首都圏の鉄道ネットワークの中核を担う交通事業者として、人々の生活や経済活動を支える東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)。「安心で、持続可能な社会」の実現を目指す同社は、今新たに「サステナビリティ経営」を実践すべく本格始動しており、KPMGコンサルティングはこの取組みを支援している。

多角的な脱炭素経営の実現へ

「東京を走らせる力」をグループ理念に掲げ、9路線の地下鉄で構成される鉄道事業と、流通・不動産・広告などの都市・生活創造事業を首都圏で展開する東京メトロ。「安心で、持続可能な社会」の実現に向け、事業を通じた社会課題の解決に貢献すべく、2022年よりKPMGコンサルティングによる支援のもと、「サステナビリティ経営」の実践へ大きく舵を切った。

その柱の1つが「脱炭素経営」だ。そもそも鉄道は、走行時の温室効果ガス(GHG)の排出量が少ないことから他の交通手段に比べて環境負荷が少ないとされるが、同社は、50年以上前から率先して省エネ車両の導入などを進めてきた。これに加え、長期環境目標「メトロCO2ゼロ チャレンジ 2050」を設定し、再生可能エネルギーによる電力調達も進めていく方針である。

「改めて脱炭素化を推進するにあたって注力しているのが、車両や設備などの製造過程、つまりスコープ3(自社事業の活動に関連する他社の排出)まで踏まえたGHG削減です。各スコープの排出量算定も実施し、2024年度からは、自社の炭素排出量に価格付けを行うインターナルカーボンプライシング(ICP)も導入します」と同社のサステナビリティ推進部を率いる、増田英子氏は語る。

東京地下鉄株式会社_堂免氏と増田氏

左から 東京メトロ 堂免氏、増田氏

“もしも東京メトロがなかったら” 企業価値を定量的に評価

さらに同社では、こうした脱炭素化への施策が、社会にもたらすポジティブインパクトの算定にも力を入れている。“もしも東京メトロがなかったら” という視点で、同社が本来与えているはずの社会的価値を数値として可視化。乗客を含めたステークホルダーとのコミュニケーションを深め、共に社会課題の解決に向けて手を取り合いたいという狙いがある。

たとえば、東京メトロの鉄道運行によるGHG削減効果について、さまざまな手法をもとに算定を行った結果、東京メトロによる削減貢献量は約177万トンに上った。

「これは東京都の排出量全体の約3%に当たる数字です。社会的インパクトを生み出せる交通インフラ企業としての責任や存在意義も感じましたし、当社だけでなく業界全体でできることもまだまだあると考えています。環境面でもリーディングカンパニーと言っていただけるように、さらに力強く取り組んでいきます」と増田氏は語る。

東京地下鉄株式会社増田氏

東京メトロ 増田氏

GHGの削減貢献量をはじめ、企業が事業を通じてどのような社会的インパクトを生み出しているのか。財務情報だけではない企業の本質的な価値を算定・評価しようという動きは世界的に高まっている。

一方で、こうした企業価値を定量的に評価し、結果を開示している企業はまだ多くない。

KPMGコンサルティングの麻生 多恵は、「社会的インパクトの算定や発信は、企業文化や意思決定の構造、経営層の考え方などがうまくかみ合わなければ成功しません。数字遊びではない、確かな経営ビジョンのもと、いかに東京メトロの言葉と熱を持って企業価値を伝えることができるか。会社や立場の違いを超えてオープンに情報や意見を交えることができ、私自身も素晴らしいプロジェクトに関われたことに感謝しています」と語る。

「自律」「挑戦」「協働」のマインドを持つ人財を育てる

東京メトロのサステナビリティ経営において、もう1つの柱となるのが、「人的資本経営」である。

東京地下鉄株式会社_堂免氏

東京メトロ 堂免氏

「多様化するお客様のニーズに応え、選ばれ続ける企業であるために、経営の礎となるのは他でもなく最前線の社員です。つまり、優秀な人財を育て、やりがいや働きやすさを実現するための人的資本経営は、当社のサステナビリティ経営の屋台骨だと言えます」と語るのは、同社の人事部門を率いる、堂免敬一氏だ。

同社がまず取り組んだのは、“東京メトロらしい”人財戦略の策定と社内外への周知・浸透である。その実現のために、KPMGコンサルティングは、東京メトロで働く社員の声を聞くことから始めた。

経営層へのインタビューや若手社員とのワークショップを通じて、「東京メトロが求める人財像」を言語化した。そこで導き出されたのが、「自律」「挑戦」「協働」の3つのマインドだ。社員にこのマインドを体現してもらうための戦略を練り上げ、「サステナビリティレポート」に開示した。

KPMGコンサルティングの青島未佳は、「過去のプロジェクトのヒアリング結果を確認したり、車両工場へ訪問したり、社員の声をできるだけ多く集めました。“東京メトロらしさ”を追究するには、他社事例や、あるべき論の前に、現場での仕事への向き合い方や考え方を知ることが一番です。皆さまの深いこだわりやメッセージが込められたレポートができたと自負しています」と語る。

堂免氏は「人事の課題は刻一刻と変わります。変化を見極めながら、多様化するニーズに応えられる実効性の高い人財戦略を策定できました。丁寧にディスカッションしたことで、社員の活力を引き出すきっかけにもなりました」と語る。

公共性の高いサービスを提供する事業者の責務として、サステナビリティ経営を実践する東京メトロ。KPMGコンサルティングは、東京メトロをはじめとするお客様の包括的な支援を通じて、サステナブルな社会の実現に貢献します。

【インタビュイー】

東京地下鉄株式会社
取締役 執行役員  人事部長 堂免 敬一 氏
経営企画本部 サステナビリティ推進部長 増田 英子 氏

KPMGコンサルティング株式会社
執行役員 パートナー 麻生 多恵
アソシエイトパートナー 青島 未佳

※所属や肩書は取材当時のものです。

東京地下鉄株式会社_堂免氏と増田氏と増田氏、KPMG

左より KPMG 青島、東京メトロ 堂免氏、増田氏、KPMG 麻生

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