本稿は、KPMGコンサルティングの「Automotive Intelligence」チームによるリレー連載です。
今回は、KPMGが毎年行っている調査レポートである「グローバル・オートモーティブ・エグゼクティブ・サーベイ2023」から、市場におけるパワートレインへの投資を取り上げ、特に中国の傾向について考察します。
企業の投資はどこに向かうのか
エグゼクティブに「パワートレインのR&D予算を倍増できるとしたら、どの技術に追加分の予算を割り当てるか」を尋ねたところ、先進電池技術、ハイブリッド技術およびリチウム電池が上位3位となりました。昨今のバッテリー電気自動車(以下、BEV)拡大への対応から、電池技術へのR&D予算増加はある程度理解できるものの、ハイブリッド技術が電池技術とともに重要視されていることにも注目すべきでしょう。
Q.もしパワートレインのR&D予算を倍増できるとしたら、どの技術に追加分の予算を割り当てますか?
同様に、パワートレインへの今後の投資意向について尋ねたところ、BEVでは投資を増加させる回答がすべての地域およびプレーヤーで最も高い割合を占めました。一方で内燃機関(ガソリン・ディーゼル)は、投資を減少させる回答が最も高く、エグゼクティブにおけるパワートレイン投資意向がBEVと内燃機関とでは、はっきりと差の出る結果となっています。ハイブリッド技術では、数字の大きさはBEVには劣るものの、BEVと同様に投資を増加させる回答がすべての地域およびプレーヤーで高い割合を占めています。
【パワートレイン投資(2023年)】
内燃機関への投資について、2022年と2023年の比較を行ってみましょう。グローバルのエグゼクティブの回答において、投資減少の割合は2022年に25%だったものが、2023年には35%と増加しています。特に日本においては2022年の投資減少の割合32%に対して、2023年は64%と倍増しています。この1年で、日本の自動車産業のプレーヤーは内燃機関からBEVへ大きな舵をきった可能性がこの結果から推測されます。
対象的な回答結果となったのが中国のエグゼクティブです。中国の2022年の内燃機関への投資減少割合は35%であり、日本(32%)と大きな差が見られませんでした。しかし、2023年の中国の投資減少の回答は29%となり、日本(64%)と比較して、内燃機関への投資減少の割合が下がっていることがわかります。
【内燃機関への投資比較(2022年 vs 2023年)】
2023年12月に中国にて、中国自動車工業協会と中国自動車技術研究センターから「自動車産業のグリーン・低炭素発展のためのロードマップ1.0」が発表されました。このロードマップは2060年までにカーボンニュートラルを目指す国家目標に合わせた自動車産業のグリーン・低炭素化を目標に作られたものです。注目点は、中国で初めて内燃機関の将来に言及した点でしょう。このロードマップでは、内燃機関車は今後も相当な期間、自動車産業において重要な役割を果たすとされ、ハイブリッド技術に重点を置き、自動車の省エネ技術と燃費を全面的に向上すると宣言しています。
全車ハイブリッドを前提として、2030年新車の平均燃費3.0L/100km(WLTC)、2035年は2.0L/100km(WLTC)といった燃費目標を置いていることも特徴の1つです。さらに、水素、アンモニア、先進的なバイオ燃料および再生可能な合成燃料(e-Fuel )などの低炭素・カーボンニュートラル燃料の使用を進めることにも言及しています。
【中国における自動車産業のグリーン・低炭素発展のためのロードマップ 1.0】※
概要 | 内燃機関に対する言及 |
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【背景と目的】
【NEV(新エネルギー車)目標(新車販売)】
【CO2排出削減】
【中国での自動車ビジネス】
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【内燃機関の将来の役割】
【自動車製品事業における炭素排出削減方針】
【低炭素・カーボンニュートラル燃料の利用】
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出所:「汽车产业绿色低碳发展路线图 1.0」を基にKPMG作成
※このロードマップは中国工業情報部(MIIT)の指導のもと、自動車工業会(CSAE)および中国自動車技術研究センター(CATRC)がMIITの設備産業発展センター、中国自動車工業協会(CAAM)、中国自動車工程研究院(CAERI)、中国電気自動車協会(CEVA)および関連企業・大学と共同で研究・編集したものです。
中国のエグゼクティブの回答において、内燃機関への投資減少の割合が下がった要因は、このような中国での内燃機関への風向きが変わったことが一因となっている可能性があると考えられます。
第24回KPMGグローバル自動車業界調査では、30ヵ国1,041人の自動車業界および周辺業界のエグゼクティブに対して「現実的なBEVへの移行の解を市場は求めている」として、グローバルの展望、パワートレイン、デジタル消費者、サプライチェーン、テクノロジーに関する調査を行いました。詳しくはページ下のリンクからレポートを参照ください。
また、英語版はこちらよりご確認いただけます。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 轟木 光