1.ESGリスクの高まり

ESG(環境・社会・ガバナンス)は、今日ではすべての組織においてますます重要な問題となりつつあります。企業はESGへの取組みが、限られた人材の確保、従業員体験の向上、ロイヤルカスタマーの獲得、そして、資本を調達する能力の向上につながることを理解しています。ESGは、かつての「可能であれば対応した方がよいもの」から「長期的な財務上の成功をおさめるために欠かせないもの」へと変貌を遂げました。

その結果、サステナビリティはESGリスクという新たな種類のリスクを生み出しつつあります。企業は、ESGに係るガバナンス構造を再考し、経営層が参画するステアリングコミッティーを設置し、コミットメント、行動および開示に関する戦略的な決定を下すようになっています。さらに企業は、リスク戦略とリスクアペタイトステートメントとを調整しながら、3つのディフェンスラインすべてにおいて、役割と責任の完全な透明化を図ろうとしています。

内部監査は、ESGに係る報告およびサステナビリティに関する事柄について、客観的なアシュアランスとアドバイザリーをより広範に提供することにおいて重要な役割を果たすことができます。

ステークホルダーの期待は、株主還元の最大化よりも株主価値の最大化を重視するよう企業にプレッシャーをかけ、サステナビリティに関するコミットメントや戦略を公表するよう促しています。迫りくる不況の影と今日のきわめて競争の激しい事業環境により、ESG戦略に対するCEOのコミットメントが試されるなか、サステナビリティへの投資の縮小は長期的な財務リスクにつながりかねません。

こうした試みは、CEOがESGと収益性を強く結びつけて考えるようになったのと時を同じくして始まり、短期と長期のどちらのリターンを優先させるかが問われています。

課題を把握し続ける

  • 規制当局、投資家、ステークホルダーからのプレッシャー
    包括的なESG戦略は、今やステークホルダーの要求や規制に対応するためだけでなく、競争優位性を獲得し、レジリエンスを向上させ、価値を高めるためにも不可欠です。規制当局は、サステナビリティに係る目標を長期的に達成するのに必要な環境とガバナンスの変化について企業が主導することを期待しており、世界各地で重要な規制が新たに成立している、もしくは最終的な可決を待っている状況となっています。その結果、サステナブルな事業活動への方向転換を企業に求めるプレッシャーがさらに高まることになります。
  • ESGをめぐる大きな期待
    ESGはもはや事業を運営するうえで不可欠なものであり、財務的なレジリエンス、成長、およびステークホルダーの期待に影響を及ぼします。ESGに関する期待に応えなければ、資金調達、人材募集、競争力、人材流出の危機、従業員の満足度、顧客の喪失に影響を与える可能性があります。
  • 将来を見据えた行動
    各企業のサステナビリティに関する取組みはさまざまです。この取組みを始めたばかりの企業は、でき合いのESGソリューションで間に合わせるのではなく、自社特有のニーズに合わせた戦略を考えなければなりません。ただ待つのではなく、将来を見据えて企業が着手できる行動がいくつかあります。これらには、「ステークホルダーの期待を理解する」「主要なESGトピックに対する戦略的な必要事項を決定する」「主要な評価基準を明示する」「有用な非財務データ管理に投資する」などが含まれます。
    財務報告と同様に、内部監査が提供することのできる独立的かつ客観的なアシュアランスは、組織のESG対応に不可欠な要素とならなければなりません。

【ESGに関するCEOの展望】

ESGにおける内部監査の役割_図表1

2.内部監査の明確な役割

内部監査部門は、効果的な変化に向けてガイダンスと付加価値を提供し、自らの経験を活用できる独特の立場にいます。今後の変化のなかで、内部統制を踏まえたESGの戦略や目標を運用するためのガイダンスは欠かすことができません。内部監査人協会(IIA)によると、内部監査はESGに関するアシュアランスとアドバイザリーのサービス提供において、以下を含む明確な役割を担っています。

アシュアランス

  • ESG報告における内部監査の確固たる役割
    ESGのシステムとコントロールは成熟するまでに時間がかかるため、外部監査人による必須の精査の前に内部監査による事前検証が不可欠です。
  • 妥当性、正確性、適時性、一貫性のための報告指標のレビュー
    組織がESGへの取組みを正確に示す報告および非財務情報の公開をすることは非常に重要です。規制当局の監視や世間の目が厳しくなるなかで、ESGと財務報告の開示内容の矛盾は、投資家や規制当局を警戒させることになります。
  • ESG報告に関するマテリアリティ評価もしくはリスク評価の実行
    現在実施しているESGの取組みや、ESG目標の達成に向けたコミットメントは、マテリアリティのレベルを迅速に引き上げます。
  • 内部監査計画へのESGの組込み
    内部監査部門は、組織に関する深い知識(企業風土、倫理、ガバナンスのフレームワークとプロセス、およびこれらの関連リスク)を有しており、将来的にESG関連のアシュアランス業務を担うべきです。

アドバイザリー

  • 準備不足の領域の特定とESGに係る統制環境の構築
    内部監査部門は、規制上のガイドラインもしくは要求事項を含み、アシュアランスの準備が十分でない領域について議論し、ESG報告に向けた内部統制について助言することができます。
  • 報告指標の推奨
    内部監査部門は、組織内のESGの取組みを正確に反映するデータの種類について洞察を与えることができます。
  • ESGガバナンスに関する助言と提唱
    内部監査部門は組織横断のリスクに関して全体的に理解しているため、ESGガバナンスに関するガイダンスを提供し、ESGリスクに対して慎重に取り組めるよう組織を支援することができます。

<経営を支える内部監査におけるESGの重要論点>

  1. EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や米国証券取引委員会(SEC)が提唱した気候関連開示規則など、既存および今後導入予定の規制要件に関連したコンプライアンスリスクを含む、ESG関連のすべてのリスクや機会を企業は明確に把握しているか。さらに、組織は関連リスクを定期的に再評価およびモニタリングするために、どのような準備を進めているか。
  2. 組織はすべての主要な法的管轄区域において、今後導入予定の法律および規制要件に対する準備ができているか。
  3. ESGの目標や戦略に即したESGの文化およびリスク管理アプローチは存在しているか。
  4. 組織の現在のESGへのコミットメントはどのようなものか。また、そのコミットメントを支える方針、手続、コントロール、データはあるか。

【ESGの取組み】

ESGにおける内部監査の役割_図表2

3.ESG内部監査の手法

ESGに関して内部監査が担う責務は、単なるリスクやコントロールの特定に留まるべきではありません。内部監査は、社内のプログラム、取組み、コントロール、およびそれらを支えるテクノロジーが組織全体で効果を発揮するよう、戦略・ガバナンス・リスクマネジメントを結びつける働きも担わなければなりません。KPMGのESG内部監査アプローチは、確立された内部監査手法のさまざまな要素を統合し、KPMGが有するESGにおける専門知識によって補完されています。

【主要なESGカテゴリーを網羅する内部監査の範囲】

ESGにおける内部監査の役割_図表3
サステナビリティリスク
  • リスクおよび機会の評価
  • 規制の要求事項
  • 変革の完全性
  • サードパーティに対するデューデリジェンス
コントロールの評価
  • 規制変更のモニタリングと追跡
  • プロセスとコントロールのテスト
  • ESGリスクプログラムの定期的な評価
  • 第2線等その他のアシュアランス提供者との連携
組織の文化と意識
  • 主要なステークホルダーとの連携 および対話の創出
  • ESG・サステナビリティの文化や社風、 および行動変化への対応
  • 定期的かつ頻繁な研修とコミュニケーション
ツールとデータ
  • ESGプログラム(テスト、研修記録等)を支える テクノロジー
  • 予測措置:重要リスク指標および重要業績評価 指標(KPI)
  • 根本原因分析とトレンド解析
  • データガバナンス/マネジメント
方針と手続
  • ESG方針の存在と管理
  • 全社的な方針と手続(人的資本、安全衛生、サイバー、融資 および与信実務、投資など)
  • 方針の枠組みと戦略の整合性
問題の管理と調査
  • 問題や苦情の管理と是正
  • 規制当局の取調べ/査察への対応
  • 申し立てられた不履行を調査する対応計画および プロセス
  • 継続的改善
報告
  • すべての法的管轄区域における規制上の報告
  • 経営層および取締役会に対する定期報告
  • ステークホルダーに対する報告
  • 記録保管
全社的な検討
  • ミッション、ビジョン、バリュー、戦略
  • 最高経営層による定期的レビュー
  • 状況背景およびステークホルダー分析
  • 時間、リソース、予算

4.KPMGによる支援

KPMGの内部監査手法は柔軟性に富み、各企業の個別のニーズに合わせた対応が可能です。KPMGの内部監査支援サービスは、ハイレベルな監督、リスク評価、デューデリジェンスの手続および啓発等、企業のESGガバナンス方針に関する各側面の検証から、ESGへのコミットメントを支援するためのコントロールの評価まで、多岐にわたります。ESGに関する全体的な態勢評価の一環として、ESGガバナンス評価、サステナビリティ報告における内部統制、内部監査へのESGの組込みなど、一連の評価を個別に、あるいは段階的に実施することが可能です。

※サービスの詳細は、下記のPDFをご覧ください。また、お気軽にお問い合わせください。

お問合せ