本連載は、「自動車産業変革のアクセルを踏む~取り組むべきデジタルジャーニー~」と題したシリーズです。
第4回となる本稿では、データスペースを活用した協業パートナーとの統合やエコシステムへの参画について解説します。

1.自動車産業をとりまく環境変化への対応

近年、自動車業界各社は環境負荷軽減のために、カーボンニュートラルや電動化の推進、また半導体不足などでサプライチェーンが分断しないように、多業種でつながる安心安全で持続可能な仕組みづくりに取り組んでいます。しかし、これらへの対応は自社のみで取り組むことは難しく、自動車産業全体での連携が求められています。

欧州では、IDSA(International Data Space Association)がデータ主権を担保した「データエコシステム構築」を推進し、Gaia-Xが中央サーバーを介さない分散型のデータ共有の基盤(データスペース)を構築しています。ドイツでは以下の図に示すように、自動車産業でデータ共有ができる企業間ネットワークによって、IDSAが規定したデータガバナンスモデルに準拠した自動車産業のデータスペースが推進されています。自動車メーカーや自動車部品サプライヤーはCatena-Xに接続し、データの開示や利用権限を制御するEDC(Eclipse Data Space Connector)経由でビジネスアプリケーションを利用することで、企業間のデータ連携に取り組み始めています。

【Catena-Xによるデータ連携イメージ】

データスペースが拓く自動車産業の未来構想とは:Catena-Xの役割_図表1

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「データスペース入門」を基にKPMG作成

2.データ連携によるエコシステムへの参画の仕組みづくり

自動車業界各社(OEM)によるカーボンニュートラルの実現や安定したサプライチェーン構築のためには、産業全体で形成されるエコシステム(OEM、Tier 1、Tier 2、Tier N)でデータ連携することが有効と考えられます。下図のとおり、Catena-Xのビジネスアプリケーションを活用することで、自動車産業におけるデータ連携が実現できるでしょう。

【Catena-Xによる自動車のライフサイクル管理】

データスペースが拓く自動車産業の未来構想とは:Catena-Xの役割_図表2

出典:Catena-X「Operating Model Ver2.1」を基にKPMG作成

また、自動車のライフサイクル全体にわたる共有にとどまらず、運転中の車両を遠隔管理し、各種データを取得してTier 1からTier Nのサプライヤーまでサプライチェーン全体で情報を共有することも可能です。情報共有を受けたサプライヤーは、取得したデータを活用し、自動車部品の品質向上や機能改善を図ります。

また、自動車の電動化シフトは、自動車メーカー、自動車部品サプライヤー、移動体サービス事業者(タクシー・バスなど)、インフラ事業者(通信・電力)の産業構造変化への対応が求められ、開発費の負担が大きくなります。そのため、従来では自動車業界各社が個別に部品の調達やソフトウェアを開発していましたが、自動車部品やソフトウェアの標準化や車載器の共同開発などへシフトする動きが進んでおり、車載器の共通化と内蔵ソフトウェアの更新により、運用コストの削減が見込まれます。

Catena-Xの利用によるデータ連携は、自動車関連企業で形成されるエコシステム(OEM、Tier 1、Tier 2、Tier N)に加えて、業界を超えた異業種との連携も可能になることから、このような構造変化への対応や開発費の負担軽減が実現できます。

【産業横断型データ連携の概念】

データスペースが拓く自動車産業の未来構想とは:Catena-Xの役割_図表3

出典:KPMG作成

3.産業横断データスペース連携で付加価値サービス開発

自動車業界各社は、モビリティサービス企業へシフトし始めているなかで、多様なサービスの提供が可能な産業横断型データプラットフォームが求められるようになるでしょう。今後、自動車は輸送手段にとどまらず、さまざまな国内外の社会的課題解決に取り組んでいくために重要な役割を担っていくことが考えられます。

日本はオンデマンド交通が普及していくなかで、少子高齢化による労働人口の減少や地方都市の中心市街地空洞化による運転手不足を補うため、無人走行車両の実用化や多目的機能(移動販売・移動往診)を実装した車両が求められます。そのため、自動車業界各社はインフラ事業者(通信・電力)、移動体サービス事業者(タクシー・バスなど)やオンラインコンテンツ配信事業者(娯楽・地域情報)などの他業種と広域エコシステムを形成し、データ連携することで社会的要請の高い付加価値サービスを開発していくことが必要になります。

また、自社内にコアとなるデータ連携基盤を構築し、デジタル人材を育成してデータを積極的に活用する文化を醸成していくことが重要です。たとえば、欧州ではGaia-Xが産業横断でライトハウスデータスペースやプロジェクトを推進しています。こうしたデータベースと連携し、各種データをユースケース別に活用することで、業界規制対応や製品開発戦略に役立てることができます。

<図表データの参考資料>

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 藤村 成弘

自動車産業変革のアクセルを踏む~取り組むべきデジタルジャーニー~

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