前期から変更がある場合の対応は サステナビリティ関連の情報開示のポイント

「旬刊経理情報」(中央経済社発行)1680号(2023年6月20日)の「2023年6月第1四半期決算の直前対策」に「前期から変更がある場合の対応は サステナビリティ関連の情報開示のポイント」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

「旬刊経理情報」(中央経済社発行)1680号(2023年6月20日)の「2023年6月第1四半期決算の直前対策」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「旬刊経理情報1680号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • 四半期報告書では、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示は要求されない。
  • ただし、第1四半期におけるサステナビリティ課題に関連する事象が前事業年度の有価証券報告書において記載した事項に対する重要な変更に該当する場合、この内容を四半期報告書に開示することが考えられる。
  • 前事業年度の有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」において、指標を概算値で記載し、その後の確定値との差異が重要な場合、訂正報告書の対象になると考えられる。

はじめに

「企業内容の開示に関する内閣府令」等(以下「開示府令等」という)の改正が2023年1月31日に公布・施行され、2023年3月期の有価証券報告書より、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目が新設されるとともに、サステナビリティ全般に関する開示、および人的資本・多様性に関する開示が拡充されている。

今回の開示府令等の改正では、四半期報告書に関連する開示要求について個別に修正はされていない。しかし、サステナビリティ課題に関する国内外の動きは加速しており、企業もこれに対応するための取組みを継続的に実施していることから、第1四半期報告書の提出時点において、前事業年度の有価証券報告書で開示した内容から重要な変更が生じている場合も考えられる。

本章では、サステナビリティ情報に関する開示について、前事業年度の有価証券報告書の開示から変更がある場合の第1四半期決算における対応のポイントを説明する。なお、本章中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添える。

四半期報告書における取扱い

(1)原則的な取扱い

改正された開示府令等では、有価証券届出書(第二号様式他)および有価証券報告書(第三号様式他)において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目の新設、サステナビリティ全般に関する開示、および人的資本・多様性に関する開示の拡充が規定された。一方で、四半期報告書の開示様式である第四号の三様式について、同様の改正は実施されていない。

このため、前年度の有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」において記載した内容に変更があった場合(たとえば、指標の実績が四半期報告書時点で更新された場合)でも、四半期報告書に記載する必要はない1

(2)有価証券報告書の記載から「重要な変更」がある場合

開示府令等では、前事業年度、またはすでに提出した有価証券報告書から重要な変更がある場合、四半期報告書において開示が要求されることがある(図表1)。
 

図表1 前事業年度、またはすでに提出した有価証券報告書の記載から重要な変更がある場合に、四半期報告書での記載が要求される内容

開示府令等の定め 要求される記載内容
  • 前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」について重要な変更があった場合(記載上の注意(7)a)
その旨およびその具体的な内容をわかりやすく、かつ、簡潔に記載
  • 前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更があった場合(記載上の注意(8)a(a))
その旨およびその具体的な内容をわかりやすく、かつ、簡潔に記載
  •  連結会社が経営方針・経営戦略等または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標を定めている場合における、当該経営方針・経営戦略等または当該指標について、すでに提出した有価証券報告書に記載された内容に比して重要な変更があったとき(記載上の注意(8)a(b))
その内容および理由

出典:「企業内容の開示に関する内閣府令」第四号の三様式 記載上の注意 より筆者作成
 

このため、有価証券報告書に記載したサステナビリティ全般に関する開示、および人的資本・多様性に関する開示の内容(「サステナビリティに関する考え方及び取組」において記載した事項を除く。)が、図表1で掲げられているケースに該当する場合、サステナビリティ情報に関する変更の内容を四半期報告書において開示することが考えられる2

以下では、図表1の類型ごとに、四半期報告書における対応を考察する。
 

1.「事業等のリスク」に重要な変更があった場合
有価証券報告書では、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示において、リスク管理(サステナビリティ関連のリスクおよび機会を識別し、評価し、および管理するための過程)の記載が求められている。

ここで、改正された開示府令等を踏まえ、「サステナビリティに関する考え方及び取組」について先行して開示している企業の事例では、リスク管理に関して「事業等のリスク」の記載を参照している事例や、「事業等のリスク」における記載と内容が一部重複している事例が見受けられる。

図表1に示した通り、四半期報告書において、前事業年度の有価証券報告書における「事業等のリスク」の記載に重要な変更があった場合、その旨およびその具体的な内容をわかりやすく、かつ、簡潔に記載することが求められる。このため、「事業等のリスク」における重要な変更の影響が「サステナビリティに関する考え方及び取組」における開示に関するものである場合、その具体的な内容について開示することが必要となる。たとえば、有価証券報告書において気候変動に関する移行リスクについて開示しており、第1四半期会計期間において当該移行リスクの程度や企業の対応に重要な影響を生じさせる規制が導入された場合、これに該当する可能性がある。

ただし、四半期報告書では「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目を設けて開示することは要求されていないため、前記について開示する場合でも、「事業等のリスク」において開示することが考えられる。
 

2.会計上の見積りに関する記載に重要な変更があった場合
有価証券報告書では、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」において、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定(以下、「会計上の見積りに関する記載」という)のうち、重要なものについて、「第5 経理の状況」に記載した会計方針を補足する情報を記載することが求められている。

この点、有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載に、会計上の見積りに関する記載が含まれている場合がある。たとえば、気候変動を重要なサステナビリティ課題として特定し、温室効果ガス(GHG)排出量が大きい製品の製造・販売事業からの撤退を当該課題に対する戦略として示したうえで、同製品を製造するための工場設備(固定資産)の残存耐用年数の見積りを重要な見積りとして記載している場合が考えられる。

図表1に示した通り、四半期報告書において、前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積りに関する記載について重要な変更があった場合、その旨およびその具体的な内容をわかりやすく、かつ、簡潔に記載することが求められる。このため、消費者嗜好の急速な変化を踏まえて固定資産の残存見積耐用年数の見積りに重要な変更が生じている場合、四半期報告書において、その具体的な内容について開示することが考えられる。

なお、この場合でも、「事業等のリスク」の記載に関して記載した事項と同様、四半期報告書において「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目を設けて開示することは要求されない。
 

3.経営方針・経営戦略等に重要な変更があった場合
有価証券報告書では、「サステナビリティに関する考え方及び取組」のうち重要なものについて、戦略(短期、中期および長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスクおよび機会に対処するための取組み)ならびに指標および目標(サステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、および監視するために用いられる情報)の記載が求められている。また、人的資本(人材の多様性を含む)に関する戦略ならびに指標および目標については、すべての企業に対して記載が求められている。

ここで、改正された開示府令等を踏まえ、「サステナビリティに関する考え方及び取組」について先行して開示している企業の事例では、戦略に関して「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の記載を参照している事例や、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載された中期経営計画とサステナビリティ戦略の関連性を説明している事例が見受けられる。また、気候変動を重要なサステナビリティ課題として特定している場合において、シナリオ分析の結果を踏まえた具体的な対応方針を戦略の項目に記載している事例や、人的資本に関する指標および目標として、中期経営計画の目標値を記載している事例も見受けられる。

図表1に示した通り、四半期報告書において、経営方針・経営戦略等について、すでに提出した有価証券報告書に記載された内容に比して重要な変更があった場合、その内容と理由を記載することが求められる。このため、たとえば、第1四半期会計期間において経営方針・経営戦略等に重要な変更を生じさせるような合併や買収があり、これによって人的資本に関する戦略にも重要な影響が生じている場合、その具体的な内容について開示することが考えられる。

(3)有価証券報告書に記載した情報の進捗を任意で四半期報告書に記載する場合

「(1)原則的な取扱い」に記載のとおり、四半期報告書においては有価証券報告書で記載が求められたサステナビリティ全般に関する開示、および人的資本・多様性に関する開示は個別に要求されていない。しかし、投資家に対する情報提供を目的として、前事業年度の有価証券報告書に記載した「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関連し、四半期報告書時点における進捗を、任意で記載することは妨げられないものと考えられる。

なお、改正された開示府令等の公布・施行前に提出された四半期報告書では、サステナビリティに関する進捗を「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載している事例が見受けられる(図表2参照)。


図表2 四半期報告書においてサステナビリティに関する進捗を記載している事例

2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)財政状態及び経営成績の状況
  2.経営成績の状況
(サステナビリティの取り組み)
当社グループは、サステナビリティを事業と一体として考え、事業活動を通じて持続可能な社会を実現するため、長期ビジョン[ DESIGN 2030 ]において「みんなで(Inclusive) いつまでも(Sustainable) 楽しさあふれる(Enjoyable)社会の実現」を掲げ、活動を展開しています。

人的資本への取り組みでは、健康経営における休職後の職場復帰支援や治療と仕事の両立支援を推進し、2022年3月に経済産業省と日本健康会議が主催する「健康経営優良法人」に3年連続で認定されています。

また、環境に関する取り組みでは、商品開発において、5月にはリサイクル樹脂やもみ殻を再利用した壁紙「メグリウォール」を発売したほか、6月には再生ペットボトルを使用することで、CO2排出量削減に貢献するガラスフィルム「クリエイシア90」を発売しました。

社会参画活動では、継続的に実施している児童養護施設への内装改装支援において、充分な感染防止対策を行いつつ活動を展開したほか、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みとして、5月に愛知県名古屋市で行われた、LGBTQを軸に多様性について考えるイベント「名古屋レインボープライド2022」に参加しました。また、産学連携プロジェクトとして、学校法人同朋学園 名古屋造形大学と、デジタルプリント「ハイグラフィカ」の新デザインを共同開発し、5月より「名古屋造形大学×サンゲツ Academia collaboration」として販売を開始したほか、6月からは「かがやけ☆あいちサスティナ研究所」プロジェクトに初めてパートナー企業として参加し、大学生に環境に関する課題を提示することで、持続可能な未来の担い手の育成を目指しております。

当社グループはこれからも、サステイナブルな社会の実現に向けた取り組みを強化し、全てのステークホルダーとともに、新しい価値創造のよろこびを分かち合える企業になることを目指してまいります。

出典:(株)サンゲツ 四半期報告書(2023年3月期 第1四半期)より筆者抜粋。なお、下線は筆者追加

(4)有価証券報告書において概算値や前年度の情報を記載した場合

有価証券報告書における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示では、サステナビリティに関する指標および目標を開示する際、情報の集約・開示が間に合わない場合には、概算値や前年度の情報を記載することも考えられるとされている。

この点、前事業年度の有価証券報告書において、サステナビリティに関する指標および目標として概算値や前年度の情報を記載しており、四半期報告書提出日までに実際の集計結果が確定した場合でも、四半期報告書において実績値の開示は要求されていない。ただし、投資家への情報提供を目的として、実際の集計結果を四半期報告書に任意で開示することは妨げられないものと考えられる。

なお、開示府令等とともに公表された「金融庁の考え方」の記載を踏まえると、実績値が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正により対応することが考えられる。

おわりに

サステナビリティ情報に関する開示に関しては、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)から公表されているIFRS®サステナビリティ開示基準の公開草案を踏まえ、国内ではサステナビリティ基準委員会(SSBJ)によるサステナビリティ開示基準の検討が進んでいる。

また、ISSBは2023年5月に情報要請「アジェンダの優先度に関する協議」を公表し、今後2年間のアジェンダの優先度に関する意見募集を開始しており、さらなる基準の開発に向けた動きを進めている。この他、欧州では、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が2022年11月に公表した欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の公開草案が欧州委員会による承認をもって2023年下半期に最終化される見込みであり、国際的にもサステナビリティ情報の開示に関する動きについてさまざまな動きがある。

開示府令等では四半期報告書においてサステナビリティに関する開示は要求されていないものの、今後見込まれる国内外におけるサステナビリティ情報の開示基準の公表を念頭に、サステナビリティ課題の検討体制や情報収集体制等、開示に向けた準備を継続的に進めていくことが、重要と考えられる。

1 「『記述情報の開示の充実に向けた解説動画』の配信について」(金融庁、2023年5月23日)の「【記述情報の解説8】企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説(2023年5月)」より。

2 前掲注(1)参照

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
瀧澤 裕也(たきざわ ゆうや)

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