【物流2024年問題】02. 運賃と料金の別建て契約とは ~物流法改正への必要な対応

改正物流法(貨物自動車運送事業法)によって、運賃と料金の別建て契約は、荷主企業およびトラック事業者双方の法的義務になった一方、そうした契約形態は業界慣習上一般的ではありません。別建て契約が持つ意義とそのための具体的な方法について解説します。

荷主企業とトラック事業者双方に法的義務となった運賃と料金の別建て契約について説明します。

1.現状の「運賃」の課題

運賃とは、荷主からトラック事業者に対して支払われる、運送行為にかかる対価です。荷主が輸送条件を示し、トラック事業者がそれに応じた見積もりを提出し、両者の間で合意することで運賃が決まります。具体的には、東京の拠点から大阪の拠点まで、大型の10トントラックで輸送する場合には9万円、といった形になります。

一見すると条件・金額いずれも明確に見えるのですが、実際にはそうではありません。というのも、トラックドライバーの仕事は拠点間で荷物を移動させるだけではなく、その過程でさまざまな作業等を行う必要があるためです。具体的には、 「1.荷物の積込み・取卸し」、「2.その前後での荷待ち」、「3.その他の附帯作業(仕分け、ラベル貼り、検品、棚入れ、縦持ち、横持ち、はい作業等)」などが挙げられます。

業界慣習上、「1.積込み・取卸し」は運賃に含まれますが、「2.荷待ち」と「3.その他附帯作業」はその範囲が曖昧で、運賃に含まれているのかが不明確です。

2.運賃と料金を別建てとする意義

改めて、現状の「運賃」の課題を整理すると、以下のようになります。

  • 運送の対価である「運賃」のなかに、その他の作業の対価まで含まれている
  • その他の作業の範囲が不明確であるため、トラック事業者が適切な見積もりを提示できない
  • 契約外の荷待ちや附帯作業が発生することでドライバーとトラックの拘束時間が延び、想定外のコスト増/利益減となる

この解決策として、国が推進しているのが、運賃と料金の別建て契約です。つまり、運送の対価である「運賃」と、その他の作業の対価である「料金」を明示的に分けて、契約を締結することです。

これは、国土交通省の2017年の標準貨物自動車運送約款等の改正※1で示されていましたが、2024年4月に可決された物流2法の改正により、明確な法的義務となりました。すなわち、貨物自動車運送事業法の改正により、荷主企業およびトラック事業者は運賃と料金を明示的に分けて契約することが、法的義務となりました。

3.誰が、何をしなければならないのか

運賃と料金の別建てが法的義務化された以上、企業としてはコンプライアンス上の課題として対応が必要となります。とはいえ、運賃に料金を含むのがこれまでの業界慣習であったことから、具体的にどのように対応したらよいかわからないという意見もよく聞きます。そこで、具体的に誰が、何をやらなければならないかについて、さらに掘り下げてみます。

まず、運賃と料金の別建てを法的義務とした、改正貨物自動車運送事業法の条文※2を確認します。対象となるのは第十二条であり、条文は以下のとおりです。

第十二条 真荷主及び一般貨物自動車運送事業者は、運送契約を締結するときは、国土交通省令で定める場合を除き、次に掲げる事項を書面に記載して相互に交付しなければならない。

一.運送の役務の内容及びその対価
二.当該運送契約に運送の役務以外の役務の提供が含まれる場合にあっては、運送の役務以外の役務の内容及びその対価
三.その他国土交通省令で定める事項

一項が運送、二項がその他の作業について言及しています。ポイントとなるのが、太字下線を付した部分です。

4.契約書において運賃と料金を分ける方法

荷主企業とトラック事業者が締結する運送契約書において、運賃と料金を別建てにすることが必要となりますが、具体的にどのような対応が必要となるのでしょうか。

まず、運送契約締結までの流れを整理すると、概ね以下のとおりと考えられます。

  1. 荷主企業による運送条件の提示
  2. トラック事業者による見積もりの提示・条件交渉
  3. 荷主企業もしくはトラック事業者からの契約書(案)の提出
  4. 契約書(案)の条文修正・契約締結

5.別建て契約を実現することで、何が変わるのか

別建て契約の意義は、トラック事業者および荷主企業の双方が、運賃と料金の2種類が存在すること、すなわち、トラックドライバーの仕事は運行とその他作業で構成されていることを明示的に認識することにあると考えられます。その他作業については無償の追加サービスではなく、時間に応じてドライバーおよびトラックのコストが発生していることを認識し、その他作業の範囲が無用に拡大することがないように、双方が意識することが重要です。

川嶋 優喜

KPMG FAS シニアマネージャー

KPMG FAS

メールアドレス

お問合せ

こちらは「KPMG Japan Insight Plus」会員限定コンテンツです。
会員の方は「ログインして閲覧する」ボタンよりコンテンツをご覧ください。
新規会員登録は「会員登録する」よりお手続きをお願いします。

競合他社の方は、登録をご遠慮させていただいております。

執筆者

KPMG FAS
シニアマネジャー 川嶋 優喜

KPMG Japan Supply Chain Advisory Leadership(KPMG Japan SCALe)リードパートナー
KPMG FAS
執行役員 パートナー 岡本 晋