ハイライト
商業宇宙産業が進化していくなか、その技術進歩の影響を受けずにいられるセクターは少なくなっています。
世界中の先駆的な企業が宇宙アセットを活用したコネクティビティ、宇宙資源採取、および宇宙観光といった広大な潜在的市場を追い求める今日、商業宇宙産業はSFの世界からビジネス上の現実へと進む軌道を急速に歩んでいます。主要メディアはほぼ毎週のように宇宙観光実現への新たな一歩を報じ、宇宙セクターの熱意ある擁護者は「新たな産業革命」について口々に語ります。過剰な広告が存在し、現実的には障壁が残っているものの、商業宇宙産業が新たな時代に入ったことは誰の目にも明らかでしょう。実現可能性が、ついに人の野心に追いつきつつあるのです。あらゆるビジネスパーソンが、今こそ宇宙に注目するときです。
その影響は広範囲におよびます。政府主導の宇宙開発の最初の波が、最終的には医療用画像、心臓モニタリング、水の浄化、人体インプラントデバイスなどの分野に革命をもたらしたように、今日起こっている民間主導の宇宙商業化においても、もたらされる技術革新は当初の想定をはるかに超えて応用されていくことが期待されます。したがって、商業宇宙産業は垂直的に産業内に閉じているのではなく、宇宙へのアクセス、宇宙での活動、そして宇宙へのつながりがもたらす、多様な産業に対する機会が渦巻く銀河なのです。そこではまったく新しいサービス、製品、価値の発見が待っており、今日の企業リーダーにとって大きなチャンスとなります。しかし、まずリーダーたちは商業宇宙の進歩が自分たちの分野に与える影響を理解しなければなりません。早く取り組むに越したことはありません。
ライフサイエンスと医療
これらの問題に急いで取り組まなくてはならないのが、ライフサイエンスと医療の2つの産業です。これらの産業はどちらも、商業宇宙向けに開発された技術やインフラによって生まれた応用可能な発展、サービス、収益源をすでに幅広く経験しています。
医療分野では、人工衛星を利用した医療用画像、遠隔医療モニタリング、機器の小型化、医療サプライチェーン管理などの進歩により、患者の状態の改善、コスト削減、さらなる効率化をもたらす新たな機会が生まれています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、宇宙向けの技術の医療への応用について、新たな重要性が示されました。宇宙関連のテクノロジーは、感染マップの作成、遠隔地のコミュニティへの健康教育の提供、ロックダウンの影響の定量化、ロックダウン後の回復のモニタリングなどの支援に利用されています。
一方、ライフサイエンスの分野では、重力と放射線レベルが異なる宇宙空間が、実験のためのたぐいまれな環境を提供してくれます。宇宙を基盤とするバイオマニュファクチャリングはより純度の高い医薬品を可能にし、微小重力が人体におよぼす影響を宇宙空間で研究することで、新たな知見や治療法が得られる可能性もあります。商業機会のリストはすでに長く、急速に増加しています。
「今、宇宙について考えることは、成長とイノベーションの新たな機会を切り拓く戦略的一手です」
Grant McDonaldGlobal
Head of Aerospace & Defense
KPMGインターナショナル
商業宇宙は、医療・ライフサイエンスの多くの成長分野と密接な関係にあり続けています。
「新たな宇宙産業は、医療が直面していた障壁を打ち壊し、医療の新しい未来を形づくることができます」
Dr. Anna van Poucke、Global Head of Healthcare、KPMGインターナショナル
当然ながら、商業宇宙関連企業もこうした機会から利益を得る立場にあり、適切なパートナーを見つけることに強い関心を抱いています。こうした企業は、実現可能なインフラを提供できる一方、重要な商機を見きわめることが期待されているのは医療・ライフサイエンス企業であり、彼らは新たな技術ソリューションを安全に商業化するうえで必要なデータや生物学的・医学的知識を保持し、規制の遵守に必要な存在です。したがって、新たなビジネスモデルを構築し、自社の市場成長を目指す商業宇宙産業の企業にとって、医療・ライフサイエンス産業関係者との連携は、戦略的に重要な位置を占めることになるでしょう。
これらの機会に共通しているのは、協力です。サイロ化した活動では、商業宇宙がもたらす価値創造エコシステムは築けない可能性があります。スタートアップ企業、急成長する中小企業、多国籍企業、そして規制当局が、技術ソリューションを明確化し、テストや市場投入に向けて横断的に協力し、イノベーション、価値創造、そして成長の好循環を生み出すことで、派生事業や雇用創出が生まれる可能性が出てくるのです。ここでは政策立案者と規制当局が、国境を超えたデータアクセス制限などの障壁を除く一方で、リスク軽減とイノベーション促進を両立させるという重要な役割を担っています。安定した規制環境は、このきわめて不確実な事業を行うリスクを呈されている企業に可能な限りの見通しと予測可能性を与えるものであり、投資の最大化に不可欠となるでしょう。
新たな宇宙経済圏が進化を続けるなか、すべての企業はもたらされる成長機会を考慮する必要があります。今日、そうした機会をつかむ企業は、将来にわたる成長機会を最大限に活かせる立ち位置を得るでしょう。医療・ライフサイエンス産業は、宇宙、テクノロジー、そして自らの野心の交差する領域に眠る価値を発掘することで、多大な利益を得られるでしょう。しかしながら、実現はそう簡単ではありません。医療・ライフサイエンス産業の経営陣には、宇宙産業の進化し続ける技術的な将来性を逐一把握するだけでなく、自社の顧客とステークホルダへの影響を予見するビジョンが求められています。
検討すべき重要な問いの例:
これらの質問を慎重に検討することで、企業は医療・ライフサイエンス産業における宇宙と地球の交差点に立つことができます。
- 来たる未来に、備えていますか?
KPMGの専門家による支援
戦略 | 戦略立案・参入支援 - 高い先見性をもとに、宇宙ビジネス領域における新たなビジネスの戦略および計画の策定、またその実施支援を行います |
---|---|
産業横断的な分析 - 宇宙ビジネス推進に係る諸外国の政策動向/ビジネスプレイヤー・競合/技術の調査を行い、着実な意思決定を可能とします | |
ディール・資金調達 - 分野横断的なデューデリジェンス、合併、買収、売却をサポートし、宇宙産業への参入を目指す投資家コミュニティを仲介、知見を提供します | |
官民連携支援 - 政府機関や自治体と民間組織の連携を支援し宇宙に係る効果的な公共サービスの提供を支援します | |
データと技術 | 宇宙データ利活用 - 宇宙を基盤とするリモートセンシングと通信データの潜在的な利点とユースケースを、ダウンストリームの地球上用途に活かせる形に変換します |
宇宙システム戦略/運用構想 - 宇宙および非宇宙技術の重要インフラ全体にわたる情報・運用上の新たな技術戦略、アーキテクチャ、ロードマップを定義します | |
サイバーセキュリティ - 宇宙システムに関するサイバー攻撃の脅威に対応するサイバーセキュリティ体制の高度化をトータルに支援します | |
運用 | プログラム・プロジェクトマネジメント - 複数のステークホルダーが関与する複雑なプロジェクト・プログラムのマネジメントを支援します |
サプライチェーン最適化 - 戦略・運用面で企業と連携し、最適化された幅広い運用の分析、計画、構築、モデル化、 実行を支援します | |
BCP策定・事業継続マネジメント - 流動的なビジネス環境を理解し、事業継続に向けたプランニングや実行のための知見を提供し、意思決定を支援します |
英語コンテンツ(PDF)
執筆者
KPMGジャパン 製造セクターメンバー
KPMGコンサルティング ビジネスイノベーション 宇宙ビジネス戦略支援
アソシエイトパートナー 宮原 進