本連載は、2024年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

近年、自動車業界において、多様化する販売チャネルに対応するために、より柔軟性・信頼性の高いサプライチェーンが求められています。

1.自動車業界における販売チャネルの多様化

KPMGが全世界の自動車業界エグゼクティブに対して行った「KPMGグローバル自動車業界調査2023」において、「2030年までに新車販売の大半はオンラインで行われるようになると思いますか」という問いに対し、6割のエグゼクティブが「はい」と答えています(図表1参照)。

【図表1:「Q.2030年までに新車販売の大半はオンラインで行われるようになると思いますか?」に対する回答結果】

自動車業界における販売チャネルの多様化に伴うサプライチェーンモデルの変革_図表1

出所:KPMGグローバル自動車業界調査2023

新車の販売は今後、対人販売からオンライン販売にシフトしていくと想定され、オンライン販売が拡大すると、消費者はディーラーに赴く必要がなくなり、自動車購入のハードルが低くなることが予測されます。それにより、これまでディーラーへのコンタクトを躊躇していた消費者層が新たな潜在顧客として加わり、自動車の購入対象者が増加すると考えられます。

オンラインの販売チャネルの内訳としては、3分の2以上が従来のディーラーではない形態、すなわちメーカーによる直接販売、eコマース・プラットフォーム販売、両者を組み合わせたエージェンシーモデル販売で行われると予想されています(図表2参照)。

【図表2:「Q.自動車メーカーや非伝統的なチャネルを通じた、国内販売における直接消費者の新車販売比率は、2030年にはどの程度になると思いますか?」に対する回答結果】

自動車業界における販売チャネルの多様化に伴うサプライチェーンモデルの変革_図表2

出所:KPMGグローバル自動車業界調査2023

2.オンライン販売で求められるサービスレベル

現在中国では、新車販売の20%程度がオンラインによるメーカー直接販売、またはエージェンシーモデル販売で行われています。日本でも複数メーカーの新車販売を取り扱うECサイトがありますが、そこでは基本的に標準的装備の自動車が販売されており、オプションの追加も可能になっています。納期については「1~2ヵ月、ただしメーカーの在庫状況による」といった表記があるのが一般的です。そういった意味では、ディーラー経由で購入するのと変わらない条件だと言えるでしょう。

ディーラー経由と同等の価格とサービスレベルで新車をオンライン購入できるのであれば、購入のハードルは下がります。しかしながら、一般的な消費者向けeコマースでは、よりパーソナライズされた商品をよりタイムリーに顧客に届ける、というのが近年の傾向であり、オンライン世代の消費者にとって納車まで数ヵ月かかるのは満足できるレベルではないと言えるかもしれません。

売れ筋の標準装備にある程度のオプションも指定可能、かつ1ヵ月以内の納車を約束、といった条件で新興メーカー等が参入してくれば、新車の3分の2以上がオンラインで販売される将来においては、消費者の心が自然と奪われるようになっても不思議ではありません。今後はオンライン世代のニーズを意識したサプライチェーンモデルの構築がより一層求められると思われます。

3.サプライチェーンモデルの変革

先述した「パーソナライズされた自動車をタイムリーに顧客に届ける」を目標とした場合、サプライチェーンの柔軟性、および信頼性を向上させる必要があります(図表3参照)。柔軟性とは需要の変動に合わせて供給を柔軟に変更できる能力のことであり、信頼性とは顧客に対して迅速に納期を回答し、回答した納期を順守できる能力を指します。

【図表3:販売チャネル多様化に対応するためのサプライチェーン性能】

自動車業界における販売チャネルの多様化に伴うサプライチェーンモデルの変革_図表3

出所:KPMG作成

柔軟性向上に関しては、BTO(Build to order)モデルが1つの解になります。BTOは半製品の状態まで計画生産しておいて確定受注に基づいて最終組立を行う生産形態です。PCでは、BTOにより仕様のカスタマイズを行える形での直販が消費者中心に広く受け入れられ、これが業界のスタンダードとなっています。先んじてオンライン直販モデルで成功を収めたPCの事例は、今後のサプライチェーンモデルの参考になると考えられます。

信頼性は、計画の信頼性と実行の信頼性に分けられます。計画の信頼性向上のためには、販売・生産・調達・在庫といったサプライチェーンにかかわる情報の可視化がこれまで以上に求められます。これらの情報をもとに確定仕様に基づく計画シミュレーションを実行し、精度の高い納期回答を行う必要があります。また実行の信頼性向上においては、物流混乱等に備えた在庫の戦略的保有、あるいは物流の「2024年問題」に対応したオペレーション改善、物流事業者との契約変更等の対応が重要度を増していくと考えられます。

日刊自動車新聞 2024年11月18日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMG FAS
インテグレーション&セパレーション部門
サプライチェーン CoE パートナー
岡本 晋
長尾 基寛

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