今知っておきたい「新リース会計基準」

本稿では、現時点で知っておくべき新リース基準の概要及び適用による影 響について概説します。

本稿では、現時点で知っておくべき新リース基準の概要及び適用による影 響について概説します。

2024年9月13日、企業会計基準委員会(ASBJ)から、リースの会計処理を抜本的に見直す一連の会計基準等の改正が公表されました。

新リース基準では、借手に原則としてすべてのリースのオンバランスが求められることを筆頭に借手の会計処理が大きく変更されます。同時に、貸手の会計処理は基本的には現行リース基準を踏襲しているものの、実務に影響を与える変更があります。

また、財務諸表への影響として資産及び負債が増加するだけでなく、損益計算書やキャッシュ・フロー計算書への影響もあり、さらにROA( 総資産利益率)やROIC( 投下資本利益率)といった経営指標への影響も生じることになります。加えて、リースに関する情報を収集するための業務プロセスやシステムへの影響も見込まれるため、新リース基準の適用準備にはできるだけ早期に着手することが重要です。

本稿では、現時点で知っておくべき新リース基準の概要及び適用による影響について概説します。なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

POINT 1 強制適用は2027年4月1日以後開始する年度から

2027年4月1日以後に開始する年度の期首から適用されますが(早期適用も可)、新リース基準への移行には相当の準備が必要であり、早期に対応を開始する必要があります。

POINT 2 借手の会計処理は大きく変更、貸手の会計処理にも実務に影響を与える変更あり

借手の会計処理が大きく変更されたことはもちろん、貸手についてもたとえば以下の点で実務に影響を与えます。

  • 新リース基準適用対象の拡大
  • 収益認識会計基準との適用範囲の整理
  • 「 貸手のリース期間」の選択
  • ファイナンス・リースの第2法の廃止
  • オペレーティング・リースの会計処理の明確化(フリーレント期間を含む定額法)

POINT 3 影響は財務諸表や経営指標のみならず業務プロセスやシステムにも及ぶ

リースが含まれる契約の範囲が拡大することや事後の会計処理が定められたこと等から、新リース基準への対応に向けて業務プロセスやシステムは見直しが必要になる可能性があります。

Ⅰ.新リース基準の公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2024年9月13日、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」並びにこれらに関連する諸会計基準等の改正( 以下、合わせて「新リース基準」という)を公表しました。

新リース基準は、借手の会計処理について国際的な会計基準との整合性を確保するために開発されたため、借手の会計処理はIFRS第16号「リース」の定めを取り入れて大きく変更されました。一方、貸手の会計処理は、一部を除き、現行の企業会計基準第13 号「リース取引に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」等( 以下、合わせて「現行リース基準」という)の定めを基本的に変更していません。しかし、数少ない変更点が実務に影響を与える可能性があります。なお、貸手・借手の会計処理に対称性は求められず、借手が原則としてすべてのリースをオンバランスすることで、連結グループ内リース取引の連結決算における相殺消去が従来より複雑になるという影響もあります。

Ⅱ.新リース基準の概要

1. 借手の会計処理の概要

借手の会計処理の枠組みにはIFRS第16号と同様の会計処理モデルを採用しています。

モデル 内容
使用権モデル 原則としてすべてのリースについて使用権資産及びリース負債を計上
単一の会計処理モデル リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかを区分せず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上

 

ただし、IFRS第16 号のすべての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみが取り入れられ、また、日本基準独自の代替的な取扱いも認められているため、適切な会計処理がIFRS第16 号と同じ会計処理に限定されているわけではありません。

なお、米国会計基準のTopic 842「リース」では、使用権モデルは採用されていますが、単一の会計処理モデルは採用されておらず、借手もファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分して異なる会計処理を適用しています。

2. 貸手の会計処理の概要

現行リース基準を踏襲して、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、それぞれに対応する2つの会計処理モデルを採用しています。
また、次の点を除き、基本的に現行リース基準の定めを踏襲しています。

① 企業会計基準第29 号「収益認識に関する会計基準」等(以下、「収益認識会計基準」という)との整合性を図る( たとえば、収益認識会計基準において対価の受取時にその受取額で収益を計上することが認められなくなったことを受けた、現行リース基準におけるファイナンス・リース取引の第2 法(リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法)の廃止等)。

②リースの定義及びリースの識別については借手と同じ取扱いとし、IFRS第16号の定めを取り入れる。

新たなリースの定義及びリースの識別が貸手にも適用されることで、これまで収益認識会計基準の適用対象としていた取引が新リース基準の対象となる場合があり、会計処理及び開示に影響がある可能性があります。

3. リースの定義

リースの定義は次のとおりで、借手と貸手の両方に適用されます。

用語 定義
リース 原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分

4. リースの識別

上述のリースの定義は現行リース基準と大きくは変わらないものの、新リース基準では、契約にリースが含まれるかどうかをリースの定義に基づき契約締結時に判断する定めが「リースの識別」として設けられています。リースの識別には判断が伴い、IFRS第16 号が導入された際にも詳細な検討を要するステップでしたので、新リース基準においても難しい判断が要求されることが想定されます。

また、当該定めは新リース基準で新しく導入されたため、これまで現行リース基準ではリースとして会計処理されていなかった契約が、新リース基準ではリースが含まれると判断される場合もあると考えられます。たとえば、サービス契約、業務委託契約、電力供給契約等、これまでリース取引と捉えていなかった契約についても、リースが含まれると判断される可能性がありますので、契約を網羅的に把握し、契約内容を確認する必要があります。

一方、ソフトウエアなどの無形固定資産については、現行リース基準ではリース会計の対象となっていますが、新リース基準では適用は任意とされていますので、オフバランスとする選択肢が加わります。

リースの識別の具体的な定めは図表1のとおりです。

図表1 リースの識別

図表1 リースの識別

5. 適用時期等

2027年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することも認められます。新リース基準を適用する場合は、期首からの適用となり、期中又は期末からの適用は認められません。

適用初年度においては、新リース基準を遡及適用することが原則ですが、比較年度については遡及適用を反映させず、遡及適用による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することが認められます。

また、多くの経過措置が定められており、経過措置をどのように組み合わせて用いるかによって、適用初年度の期首の利益剰余金が大きく変わる可能性がありますので、経過措置の選択が重要となり ます。

Ⅲ.借手の会計処理

1. 借手のリース期間

借手のリース期間は、次のとおり定義されています。

用語 定義
借手のリース期間 借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の①及び②の両方を加えた期間
①借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
②借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間

現行リース基準とは異なり解約不能期間に限定されず、延長又は解約オプションの行使可能性を考慮するため、借手のリース期間の見積りは判断を伴い非常に難しい場合があります。

また、借手のリース期間を見積もるなかで、他の会計基準における期間(たとえば、附属設備の耐用年数や資産除去債務に対応する除去費用の発生時期等)との関係性について、それぞれの定義が異なるために必ずしも同じである必要はありませんが、矛盾のないように整合的に説明可能であることが求められると考えられ ます。

2. 借手のリース料

会計用語として特に定義された意味で使われています。リースの対価としての貸手への支払いすべてを含むものではなく、たとえば、指数又はレートに応じて決まるもの以外の借手の変動リース料( リース対象不動産を利用することで得られる売上高に連動するリース料等)は、借手のリース料には含まれません。

借手のリース料に基づき使用権資産及びリース負債が計上されますので、リースの対価としての支払いであっても借手のリース料に該当しない場合、オンバランス対象とはなりません。ただし、注記の対象とはなりますので、情報収集が必要となります。

3. リース開始日の会計処理

借手は、リース開始日にリース負債と使用権資産を計上します。

リース負債は、リース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除した現在価値により算定します。

使用権資産は、当該リース負債の計上額にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除して算定します。

また、借地権の権利金等については、基本的に現行実務のとおり償却の有無のどちらも認められますが、新リース基準では、無形固定資産ではなく使用権資産に含めて表示することになります。ただし、定期借地権は償却が求められますので、従来償却を行っていない場合には会計処理に変更が生じます。

4. 使用権資産の償却

使用権資産の償却については、基本的に現行リース基準におけるリース資産の償却と同様の会計処理が定められます。

また、使用権資産には減損会計が適用されます。IFRS®会計基準においてもIFRS 第16 号導入時には実務で混乱がありました。たとえば、使用権資産とリース負債を合わせて減損会計の単位と捉え、リース負債の帳簿価額が使用権資産の帳簿価額を上回るために減損処理が不要であるとする誤解がありました。日本基準における減損会計の適用方法も、必ずしも明確ではないように思われます。

5. リース負債及び支払利息の処理

現行リース基準におけるファイナンス・リース取引に関する定めと同様に、リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額( 利息相当額)を借手のリース期間中の各期に利息法に基づき配分します。

ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合については、現行リース基準で認められている簡便的な取扱い( いわゆる利子込み法又は定額法) が踏襲されています。

6. リースの契約条件の変更及びリースの契約条件の変更を伴わないリース負債の見直し

新リース基準では、リースの契約条件の変更時の会計処理が新たに定められています。具体的には、借手は、リースの契約条件の変更が生じた場合、変更の内容により、①変更前のリースとは独立したリースとして会計処理を行う、②リース負債の計上額を見直す、のいずれか( もしくは両方)の処理を行います。

これらの会計処理は現行リース基準では求められていない会計処理ですが、新リース基準では定めに従った処理を行う必要があります。また、②の会計処理は、変更後の新たな条件の適用開始日ではなく、条件変更の発効日で行う必要があります。たとえば、借りているオフィスフロアのうち一部を4月1日から返却することについて、3月中に契約変更した場合、3月に見直しを反映する必要があります。

合わせて、リースの契約条件の変更を伴わない場合であっても、次の場合に借手はリース負債の計上額を見直します。

① 借手のリース期間に変更がある場合( 特定の状況下でオプション期間についての「合理的に確実」の判定が変更された場合、過去に借手のリース期間の決定に含めていなかった延長オプションの行使により、借手の解約不能期間に変更が生じる場合等)

② 借手のリース料に変更がある場合( 原資産を購入するオプションの行使に係る判定に変更がある場合等) 

7. 短期リース及び少額リース

短期リース及び少額リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上する簡便的な取扱いが借手に認められています。

短期リースについて、12ヵ月という閾値は現行リース基準と変わりませんが、新リース基準では借手のリース期間に基づいて判定されます。上述のとおり、借手のリース期間は延長又は解約オプション期間を考慮して決定されることから、現行リース基準におけるリース期間よりも長くなる可能性があり、現行リース基準では短期リースに該当したとしても新リース基準で該当しない可能性があります。

8. IFRS第16号との関係

新リース基準は、IFRS会計基準任意適用企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準が指向されています。

ただし、セール・アンド・リースバック取引については、IFRS第16 号ではなく米国会計基準の定めと同様の内容になっていますので、修正が必要になります。

また、IFRS会計基準は連結財務諸表にのみ適用されるために、連結上の重要性の観点からIFRS第16号を適用していないリースや連結相殺消去されることから検討されていない連結グループ内のリース等がある場合、新リース基準を適用することで新たに会計処理が必要となるリースが存在する可能性があります。

Ⅳ .貸手の会計処理

1. 貸手のリース期間及び貸手のリース料

貸手のリース期間は、国際的な会計基準と同じく借手のリース期間と同様に決定する方法と、現行リース基準の定めを実質的に踏襲する解約不能期間をベースとする方法のいずれも認められています。貸手のリース料は、貸手のリース期間として、借手のリース期間と同様に決定する方法を採用した場合でも借手のリース料と整合性をとるのではなく、現行リース基準の定義が実質的に踏襲されています。

2. ファイナンス・リース及びオペレーティング・リースの会計処理

上述のとおり貸手の会計処理は基本的には変更ありませんが、一部が変更されています。詳細は図表2のとおりです。なお、実務においては、特に転貸に関し、次の点に注意が必要です。

① 土地等の不動産のリースは、現行リース基準ではリース物件を参照してリース分類を判定するため、おおむねオペレーティング・リース取引と判定されていたと思われますが、新リース基準では転貸の場合、ヘッドリースを通じて取得した使用権資産を参照するためファイナンス・リースと判定されることも多くなると想定されます。

② ヘッドリースのリース負債に係る利息相当額が利息法によりリース契約の初期には相対的に多く計上され後期には相対的に少なく計上されることで、オペレーティング・リースによる転貸では、会計上は初期の損益が赤字になる可能性があります。

図表2 貸手の会計処理

図表2 貸手の会計処理

出所: KPMG作成

Ⅴ.新リース基準適用の影響

1. 財務諸表や経営指標への影響

新リース基準の適用によって、使用権資産及びリース負債が計上されることにより、資産及び負債が増加するだけでなく、ROA( 総資産利益率)やROIC( 投下資本利益率)等の指標にも影響を及ぼします。

また、損益計算書では、借手の観点からは、賃借料として計上されていた費用が減価償却費と支払利息に代わり、一般的に営業利益が好転します。貸手の観点では、ファイナンス・リースの第2 法の廃止により現行リース基準における第3 法と同様の方法( 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法)に変更する場合、総額で計上していた損益が利息相当額のみに大きく変わります。

さらに、キャッシュ・フロー計算書では、営業キャッシュ・アウトである賃借料の支払いから、財務キャッシュ・アウトであるリース負債の返済に変わることで、一般的に営業キャッシュ・フローが好転します。

このように財務諸表や経営指標への影響があるため、これらの数値や指標を経営上重視している場合、経理だけでなく、会社全体の検討課題になる可能性があります。財務諸表や経営指標への影響イメージは図表3のとおりです。

図表3 財務諸表や経営指標への影響イメージ

図表3 財務諸表や経営指標への影響イメージ

出所:KPMG作成

2. 業務プロセスやシステムへの影響

リースの識別においてリース契約や賃貸借契約等の契約の法形式にかかわらずリースに該当する可能性があるため、幅広い契約に関する情報を収集する必要があります。関連しうる契約を一元的に管理している会社は少なく、契約種類によって管理部署が異なっていることも多いと思われます。また、連結グループ内のリースで契約条項が明確でない場合には契約内容を明確にする必要があります。

加えて、リース負債の再測定等の会計処理が定められたことにより、契約の締結時点だけでなく、リースの終了時点まで情報を収集・更新することが求められます。契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しは、変更が生じた日に会計処理を行うことから、たとえば、「契約を更新しない場合は契約満了6ヵ月前までにその旨申し出る」条項がある場合、契約満了6ヵ月前までに何もしないことで契約が更新され、当該日が「変更が生じた日」となる可能性があります。このような場合、契約条項に関するデータを収集しておき、「何もしない」ことをもって会計処理を変更する必要があることに注意すべきです。

このような状況に対して、これまでの業務プロセスでの対応では不十分である可能性があり、経理だけに限らず、社内のさまざまな部署が連携して情報を収集することができるように、社内の業務プロセスの見直しを検討する必要があります。

業務プロセスの見直しに加えて、契約の締結から終了までの情報収集、当該情報に基づく会計処理の実施については、煩雑かつ膨大な作業を要する可能性があり、手作業や簡易な表計算ソフトウエアでは管理しきれずにシステム上の対応が必要という判断になることも十分に考えられ ます。

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