本連載は、日刊工業新聞(2023年2月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

多様なデータこそが競争力の源泉

昨今、データドリブン経営へのシフトを戦略や方針として掲げ、サービス提供や社内の業務においてあらゆるデータを駆使し、データに基づく論理的な思考と意思決定を目指す企業が増えてきました。また、モバイルやIoT(モノのインターネット)機器の普及などにより、収集できるデータ量が爆発的に増え、多様なデータそのものが競争力の源泉となっています。データ活用は経営の質や業務を劇的に改善していくことでしょう。

多くの企業ではデータ活用を積極化させるために、体制強化や環境整備を進めています。データソースは社内に限らず、SNSのデータや外部のオープンデータなどを含み、構造化データだけではなく、非構造化データも活用され始めています。
統合管理されたデータウェアハウスや、加工する前の多種多様な生データを格納するデータレイクなど、利用方法の高次化、技術の進展に併せてIT基盤も変化しています。近年では、各種データベース(以下、DB)の再構築のように、物理統合してDBの基盤を整備するのではなく、あらかじめ接続設定した複数のDBを仮想的に統合し、利用者の活用の幅を広げて利便性を高める「データ仮想化」技術も注目を浴びています。

データ活用を積極化させるには、最適な方法で適時かつ容易にアクセスできる環境整備が重要となります。一方、無秩序なデータの生成や利用は、データへの依存度が高まる昨今の状況下ではリスクを助長する可能性があります。統一された考え方のもと、体系的にデータを整備・管理することが望ましく、データの正確性や最新性などの品質の担保、安心・安全に利用するためのルール整備が求められます。

海外へのデータ移転には、経済安全保障上の観点やプライバシーなどの法規制への対応も忘れてはなりません。取得・蓄積・利用・保全といったデータライフサイクルの各段階において実施すべきことを定め、それらが徹底されるよう監督・モニタリングすること、すなわち「データマネジメント」はデジタル変革(DX)の推進と合わせて実践すべきリスク管理の1つと言えるでしょう。

データマネジメントは、汎用的・多義的な用語として認識されがちですが、実際には体系的に整理された考え方や枠組みが存在します。データ構造の設計やデータモデル定義、データ属性などの付帯情報(メタデータ)の登録とデータカタログの共有、データの品質管理やアクセス制御の運用など、データマネジメントを組織内で確立していくために必要な要素が網羅されているのです。

経営企画やDX推進をミッションとする部門、IT部門などでは是非参考にされたいところです。データに起因するビジネスインパクトがますます高まるなか、データを効果的に活用できる体制と役割、IT基盤、プロセスを整備することにより、データ活用やDX推進を加速し、リスク低減の一助となるでしょう。

日刊工業新聞 2023年3月24日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング 
パートナー 熊谷 堅

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