こうしたなか、中東に関わりを持つ日本企業は、まずインテリジェンス体制を改めて点検することが肝要です。事業責任者や現地責任者等の情報ニーズを把握したうえで、中東各国政府や紛争の動向、その他各国の反応について、欧米メディアのニュースだけでなく、中東や東南アジアなどのイスラム諸国発の情報にもアンテナを張るべきでしょう。政府等の動向だけではなく、多様な国際的世論をも注視する必要があります。現地子会社が情報収集を担当する場合は、日本との情報共有の頻度や共有項目、日本側の担当者、経営陣に情報を上げる基準なども決めておくことが重要です。米国大統領選後に就任する新大統領の中東対応次第で情勢が大きく変動する可能性もあるため、複数のシナリオと対応の準備を進める点も欠かせません。
中東を含む海外社員の安全確認マニュアルもあいまいな項目を解消しておくべきです。邦人従業員の家族を含めた退避先、退避基準、手当、現地従業員の安全確保方法など確認事項は多岐にわたります。また、その内容に基づくシミュレーションを通じた認識共有も重要です。
調達部門はサプライチェーン全体を見渡し、供給不安が起きやすい原料・部品を今一度洗い出すことが推奨されます。事態の推移によってはコストよりも安定供給を優先して調達先の多元化や切り替えも進める考え方もあります。また、情勢悪化を踏まえた判断だけではなく、紛争や人権侵害の発生・継続に加担することになっていないかとの視点で事業やサプライチェーンを見直すことも肝要です。
重要なのが経営陣によるリスク管理です。周辺諸国への武力衝突の拡大や長期化、周辺海域の船舶の航行困難や、欧州やアジアといった他地域へのサプライチェーンの影響などの経営インパクトの大きいシナリオを順に検討し、収益への影響度や事業撤退・縮小を含めた対応方針を精査する必要があります。事態急変までに起きる予兆事象も、現段階でできるだけ列挙しておき、予見可能性を高める努力が求められます。
また、事業継続等の経営判断においては、収益だけではなく、ステークホルダーの声を踏まえた人道的な観点に焦点が当たる傾向が強まっています。紛争が長期化するなか、人道的観点や国際世論への配慮から、中東などイスラム諸国での関連ビジネスの積極的な発信を控える傾向も見受けられます。
事態が緊迫すれば経営陣は経営企画、人事労務、調達、生産販売、現地拠点などから迅速に情報を集め、連携を促す必要があります。部門間の調整にあたるチームや担当者の設置など、有事対応力の向上は今回の問題に限らずとも非常に重要だと言えるでしょう。