1.世界の二輪車市場

二輪車は人やモノの移動に欠かせないモビリティの1つです。世界の二輪車(電動自転車等を含まない)の新車市場は2023年に約5,700万台になったと推定されます。主要なマーケットはインド、中国、東南アジアといったアジア諸国です。

世界最大の二輪車市場はインドで、世界全体の需要の3割相当の規模があります。世界2位は中国(電動自転車を含めると世界最大市場)で、インドネシアとベトナムが続きます。これらの国は二輪車の輸出拠点でもあり、特に中国は世界最大の輸出国です。

アジアの二輪車市場の特徴として需要の底堅さがあります。また、二輪車の市場動向を考察するうえで重要なファクターの1つが四輪車シフトです。先進国の経験則では、1人当たりの名目GDPが3,000ドルに達すると四輪車の普及拡大期(モータリゼーション)に入ると考えられます。

この経済水準に達しているタイとインドネシアを例に挙げると、二輪車の新車需要はピークを過ぎましたが、依然としてピーク時の7~8割を維持しています。一方、四輪車市場は2010年代半ばのピーク時を下回る状況が続いており、四輪車シフトは緩慢なペースです。気候条件や道路環境などの要因が考えられますが、二輪車が主な移動手段の地位を維持していると言えます。

2.アジアにおける二輪のBEV市場動向

二輪車分野では、四輪車同様に電動化を目指す動きが見られます。アジアにおいては、こうした動きの背景に大気汚染対策や産業育成などの目的があります。インドでは、2023年に二輪のBEV(電動バイク)の新車登録台数が93万台に拡大し、二輪車市場全体に占める割合が5.5%に上昇しました。政府支援や新車投入の活発化を受けて需要増となりました。

一方、中国では、2022年に684万台に拡大しましたが、2023年に374万台となり、市場シェアは57%から43%に低下しました。電動自転車に関する国家標準(GB規格)の改定と違法な電動自転車に対する取締まりの厳格化を受けて需要が増加した後、反動減が発生しました。
また、インドネシアとタイでは、2023年時点の市場規模は数万台でした。

世界で最も二輪車が普及している台湾では、2020~2023年に8~9万台となり、市場シェアは10~12%で推移しています。台数と市場シェアの両方が伸びていませんが、新車購入補助金の減額が影響していると考えられます。

3.インドにおける二輪のBEV政策と市場動向

インドでは、大気汚染や原油の輸入増に起因する貿易赤字といった課題の改善に向けて、二輪のBEV普及拡大を目指す取組みが官民双方で進んでいます。インド政府は2030年までに二輪車市場の80%をBEVとする目標を設定しており、これは2023年の市場規模で換算すると1,400万台弱に相当します。

目標実現に向けて新車購入補助金や充電インフラの整備を含む普及促進策を実施しているほか、国産化推進策やサプライチェーン構築支援などを導入しています。また、発電能力の増強計画、電池用鉱物資源の確保といった施策を発表しています。

二輪のBEV普及拡大では、経済性と利便性の両立が不可欠です。まず、BEVとガソリン車の総保有コスト(TCO)を比較すると、車両購入2年目以降はBEVが優位と試算されます(インドの非営利団体による)。ガソリン燃料のコスト負担に比べて、電気料金が割安であることが主な要因です。

一方、利便性にかかわる主な要素は充電で、充電時間の短縮化に加えて、充電ネットワークに容易にアクセスできる環境が必要です。インドの公共充電ステーション数は2024年8月時点で2.5万ヵ所となっていますが、これは一部の都市部に偏っており、インフラ不足の解消には時間がかかる見込みです。

4.インド二輪車市場における日本企業の事業展開

二輪車産業は日本企業がグローバルマーケットにおいて競争力を持つ分野です。インドにおいては、ガソリン車を中心とする二輪車市場全体で日本車ブランドが約30%の市場シェアを獲得しています。BEVに限ると、インド地場の新興企業や既存大手メーカーが新車投入で先行しており、日本車メーカーは今後の巻き返しを狙います。駆動用モーターなどの主要部品分野においては、地場企業と外資サプライヤーが成長機会を求めて相次いで市場参入しており、受注競争が激化しています。

日系サプライヤーのインド事業展開では、自社展開だけでなく、地場企業への投資や出資、事業提携といった方策も選択肢です。二輪のBEVで地場メーカーが先行するなかで、地場企業が持つ営業や調達面のネットワークやノウハウを活用できれば、迅速に市場参入できる可能性があります。

また、本格的な市場拡大までに時間がかかった場合の投資リスクを抑えることもできます。日本企業が二輪車分野で競争力を維持していくために、インドのBEV市場でどう勝ち残っていくのかが鍵であり、そのための戦略が問われています。

本稿で紹介している各国の二輪車市場の動向について、PDFではグラフも交えた詳細がご覧になれます。なお、文中の数値に関してはPDF掲載の各出典に基づいていることをお断りします。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 中田 徹

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