実装の取組み
こうした負のスパイラルに対する仮説として、包括的な推進事業体の組成(=域内外からサービスの担い手を確保・育成する受け皿を確保しつつ、そのサービス事業化により産業を創出し関係者を巻き込んだ持続可能なエコシステムを組成すること)×スマート化の推進(=限られたヒト・モノ・カネ・情報を棚卸しつつ、包括的・有機的に接合したサービスを創出することで、効率化とともに新たな価値を創出すること)によりすべての要因に面でアプローチすることで、「負のスパイラル」を「正のスパイラル」に転換できると考えています。
【包括的な推進事業体×スマート化によるスパイラルの正転換】
出所:KPMG作成
「町・村レベル」の自治体においては、有望なローカルスタートアップが「包括的な事業体群の組成×スマート化の推進」を担えるのではないかと考えています。こうしたローカルスタートアップは、(1)地域密着、(2)高い機動性・柔軟性、(3)包括性の特長を有していると考えられます。
そこで、(1)(2)(3)を満たす有望なローカルスタートアップを支援することで、対象地域の活性化支援に間接的に貢献しつつコアなモデルを形成し、さらにはローカルスタートアップが類似した負のスパイラルに陥っている全国の「町・村レベル」の自治体に横展開することを支援することで、全国の「町・村レベル」の「自治体の活性化=社会的インパクト(地方創生)の創出実現」というビジネスモデル開発を目指して取組みを進めています。
秋田県東成瀬村での事例
こうしたビジネスモデルの開発事例として、秋田県東成瀬村における取組みを紹介します。
東成瀬村は秋田県南東部の横手盆地から成瀬川沿いに栗駒山に面した山間に位置する人口2,400人弱の村です。現在、村内の成瀬川上流で巨大なダム建設工事が進展しており、一時的な建設需要に沸いていますが、竣工後は需要消失に伴う、人口減少に始まる負のスパイラルの進展が懸念されています。
そうした東成瀬村では、人口減少・若者の流出を食い止めるべく、ローカルスタートアップとして、東成瀬テックソリューションズ株式会社(通称「なるテック社」)が活動しています。
なるテック社は、村の出資も受けて2021年10月に設立された会社で、2025年1月現在で、社員数は60人を超えており、設立後3年程度で村の人口の2.5%を占めるに至っています。また、社員のほとんどが村外から移住してきた20代~30代の若者で構成されており、「村に1つしかないコンビニに若者の姿が見えるようになって村の風景が一変した」という人口インパクトをもたらしています。
同社は、総務省地域おこし協力隊の運営委託業務を東成瀬村から受託することで、都会の若者を雇用し、村に移住してもらいつつ職能訓練・育成することで、協力隊員・同社社員として、村のさまざまな分野に対して包括的なスマート化を基軸として産業振興と官民連携の推進による村のサービス創出を目指した取組みを進めています。
一方で、同社と東成瀬村では、サービス創出に向けた事業の資金調達面、および地域おこし協力隊として社員をスキルがない状態から訓練するために、サービス創出を実現するツールやノウハウ面に課題があります。
そこでKPMGは、なるテック社が活躍できるように、資金調達面とツール面、そしてノウハウ・ナレッジ移転での支援を行っています。また今年度、モビリティ、エネルギー、複合拠点施設などの分野において、東成瀬村の計画策定をなるテック社とともに担うことで、ハード・ソフトインフラにおいてのサービス創出支援を進めています。今後は、東成瀬村を1つのコアモデルとして、全国の「町・村レベル」の自治体への展開支援も目指す予定です。
【町・村を束ねたモデル展開による地方創生支援】
出所:KPMG作成
※本文中に記載されている会社名は登録商標または商標です。
本文およびグラフの数値は下記資料を参考にしています。
SCI-Japan 2025年1月23日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(Smart City Institute Japan)の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 黒澤 隆