【BEPS2.0】促される連結マネジメント グループベースの課税と財務報告

本稿では、国や地域の垣根を超えた連結グループを一体としたGloBEルール導入後の税務および財務報告を含めたマネジメントの改革について解説します。

本稿では、国や地域の垣根を超えた連結グループを一体としたGloBEルール導入後の税務および財務報告を含めたマネジメントの改革について解説します。

従来の税務関連のマネジメントは、その単位を各国・地域ごとの納税主体としていることが多いのではないでしょうか。その背景には、課税権は各国・地域の主権であり、税法は各国・地域の法律として制定され、国・地域をまたいだ取引から生じる所得への課税権については、二国間で締結された租税条約が適用されるという考え方があります。しかしながら、グローバルな多国籍企業グループが向かい合う国際課税の世界では、2012年にOECD(経済協力開発機構)がBEPSプロジェクトを立ち上げ、国際課税ルールの改革に取り組んでいます。2015年公表のBEPSプロジェクトの最終報告書で引続き作業を進めることが合意された「経済のデジタル化に伴う課税上の課題」への対応については、約140ヵ国・地域が参加するOECD/G20包摂的枠組みにより、2021年に2つの柱のもとでの解決策に合意しました(BEPS2.0)。その2本の柱の1つ、第2の柱であるグローバルミニマム課税は、多国籍企業グループを対象としたものであることから「連結」の概念を基礎としており、対象となるグループ企業の特定や税額計算、納税義務者など、その拠り所を会計に求める部分が多く見受けられます。

本稿では、BEPS2.0のうちグローバルミニマム課税におけるGloBE(Global Anti-Base Erosion)ルールの税務上・会計上の取扱いについて解説したうえで、国や地域の垣根を超えた連結グループを一体としたGloBEルール導入後の税務および財務報告を含めたマネジメントの改革について解説します。

なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを、あらかじめ申し添えます。

POINT

POINT 1 日本をはじめ諸外国で導入され始めたグローバルミニマム課税

BEPS2.0の第2の柱であるグローバルミニマム課税は、多国籍企業グループを対象とした国際課税ルールである。2023年度税制改正では、このグローバルミニマム課税のうちGloBEルールが一部導入され、諸外国でも導入され始めている。

POINT 2 多国籍企業グループを対象とするGloBEルール

GloBEルールとは、実効税率が最低税率未満の軽課税国・地域にあるグループ会社の所得を、最低税率まで親会社等の国・地域で課税するというルールである。対象となるのは、「各対象会計年度の直前の4会計年度のうち、少なくとも2会計年度において、最終親会社等の連結財務諸表上の総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額以上」の多国籍企業グループである。

POINT 3 マネジメント改革で真の意味での「連結経営」を目指す

GloBEルールに関して、多国籍企業グループが求められている役割を果たすには、最終親会社がグループ企業全体の税務および財務報告に関連する情報を管理・対応しなければならない。そのためには、GloBEルールに対応していくための管理体制を構築する必要がある。

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Ⅰ はじめに

BEPSとは、Base Erosion and Profit Shifting( 税源浸食と利益移転)の頭文字をとった略語で、多国籍企業がその活動実態と各国・地域の税制や国内課税ルールとの間のずれを利用することで、課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行う問題のことを言います。

BEPS2.0における2つの柱による解決案は、物理的拠点( 恒久的施設)の有無にかかわらず、市場国に新たな課税権を配分する第1の柱と、グローバルミニマム課税と言われるGloBEルールなどの第2の柱から成ります。このうち第2の柱は、日本では2023年度税制改正で一部導入され、諸外国でも導入が進んでいます。

本稿では、この第2 の柱のうちGloBEルールに焦点をあて、このルールの概要、会計処理および開示について説明します。そのうえで、GloBEルールに関する企業グループの責任を果たすために、組織的にどのような対応が必要となるのか考えます。

Ⅱ GloBEルール

1. GloBEルールの目的は?

GloBEルールは、税制面において企業間の不公平な競争条件を阻害したり、各国・地域の法人税の引下げ競争により法人税収基盤が弱体化しないように、実効税率が最低税率( 15%)未満の軽課税国・地域にあるグループ会社の所得について最低税率まで親会社等の国・地域で課税するルールです。GloBEルールは、以下の2つのルールから構成されています。

  • 所得合算ルール( Income InclusionRule、以下、「IIR」という)
  • 軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule、以下、「UTPR」という)

また、上記のGloBEルールの適用により軽課税国・地域となることに起因して他国・地域で税が課されるならば、その税相当額をその軽課税国・地域で課す以下のルールも関係します。

  • 国内ミニマム課税(Qualified DomesticMinimum Top-up Tax、以下、「QDMTT」という)

 

2. GloBEルールが適用される対象は?

GloBEルールは、一定規模を有する多国籍企業グループが対象となります。一定規模を有するか否かは、「各対象会計年度の直前の4 会計年度のうち、少なくとも2会計年度において、最終親会社等の連結財務諸表上の総収入金額が7 億5,000万ユーロ相当額以上か否か」で判定します。この閾値はユーロベースで設定されていますので、為替の影響を受けます。また、この判定は連結財務諸表における数値を用いますが、連結財務諸表を作成していない場合でも、作成した場合に計上される連結財務諸表の数値での判定が必要となります。

多国籍企業グループか否かは、「最終親会社等の国・地域以外に在外子会社や在外支店などが存在するか否か」で判定します。そのため、複数の国・地域に拠点を有する企業グループが対象となりますので、子会社等を有していない場合でも、在外支店を有する場合には多国籍企業グループとなります。

3. 軽課税国・地域とは?

GloBEルールにおける課税対象は、軽課税国における会計上の利益にGloBEルール上の調整を行った額です。GloBEルールでは、実効税率が最低税率( 15%)を下回る国・地域が軽課税国・地域とされます。この実効税率は、法定実効税率ではなく、同一所在地国・地域のグループ企業の合算ベースで、会計上の税金費用にGloBEルール上の調整を行った額を、会計上の利益にGloBEルール上の調整を行った額で除して算定されます。その国・地域の法定税率ではありません。したがって、稀なケースかもしれませんが、日本も租税特別措置の税額控除の適用等により実効税率が最低税率( 15%)を下回るような場合には、軽課国・地域となりえます。

「1. GloBEルールの目的は?」で述べたGloBEルールの目的に鑑み、国・地域ごとに軽課税国・地域か否かを判定するために同一所在地国・地域のグループ企業を合算して実効税率を算定します。したがって、1つの企業でも、本店と在外支店は、実効税率の計算上、別の計算単位となります。

4. 誰に課税されるか?

GloBEルールにおける税金が多国籍企業グループ内のどの企業に課されるかを特定するには、「1. GloBEルールの目的は?」で述べたGloBEルールに係るIIR、UTPR、そしてQDMTTを理解する必要があります。以下、これらのルールと納税義務者の概要を解説します。

(1) IIR

GloBEルールのなかで、その中心と位置づけられるルールがIIRです。IIRでは、多国籍企業グループの最終親会社等がGloBEルールで課される税金の納税義務者とされます。最終親会社等が負担すべき税額は、軽課税国・地域に所在するグループ企業の利益( 実体のある企業へ配慮するための有形資産や給与等に一定の率を乗じた額の控除を含むGloBEルール上の調整後)に対してその軽課税国・地域の実効税率が最低税率( 15%)に満たない税率を乗じた額に、そのグループ企業それぞれに対する最終親会社等の持分割合を乗じた額の合計額となります。そのため、軽課税国・地域に所在するグループ企業にグループ外の株主がより多く存在するほど、課される税額は減少します。このグループ外の株主が存在することによる課税額の減少に一定の歯止めをかけるために、軽課税国・地域に所在するグループ企業の持分を直接・間接に有するグループ企業が、その持分の20%超をグループ外の株主に保有されている場合、このグループ企業は、被部分保有親会社等として、最終親会社等よりも先にIIRにより税が課されます。

この被部分保有親会社等に対して、最終親会社等よりも先にIIRにより税が課された場合でも、最終親会社等にもIIRにより税が課されますが、最終親会社等と被部分保有親会社等で二重課税が生じないように、被部分保有親会社等へ課された税のうち、最終親会社等の持分相当額が最終親会社等へ課される税の額から控除されます。(図表1参照)

図表1 IIR︓基本形と被部分保有親会社等がある場合の比較

図表1 IIR︓基本形と被部分保有親会社等がある場合の比較

出所:KPMG作成

以上のようにIIRでは、被部分保有親会社等に先に税が課される場合も含めて、最終親会社等に税が課されます。しかし、最終親会社等の所在地国・地域がIIRを導入していない場合は、IIRが導入されている国・地域を所在地国・地域とする、最終親会社等に最も近い中間親会社等に税が課されます。この課税のアプローチは、「トップダウンアプローチ」と呼ばれています。ここで中間親会社等とは、軽課国・地域を所在地国とするグループ企業の持分を直接または間接的に有する親会社のことで、最終親会社および被部分保有親会社等以外のものを言います。(図表2参照)

図表2 IIR︓基本形と中間親会社がある場合の比較

図表2 IIR︓基本形と中間親会社がある場合の比較

出所:KPMG作成

( 2) UTPR

次に、IIRのバックストップとしての役割を持つUTPRです。最終親会社等の所在地国・地域が軽課税国・地域となる場合など、IIRによって課されるべき税を課すことができない場合にはUTPRによって税が課されます。

UTPRでは、UTPR導入済みの国・地域にあるグループ企業へ税が課されます。IIRのもとで税が課される最終親会社等・被部分保有親会社等・中間親会社等は、軽課税国・地域を所在地国・地域とするグループ企業の持分を直接または間接的に有していますが、UTPRでは、兄弟会社などの直接または間接的な資本関係がないグループ企業にも税が課されます。そして、税の算定において軽課税国・地域を所在地国とするグループ企業への持分割合が加味されません。したがって、軽課税国・地域を所在地国とするグループ企業への持分を有せず、課税の対象となる利益に相当する価値が帰属しないグループ企業にも税が課される場合があります。担税力に応じた課税ではないという点で、従来の税の理論では想定しづらいルールとなっています( 図表3参照)。

図表3 UTPR

図表3 UTPR

出所:KPMG作成

(3) QDMTT

最後に、QDMTTです。先述のとおり、IIRやUTPRは、軽課税国・地域に所在するグループ企業の一定の利益(GloBEルール上の調整後)に対して、その軽課税国・地域の実効税率が最低税率(15%)に満たない税率を乗じた額をもとに、軽課税国・地域以外の国・地域が税を課すルールですが、軽課税国・地域において、その他国で課される税に相当する税を自国( 軽課税国・地域)で課すQDMTTというルールを導入することができます。軽課税国・地域でQDMTTにより課される税は、IIRやUTPRで課される税の算定上、控除されます。したがって、QDMTTによっても、「1. GloBEルールの目的は?」で述べたGloBEルールの目的は達成されると考えられます。

Ⅲ 導入状況

1. 法制化

BEPS2.0 における2 つの柱の1つが第2の柱であり、BEPS2.0 はOECDにおける取組みです。約140ヵ国・地域が参加するOECD/G2 0 包摂的枠組みは、国際的な合意に基づき第2の柱に関するモデル・ルールを公表していますが、このモデル・ルール等自体は強制力を持ちません。参加国・地域がこのモデル・ルール等と同様のルールを各国・地域で法制化することで初めて強制力が生じます。これは、いわゆるコモン・アプローチと呼ばれるもので、第2の柱を導入するか否かは各国・地域の判断に委ねられていますが、各国・地域の制度として導入することを選択した場合、国際的に合意されたルールに沿った形で導入しなければなりません。

2. 日本における法制化の状況

日本では、第2の柱のうちIIRが、2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」( 令和5年法律第3号)によって導入されました。国際最低課税額に対する法人税・特定基準法人税額に対する地方法人税として施行され、2024年4月1日以後開始する連結会計年度から適用が開始されます。

なお、UTPRやQDMTTについては、上記に含まれておらず、令和6年度税制改正以降の検討対象とされています。

3. 各国における法制化の状況

先述のとおり、GloBEルールでは、IIRに加えてUTPRがIIRのバックストップとして設けられており、最終親会社等の所在地国・地域でGloBEルールが導入されていない場合、他の国・地域へ課税権が移ります。全世界で第2の柱の導入が進んでおり、多くの国・地域では、IIRが2024年1月1日以後開始する連結会計年度から適用されるため、2024年1月1日以後3月31日以前に開始する連結会計年度に関しては、日本のIIRの適用開始前となりますが、他の国・地域のIIRの適用を受け、その他国・地域を所在地国とするグループ企業でGloBEルールにより税が課される可能性があります。

Ⅳ 財務報告-会計処理と開示

GloBEルールによって生じる税金の会計処理および開示について確認します。会計上の取扱いとして、日本の会計基準では実務対応報告第4 4号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」( 以下、「実務対応報告」という)が公表されました。また、IFRS会計基準では「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の改正)」( 以下、「改訂IAS第12号」という)が公表されています。GloBEルールによって生じる税金についての会計上の論点としては、大きく分けると、「生じる税金の会計処理」、「GloBEルールと会計の差異を税効果として扱うか」、および「開示」の3点が挙げられます。GloBEルールの課税標準は、会計上の利益にGloBEルールにおける調整を行って計算します。この調整によって一時差異が発生する可能性がありますが、実務対応報告も改訂IAS第12号も、この調整による影響を税効果に反映しない例外規定を設けています。ただし、この例外規定は、強制されますが一時的なものであって、今後見直される可能性がある点に留意が必要です。

開示については、実務対応報告では追加開示は求められていないのに対し、改訂IAS第12号では追加開示が求められています。求められる追加開示は、例外規定を適用している旨の注記、第2の柱に関連する当期税金費用( 収益)の個別開示、第2の柱の税金に関するエクスポージャーの注記です。

また、その連結会計年度の課税所得に対する税金は、課税されると予想される額をその期の当期税金として計上するものと考えられます。なお、日本における会計基準においては、この取扱いについて別途検討されています( 企業会計基準委員会「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」2023年8月3日現在)( 図表4参照)。

図表4 財務報告

図表4 財務報告

出所:KPMG作成

Ⅴ グループ一体としての対応

1. 必要な対応

現在、多国籍企業グループの税務は、グループに属する各企業又は納税主体ごとにそれぞれ管理されており、最終親会社の果たす役割は、各グループ企業にその税務に係る情報を報告させて集計およびモニタリングし、財務報告を行うなどに限られているケースが多いのではないでしょうか。

今後は、連結会計の概念を基礎とするGloBEルールの導入が世界中で進みますので、上述のような従来のマネジメントでは、最終親会社はGloBEルールに関連して求められる役割を果たすことができなくなります。たとえば、GloBEルールでは、各グループ企業の所在する国・地域が軽課税国・地域か否かを判定するための実効税率やGloBEルールで課される税の課税標準は、同一の国・地域を所在地国・地域とするグループ企業を合算して計算しなければならないこととされています。その上で、GloBEルールで課される税額を計算し、その納税義務者を特定するためには、グループ内の資本関係や各グループ企業の所在地国・地域におけるGloBEルールの導入状況も適時に正確に管理する必要があります。さらには、GloBEルールにおいて課税標準の算定の基礎となる利益が発生するグループ企業と納税義務者は異なります。納税のみならず、納税額の算定の基礎となるグローバルな情報をとりまとめたGloBE情報申告書も作成し、税務当局に提供しなければなりません。また、GloBEルールによって発生する税金を会計処理し、関連する開示を行うことで、財務諸表利用者へも適切に財務報告を行う必要もあります。このようなGloBEルールに、グループ内の各企業が単体で対応することは困難です。企業グループがGloBEルールを遵守し関連するアカウンタビリティを果たすためには、企業グループの資本関係の頂点に立つ最終親会社が、その支配下にあるグループ企業全体の税務および財務報告に関連する情報を管理し対応する必要があります。そのために、最終親会社は各グループ企業から必要な情報の報告を受け、グループ各社で必要となる結果をフィードバックする必要があります。

2. 具体的な対応

最終親会社が主導するグループ一体となったマネジメントに求められる内部管理体制においては、たとえば次のような機能が必要になると考えられます。

  • 情報収集

GloBEルールを遵守し、適切な財務報告を行うために必要な情報を適時に各グループ企業から入手するための情報を収集する。従来の財務報告用の情報収集体制を利用することも考えられますが、法人単位よりも細かい支店などの拠点ごとの情報が必要となりますので、情報収集単位などの見直しも必要となります。

  • タックス・エクスポージャーの把握

各グループ企業から入手した情報を基に、軽課税国・地域の特定、課税標準となる利益、税額、納税義務者などを把握する。

  • リスク対応

タックス・エクスポージャーを把握したうえで、グループ全体として対応すべき課題や管理会計におけるビジネスへの影響も考慮したプランニングを検討する。

  • 財務報告・税務申告情報作成

リスク対応後の結果情報を基にグループ全体として必要な財務報告および税務申告情報を作成する。

  • グループ内の各企業へのフィードバック

上記リスク対応や財務報告・税務申告内容を、関連するグループ内の各企業へフィードバックする。

 

Ⅵ さいごに

「連結経営」が注目されはじめてから相当な長さの年月が経ちますが、現在においても、特に税務関連のマネジメントにおいてはグループ内の各企業や納税主体が主体となっているケースが多いように見受けられます。しかし、そのマネジメントでは、世界中で導入されているGloBEルールを適切に遵守・管理し、財務報告を行うことは難しいと考えます。この機会に、最終親会社の主導でグループ一体となったマネジメントの変革を推進してはいかがでしょうか。この変革が一税制だけの対応にとどまることなく、「連結経営」の在り方を考えるきっかけになることを期待いたします。本稿が、その際の一助となりましたら、幸いです。

執筆者

あずさ監査法人 会計プラクティス部
鈴木 和仁/シニアマネジャー
KPMG税理士法人 タックス・テクニカル・センター
大島 秀平/パートナー 

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