連載「トレンドレーダー」は、身近になりつつある高度な技術と関連するビジネスユースケース、果敢に挑戦する企業の取り組みなどをご紹介し、多くの企業にとって新しい打ち手の参考となるインサイトをお届けします。

AIを用いた行動データ分析が小売業界において急速に普及しはじめている。店舗に設置されたセンサーやカメラを通じて顧客の動線や行動をリアルタイムで把握し、数理的に分析して店舗運営や商品配置の最適化を実現する技術だ。

顧客の行動データ分析による売場と集客の最適化

小売の店舗では、実際に顧客が店頭で商品を認知してから購入に至るまでの過程には、「売り場に来る」「商品を視認する」「商品を手に取る」といった複数の段階がある。食品大手と光学メーカーはこれらの購買行動データをAIカメラで取得し、顧客の属性別、時間帯別に棚前の行動をデータ化。売り場立寄り、滞在、接触、比較、購買を実際にした人が何人いたのかを把握し、データサイエンティストが分析・示唆出しすることで、顧客視点での科学的な売り場の最適化を図っている。

人流データと実際の行動データの解析に基づくリアルタイムのプッシュ広告も注目だ。あるソフトウェア企業は1億ID・月間300億以上の行動データをAI解析し、消費者の人流を把握。ターゲット客のスマートフォンに、今いる場所付近の店舗の広告をリアルタイムに発信する。来店可能性の高いセグメントを的確に狙った、効果的な広告配信を実現している。

行動データ分析図表

限られた顧客をいかに引き寄せるか

少子高齢化や人口減少が進む日本では、限られた顧客をいかにして効果的に引き寄せ、リピーターとして確保するかが重要な課題だ。行動分析や人流分析を活用して、多様化する顧客のニーズを的確に把握し、パーソナライズされたサービスを提供することは競争力の向上につながる。

オンラインショッピングが普及しても、日本の消費者は実店舗での購買を重視する傾向がいまだ高い。特に物販系の市場ではオンラインショップの市場規模は増加傾向がみられるものの、EC化率は9.13%だ(経済産業省 2022年調べ)。行動分析による店舗レイアウトの最適化や商品配置の改善により、顧客の滞在時間を延ばし、購買意欲を高めることができるだろう。訪日外国人客の動向や購買行動を把握しインバウンド需要に対応することも、円安時には有効な戦略だ。

また、人流データを活用することで、店舗内の混雑状況やピークタイムを予測し、効率的なスタッフ配置が可能となる。従業員の負担を下げつつ、サービス品質の向上に人的リソースを注力することで、エンプロイーエクスペリエンスとカスタマーエクスペリエンスの双方に寄与できるだろう。もちろん行動データ分析や人流分析にはプライバシーの問題も無視できない。しかし、顧客理解とマーケティングの精度を飛躍的に向上させる可能性を秘めており、日本の小売業界における持続可能な成長と競争力の強化には不可欠の技術の1つといえる。


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監修

KPMGコンサルティング
執行役員 デジタルトランスフォーメーション統轄パートナー 福島 豊亮

執筆者

KPMGアドバイザリーライトハウス
ステラテジー&ビジネスオペレーションズ部

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