今から始める!新リース基準(案)適用への準備対応 借手リースは原則オンバランスの対象に 新リース基準(案)の全体像
企業会計2023年9月号の「今から始める!新リース基準(案)適用への準備対応」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
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この記事は、「企業会計(中央経済社発行)2023年9月号」に掲載したものです。発行元の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
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ハイライト
サマリー
2023年5月に公表された新リース基準案等では、借手のリース分類が廃止され、 オンバランスの範囲が原則としてすべてのリースに拡大される。そのため、借手の実務への影響は広範囲に及ぶ可能性がある。そこで本稿では新リース基準案等の全体像および適用スケジュールを示したうえで特に実務上の影響の大きい借手の会計処理におけるポイントやその他の留意事項、開示の主な内容を解説する。
I.新リース基準開発の基本方針と適用までのスケジュール
1.新リース基準案等の全体像
2023年5月に公表された企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下、「新リース基準案等」という。)および企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、「新リース適用指針案」という。)(以下あわせて「新リース基準案等」という。)は、借手の会計処理と貸手の会計処理では開発の基本方針が大きく異なっている。借手についてはIFRS第16号「リース」との整合性を重視し、IFRS第16号における主要な定めが新リース基準案等に取り入れられているが、貸手については現行のリース基準をおおむね引き継いだものとなっている。そのため、今回の新リース基準案等が最終化された場合、借手としての会計処理を検討し適用に向けた様々な準備をすることが企業における大きなタスクとなると考えられる。ただし、貸手についても収益認識の方法等について一部改正が行われていることから、影響のある企業においては対応が必要である。
2.適用までのスケジュール
公開草案では、新リース基準案等の適用時期は未定であるが、最終基準の公表後から原則的な適用時期までの期間は2年程度と想定されている。また適用開始日は4月1日以降とされているため、3月決算会社が最初に適用することとなる。そのため仮に2024年3月頃に基準が最終化された場合には2026年4月1日(2027年3月期期首)から強制適用が開始されると想定される。
図表1 適用までのスケジュール
II.新リース基準案等の概要(借手)
1.オンバランスの範囲の変更
(1)現行のリース基準と新リース基準案等の借手のオンバランス範囲の違い
現行のリース基準ではリース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類し、ファイナンス・リース取引に分類された場合には通常の売買取引に準じてオンバランス処理し、オペレーティング・リース取引に分類された場合には通常の賃貸借取引に準じてオフバランス処理している。一方、新リース基準案等では、借手のリース分類が廃止され、オンバランスの範囲が原則としてすべてのリースに拡大される。また、原則的な処理は単体財務諸表から適用する必要があり、借手の実務への影響は広範囲に及ぶ可能性がある。
図表2 新リース基準案等におけるオンバランスの範囲
(2)例外的にオフバランス可能なリース取引
新リース基準案等では、一部のリース取引について原則的な処理を適用せず、オフバランス処理を適用することが認められている。まず、無形固定資産への新リース基準案等の適用は任意とされている。よって、たとえばソフトウェアについて新リース基準案等を適用するか否かも任意となる。
また、現行のリース基準における短期リース取引および少額リース資産についても類似の規定が引き継がれ、新リース基準案等においても短期リースもしくは少額リースに分類されたリース取引については例外的にオフバランス処理が可能である。ただし、適用範囲が全く同一ではない点に留意が必要である。具体的には、新リース基準案等における短期リースはリース期間が12ヵ月以内のリースが対象となる点で現行基準と変わりはないものの、借手のリース期間の決定方法が異なることから現行基準よりリース期間が長くなる可能性があり、結果として短期リースの対象が少なくなる可能性がある。
また、少額リースの対象となるリースは現行基準における「重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース」(新リース適用指針案20項(1))、および「企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下のリース」(新リース適用指針案20項(2)-1)に加え「原資産の価値が新品時におよそ5千米ドル以下のリース」(新リース適用指針案20項(2)-2)についても少額リースの対象として追加されている。5千米ドルはIFRS会計基準適用企業がIFRS第16号に基づく重要性の判断を日本基準上でも踏襲できるように配慮されたものである。
図表3 短期リース・少額リースの現行基準と新基準案の対比表
2.借手の会計処理の概要
(1)リース開始日の会計処理
新リース基準案等では原則としてすべてのリースをオンバランスするため、リース開始日に会計処理すべき取引のボリュームおよび金額が増え作業量が増すと考えられる。リース開始日における会計処理は、まずリース負債を算定し、次にこのリース負債にいくつかの調整額を加えたうえで使用権資産の取得原価を算定する。なお、ここでいうリース開始日とは、リースの契約日ではなく、実際に資産が借手に引き渡されリースが開始された日を指す。そのため賃料の支払いが開始するかどうかや、借手がその資産の使用を実際に開始するか否かは問われないことに留意が必要である。
図表4はリース開始日における会計処理を図示したものである。リース負債は、リース開始日において未払いである借手のリース料の合計額から、割引計算により算定された利息相当額を控除することにより算定する。ここで利用する割引率は貸手のリース期間および貸手のリース料に基づいて算定した貸手の計算利子率か、もしくは貸手の計算利子率を知り得ない場合には、借手の追加借入利子率を用いる。
使用権資産の当初測定額は、リース負債の当初測定額に、(1)借手の前払リース料、(2)付随費用、(3)原状回復費の当初見積額、および(4)その他費用を足し合わせることにより算定する。ここで(2)の前払リース料は既に決済された金額であっても使用権資産の取得の対価を構成するため、使用権資産の当初測定額に含まれることとなる。
図表4 リース開始日の会計処理
(2)リース開始日以降の会計処理
リース開始日以降の使用権資産およびリース負債の会計処理は現行基準のファイナンス・リースの会計処理と類似している。
図表5のように一般的なリースの場合の使用権資産の会計処理は、残存価額をゼロとしてリース期間にわたって定額法等により減価償却を行う。ただし、所有権が借手に移転すると認められるリースについては原資産を直接所有するかのように減価償却を行う点は現行基準と同様である。
リース負債は、当初測定時に割引計算により算定された利息相当額を利息法により毎期支払利息として費用処理することとなる。そのため、一般的な定額払いのリースを前提とすると定額のリース料から利息相当額を差し引いた金額が毎期の元本返済額となる。よってリース期間が経過するにつれ毎期の支払利息の金額は減少し、元本返済額は逆に増加していくこととなる。使用権資産の減価償却は毎期定額であるのに対して利息は期間の当初に多額に発生するため、リースに関連する費用の合計額は逓減することとなる。
図表5 リース開始日以降の会計処理
III.借手の会計処理における実務上のポイント
1.リースの識別
(1)リースが含まれる契約
借手の会計処理の実務上のポイントとして、新リース基準案等の対象となる契約を特定することが最初のステップとなる。新リース基準案等においては契約の法形式にかかわらず、契約にリースが含まれているかを判断することが要求される。この点、以下の1.、2.の条件の両方を満たす場合には、契約にリースがあると判断される。
イ.特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利 |
契約にリースが含まれているか否かを適切に判断するには「特定された資産」、「使用を指図する権利」といった概念について理解することが重要である。
(2)特定された資産
通常は、契約書において、対象となる資産が明記され、資産が特定される。ここで留意しなければならないのは、契約書に明記されていたとしても、資産を提供する側(サプライヤー)が、資産を代替する実質的な権利を保有する場合は、資産が特定されず契約はリースではない、という点である。資産を代替する実質的な権利とは、サプライヤーが使用期間全体を通じて対象となる資産を他の資産に代替することが可能であり、かつ、資産を代替することによりコストを上回る経済的利益を得られる場合を指す。たとえば、長期間の運送契約において、運送に使用するトラックを運送業者が都度決定するような場合である。つまり、サプライヤーは、いつでも資産を自由に交換することが可能であるため、資産は特定されておらず契約はリースではないということとなる。
なお、使用できるのが資産の一部分である場合でも、特定された資産となり得る場合がある。建物のフロアーのように、物理的に別個のものである場合や、対象資産の全部ではないものの、資産の稼働能力のほぼすべてを使用可能であり、顧客が当該資産の使用による経済的利益のほとんどを享受する場合、資産は特定されていると判断される。
(3)使用を指図する権利
使用期間全体を通じて、顧客側が資産の使用方法を指図する権利を有している場合、「顧客」に使用を指図する権利があると判断される。もしくは、資産の使用方法が契約等により事前に決められている場合であって、下記のいずれかを満たす場合も、「顧客」に使用を指図する権利があると判断されることになる。
A.使用期間全体を通じて、顧客のみが資産を稼働する権利を有しているか、顧客が第三者に指図することによって資産を稼働する権利を有している、または
B.使用期間全体を通じた資産の使用方法を、顧客が、事前に決定するように資産を設計している。
2.借手のリース期間の決定
(1)定義
借手のリース期間は「借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方の期間を加えて決定する。
(1)借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
(2)借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間」(新リース基準案29項)
つまり新リース基準案等ではリース期間の決定に際して、リースの継続が合理的に確実なオプション期間を考慮する事になることから、判断を伴う点に留意が必要である。そのため現行基準における解約不能期間よりも判断の余地が大きく、結果としてリース期間が長くなる可能性がある。
(2)合理的に確実かどうかの判定
「合理的に確実」とは、蓋然性が相当程度高い場合と一般的には考えられるが、オプションの行使が「合理的に確実」かどうかの判定には判断を伴う。この判断には、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮することが必要であり、新リース基準案等では以下が例示されている。
経済的インセンティブを生じさせる要因(新リース適用指針案15項) (1)延長又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど) |
(3)事例(図表6)による説明
図表6 リース期間決定の事例
リースXは10年のリース契約だが、6年経過時点で解約することが可能である。この場合、リースが継続されないことが合理的に確実である場合、すなわち解約権を行使することが合理的に確実である場合と、リースが継続されるかどうかどちらともいえない場合、すなわち解約権を行使するかどちらともいえない場合にはオプションによる加算期間はゼロとなるため、リース期間は6年となる。一方で、リースが継続されることが合理的に確実である場合、すなわち解約権を行使しないことが合理的に確実である場合にはオプション期間を加算することになるため、リース期間は10年となる。
3.借手のリース料
(1)オンバランスの対象となる借手のリース料
図表7に記載のとおり借手が支払う契約の対価は、サービス要素などの契約におけるリースを構成しない部分と、リースを構成する部分に分けられ、リースを構成する部分はさらに「借手のリース料」に含まれるリース料とその他のリースの対価に区分される。このうち、新リース基準案等でリース負債の計算に含まれ、オンバランス会計処理の対象となるのは、「借手のリース料」に含まれるリース料のみである。ゆえに契約対価のどの部分が「借手のリース料」となるのかを把握することが重要である。
図7 借手が支払う契約の対価
(2)借手のリース料の構成要素
リース負債の計算に含まれる「借手のリース料」とは、以下に挙げるリースの対価である。
「借手のリース料」
|
上記借手のリース料の構成要素についてはいくつかの留意点がある。2.について、現行のリース基準では変動リース料に係る規定はないものの、新リース基準案等では変動リース料のうち、指数またはレートに応じて決まる変動リース料についてはリース負債の計算に含まれる。なお、リース負債の計算に含まれなかった変動リース料は発生時に費用処理される。3.について、現行基準におけるファイナンス・リース取引のリース料総額には「残価保証額」そのものが含まれていたが、新リース基準案等では「残価保証のもとでの支払見込額」のみを含める必要があり、支払見込額の見積りが必要となる。4.について、現行基準では割安購入選択権がある場合にその行使価格がリース料総額に含まれるが、新リース基準案等では割安な場合に限定せず、購入選択権の行使が「合理的に確実」な場合、その行使価格はリース負債の計算に反映される。
IV.借手の会計処理のその他の留意事項
1.条件変更等における借手の会計処理
リース開始日以降のリースに係る契約条件の変更には、独立したリースとして取り扱う場合と、リース負債の計上額を見直す場合があり、それぞれについて異なる会計処理が求められている。また契約変更以外でもリース負債の見直しが必要となる場合もある。
(1)独立したリースとなる条件変更
リースの契約条件の変更が発生した場合にリースの契約条件の変更部分を独立したリースとして取り扱う場合がある。具体的には変更契約により、以下の2条件をいずれも満たすリースの契約条件の変更部分は独立したリースとして取り扱うことになる。
- 1つ以上の原資産を追加することにより、原資産を使用する権利が追加され、リースの範囲が拡大されること
- 借手のリース料が、範囲が拡大した部分に対する独立価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること
ゆえに、独立したリースはそのリース開始日に、リース負債を契約条件の変更内容に基づいて認識し、使用権資産はリース負債に調整額を加えて算定することになる。
(2)独立したリースとならない条件変更
一方で、上記(1)に記載の2条件のいずれかが満たされない場合には契約条件変更の発効日に、リース負債および使用権資産の金額を見直す。具体的には、契約条件変更の発効日にリース負債については条件変更を反映した借手のリース期間を決定し、当該条件を反映した借手のリース料の現在価値まで修正することになる。また、使用権資産については、リースの範囲が縮小される場合にはリースの一部もしくは全部解約を反映するように使用権資産を減額する。なお、使用権資産減少額とリース負債修正額の差額は損益に計上することになる。一方、リースの範囲が縮小される場合以外のケースでは、リース負債の修正額に相当する金額を使用権資産に加減することになる。
なお、新リース基準案等ではリース負債を再測定する際に使用する割引率については規定がないため、企業において会計方針を決めて対応する必要がある。
(3)契約変更以外のリース負債の見直し
借手のリース期間を変更する場合や、借手のリース料に変更が生じた場合にも、リース負債の見直しの会計処理を実施する場合がある。この場合、変更が生じた日にリース負債については変更の内容を反映したリース料の現在価値まで修正し、使用権資産についてはリース負債の修正額に相当する金額を使用権資産に加減することになる。ただし、使用権資産をゼロまで減額しても足りない場合には残額を損益に計上する。
なお、ここでも新リース基準案等ではリース負債を再測定する際に使用する割引率については規定がないため、企業において会計方針を決めて対応する必要がある。
2.適用初年度における借手の経過措置
適用初年度の借手の会計処理において、比較年度を修正再表示せず、新たな会計方針を適用する累積的影響を適用初年度の期首に認識する方法が認められている(以下 「修正遡及アプローチ」という。)。多くの企業が、この「修正遡及アプローチ」を採用し、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用していた場合における、適用初年度期首時点の累積的影響額を利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することになると考えらえる。
ここで、適用開始時点の使用権資産の帳簿価額をどう決定するかについて、図表8に記載したアプローチ1とアプローチ2のいずれを適用するかで状況により期首時点の使用権資産の残高が大きく異なる可能性もあり、影響を踏まえて検討する必要である。なお、このアプローチ1かアプローチ2かの選択はリースごとに異なる選択が可能である。
図8 適用初年度の使用権資産の算定方法
V.借手の開示の主なポイント
借手のリースに関する表示についてであるが、使用権資産については、図表9のとおり2つの方法が提示されている。1つ目の方法は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法である。2つ目の方法は、対応する原資産の表示区分において「使用権資産」として区分して表示する方法である。リース負債は区分表示するか、もしくはリース負債が含まれる科目および金額を注記することになる。なお、リース負債に係る利息費用についても区分表示するか、もしくはリース負債に係る利息費用が含まれる科目および金額を注記することになる。
図表9 使用権資産の表示
借手のリースに関する注記は、独立の注記項目とするが、他の注記事項に記載している情報については参照することが可能となっている。開示項目は(1)開示目的を達成するために必要な情報、(2)会計方針に関する情報、(3)リース特有の取引に関する情報、および(4)当期および翌期以降のリースの金額を理解するための情報とされているが、開示目的を達成するのに必要な開示項目は(2)~(4)の開示事項に限定されないことに留意が必要である。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
藪前 弘(やぶまえ ひろし)