今から始める!新リース基準(案)適用への準備対応 収益認識基準の影響大! 貸手からみた新リース基準(案)

企業会計2023年9月号の「今から始める!新リース基準(案)適用への準備対応」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

企業会計2023年9月号の「今から始める!新リース基準(案)適用への準備対応」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「企業会計(中央経済社発行)2023年9月号」に掲載したものです。発行元の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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サマリー

新リース基準案等では借手の処理の大幅な変更に注目が集まっているが、貸手の処理も現行基準とは異なる提案が行われている点があり、貸手の会計処理および財務情報にも様々な影響が予想される。本稿ではリースの定義、収益認識基準との整合性、サブリース取引および開示という観点から新リース基準案等による貸手への影響について取り上げる。

はじめに

企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下「新リース基準案」という。) および企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「新リース適用指針案」という。) ならびにこれらに関連する諸会計基準等の一連の改正案(以下まとめて「新リース基案等」という。)において、借手の会計処理および財務情報には大きな影響が生じることが予想されている。一方貸手については、現行基準の定めを維持することが基本的な方針とされており、現行基準同様にリースをオペレーティング・リースおよびファイナンス・リースに分類すること、リース料およびリース期間について現行基準の考え方を踏襲すること等の提案がなされている。その結果として、新リース基準案等におけるリース料およびリース期間の定義は借手と貸手とで異なる結果となっている。

このように、貸手については大幅な変更の提案は行われていないが、新リース基準案等ではリースの定義およびリースの識別、ならびに企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)との整合性を図る提案がなされており、特にリースを主たる業とする貸手にとっては重要な改正になると考えられる。また、サブリース取引については、基本的な会計処理の明確化や新たな例外的な取扱いの提案等から、中間的な貸手の会計処理については見直しが必要になることが予想される。さらに開示についても、現行基準での要求とは異なる追加の開示項目の提案が行われている。

以下にて、これらの点を含め貸手の会計処理および財務情報等に一定程度の影響が予想される点について説明する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。

I.リースの定義

1.リースの識別

現行基準においてリースの定義は明確にされていないため、リース取引として会計処理されているのは、実務上、賃貸借契約やリース契約等の名称が付された契約に限定されているのが一般的である。新リース基準案等では、IFRS第16号「リース」との整合性を確保する様にリースの定義を定め、契約にリースが含まれているか否かを判断し、リースが含まれている場合には契約をリースを構成する部分とリースを構成しない部分に分け、リースを構成する部分に新リース基準案等を適用するという提案が行われている。この提案は基本的には借手と同様である(新リース基準案23~26項)。新リース基準案等に基づいてリースを識別すると、現行基準ではリース取引として会計処理されていなかった契約を、リースの貸手として会計処理することになる可能性がある。

2.構成要素の区分

新リース基準案等では、契約をリースを構成する部分とリースを構成しない部分に分けて、契約の対価の金額を配分することが要求され(新リース適用指針案9項)、貸手も借手もこの点は同様である。ただし、貸手は固定資産税や保険料等の諸費用の扱いについて、借手と異なる提案がなされている(新リース適用指針案13項)。現行基準では、リース物件の維持管理に伴う固定資産税や保険料等の諸費用は「維持管理費用相当額」としてリース料総額から控除したうえでファイナンス・リース取引に当たるかどうかの現在価値基準判定を行うことが原則(重要性が乏しい時はリース料総額に含めることも認められる)とされており、またその判定の結果としてファイナンス・リース取引と分類された場合には、その会計処理においても、リース料総額に含めて処理するのではなく別途収益に計上もしくは費用の控除額として処理することが規定されている。

新リース基準案等ではこの現行基準と同様の処理を行う選択を残しつつ、借手と同様の会計処理、すなわち「借手に財又はサービスを移転しない活動およびコストについて借手が支払う金額」として、対価に含めてリースを構成する部分とリースを構成しない部分に配分するIFRS第16号と同様の会計処理との選択を可能とする提案がされている。リースを構成しない部分に配分された対価の金額はリース基準以外の収益認識会計基準等の該当する会計基準等で会計処理が行われる (新リース適用指針案12項)。

固定資産税や保険料等の諸費用については、現行基準における処理が継続して適用可能であるため、貸手の会計処理には基本的には影響が出ないものと考える。

II.収益認識会計基準との整合性

1.貸手が借手から受領する金額

貸手のリース料の定義は現行基準を踏襲した提案が行われている(新リース基準案21項)ため、リース料として会計処理を行う範囲については一見すると影響がない様にも思われる。ただし、新リース基準案等では現行基準のリース料は合意された使用料という定義に加えて、貸手のリース期間中に原資産を使用する権利に関する支払であると明記することが提案されていることから、貸手が借手から受領する金額のうち、礼金や更新料等の取扱いにおいて貸手の会計処理に影響を及ぼす可能性が考えられる。

現在の実務では礼金や更新料等は受領時に全額収益として認識しているのが一般的であるが、礼金や更新料等が何の対価であるかという点は契約ごとに異なると考えられ、新リース基準案等の下では、貸手のリース料の前受と整理された場合には貸手のリース料としての会計処理が求められ、借手の使用とは関係なくたとえば契約を締結する上での事務手数料の対価と整理された場合には貸手のリース料には該当しないと判断されると考える。それぞれの場合における影響としては以下が予想される。

  • 貸手のリース料として判断された場合:貸手のリース期間、すなわち解約不能期間にわたり収益認識が行われるため、収益の認識のタイミングが現行の処理とは異なる。
  • 貸手のリース料に該当しないと判断される場合:リース基準以外の収益認識会計基準等に基づく会計処理が行われる。貸手にとって借手が顧客に該当する場合には、収益認識会計基準に基づく会計処理に変更されるが、貸手の履行義務の充足が一時点であるのか、一定の期間にわたるのかという判断が必要となり、どちらと整理されるかにより収益の認識のタイミングは現行の処理とは異なる可能性がある。

2.ファイナンス・リース、オペレーティング・リースの会計処理

(1)ファイナンス・リースの会計処理

1.概要
貸手のリースを所有権移転ファイナンス・リース、所有権移転外ファイナンス・リースもしくはオペレーティング・リースに分類して会計処理する (新リース基準案41 、42項)こと、およびその分類の判定基準は現行基準が実質的に踏襲されている(新リース適用指針案55~66項)。そのため、基本的にはリースの分類は現行基準に基づく場合と異ならないと考えられるが、上述II.1.で記載したようなリース料の考え方の変更が分類に影響を及ぼす可能性も考えられる。

分類後の会計処理については、収益認識会計基準との整合性を考慮して、現行基準とは異なる提案がされているため、貸手の処理に影響が出ることが予想される。ファイナンス・リースと判断された場合、現行基準では取引実態に応じて第1法~第3法までの3つの会計処理の選択が認められているが、新リース基準案等では図表1の2つの会計処理が提案されており、貸手はリースを行う状況に応じてA法もしくはB法のいずれかを適用することになる(新リース適用指針案67、68、74項)。最も大きな変更点は、現行基準における第2法、すなわちリース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法を廃止する提案がなされている点である。この変更は、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性によるものである。

図表1 ファイナンス・リースの会計処理

収益認識基準の影響大!貸手からみた新リース基準(案)-1

2.会計処理方法の変更の影響
現行基準で第2法を適用している企業は、新リース基準案等の完全遡及適用を行わない限り、以下の場合ごとに、比較年度と比べると適用初年度以降の損益計算書の表示科目に影響が生じることが予想される。

  • A法が適用される場合:リース開始日が適用開始日より前のリースに関しては、リース期間にわたって適用開始日まで計上されていた売上および売上原価が適用開始日以降計上されなくなる。リース開始日が適用開始日以降のリースについてはリース開始日にリース期間における売上および売上原価が全額計上される。このため、売上高および売上原価の金額は比較年度と比べると大きく異なる可能性がある。
  • B法が適用される場合:売上高および売上原価が計上されなくなり、収益はすべて受取利息として計上される。

次に、第1法とA法は近い処理であるが、売上高および売上原価の金額は第1法とA法では異なるため、第1法を適用しているリース取引にA法が適用される場合にも、影響が生じる。売上高は、第1法ではリース料総額で計上するため利息相当額が含まれているが、A法では利息相当額を除いた金額としている。また、売上原価は、第1法では、製品または商品の販売を主たる業としている企業が、同一製品または商品をリース物件とする場合、借手に対する現金販売価額であり、貸手における製作価額または現金購入価額と借手に対する現金販売価額の差額はリース物件の販売益として、販売基準または割賦基準により処理するが、A法では原資産の帳簿価額としている。

そのため、利息相当額は、第1法では売上高と売上原価の差額として認識しているが、A法では受取利息として計上することになり、第1法では販売基準もしくは割賦基準で処理されるリース物件販売益は、A法では売上高と売上原価の差額として計上することになる。そのため損益計算書上の表れ方が大きく異なってくる。

なお、現行基準においてリース物件の販売益を、割賦基準にて繰延処理することを選択している場合は、適用初年度前に現行基準で繰り延べられていた利益は損益計算書を通ることなく適用初年度の期首の利益剰余金に調整されることになる (新リース適用指針案125項)。企業によっては過去の取引の成果が多額に損益計算書上で認識できない可能性もあるため、利害関係者への説明のための準備も必要になると考える。


(2)オペレーティング・リースの会計処理
現行基準では、オペレーティング・リースは通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う旨の規定が行われているのみであったが、新リース基準案等では「通常の賃貸借取引に係る方法」を明確化することが提案されている。具体的には、収益認識会計基準との整合性を図り、原則として貸手のリース料を貸手のリース期間にわたり定額法により計上することが提案されている(新リース適用指針案78項)。

現行では「通常の賃貸借取引に係る方法」に準じた会計処理が明確にされていなかったため、フリーレントやレントホリデーの期間中は収益を計上していなかった企業も多いのではないかと思われるが、その場合には、新リース基準案等による処理を行うと、収益の認識が平準化することが予想される。ただし貸手のリース期間は、借手が再リースする意思が明らかな場合を除き解約不能期間であるため(新リース基準案15項)、たとえば6ヵ月前の事前通知にて借手が解約できる契約の貸手のリース期間は6ヵ月となる。すなわち、この契約にフリーレントが付されている場合、フリーレントの償却期間は6ヵ月という短期間になり、解約不能期間中とその後の残存契約期間とで損益のブレが大きくなるケースが出てくることも予想される。


(3)リース会社の影響

リースを主たる業とする会社(以下「リース会社」という。)は、業種別監査委員会報告第19号「リース業における金融商品会計基準適用に関する当面の会計上及び監査上の取扱い」(以下「委員会報告」という。)を参照した会計処理が行われているのが一般的である。新リース基準案等の公表に伴って委員会報告を改正する公開草案(以下「委員会報告改正案」という。)が公表されている。

委員会報告改正案では、収益認識会計基準および新リース基準案等と整合的な提案が行われている。委員会報告において販売型割賦の販売者としての利益部分については、本来販売基準で収益を認識すべきであるが、割賦基準での収益認識も監査上妥当な処理とされていた。また金融型割賦や販売型割賦における金利部分についても、金融取引として処理することが適当ではあるものの従前からの継続に限り監査上妥当なものとして取り扱うことができるとしていた。しかし割賦基準は収益認識会計基準において認められていないため、委員会報告改正案にてこの処理を妥当とする取扱いは削除されている。この提案は、新リース基準案等での第2法を廃止したことと整合的である。

収益認識会計基準適用後もリース会社では委員会報告を参照することで従来どおり割賦基準での収益認識を行っている実務が見られるが、委員会報告改正案に従うとリース会社固有の処理として割賦基準を選択することができなくなる。そのため割賦基準を採用していたリース会社は、会計処理の変更への対応が必要となり、また損益計算書上の表れ方も大きく異なってくることが予想される。一方で、財務諸表利用者にとってはリース会社とそれ以外の会社での企業間の比較可能性が高まることが予想される。

III.サブリース取引

1.現行基準との相違の概要

新リース基準案等では、原資産を借手から第三者にさらにリースし、かつ当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効な取引をサブリース取引という(新リース適用指針案4項(12))。当初の貸手から借手へのリースをヘッドリース、中間的な貸手から第三者へのリースをサブリースという(図表2参照)。サブリース取引における中間的な貸手の会計処理を中心として以下で説明を行う。

図表2 サブリース取引の概要

収益認識基準の影響大! 貸手からみた新リース基準(案)-2

現行基準では、サブリース取引の一部の取引と考えられる「転リース取引」(リース物件の所有者から当該物件のリースを受け、さらに同一物件をおおむね同一条件で第三者にリースする取引)において、中間的な貸手から見てヘッドリースおよびサブリースがともにファイナンス・リース取引に分類される場合の取扱いが規定されているのみであり、サブリース取引の中間的な貸手に関する包括的な規定は存在しない。

新リース基準案等ではサブリース取引を定義し、基本となる会計処理を示すとともに例外規定として任意適用可能な2つの取扱いを提案している。基本となる会計処理において、サブリースについてのリースの分類の規定が提案されている(後述2(1)参照)。そのため、中間的な貸手は、サブリースの分類の判断、任意適用可能な会計処理を選択するか否かの決定を行い、場合によっては会計処理の変更に対応することになると考える。

2.サブリースのリースの分類

(1)概要
サブリースについても通常の貸手のリース同様、ファインナンス・リース、オペレーティング・リースのいずれに該当するかを判定し、そのうえでリースの分類に従って、会計処理を行う(新リース適用指針案85項~87項)。ファイナンス・リースに該当するかの判定にあたって、現在価値基準および経済的耐用年数基準を使用する点は、通常の貸手のリースの分類と同様であるが、原資産ではなく使用権資産のリースであることを反映した、サブリースのリースの分類が提案されている(図表3参照)。

なお、図表3における現在価値基準の分母に使用される「独立第三者間取引における使用権資産のリース料」を補足すると、これは、サブリースがヘッドリースのリース期間の残存期間にわたって行われるものと仮定した場合のリース料(延払いによる金利の影響を除外するため、サブリースのリース開始日に現金で全額支払を行うと仮定する)であり、使用権資産の時価相当の金額といえる。

現行基準においては、サブリースのリース分類をどのように行うかについては明確にされていないため、実務上は、ヘッドリースにおける原資産に対して現在価値基準、経済的耐用年数基準が適用されていると思われる。それを前提とすると図表3の判断基準では、現在価値基準および経済的耐用年数基準のいずれにおいても、基本的には現行基準に比べて分母が小さくなる一方で分子は現行と変わらないため、サブリースがファイナンス・リースに該当するケースが多くなることが予想される。


図表3 サブリースのリースの分類

以下のいずれかに該当するとサブリースはファイナンス・リースと判定される(新リース適用指針案87項)

現在価値基準 サブリースの貸手のリース料の現在価値÷使用権資産のリース料の現在価値≧おおよそ90%
経済的耐用年数基準 サブリースの貸手のリース期間÷ヘッドリースの借手のリース期間≧おおよそ75%


なお、ヘッドリースが短期リースまたは少額リースに該当し、簡便的取扱いに基づき使用権資産およびリース負債を計上していない場合のサブリースの分類はオペレーティング・リースとするという取扱いもあわせて提案されている。


(2)中間的な貸手の基本となる会計処理(新リース適用指針案85、86項)
中間的な貸手は、後述の(3)および(4)の任意選択の会計処理を適用しない場合には、ヘッドリースの借手としての処理と、サブリースの貸手としての処理の両方を行う。

サブリースがファイナンス・リースに該当した場合、ヘッドリースで認識した使用権資産をサブリースの借手に移転するため、サブリースのリース開始日に使用権資産の消滅を認識し、サブリースにおける貸手のリース料の現在価値と使用権資産の見積残存価額の現在価値の合計額でリース債権またはリース投資資産を計上し、両者の差額は損益として認識する。その後の損益計算書ではサブリースの受取利息およびヘッドリースの支払利息が総額で計上される。

サブリースがオペレーティング・リースに該当した場合、サブリースの貸手のリース料は貸手のリース期間にわたって原則定額法で計上する(新リース適用指針案78項)。


(3)中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合(新リース適用指針案88項)
サブリース取引の形式をとる取引パターンの1つとして、不動産会社が不動産の所有者から第三者への転貸前提でマスターリースなどで不動産を借り上げるが、ヘッドリースのリース料がサブリースのリース料に連動しており、かつ、サブリースの借手からの賃料が払われない限り、不動産の所有者に賃料を支払わないという条件が付されているというものがある。そのようなケースでは、上記(2)の基本となる会計処理のようにヘッドリースとサブリースをその法的形式どおりに貸借対照表上で資産および負債を両建て計上は取引実態を表していないという意見を反映し、ヘッドリースとサブリースを会計上は別個の契約とせずにリース料の差額を損益に計上する例外的な処理が提案されている。

この処理では貸借対照表においてリースに関する資産および負債の計上は行わず、ヘッドリースとサブリースの純額のリース料を損益計算書に計上するため、中間的な貸手は代理人として手数料を収受しているのと同様の成果を財務諸表上に表すこととなる。当該例外処理を選択できるのは、図表4の3つの要件のすべてを満たす場合に限られる。

当該例外処理では純額のリース料を損益に認識するタイミングに特徴がある。具体的には、図表4-1.の要件があるため、サブリースにおいて受け取るリース料の発生時または受領時のいずれか遅い時点と提案されている。


図表4 中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の会計処理適用のための3要件

  1. 中間的な貸手は、サブリースの借手からリース料の支払を受けない限り、ヘッドリースの貸手に対してリース料を支払う義務を負わない。
  2. 中間的な貸手のヘッドリースにおける支払額は、サブリースにおいて受け取る金額にあらかじめ定められた料率を乗じた金額である。
  3. 中間的な貸手は、サブリースの契約条件およびサブリースの借手が存在しない期間の原資産の使用方法、のいずれも決定する権利を有さない。


(4)転リース(新リース適用指針案89項)
現行基準では、転リースのうち中間的な貸手から見てヘッドリースおよびサブリースが共にファイナンス・リース取引に分類される場合には損益の純額表示が要求される。新リース基準等では現行基準の踏襲が提案されており、そのため損益の純額表示の対象となる要件の1つである「ヘッドリース及びサブリースがファイナンス・リース取引に分類される」は、新リース基準等では、「サブリースが(ヘッドリースの)原資産を基礎としてファイナンス・リースに該当する場合」と読み替えられている。

なお、現行基準では要件に該当した場合には適用が強制されるが、新リース基準等ではその選択は任意であるという違いがある。

なお、新リース基準等では上記(3)の会計処理の要件と転リースの特有の処理の要件の両方を充足するサブリース取引は想定されていない(新リース適用指針案BC108項)。

IV.開示

1.リースの注記

貸手の注記事項は、財務諸表利用者により有用な情報を提供することを目的として、IFRS第16号と整合的な内容となっており、現行の注記事項から大きく拡充された提案がなされている。詳細な開示項目の説明は省略し、準備に時間を要するなど影響が大きいと予想される開示提案について説明を行う。

新リース基準等では、「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示する」という開示目的が掲げられ、その開示目的を達成するために、要開示事項として具体的な開示内容が特定されている項目に加えて、以下の情報の開示が新たに要求されている(新リース適用指針案92項)。

  • 貸手のリース活動の性質
  • 貸手による原資産に関連したリスクの管理戦略や当該リスクを低減している手段 (たとえば、買戻契約、残価保証、所定の限度を超える使用に対して変動するリース料)

これらの情報の開示は現行基準では要求されていないため、親会社の活動や戦略を把握できたとしても子会社の情報まで十分に把握していない場合も考えられ、情報の収集だけでもそれなりの時間を要することが想定される。

また、オペレーティング・リース取引については、現行基準では重要性が乏しい場合に注記を要しないとする取扱いが設けられているが、新リース基準等においてはそのような簡便的な取扱いは設けられていない点にも留意が必要である。

2.賃貸等不動産の時価等の開示

貸手が不動産をリースしており、当該不動産が賃貸等不動産に該当する場合、リースの注記に加えて、企業会計基準第20 号 「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」および、企業会計基準適用指針第23号「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」(以下まとめて「賃貸等不動産時価開示基準等」という。)に基づく一定の開示が必要となる。新リース基準等の公表に伴って賃貸等不動産時価開示基準等の改正案(以下「賃貸等不動産時価開示基準等改正案」という。)が示されており、使用権資産、すなわち所有する不動産のみならず賃借により保有する不動産についても賃貸等不動産の範囲に含める提案が行われている。そのため、サブリースを通じて賃貸収益を稼得することを目的として保有している使用権資産に関して、中間的な貸手(あるいは潜在的な中間的な貸手)は賃貸等不動産時価開示基準等改正案に基づく注記を行うことになる。

ただし、使用権資産の当期末における時価およびその算定方法については、注記の対象外と提案されているため、使用権資産が開示対象に含まれたことによる実務的な影響はそれほど大きくないと考えられる。なお賃貸等不動産時価開示基準等改正案では、貸借対照表計上額および期中における主な変動額の開示は所有する賃貸等不動産と使用権資産とを区別して注記することが提案されている。

3.金融商品の時価等の開示

リース債権およびリース投資資産(リース料債権に係る部分)は、現行では他の金融資産と同様の時価開示が要求されている。新リース基準等の公表に伴って改正案が示されている企業会計基準適用指針公開草案第77号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」では、リース債権およびリース投資資産(リース料債権に係る部分)は、貸借対照表日の時価の開示等は引き続き求められているが、レベル別開示およびレベル2又またはレベル3に分類される場合の評価技法の説明は要しないことが提案されている。

おわりに

新リース基準等は貸手の会計処理および財務情報にも影響が予想され、特に現行のファイナンス・リース取引において第1法および第2法を採用している企業にとっては大きな影響を及ぼすと考えられる。オペレーティング・リースであっても、大量の契約を抱え、フリーレントやレントホリデーが多く行われている場合には、契約の精査やシステム対応など会計処理の変更にはそれなりの時間がかかるものと予想される。また、サブリース取引を実施している場合には、サブリースのリースの分類を改めて行うなどの対応が必要となる。

さらに、貸手は、新リース基準を踏まえた標準契約書の再考を行うことも想定される。たとえばサブリース取引において、中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合に該当するように3つの要件を備えるような契約に変更するなどの対応を検討するかもしれない。

これらへの対応に加えて、利害関係者への説明の準備等も考えると貸手においても新リース基準適用のための時間的な猶予は少ないものと考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
テクニカル・ディレクター 公認会計士
江﨑 千香(えざき ちか)

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