CASEの進展、テスラや中国系企業をはじめとする新興勢力の台頭など、歴史の転換期にある自動車業界。不透明な将来に備えるためには、M&Aという手段も活用して、自社の強みの更なる強化、弱みの補完を行う必要性が増してきている。本レポートでは部品からアフターまで裾野が広い自動車業界において、四半期ごとにM&A動向の定点観測を行うとともに、その時々の業界における注目トピックをコンサルタントによる論考という形で取りあげる。

2024年1Q(1-3月)M&A動向

グローバルでのM&A動向

グローバルベースでの2024年1Qにおける自動車業界のM&A件数は298件であった。地域別に見ると北米が103件、欧州が93件、中国が23件、日本が18件、その他が61件である。2023年はどの四半期もグローバルベースで350件超のM&A件数があったことを踏まえると、減少傾向にあるといえよう。

図表1:自動車業界におけるM&A件数推移(グローバルベース)

Japanese alt text:図表1:自動車業界におけるM&A件数推移(グローバルベース)
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG作成
脚注:M&Aはターゲット所在地基準で集計(例:日本をターゲットとしたM&A案件には日系国内法人のほか、外資日本法人も含まれる)

また、取引金額が公表されている案件に限定されるが、グローバルベースでのM&A金額は79億ドルに留まり、過去に比べると減少傾向にある。なお、過去を振り返ると金額が大きくなっている期間(2021年1Q、3Q、2023年2Q)はベトナムVin Fast Auto、スウェーデンPolestar、等のナスダック上場に伴うSPC(特別目的会社)との合併やダイムラートラックスの分社化等、自動車メーカー関連案件の影響が大きい。

図表2:自動車業界におけるM&A金額推移(グローバルベース)

Japanese alt text:図表2:自動車業界におけるM&A金額推移(グローバルベース)
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG作成
脚注:M&Aはターゲット所在地基準で集計(例:日本をターゲットとしたM&A案件には日系国内法人のほか、外資日本法人も含まれる)

日系企業の動向

日系自動車企業が関与したM&Aに目を移すと2024年1Qは22件であり、こちらも過去に比べるとやや件数が少なくなっている。金額が公表されている案件に限ってのランキングになるが、最も取引金額の大きかった案件はいすゞによる自動運転スタートアップであるティアフォーへの出資である。

図表3:日系自動車企業が関与したM&A件数推移

Japanese alt text:図表3:日系自動車企業が関与したM&A件数推移
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG作成
脚注:M&Aは売り手、もしくは、買い手の国籍基準で集計(IN-IN、IN-OUT、OUT-IN)

図表4:日系自動車企業関連 M&Aランキング(2024年1Q)

Japanese alt text:図表4:日系自動車企業関連 M&Aランキング(2024年1Q)
出所:LSEG Workspaceを基にKPMG作成
備考:2024年1月~3月に公表された日系自動車関連企業(海外子会社含む)が関わる買収・投資案件の内、取引金額上位をリスト化(自社株買い、REIT関連除く)

ティアフォーの自動運転システムと、いすゞが蓄積してきた路線バスのデータや知見を掛け合わせ、自動運転レベル4に対応した車両とシステムの開発に取り組み、将来的には、路線バス事業者に対して、自動運転システムを搭載した路線バスによるソリューションを提供する狙いがある。

また、ガソリンスタンド運営の宇佐美による中古車販売大手グッドスピードのTOBも公表されている。グッドスピードは不適切会計などを経て信用力が悪化し、スポンサーの確保に迫られていた。中古車販売領域はビッグモーター関連のM&Aに代表されるように業界再編が加速している。

加えて、日系自動車メーカーが苦戦する中国市場関連では、広汽日野株式の広州汽車への株式売却が公表されたが、本案件により日野の出資比率は50%から4.83%へと低下する。譲渡価格がわずか4.71百万ドルであったことにも中国市場における日系自動車メーカーの苦しさが表れているといえよう。

最後に、取引金額は公表されていないが、投資ファンド関連の案件としては、中古車輸出のビィ・フォアードに対してCLSA キャピタルパートナーズが運営するファンドが出資している。中古車輸出は2023年にロシア向け輸出禁止措置、ビッグモーター不正の影響もあり低迷したが、復調しつつあり、ビィ・フォアードはCLSA キャピタルパートナーズの支援も受けながら、最短で2027年の上場を目指す、としている。

論考:日系自動車部品メーカー自立の必要性 - 何者を目指すのか -

日系自動車部品メーカーは更なる自立が求められる

昨今の各種報道の通り、トヨタ自動車を筆頭とするトヨタグループはグループ体制の最適化、資産効率向上の観点から、政策保有株の縮減、グループ持合いの見直し等、資産入替を加速させている。

図表5:トヨタグループにおける主要な資産入替事例

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出所:日経テレコン、各社公表資料を基にKPMG作成

既にトヨタグループ以外では系列の見直しが進んで久しく、もはや自動車メーカーが系列部品メーカーを支え続ける余力がなくなっているのが実態である。これまで自動車部品メーカーは自動車メーカーに追随していけばよかったが、これからは自立をして独自で戦略を持たないといけない。元来、自動車部品メーカーは戦略判断が重要な業種である。どの自動車メーカーのどの車種をいくらで受注するかによって事業構造が決まってしまい、その後のカイゼンでのリカバリーには限界がある。また、一度受注した仕事は基本的にやり続けないといけないし、販売数量も自分ではコントロールできない。

自立とは自社が何者を目指すのかを再定義すること

日本においていわゆるメガサプライヤーは少数であり殆どの自動車部品メーカーは単一カテゴリーの製品を生産している。そういった自動車部品メーカーにおける戦略とは提供機能とバリューチェーン上のポジショニングを明確にしたうえで、顧客、製品、地域の観点から何をやって何をやらないかを定めること、換言すれば自社が何者かを定義すること、である。

図表6:戦略策定のフレームワーク

Japanese alt text:図表6:戦略策定のフレームワーク

提供機能とは自社のコアコンピタンスを踏まえて顧客に何の機能を提供するか、ということである。例えば、生産に加えて設計開発も、生産だけにしても素形材まで、機械加工まで、組立まで、といった具合である。また、バリューチェーン上のポジショニングとはいわゆるティア1、ティア2といったバリューチェーン上の位置取りである。それも踏まえて、自社の顧客、製品、地域を再定義する。顧客、地域、製品が意思なく分散している企業はいかに選択と集中を図るか、一方で特定の顧客、地域、製品に依存している企業はいかに多様化を図るかが焦点となる。ティア1からティア0.5にティアアップすることでより顧客に深く刺さる、逆にティア2にティアダウンすることで顧客を多様化するというアプローチもあるだろう。また、EVでテスラや中国企業が台頭している中、それらにどう向き合うかは今後、非常に重要なファクターとなる。

手段としてM&Aを活用する

一方で、自前でポジショニング・事業構造を転換するには期間を要するのも事実である。そこでM&Aの活用が想定される。実際、過去にも顧客、製品、地域の多様化を目指したM&Aはあったが、業界の注目を集めた日系自動車部品メーカーによる海外自動車部品メーカーの買収事例は元々想定した成果を得るのに苦労するケースも多い。特に買収後に新規モデルを立ち上げる局面で生産トラブルが発生する事態が散見される。買収時点で既に量産立ち上げが完了しているモデルについてはその後も滞りなく量産が継続するケースが多いが、新規モデルの立ち上げにおいて新たな株主・経営陣によるマネジメントが上手く機能せず、品質や生産性が安定しないという類のトラブルである。

図表7:海外メーカー買収後に困難に直面した事例

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出所:日経テレコン、各社公表資料を基にKPMG作成

元々、リスクの高い手法であるM&Aを成功させるためには、まずは国内企業間で、持分法出資から、等、手堅く進めることが重要である。その意味で、国内自動車部品メーカー同士の提携に伴う系列を跨いだ部品メーカーの再編も期待される。将来のパワートレインミックスが不透明な現状の自動車業界に対しては、総合商社、ファンド等、従来、業界再編の触媒の役割を果たしてきたプレイヤーも投資に慎重な姿勢を示している。自動車部品メーカーは自らの意思で戦略を立て、その手段としてM&Aを使いこなすことが求められている。

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