製薬業界におけるデジタル治療：今こそ大きく考えよう

※当レポートは、2024年1月にKPMGドイツが発行したレポートを翻訳したものです。

• DTxポートフォリオを作成するうえでの課題
  
• ビジネス変革のための6つのステップ
  
• DTxの利点
  

デジタル治療（DTx）は2027年には世界で180億米ドルのビジネス機会をもたらすと見込まれており、製薬業界はこの可能性を最大限に生かすべき時期に来ています。医療アプリやウェアラブル機器、人工知能主導のリアルタイム分析など最新のイノベーションに後押しされ、DTxはヘルスケアの提供方法を急速に変化させています。ペイシェントジャーニーにおける盲点やサービスの行き届かない領域をカバーし、新たな収益源を生み出すことで、患者への貢献と持続的なビジネスの成功を両立させる可能性がありますが、製薬会社がDTxを完全に取り入れるには多くの課題が残っています。

製薬会社が現在の医薬品やソリューションのポートフォリオを強化・補完できる、成果の上がるDTxポートフォリオを作成するには、社内外のさまざまな課題に取り組む必要があります。特に重要となる組織内部の課題は、次の6つに分類されます。

1. ビジョンと意欲的目標の欠如
   
2. 十分な検討に基づく市場地域、規模、およびセグメンテーションの決定
   
3. DTxがポートフォリオ全体と適合していないため、相乗効果が得られない
   
4. DTxを開発、テスト、販売するための人材と機能が整っていない
   
5. ITとイノベーションのプロセスが最適化されていない
   
6. 非常に大きな変革と変化の要件の過小評価
   

製薬会社がDTxに取組み、ビジネス変革を成功させるには、新しいテクノロジーを取り入れ、基盤となる企業文化のシフトを推進することが不可欠です。組織内部の課題に対処する6つのステップを解説します。

1. ビジョンと意欲的目標
   今こそ、全社的な変革戦略とビジネスプランに合わせて、DTxポートフォリオのビジョンと目標を設定し、それを伝える時です。ビジネスと患者のために達成したいことを明確にし、投資家の視点や求めるリターンを把握し、投資家の投資意欲や重視するKPIを確認しましょう。
2. 市場
   各地域に特有の主要市場、競合企業、規制および保険者の費用償還制度を慎重に考慮してください。今後は、グローバル展開し、範囲を垂直に拡大することも求められ、実際にドイツ発のDTx企業が米国市場に参入した例もあります。
   
3. 製品
   自社の医薬品やソリューションのポートフォリオと密接に関連する中核的専門分野に重点を置きましょう。例えば、ロシュ（Roche）は、治療に特化したモジュールを開発するデジタルがんプラットフォームであるカイクヘルス（Kaiku Health）と、戦略的パートナーシップを締結しました。
   
4. 人材と機能
   DTx変革には適切なチームが欠かせません。医療訓練を受けた医療技術通（ヘルステック愛好家）やモバイルアプリ開発者、UX・UIデザイナーを雇い、統合するには多大なコスト、時間、リソースが必要です。既存従業員のスキルアップ、外部組織の活用、テクノロジー企業とのパートナーシップでギャップを迅速に埋め、組織の構造を見直しましょう。
   
5. ITイノベーション、ITセキュリティ、データプライバシー
   ITについて議論する際は、イノベーションを促進し、デジタルファーストの環境を構築・維持することが重要です。技術面では、プラットフォームとハードウェアが堅牢で信頼でき、かつ迅速に変化できる柔軟性を備えている必要があります。また、患者データの安全な保管と処理も重要で、各国の規制に準拠し、暗号化やセキュリティ対策が求められます。
   
6. 変化
   有効かつ包括的なDTxポートフォリオを確立するには、変革の大きさを認識し、評価することが重要です。これには、ビジネスモデルの更新、新しいテクノロジーへの投資、セキュリティ、デジタル能力の向上、適切な人材の確保が必要となり、以下のステップを含みます。
   ・変革ロードマップを作成し、方向性が一致しないプロジェクトの優先順位を下げる
   ・経営陣がデジタル重視のビジネスに対処するための正しい知識を持ち、DTx戦略に賛同する
   ・投資家と従業員にビジョンと意欲的目標を伝え、積極的な参加とフィードバッグを促す

成功するDTxポートフォリオを作成するには、強力なビジョンと大きな意欲的目標が必要です。DTxの環境は従来の治療法開発の環境とは大きく異なるため、適切なデジタル基盤の構築が求められます。変化を促進し、許容することは、変革成功の重要な要素です。大きく考え、小さな勝利を積み重ねていきましょう。根本的な変化は時間のかかるプロセスですが、正しく行うことが重要です。