国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が、アゼルバイジャンの首都バクーで2024年11月11日から24日まで開催されました。COPは世界から政府機関や非政府主体が集まり、気候変動対策の新たな目標や取組みを議論する場として年に1回開かれます。

KPMGコンサルティングはCOP29に現地参加し、COP29における協議や合意、現地での企業や研究機関などとの議論から得られた今後の気候変動対策で注目するべき点を考察し、それを踏まえた企業の戦略的対応について解説します。

目次

1.企業が注目すべき「COP29」3つのポイント
 (1)公的資金の不足と民間セクターへの期待
 (2)各国の排出削減目標(NDC)引き上げが必至に
 (3)炭素市場のルール合意

2.民間企業に求められるアプローチ
 (1)脱炭素化経営のパスウェイの設計
 (2)社会インパクト創出を意識したサステナビリティ経営
 (3)企業の枠を越えた連携

1.企業が注目すべき「COP29」3つのポイント

(1)公的資金の不足と民間セクターへの期待

COP29で最大の論点となったのは「資金調達」です。2015年のパリ協定では、先進国から途上国に向けて2025年まで年間1,000億ドルの気候変動対策資金を支援する目標が掲げられました。今回のCOP29では、2025年以降の目標額の設定が焦点となりました。

先進国側と途上国側による交渉は難航し、当初は12日間だった会期を2日延長して、目標額を2035年までに年間3,000億ドル以上に引き上げることで合意しました。途上国側が求めていた年間1兆3,000億ドルとは大きな乖離がある結果となりましたが、合意文書には、政府と民間を合わせた資金の拠出を2035年までに年間1兆3,000億ドル以上に拡大するため、すべての当事者が協力して取り組むことを求める旨が盛り込まれています。

今後は、民間からの気候資金の拠出をどのように促進していくかが大きなポイントとなるでしょう。企業によるサステナビリティと企業成長を両立させる事業展開が、気候変動対策の資金的課題を緩和し、社会的インパクトと企業価値の向上をあわせて実現するカギとなります。COP29は、企業が気候変動の逼迫した状況を確認し、主体的な取組みを強化する1つの契機となると考えられます。

(2)各国の排出削減目標(NDC)引き上げが必至に

パリ協定で合意された「世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比較して1.5℃未満に抑える」という目標の達成には、現状の温室効果ガス(GHG)削減目標では不十分であるため、NDCの見直しも議題に挙がりました。

現状のままでは、すべての国で削減目標が達成されたとしても1.5度目標達成が困難な状況は変わりませんが、それでも「1.5度目標の達成は諦めない」という暗黙の合意のもとで、NDC引き上げの議論が行われたことは注目すべきでしょう。

COP29の会期中、イギリスは2035年までに1990年比でGHGを少なくとも81%削減するという野心的な新目標を発表し、UAEや次回COP開催国のブラジルもNDC更新を表明しました。2025年2月までに国連に提出する各国のNDCは、GHGの削減ペースを加速させる方向で目標を引き上げることが求められます。COP閉会後、日本政府も2035年度までに2013年度比60%減、2040年度までに同73%減とする案を11月25日に公表しています。

1.5度目標の達成に向けたNDC引き上げが国際的な潮流となっていることを考えると、企業においてもサステナビリティ経営の取組みをこれまで以上に強化することが求められます。

(3)炭素市場のルール合意

炭素市場(カーボンマーケット)に関しても、明確な進捗がありました。途上国で実施されたプロジェクトによるGHG削減量を、ホスト国がカーボンクレジットとしてNDCなどにオフセット活用できるといった炭素市場は、詳細な運用ルールの合意が2022年のCOP27、2023年のCOP28では先送りされていました。それがCOP29で合意され、炭素市場での取引が実質的に可能になりました。

技術やコスト、政策・制度面、地理的条件など複雑な事情が絡み、再生可能エネルギーの導入が遅れている日本にとって、国家間でのカーボンクレジット取引が実用化されることは高い関心を集めています。今後、企業や団体が自らの温室効果ガス排出量をオフセットするための有効な手段の1つとして活用が活発化すると考えられます。

2.民間企業に求められるアプローチ

これまでの企業におけるGHG排出削減の取組みは、企業の社会的責任や開示規制対応として推進されてきた傾向が強く、GHG排出削減の取組みを企業収益につなげる意識はあまり高くはありませんでした。

しかし、気候変動対策への理解が進んだ現在はサステナビリティと企業成長を統合し両立させるフェーズに入り、脱炭素においても事業化や収益化を意識した取組みが求められています。その実現には、脱炭素化経営のパスウェイを設計することや、社会インパクトの創出、企業の枠を超えた連携が重要です。

(1)脱炭素化経営のパスウェイ設計

現状把握から戦略策定、事業実行、目標達成までのパスウェイを描き、サステナビリティに関する取組みに一貫性をもたせることの重要性が高まっています。パスウェイを描くことで、各取組みの意義や価値が点ではなく線としてつながるようになり、サステナビリティと企業成長の両立が可能になります。

KPMGでは「KPMG Decarbonization Pathway」として、脱炭素化経営のパスウェイ策定に必要なフレームワークや思考法を体系化して整理しています。このようなツールを使いながら、サステナビリティ事業の立ち上げやマネタイズを推進していくことも一手と考えられます。

 「COP29」の成果とポイント_図表1

(2)社会インパクト創出を意識したサステナビリティ経営

サステナビリティと事業成長を結びつけるためには、単に自社活動においてGHG排出量を実質ゼロとする「ネットゼロ」を達成することを目指すだけでは不十分です。企業活動は社会経済システム下に成り立っているため、GHG排出削減を企業成長に直結させるには、企業は自社内に閉じた成果を目指すのではなく、広く社会全体にインパクトをもたらし、社会システムそのものを変革する視点や顧客の行動変容を促す視点が求められています。

そのためには、単に環境に配慮した商品やサービスを量産する定量的な価値創出にとどまらず、必要な人に必要なモノを必要な量だけ届けることで実現できる持続可能な価値創出も求められるでしょう。その実現に向けては、価値を享受するステークホルダーを明確に特定することが重要です。なかでも、エンドユーザーや最終受益者となる人々を具体的に特定し、コミュニケーションを丁寧に図りながら、それぞれの関心や期待に寄り添った形で価値を創出して届ける価値多様化の視点が、サステナビリティ経営を促進するカギとなります。

そうしたサステナビリティ経営においては、自社の特徴や強みを色濃く反映した自社独自の価値創造ストーリーを策定することが、推進の大きな下支えとなります。

(3)企業の枠を越えた連携

企業の枠を超えた他の主体との積極的な連携も、サステナビリティと企業成長を結びつける有効な打開策となります。日本企業は、特定の技術を深化させたりサービスやオペレーションを改善させたりといった分野で世界的に高い評価を受けています。一方で、異なる分野や業種、国際的なパートナーとの協業や連携において課題があるという指摘もあります。だからこそ、日本企業がそうした連携力を強化することは、新たな価値創造への期待値となり、企業価値向上につながります。

特にサステナビリティの分野では、既存の枠組みを越えた協業や連携が、成果を高める重要な要素となります。日本は脱炭素における技術開発では世界的に一定の評価を得ていますが、これらが社会に実装されることが重要です。たとえばヨーロッパでは、業界内の複数の競合企業が協力してデータベースを共有し、業界全体の国際競争力を強化させたりGHGの削減を図ったりする取組み化が進んでいます。

既存の枠組みを超えた連携により、社会に新たな仕組みを構築することを模索することが日本企業には求められています。

執筆者

KPMGコンサルティング
執行役員 パートナー 麻生 多恵
シニアマネジャー 髙津 祐紀
シニアコンサルタント 呉 剣瓊

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