KPMGでは、企業のコーポレートガバナンスに関するデータをはじめとする、非財務情報と企業価値指標等との関連性について、AIを用いて分析するためのソリューションの開発に着手しました。これにより、従来、経験則や他社の成功例等を踏まえながら検討していたガバナンス改革から、AIによる高度なデータ分析を活用し、今まで気づくことのできなかった着眼点や発想によるガバナンス改革へと、企業の進化を後押しします。

1.日本のコーポレートガバナンスを取り巻く環境変化と企業価値創造・向上への課題

2023年4月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意⾒書(6)、以下、アクション・プログラム)において、コーポレートガバナンス改革の実質化が謳われているとおり、日本のコーポレートガバナンス改革は形式の整備から実質を求める段階への歩みを加速しています。

コーポレートガバナンス改革の実質化の主要論点として、

  • 収益性と成長性を意識した経営
  • サステナビリティを意識した経営
  • 独立社外取締役の機能発揮

等が挙げられており、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた、より具体的な取組みを行うことが求められています。

企業はこのような要請を受け、コーポレートガバナンス改革について不断の努力をしているものの、どのような取組みが持続的成長や企業価値向上に貢献しているか、関係性を理解し、効果を実感しながら進められているケースは少ないと思われます。事実、KPMGには、「果断な次の一手」が出せず、抜本的な改革につなげられていないとの相談が多く寄せられています。

2.AI技術の活用による、“眠れる企業価値創造・向上”のヒントの発掘

昨今の開示情報に関する社会の要請により、コーポレートガバナンスをはじめとする企業の非財務情報は定量・定性を含めて今までになく充実しており、開示情報の充実化の流れはさらに加速すると考えられます。また、人工知能(AI)技術の著しい進歩により、定量データの可視化・分析はもちろんのこと、自然言語処理技術によってコーポレートガバナンス報告書や統合報告書等の開示情報から重要なトピックを抽出し、トピック同士の関連性やPBR等の定量データや企業価値との関連性を可視化・分析することも可能となっています。

今まで経験則としてのみ捉えていた、コーポレートガバナンス改革の一連の活動(人的資本経営、サステナビリティ経営の取組みを含む)と企業価値向上との関連性を、実際のデータに基づいて再考することで、納得感の醸成や新たな気づきを得ることが期待できます。そしてそれは、これまで未知であった“眠れる企業価値創造・向上”のヒントの発掘にもつながるかもしれません。このように、AI技術の活用は、企業価値を飛躍させるための「果断な次の一手」を打ち出す、有力な手段となると考えられます。

3.AI技術とKPMGの知見の活用によるガバナンス改革の進化

KPMGでは、図表1のように、(1)経営基盤を強化することで企業価値向上の土台をつくり、(2)経営管理機能を強化することで戦略実行力を高めることが、(3)経営改革への挑戦につながり、ひいては企業価値の向上を実現するというガバナンス改革モデルを提唱しています。

KPMGでは、AI技術を活用してコーポレートガバナンスに関するデータや非財務情報と企業価値との関連性を可視化・分析し、企業価値向上につながる新たな示唆を導出するためのソリューション、「コーポレートガバナンス データ分析ソリューション」の開発を開始しました。AIを活用したガバナンスデータの分析とガバナンス改革モデルとを組み合わせることで、クライアント企業の置かれた環境を踏まえたうえで、企業価値向上につながる改革の具体的な一手の提案を目指します。

【図表1:KPMGの企業価値を向上させるガバナンス改革モデル × AIを活用したデータ分析による法則の発見】

AIを活用したコーポレートガバナンスに関するデータ分析の高度化_図表1

【コーポレートガバナンス データ分析ソリューションの概要】

「コーポレートガバナンス データ分析ソリューション」では、分析のインプットとして、有価証券報告書、コーポレートガバナンス報告書等の開示情報等から企業の実態に関する収集データを活用します。そのうえで、AI技術を活用して企業データと企業価値に関連する指標との関連性を分析し、市場区分・業種といった多面的な軸で可視化します。可視化にあたっては、KPMGが蓄積したナレッジやアセットを活用しながら多面的に評価することで、新たな示唆の導出を図ります。

【図表2:「コーポレートガバナンス データ分析ソリューション」のイメージ図】

AIを活用したコーポレートガバナンスに関するデータ分析の高度化_図表2

「コーポレートガバナンス データ分析ソリューション」により、クライアント企業が競合他社と比較して、企業価値向上の観点から優位または劣後している取組みを可視化し、また、これまで気づいていなかったクライアント企業の強みや将来の成長の芽の発見につながる可能性を見出すことで、企業価値向上に向けた「果断な次の一手」を後押しすることが期待できます。

現在は企業データとPBRの関連性の可視化・分析からソリューションの開発を進めていますが、段階的に領域の拡大を進めることで、コーポレートガバナンス改革と企業価値向上のつながりを明確に提示します。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 松田 洋介
リードスペシャリスト 佐藤 基右
マネジャー 野口 瞳
シニアコンサルタント 渡部 悠希
シニアコンサルタント 椎村 亮太

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