ASBJ、実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等を公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は2024年3月22日に、実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)等を公表しました。

企業会計基準委員会は、実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)等を公表しました。

本実務対応報告は、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税及び地方法人税(以下「法人税等」という。)の会計処理及び開示の取扱いを明らかにすることを目的として公表されました。

また、本実務対応報告を適用する場合に実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」(以下「補足文書」という。)があわせて公表されています。

I.本実務対応報告の公表の経緯

2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/主要20ヵ国・地域(G20)の「BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)」において、当該枠組みの各参加国によりグローバル・ミニマム課税について合意が行われました。これを受けて、我が国においても国際的に合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(Income Inclusion Rule(IIR))に係る取扱いを導入するための法人税法の改正が行われています。グローバル・ミニマム課税は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的としており、当該課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制です。

このため、現行の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)及び当該法人税等に関する税効果会計についてどのように取り扱うかが明らかでないとの意見を受けて、ASBJにおいて2023年1月より審議が開始され、税効果会計の取扱いについては、2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」が公表されました。

その後、ASBJにおいて、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)及び同制度適用後の税効果会計の取扱いについて審議が行われ、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(当期税金)について必要と考えられる会計処理及び開示に関する取扱いとして本実務対応報告が公表されました。

II.本実務対応報告の主な内容

1.範囲

本実務対応報告は、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する会計処理及び開示に適用することとされています。

2.会計処理

(1)連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱い
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上することとされています。

なお、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関する次の考え方が示されています。

  1. 特にグローバル・ミニマム課税制度の適用初年度については、従来情報を入手していない各構成会社等からの情報や国別報告事項等の必要な情報を適時かつ適切に入手する体制の構築等が困難な場合があると想定されるが、その場合は財務諸表の作成時点で入手可能な対象会計年度に関する情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積ることとなる。
  2. 適用初年度の翌年度以降は、入手可能となる情報が増加し、より精緻な見積りが可能となると考えられる。
  3. 企業が当事業年度の財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき見積った金額と翌事業年度の見積金額又は確定額との間に差額が生じる場合があるが、各事業年度において財務諸表作成時に入手可能な情報に基づきグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の合理的な金額を見積っている限り、当該差額は誤謬にはあたらず、当期の損益として処理することになると考えられる。また、会計上の見積りの変更にあたって、当該差額に重要性がある場合には、企業会計基準第24 号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第18 項の定めに従い注記を行うこととなると考えられる。


(2)四半期財務諸表及び中間財務諸表における取扱い

四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表(以下「四半期財務諸表」という。)並びに中間連結財務諸表及び中間個別財務諸表(以下「中間財務諸表」という。)においては、本実務対応報告第6 項の定め(上記「(1)連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱い」参照)にかかわらず、当面の間、当四半期連結会計期間及び当四半期会計期間(以下「当四半期会計期間等」という。)並びに当中間連結会計期間及び当中間会計期間(以下「当中間会計期間等」という。)を含む対象会計年度に関するグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上しないことができることとされています。

3.開示

(1)貸借対照表における表示
グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、法人税等会計基準第11項の定め(流動負債の区分に表示)にかかわらず、連結貸借対照表及び個別貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することとされています。


(2)損益計算書における表示及び注記

  1. 連結損益計算書における表示及び注記
    連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することとされています。
    また、連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記することとされています。なお、重要であるか否かは企業のキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解するために有用であるかどうかを踏まえて判断することになるとの考え方が示されています。
  2. 個別損益計算書における表示及び注記
    個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示するか、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示し当該金額を注記することとされています。
    ただし、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示することができるとされ、この場合は当該金額の注記を要しないこととされています。


(3)四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記

当四半期会計期間等及び当中間会計期間等において、本実務対応報告第7項(上記「2.会計処理 (2) 四半期財務諸表及び中間財務諸表における取扱い」参照)を適用するときは、その旨を注記することとされています。

4.適用時期

本実務対応報告は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。

また、四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記の定めについては、上記にかかわらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。

III.補足文書の主な内容

1.公表理由

特に適用初年度については、グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえて、当該制度に係る法人税等の見積りにあたって困難さがあるため、見積りに関する具体的な指針を求める意見が聞かれました。これを受けて検討された結果、情報の入手が困難な場合に考えられる見積りの一例を示すことで、関係者の理解を深め、実務において当該見積りを行うための手掛かりを与えるため、補足文書(※)が示されています。

補足文書は、企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書です。

2.内容

グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、情報の入手が困難な場合に考えられる次の見積りの一例が補足文書として示されています。

適用初年度

  1. 対象範囲の判定を行うに際して、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手していない国別報告事項に関する情報や恒久的施設等及び特殊な会社等に関する情報を適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の情報のみに基づき国別実効税率を算定する等の方法により対象範囲の判定を行う。
  2. 子会社等におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の算定に際して、個別計算所得等の金額及び調整後対象租税額並びに給与適用除外額及び有形資産適用除外額の算定において必要な情報について、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手しておらず対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度の決算時において適時に入手することができない場合には、従来の連結財務諸表の作成にあたって入手している子会社等の会計数値に基づき当該金額を見積る。

なお、上記の見積りの例は、適用初年度において従来の財務諸表の作成にあたって入手している以上の情報を入手できない場合に考えられる見積りの一例であり、グローバル・ミニマム課税制度の適用初年度における当該制度に係る法人税等の合理的な見積りの方法は、上記の方法に限られるものではない点に留意が必要です。


適用初年度の翌年度以降

適用初年度の翌年度以降は、適用初年度に比べればグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の申告に向けて情報を入手する体制がより強化され、実績値の把握等によって、入手可能となる情報が増加することがあると考えられますが、グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえると、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難である場合があると考えられます。このような場合には、適用初年度の翌年度以降においても、上記「適用初年度」に示した例を参考とする考え方が示されています。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 藤田 晃士

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