本連載は、2024年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

自動車業界における電気自動車(EV)へのシフトの伸びが鈍化しつつあり、世界中でEVが踊り場にあるとの報道をよく目にします。一方で、地球温暖化対策として、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス(GHG)の排出量削減は喫緊の課題であり、長い目で見ればEVを含めた電動化シフトは不可欠な取組みとも言えます。

本稿では、このようななかで、脱炭素化社会に向けた自動車会社各社の将来の気候変動課題に対する取組み姿勢と、それを裏付ける各企業の電動化戦略にかかる開発投資の状況とを照らし合わせて考察します。

気候変動関連の開示情報から読み取る自動車業界の取組み姿勢

まず、分析対象企業として、アジア、北米、欧州の各地域で年間売上高が概ね1兆円超かつ関連する公表データ取得可能な主要自動車メーカー31社、およびサプライヤー32社の計63社を選定しました。次に、これらの対象会社の気候変動課題に対する取組み姿勢について、2023年度までの直近4期間の各年度における各社の関連開示情報を基にKPMG独自の基準で点数化し、各年度の平均点を集計したうえで、地域ごとにその推移を比較してみました。

比較した結果、図表1(地域比較)にあるように、欧州地域は他の地域より平均点数が高めかつ毎年上昇傾向にあることがわかり、これは欧州連合(EU)が過去から世界に先駆けてカーボンニュートラルを達成するための気候変動対策計画を掲げ、GHGの排出削減の措置を講じてきたことと整合的であると言えます。

またアジア・北米地域も平均点数が徐々に上昇しており、2023年度には欧州地域との差が縮小しています。この分析結果は、欧州以外の地域・国々においても、自動車業界各社が継続して電動化シフトを含めた将来の気候変動対策に前向きに取り組み、サステナブルな経営を推進する高い意識があることを示唆しています。

次に、同様の分析を自動車メーカーとサプライヤーの比較の切り口で行ってみました。結果は図表1(業種比較)が示すとおり、数年前までは自動車メーカーがサプライヤーよりも高い状況にありましたが、年々その差が縮小し、2023年度は両者同水準で並んでいます。内訳をみると、アジア、北米、欧州すべての地域で2022年度から2023年度にかけてサプライヤー企業の平均点が上昇しており、気候変動課題に対するサプライヤー企業の意識が従来以上に高まってきていることが読み取れます。

【図表1:対象企業63社の気候変動課題に対する取組み姿勢】

自動車業界の気候変動取組み姿勢と開発投資の状況_図表1

出所:対象企業の公表資料における気候変動対応関連開示情報を基にKPMG独自の基準で点数化し、地域ごと・業種ごとに平均点を算出

売上高研究開発投資比率から読み取る自動車業界の取組み姿勢

続いて、実際に自動車業界各社の研究開発投資の推移状況について、データから分析してみます。上述した対象企業63社について、2023年度までの直近4期分の売上高に占める研究開発投資比率を算出し、アジア、北米、欧州の地域ごとにその推移を比較してみました。

結果は図表2(地域比較)が示すとおり、EUが政策的に電動化シフトを推進してきた欧州地域が他の地域より高めとなっています。また、各地域とも2020年度以降全体的に下落傾向となっていますが、これは開発投資が縮小したというより、ここ数年の自動車業界の事業環境好転による売上高の増加影響が大きいと思われます。

実際、対象企業63社の2023年度の売上高総額は、2020年度比で87%増加しており、同期間の研究開発投資の増加割合70%を上回っていますが、見方を変えると、この数年間各社が確実に電動化対策を中心とした開発投資を継続していることが窺えます。

次に、同様の分析を自動車メーカーとサプライヤーの比較の切り口で行ったところ、図表2(業種比較)が示すように、全体の比率が下落傾向であるのは上述したとおりですが、サプライヤーの方が自動車メーカーよりも若干高い比率で推移していることが見てとれました。

以上の考察から、自動車業界各社は来たるべき脱炭素化社会に向けて、気候変動課題に対する高い取組み意識を持ち、それを裏付けるべく電動化戦略を中心とした開発投資を積極的に推進している状況が読み取れます。特に、自動車メーカーと比べて収益規模や経営基盤が相対的に劣るサプライヤーにおいてその傾向が顕著に見られた点は、自動車業界の進化にとって前向きな要素と言えるでしょう。

【図表2:対象企業63社の売上高研究開発投資比率】

自動車業界の気候変動取組み姿勢と開発投資の状況_図表2

出所:対象企業の公表情報を基に各年度における「研究開発支出総額/売上高」により算出してKPMG作成

日刊自動車新聞 2024年10月7日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

あずさ監査法人 パートナー
自動車セクター アシュアランスリーダー 
永田 篤

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