本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

ポストISS時代へと動き出した世界

日米欧ロなどが建設した国際宇宙ステーション(以下、ISS)が2030年に退役します。世界が「ポストISS」時代へと動き出し、民間企業による宇宙旅行ビジネスの構想も相次いでいます。
人類は、米ソ冷戦を契機とした技術開発競争により「宇宙へのアクセス」を実現し、米航空宇宙局(NASA)のスペースシャトル計画で「宇宙に活動拠点を構築する」段階へと移行しました。2011年にはISSを完成させ「宇宙空間に構築した拠点による宇宙利用」が可能となりました。これまでは政府主体の取組みでしたが、今後は民間主導で「宇宙の商業化」が進むことになります。

ISSは、高度約400kmを周回する有人施設です。15ヵ国が共同で運用し、地上ではできない微小重力実験などを実施しています。運用開始から20年以上が経過したISSは設備の老朽化も進み、2030年を目途に運用を終える予定です。このため「ポストISS」に向けた動きが各国・地域で活発になりつつあります。

米国は、新たな宇宙ステーションの構築と運用を民間企業に移行し、企業が提供する各種サービスを購入する方針です。2030年頃までの「民間宇宙ステーション」の完成を目指して、複数の民間企業が開発を進めています。
民間宇宙ステーションの特徴の1つに、一般の旅行者を想定した「宇宙ホテル」など、BtoCの商業活動が挙げられます。宇宙旅行は目覚ましい市場の拡大が見込まれており、すでに複数の企業が宇宙旅行事業の構想を公開するなど、新たなプレーヤーが続々登場しつつあります。
宇宙旅行の構想には現在、「気球型宇宙船による遊覧飛行」「無重力状態を数分間体験するサブオービタル旅行」「宇宙空間に滞在するオービタル旅行」「月や火星などの惑星に向けた旅行」などがあります。なかでも、サブオービタル旅行へのニーズが高いと見られますが、宇宙空間での中長期滞在に向けた「宇宙ステーション/ホテル」への旅行市場の拡大にも注目したいところです。

民間宇宙ステーションには、地球と月、さらには火星とをつなぐ中継基地としての役割も増してくることが考えられます。各国・地域による月周回有人拠点(ゲートウェイ)の構築や月面探査に向けた活動の本格化に伴い、月面探査活動などで使う装置類の技術実証を宇宙ステーションで実施して運用リスクの軽減を目指す用途も見込まれています。民間宇宙ステーションは、ホテルなどの商業活動と技術実証を両論とする活動の場となるでしょう。

日本でも、文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心となって「ポストISS」の取組み方針の検討が進んでいます。日本企業と米国の民間宇宙ステーション事業者との提携が発表されるなど、日本企業の動きも活発化しているところです。

日経産業新聞 2023年4月11日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
コンサルタント 天野 明子

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