新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が引き起こしたパンデミックは、世界中のあらゆる形態、規模のビジネスを混乱させました。しかし、パンデミックは保険による備えの価値を示す強力な機会となり、多くの中小企業が今後の契約状況を見直す可能性が高いと考えられます。これは、適切な保険料で、ふさわしいチャネルを通じた補償範囲と選択肢を提供できる保険会社にとっては、大きなチャンスとなり得ます。
本レポートでは、中小企業向け保険市場において、保険会社が考慮すべき市場の状況および顧客ニーズ、勝ち残るための要因や8つの主要なケイパビリティについて解説します。
目次
COVID-19がもたらした影響と現在の中小企業向け保険市場の状況
・経済と規制の現実(経済的ジレンマ)
変化のシグナルの1つ目は経済と規制の現実です。
COVID-19という脅威の出現により、中小企業は、コスト削減、予測不可能な偶発性に依存する販売量、そして不可実な規制上の制約といった大きな圧力に直面しており、保険会社には、そのような企業に対して、どのような保険商品やサービスを提供するかが問われています。
世界経済は、回復の時期や道筋が不透明なまま、景気後退が続いています。このため、中小企業の従業員や消費者は、解雇や収入源に対して不安を感じています。
経済の不確実性によって、保険会社は保険商品・サービスを革新する機会と、リスク・負債のエクスポージャーによる制約および投資削減への圧力とのバランスをとる必要に迫られています。デジタルソリューションは、このバランスをとるための鍵となる可能性が高いと考えられています。
・経済と規制の現実(規制の現実)
保険業界は、依然として国・地域によって規制が異なる業界であり、複数の国・地域にわたって事業を展開している企業は、ビジネスもオペレーションも複雑になります。米国では各州の規制当局がそれぞれ異なる規制体系をとっているため、保険会社のさまざまな保険商品・サービスの構築・販売に対して影響を与えています。保険がますます他の商品とバンドルされ、業界横断的なコンプライアンスに影響を与えるようになると、規制はさらに複雑化することが予想されます。一般的な規制は「上向き」、つまり緩和はなく強化の方向に向かいます。具体的には、顧客を保護する要件の引き上げ、報告と規制遵守、そしてレジリエンス力と財務面の強化に関するルールの厳格化などです。
・経済の現実が顧客の購買行動に与える影響
KPMGの調査によると、消費者の78%が、購入要因として「金額に見合う価値を重要視している」と回答し、48%が「COVID-19の影響でより重要視するようになった」と回答しています。
また、経済的な状況に関しての質問では、消費者の59%が安定もしくは快適であると感じているのに対し、41%が経済的に影響を受けている、または困窮していると感じていることがわかりました。
中小企業向け保険市場の顧客ニーズ(顧客体験の期待)
変化のシグナルの2つ目は顧客体験の期待です。
補償範囲の価値とコストを評価し値踏みすることは、中小企業にとって常に経営資源とその分配先を考えることと同義です。中小企業の経営者たちが、企業保険は種類が広範囲にわたり、理解しがたいもので、万一のときに適切な補償が受けられないという不信感などのネガティブな印象を払拭するよう働きかけることは、難題であると同時にチャンスでもあります。
COVID-19はディスラプションとともに、以下のことももたらしました。
- 中小企業層への経済的負荷の増大
- 中小企業層における真の商業的ニーズに対するインサイトの明確化
- 販売とサービスコスト削減のためのデジタル化の促進
KPMGの調査によると、保険加入を決定する要因の上位4つは、金額に見合う価値、商品・サービスの品質、ブランドへの信頼、そして購入のしやすさです。これらの要因は、個人と企業が密接に結び付いていることが多い中小企業(たとえば個人経営企業やスタートアップ企業)にも同様に当てはまると考えられます。
【主要な保険加入要因】
企業にとって事業中断保険は、大きな潜在的価値があるにもかかわらず、特に中小企業の加入率が低い傾向にあります。2020年のKPMGの調査によると、この保険への加入を促す主な特徴が明らかになりました。
【事業中断保険への加入要因】
中小企業向け保険市場で勝ち残るには(競争とディスラプション)
変化のシグナルの3つ目は競争とディスラプションです。
伝統的な保険会社であっても、中小企業特有の保険ニーズに焦点を当てることで、従来保険と組み合わせて「ティアード化(=柔軟な価格設定)」「パッケージ化(=他の保険と組み合わせて価値を高度化)」「プロアクティブ(=リスクの事前予測)」を備える保険商品・サービスを開発し、新たな価値提案を生み出すことができます。
顧客に必要とされるパーソナライズされたプロアクティブな保険の提供には、データの活用が重要です。データは、保険会社にとって最も価値のある「通貨」のような存在になりつつあります。
AIと機械学習アプリを通じてデータにアクセスし活用することで、保険会社は顧客のニーズを予測し、最も関連性の高い事前対応策と組み合わせることが可能となります。たとえば、IoTとセンサーは、顧客のサプライチェーンを通じてリアルタイムのデータとインサイト、そして特に生鮮品やそのほかの期限付き商品に関連するプロアクティブなソリューションを保険会社に提供することができます。
保険会社のバック・ミドルオフィスのプロセスにおいては、分散型台帳技術(DLT)などのテクノロジーにより、反復的なデータ入力が不要になり、関連会社間のデータ共有が容易なため、効率性とスピードを向上させることができます。また、テクノロジー強化は、オペレーション・保険金請求・保険引受などの業務にも役立ちます。これにより、さらに処理が迅速化し、顧客への対応・需要予測が的確に行われるようになります。
KPMGの調査によると、デジタル化はバリューチェーン全体の投資優先事項として際立っており、保険会社の76%が商品のデジタル化に優先的に投資しています。下図からもわかるように、テクノロジーの革新の重要性が浮き彫りになっています。
・規制当局の影響と役割
変化のシグナルとニューテクノロジーが及ぼす広範囲な影響は、規制当局の役割を拡大させる可能性があります。そしてこれにより、将来の中小企業向け保険のビジネスモデルやオペレーティングモデルに対する影響が発生すると考えられます。
<中小企業保険における規制当局の役割の変化>
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保険会社に求められる変革へのアプローチと8つのケイパビリティ
【保険会社自体が抱える主要な障害】
セキュリティとコンプライアンスに関する懸念 |
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テクノロジーとデータのサイロ構造 |
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戦略の不整合 |
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ビジネスのサイロ構造 |
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人員と業務の不整合 |
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- 変革へのアプローチ:顧客の期待に焦点を合わせること
市場のシグナルと競争に関するインサイトを理解し、それらを具体的な保険商品・サービス・顧客とのやり取りに反映させる必要があります。
<関連性と信頼性の維持(例)>
- 本当に保険の補償の対象範囲になっているのか?
- 公平に扱われているのか?
- 個人情報は安全なのか?
- 加入している保険は自身の特定ビジネスのために本当に必要な補償範囲となっているのか?
- 保険金請求をする際には望む方法で保険会社を頼ることができるのか?
<顧客の現状に対応(例)>
- 日常に沿った保険やサービスを利用できるか?
- 保険に対するニーズに応じて、アップグレード/ダウングレード、管理を容易にシンプルに行えるか?
- 変革へのアプローチ:持続的な成長を目指しビジネスモデルを適応させること
異なる企業が取る反応やアプローチはさまざまですが、最も効果的な3つのビジネスモデルの適応とシフトのパターンは以下のとおりです。
- モジュラー型、カスタマイズ型のビジネスモデル
- デジタルファーストの運営方法
- 提携/組込型の商品・パートナーシップ
- 変化へのアプローチ:コネクテッドオペレーティングモデルへの適応
KPMG Connected Enterpriseは、保険会社がさまざまな課題を克服するために、既存の能力を評価し、能力ギャップを特定して、企業全体の変革を支援します。
【KPMG Connected Enterpriseの8つのケイパビリティ】
KPMGのアプローチは、8つのコネクテッドケイパビリティのすべてを、企業全体で最大の価値を提供するレベルにまで改善することを主眼としています。これらのケイパビリティは、保険会社のオペレーティングモデルに対応し、デジタルトランスフォーメーションの優先順位付け、形成、実行を可能にします。
KPMGは、保険会社がこれらのコネクテッドケイパビリティの成熟度を評価し、変革のアジェンダと計画を策定し、最大の価値を提供するために、企業全体で能力の改善に取り組めるようサポートします。
※本レポートは、KPMGインターナショナルが発行した「Future of Small and Medium Business Commercial Insurance」を、KPMGインターナショナルの許可を得て翻訳したものです。翻訳と英語原文間に齟齬がある場合は、当該英語原文が優先するものとします。
また、本文中の数値、引用については英語原文の参照元を根拠としています。
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