本レポートでは、人材採用、引受から販売、保険金支払いに至るまで、業界全体における変化のシグナルについて解説します。また、生命保険・年金保険(L&A)企業の経営層が、どこで勝負しどのように成功することができるかを分析し、顧客に最高のサービスを提供して持続的な競争優位を獲得する方法、および今後数年間で業界を特徴付けると思われる4つのビジネスモデルについて考察します。

なお、本レポートにおける調査結果と提言は、KPMGの独自の調査、メンバーファームが世界中の保険会社にサービスを提供してきた経験、およびForrester Consulting社が2022年7月に業界の意思決定者425人以上を対象に行った調査に基づいています。

変化のシグナル:生命保険・年金保険業界が新たな機会を掴むためのアプローチ

顧客が求めるより良いエンドツーエンド体験

生命保険や年金保険をオンラインで購入する人々は、保険会社と他のオンライン小売業者の購入経験を比較することが多くなると予想されます。顧客は、オンラインリサーチに加え、高度なチャット機能から対面カウンセリングまで、豊富でパーソナライズされたマルチチャネルのオプションを期待する可能性があります。
保険会社は、マルチチャネルでのやり取りを簡素化し、タッチポイントの数を増やし、その一つひとつをより意味のあるものにすることで、顧客からの信頼を高めることができます。

下記のグラフは、主要なROI指標における「成功」の定義は大きく変化したことを反映しています。つまり、販売数から顧客体験に根ざした指標へと変化していることがわかります。

【顧客中心主義、顧客体験、顧客満足度/信頼度への投資に対するリターンを測定するために組織が使用する指標】

Future of Insurance 生命保険と年金保険_図表1

出典:KPMGの委託により、2022年7月にForrester Consulting社が実施した委託調査

より革新的な商品・サービス

富裕層のための資産運用が生命保険や医療保険と融合するにつれ、洗練されたプレーヤーは、ライフステージのあらゆる段階にある顧客のニーズに合ったエンドツーエンドの保障やサービスのためのワンストップの仕組みを作り、顧客を数十年にわたって囲い込むようになるでしょう。Forrester Consulting社の調査では、回答者の10人に7人以上が、今後1年間に革新的なエンドツーエンドの保障商品とサービスに中程度または多額の投資を行う予定であると回答しています。

顧客との信頼関係があれば、保険会社はより多くのリスクを取って新たな商品やサービス開発に臨むことができ、それは成功の一助となります。回答者の10人に3人が、革新的な商品、サービス、テクノロジーを開発する能力が、顧客との信頼関係を確立することへの最大の利点であると回答しています。

競争の激化

ソーシャルメディアのインフルエンサーや、魅力的なデジタルプレゼンスを持つ代理店は、従来のブローカーモデルの脅威となるでしょう。また、強力なデジタルマーケットプレイスを持つ保険以外の大手プラットフォーマーも、競争上の脅威になると考えられます。

自動化や新しいデジタルツールによって、引受、保険数理、保険金請求処理、営業などのプロセスが変化するなか、これらの役割がなくなるのではなく、むしろ倫理的な門番としての役割を果たし、AIに依存する業務で生じ得る偏見を防止または軽減するために見直されると考えています。調査回答者のおよそ10人に3人が、今後5~10年の間にモデルの仮定における偏見や差別を防止または削減するための「倫理的AI」プログラムを構築する計画があると回答しています。

【組織の最重要戦略目標】

Future of Insurance 生命保険と年金保険_図表2

出典:KPMGの委託により、2022年7月にForrester Consulting社が実施した委託調査

投資家の要望に応え続ける規制当局

保険会社は、ESG基準に関して、最大手の機関投資家や投資信託を含む投資家に対するより完全かつ統一的な報告を求められており、規制当局はこれら投資家の要求に応じると考えられます。

保険会社がデジタル対応を進め、生命保険・年金保険の顧客層が高齢化するなか、国や地域の規制当局がチャネルや顧客とのコミュニケーションに新たな要件を課す可能性があります。

データプライバシー規制が世界中で厳しくなることは、ほぼ間違いないでしょう。顧客が自分のデータがどのように収集・使用されるかについてオーナーシップを持つようになるにつれ、大手保険事業者は顧客の信頼を維持し、データの誤操作を防ぐために透明性の最前線に立ち、サイバー対策をリードする必要があります。生命保険・年金保険企業の経営層の約44%が、プライバシー、データセキュリティ、ストレージをESGの最重要課題として挙げていますが、データ保護に投資していると答えたのはわずか11%でした。

【組織にとって重要なリスクとなるESG課題(地域別ESGリスクトップ5)】

<北米>

1 社会的インフレーションのコスト 47%
2 プライバシー、データセキュリティ、 ストレージ 41%
3 環境リスクと気候変動による損失エクスポージャー(自然災害、公衆衛生上の緊急事態など) 36%
4
ESG報告書 25%
5 二酸化炭素排出量/カーボンフットプリント 24%

<欧州>

1 プライバシー、データセキュリティ、ストレージ
50%
2 社会的インフレーションのコスト
37%
3 環境リスクと気候変動による損失エクスポージャー(自然災害、公衆衛生上の緊急事態など) 37%
4
二酸化炭素排出量/カーボンフットプリント
27%
5 ESG報告書
24%

<アジア太平洋地域>

1 社会的インフレーションのコスト 38%
2 プライバシー、データセキュリティ、 ストレージ 35%
3 環境リスクと気候変動による損失エクスポージャー(自然災害、公衆衛生上の緊急事態など) 31%
4
二酸化炭素排出量/カーボンフットプリント
29%
5 責任ある行動を促す商品・制度設計
25%

 

出典:KPMGの委託により、2022年7月にForrester Consulting社が実施した委託調査

戦略目標を達成するためのテクノロジー

大手企業は、戦略的な事業目標を達成するために最新のデジタルテクノロジーに投資していますが、どのテクノロジーが最も重要であるかについての意見は各社で大きく異なっています。調査回答者の約4分の1は、ブロックチェーンと分散型台帳による「スマートコントラクト」が、生命保険・年金保険企業において最も大きな可能性を秘めた新時代のテクノロジーであると回答しています。

【生命保険・年金保険を取り巻く環境の変化に対応するために、今後5~10年の間に組織が取るべき主な行動】

Future of Insurance 生命保険と年金保険_図表3

出典:KPMGの委託により、2022年7月にForrester Consulting社が実施した委託調査

将来のビジネスモデル:加速する生命保険・年金保険業界のビジネスモデル進化

現在の生命保険・年金保険業界のビジネスモデルは、大きく3つに分類することができます。

(1)「アクティブな」リスク管理型
経済的な圧力やその他のリスクへのエクスポージャーを、資本の軽い商品や再保険で管理します。

(2)地域特化型
地域や地方の規制や税制のガイダンス、リスクプロファイルを反映させた商品を設計します。

(3)リテール代理店・ブローカー販売とチャネル販売
生命保険の99%が対面あるいは仲介業者を通じて販売され、残りはウェブ上のまとめサイトやその他のチャネルを通じて販売されています。このカテゴリーにもデジタル化の動きは見られるものの、従来の販売モデルを破壊するような大幅なシフトを実現するための微調整や推進には、今後数年はかかると思われます。

また、今後、生命保険・年金保険業界のビジネスモデルは大きく4つのカテゴリーに分類されると考えられます。

(1)組込み型ソリューション
保険会社は医薬品販売や結婚・出産祝い、さらには住宅販売を通じて、重要なライフイベントにおいて顧客とつながることが期待されています。先進的な保険会社が巨大なデジタル市場で存在感を高め、新たなパートナーシップを築くにつれ、生命保険・年金保険業の売上に占める組込み型ソリューションの割合が高まると予想されます。

(2)データ利活用の拡張
継続的な商品開発は、データの質の向上、外部データの利用拡大や強力なデータアーキテクチャの活用により、一部のオペレーティングモデルの永続的な要素となり、商品イノベーションを加速して価格設定の柔軟性を向上させます。また、多くの企業が商品サイクルを細分化し、データを蓄積して利用することで価値を創造して先行者利益を獲得する方法を体得するでしょう。

(3)ソーシャルメディアを通じた顧客獲得
ソーシャルメディアを通じてより多くの新規顧客の獲得が見込めます。たとえば、生命保険・年金保険の商品をターゲットデート型投資信託と並べて適切な文脈で紹介することで、不確実でリスクの高い現代におけるバランスのとれたポートフォリオとして、自然な資産要素であると認識させることができるでしょう。

(4)資本管理における戦略策定
回答者の半数近くが、今後1~2年のうちに、商品、収益、資本の供給源を多様化するために運用能力を統合し、アセットマネジャーやプライベートエクイティとのパートナーシップの構築を予定しています。また、回答者の45%近くが、ポートフォリオの調整と資本管理による財務の持続可能性を組織の最重要戦略目標に掲げていると回答しています。資本管理において非常に明確な戦略を持つ者が今後数年間のうちに成功を遂げると予想されます。

KPMG Connected Enterprise:コネクテッドなオペレーティングモデルへの適応

KPMG Connected Enterpriseは、マーケティング、販売、サービスにわたるさまざまなタッチポイントで見込み客や顧客と接する、いわば顧客との関係構築ビジネスです。8つのケイパビリティの進歩は、ますます変化する市場において生命保険・年金保険業界のプレーヤーが競争に打ち勝つことに役立ちます。

【KPMG Connected Enterpriseの8つのケイパビリティ】

Future of Small and Medium Business Commercial Insurance_図表6

* 顧客中心主義戦略の決定に携わる専門家1,299名の見解に基づく。

※本レポートは、KPMGインターナショナルが発行した「Future of insurance: Life and annuities」を、KPMGインターナショナルの許可を得て翻訳したものです。翻訳と英語原文間に齟齬がある場合は、当該英語原文が優先するものとします。
また、本文中の数値、引用については英語原文の参照元を根拠としています。

※本レポートの全文では、詳細のほか実際のケーススタディも紹介しております。下記よりダウンロードできますので、ぜひご一読ください。

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