連載「トレンドレーダー」は、身近になりつつある高度な技術と関連するビジネスユースケース、果敢に挑戦する企業の取り組みなどをご紹介し、多くの企業にとって新しい打ち手の参考となるインサイトをお届けします。

AIエージェントの基本概念

ユーザーの意図を理解して、タスクを実行する高度なシステムであり、業務適用が進む生成AIを特定の業務領域に進化させた形態の一つとして注目を集めているのがAIエージェントだ。設定されたルールに基づいたプロセスを実行するRPAとは異なり、提示されたゴールに対してタスクの設計/実行を自律的に行う。生成AIでは「出力」を提供するのに対して、AIエージェントは「出力」に加え、出力を活用した「アクション」まで実行が可能となる。直近では人手によって行っていたアプリケーション操作まで自動化可能になるなど、人の業務を補完する役割を担う準備が進められている。AIエージェントを企業人員に例えると「管理職を支援する優秀な補佐役」のような存在だ。管理職が経営層の方針や目標を基に設計した指示をタスクごとに整理するだけでなく、部下へ指示されるべきタスクそのものをも代行できる。

AIエージェントの現在地

AIエージェントは、反復的な業務を効率化するだけでなく、データに基づいた意思決定支援や特定業務を自律的に代替可能な点を特徴としている。営業、経理、人事など各部門/部署ごとに発生する作業タスクを個別に実行できる技術として、さまざまな業務プロセスにおいてAIエージェントが組み込まれていくことが想定される。

2024年12月現在では、導入による実態としての効果は表面化していないものの、SIベンダー各社および大手SaaSベンダーにてAIエージェント単体もしくはSaaS機能の一部として組み込まれる形で提供が開始されている。

AIエージェントの具体的な活用領域

現在、公表されているAIエージェントの具体的な活用に関して、営業では提案書の作成やアポイント取得、マーケティングではデータ収集から分析、定性情報でのサジェスチョン、システム開発では要件分析から設計、テスト設計までを代替するなど各業務において提示されたゴールに向けたタスクが設計・実行される。

また、企業内で使用されているアプリケーション群を自律的に操作できるため、生成AI等を使用した際に発生する「アウトプットを受け取った後の業務」まで代替が可能となる。今後は、業務ごとに最適化されたAIエージェントが複数登場するものとみられ、それらが相互的に作用することで、業務全体を自律的に実行可能な世界が期待される。

自律的なAI利用における課題

導入により、人的コスト/時間的コストにおいて大きな導入メリットが期待されるAIエージェントだが、業務への組込みが進むことでさまざまなリスクの発生も想定される。
 

業務依存のリスク
AIエージェントに業務プロセスを委託することで、効率化は進むものの、企業や従業員がAIエージェントに依存しすぎることで、エージェントが予期しない問題に対応できなかった場合に業務の停止や混乱が生じるリスクが存在する。


スキルの消滅
AIエージェントの導入により、従業員が日々行っていた業務が自動化される一方で、業務に関するスキルやノウハウが蓄積されなくなるリスクがある。特に、熟練の判断や業務特有の知識が不要となり、新たな世代の従業員がそれらの知識や技術を習得する機会が減少することが想定され、AIエージェントが想定外の状況に直面した場合や、従業員が判断や作業の介入を必要とする場面では、必要なスキルや知識の欠如が原因で迅速な対応が難しくなる可能性がある。


ハルシネーションによるリスク範囲の拡大

生成AIでは事実ではない情報や誤った内容を生成する現象(ハルシネーション)が、学習データの偏りなどにより発生する。AIエージェントも同様に、ハルシネーションが発生する可能性を有していると想定される。AIエージェントは一連の業務の代替を行うため、タスクごとのアウトプットにおいてハルシネーションが発生した場合、特定のアウトプットの出力を担う生成AI以上にリスクの範囲は広く、影響が甚大となることが懸念される。
 

これらの課題に対しては、人間によってAIが実施した意思決定・タスクへの介在、またAIの判断根拠を検証可能な形で記録する仕組みの導入が重要になると想定される。自律的な業務プロセスの普及において、人間とAIの役割を明確化させ、リスクを考慮した体制構築が必要となるだろう。

また一方で、こうしたAIエージェントを活用した業務効率化が進んだ結果、既存の人的リソースに余裕が発生することになる。こうした人的リソースがAIを含めた新しいテクノロジーを取り込み、活用することによってさらに業務を高度化し、効率化を推進できるように人材のリテラシー向上、テクノロジーへのキャッチアップをはかる教育や組織設計も同様に重要な論点になる。

今後の展望

AIエージェントの技術進化は著しく、特に生成AIの分野における急速な進歩やベンダー各社による技術革新がその普及を後押ししている。今後、企業内では異なるタスクを実行するAIエージェントが各部署で、外部企業とのプロジェクト実施においてはAIエージェントが企業間で連携するなど、自律的に業務を実行する世界が現実のものとなる可能性が高まっている。

しかし、こうした未来を実現するためには、AIエージェントがもたらすリスクへの配慮が欠かせない。AIエージェントの効率化・自律化の利点を活かしつつ、ハルシネーションに対する人間によるチェック機能を前提とした業務プロセスの設計など、人とAIの役割分担を明確にすることが求められる。今後、業務プロセスにおけるAIと人間の協働を目指し、より安全で信頼性の高い活用方法や取組みの確立が重要となるだろう。

 

ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり、特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません。私たちは、的確な情報をタイムリーに提供するよう努めておりますが、情報を受け取られた時点およびそれ以降においての正確さは保証の限りではありません。何らかの行動を取られる場合は、ここにある情報のみを根拠とせず、プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で提案する適切なアドバイスをもとにご判断ください。

 

監修

KPMGコンサルティング
執行役員 デジタルトランスフォーメーション統轄パートナー
福島 豊亮

KPMGアドバイザリーライトハウス
デジタルインテリジェンスインスティテュート リード マネージャー
佐藤 昌平

執筆

KPMGアドバイザリーライトハウス
デジタルインテリジェンスインスティテュート コンサルタント
竹中 信人

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