「リスキリング」は企業の生き残り戦略 経営層自らのアップデートと人材育成のリードが不可欠

今回は、創立から一貫してマネジメント研修を提供し続けてきたグロービス経営大学院 経営研究科 研究科長(日本語MBA)、学校法人グロービス経営大学院 常務理事の田久保 善彦 氏に、そもそもリスキリングの定義は何か、日本企業にリスキリングを浸透させるにはどうしたらいいのかについてお伺いします。

創立から一貫してマネジメント研修を提供し続けてきたグロービス経営大学院 経営研究科 研究科長(日本語MBA)、学校法人グロービス経営大学院 常務理事の田久保 氏にお伺いします。

「新しい資本主義」の実現を目指す岸田政権は、リスキリングによって企業間・産業間の労働移動、スタートアップへの人材移動を進めるべく「労働移動円滑化のための指針」を取りまとめようとしています。労働移動によってイノベーションを創出し、日本経済を活性化しようというわけです。

一方で、リスキリングという言葉は1人歩きしており、従来ながらのセカンドキャリア研修と混同されています。今回は、創立から一貫してマネジメント研修を提供し続けてきたグロービス経営大学院 経営研究科 研究科長 (日本語MBA)、学校法人グロービス経営大学院 常務理事の田久保 善彦 氏に、そもそもリスキリングの定義は何か、日本企業にリスキリングを浸透させるにはどうしたらいいのかについてお伺いします。

インタビュアー=油布 顕史プリンシパル

対談

リスキリングは本来、個人任せではなく「会社の生き残り戦略」であるべき

油布:

最近、リスキリングという言葉をよく聞くようになりましたが、今の日本企業では、リスキリングがさほど進んでいないように見えます。田久保さんはこの状況をどのように捉えていらっしゃいますか。

田久保:

リスキリングは言葉の定義がかなり曖昧で、話す人によっても意味が違っているところにそもそもの問題があると思います。まず、企業起点か個人起点なのかといえば前者であり、企業の事業戦略の方向性に沿ってリスキリングするべき人材像やその具体的な内容は変わってくるはずです。

対談
田久保 善彦 氏
グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長(日本語MBA)
学校法人グロービス経営大学院 常務理事
慶應義塾大学理工学部卒業、学士(工学)、修士(工学)、博士(学術)。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、上場企業、ベンチャー企業社外取締役なども務める。

油布:

確かに「リスキリング」という言葉だけが先走り、何となくリスキリングしなければ時代に取り残されるというような漠然とした焦燥感だけあるような気がします。

田久保

そうですね。ですから、少し前提の整理が必要なのではないかと思います。その教育や研修の目的を、まず3つに分けて考えるべきです。文字どおりのリスキリングなのか、スキルが十分ではない人をスキルフルにするためなのか、あるいは外に出ていくための準備なのか。

 文字どおりのリスキリングというのは、このデジタル時代に乗り遅れた人をデジタルに適応できるようにする教育というイメージです。一方、スキルフルにするための研修は、これはスキルアップと呼ぶべきでしょう。たとえば、会計士1年目と10年目の人材とでは持っているスキルがまったく違うはずです。1年目の若手が経験を積むのは、すなわち自分のスキルを上げることですから、その意味で学ぶのは当然のことです。そして、外に出ていくための準備とは、たとえばシニアが関連会社に出向するときの研修のようなものを指します。

 今は、これらすべてを十把一絡げにして「リスキリング」にしてしまっている。それが問題ではないかと思っています。日本の企業がドライブするリスキリングを実現するには、まず、この3つを明確に分けて考える必要があります。この辺りは、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤 宗明さんのご意見にかなり近いです。

対談
油布 顕史
KPMGコンサルティング
プリンシパル
組織・人材マネジメント領域で20年以上の経験を有する。事業会社、会計系コンサルティングファームを経て現職。組織設計、人事戦略策定、人事制度に関する設計・導入、人的資本経営に関するアドバイザリー、働き方改革、組織風土・カルチャー変革、取締役報酬などの領域において数多くのプロジェクトを推進。

油布:

それは、目的が曖昧なまま、「とにかくリスキリングしなさい」とだけ言われているから、というのもあるでしょう。若手にリスキリングについて聞いてみたところ、彼らは「自分のキャリアを思い描かなければ、リスキリングも何もない」と言っていました。結局、「自分はこの会社で何をしなければいけないか」をしっかり見極め、そこに対してドライブをかけていかなければ、リスキリングといっても集合研修に毛が生えたような話になってしまうと思います。

 一方で、先ほど田久保さんが仰っていたシニア層には、確かにリスキリングが必要だと思います。しかし多くの場合、彼らはリスキリングをあまり肯定的に受けとめていません。「リスキリングしなさい」と言われると、「どうせ自分は外に出されるか、違う部門に回されるんだろう」と思ってしまう。結局のところ目的がしっかりしておらず、何のためにやっているのかが伝わっていないからではないでしょうか。

田久保:

そう思います。今は、社内で行われている45~55歳くらいの人を対象にしたトレーニングがリスキリングなのか、セカンドキャリア研修なのか、それとも別の目的のものなのかが、曖昧になっているケースが多いと思います。

 わたしは、定年、再雇用などの関係でキャリアが長くなるなかで、この国の多くの企業は、セカンドキャリア研修の前にやるべきことがあるのではないかと思います。世界ではデジタル化がものすごい勢いで進んでいるのに、日本人のデジタルスキルは完全に乗り遅れてしまっている。40代であっても、今求められているデジタルスキルに全然追いついていません。それは、会社の将来を考えても、「勉強やスキリングはあなた方個人に任せます」ではないはずです。セカンドキャリア研修の前に、「会社がこう変わらないと生き残っていけない。そのためにはあなた方のスキルをアップデートしなければならない」として、すべての費用を会社が負担し、勤務時間中に学んでもらう。それを徹底的にやるのが、本当の意味でのリスキリングだと思います。私は、リスキリングとは会社の生き残り戦略であると考えているのです。

 これが「時間があるなら自分のスキルを頑張って上げたら」なんて、やるもやらないもあなたの勝手だというメッセージなら、セカンドキャリア研修だと思われても仕方ありません。でも、そういうイメージで捉えられたら、どう考えてもポジティブにはなれないでしょう。ポジティブに捉えてもらうには「これは会社の一大戦略です」、「生き残るために、DX(Digital Transformation、以下「DX」という)についていけない方たちのスキルやマインドを強制的にアップデートする必要があります」くらいのモードにしなければなりません。そうならない限り、前向きには取り組めないような気がします。結局、この話も、トップがどれだけの本気度を見せるかが重要だと思います。

「昔は良かった」と思ったときがリスキリング元年「自らアップデートできなくなったらリスキングが必要」

油布:

そう考えると、田久保さんが仰るリスキリングの対象というのは、どの年齢層なのでしょうか。それとも年齢に関係なく、全員が対象となるものなのでしょうか。

田久保:

20代は判断が難しいです。なぜなら、20代はまだ最初のスキリングもしていませんから、「”リ”もへったくれもなく頑張れ!」という話です。一方、その仕事を始めて10年くらい経ち、自分のスタイルが確立して飯が食えるような状況になってくると、成功体験に基づいて自分の成功パターンに固執し始めたりします。このあたりからがリスキリングの対象だと、私は思っています。

油布:

ある程度第一線で働けるようになってからということでしょうか。

対談

田久保:

そうですね。10年、15年経つと時代も移り変わりますから、頭も技術や価値観に沿ってアップデートしなければなりません。でも、なかには自分ではアップデートできない人もいます。よく中高年のビジネスパーソンが「自分の時代は……」とか、「昔は良かった」とか言いますが、この「昔は良かった」と思ったときがリスキリング元年でしょう。もし、「自分の時代は残業100時間やっていた」なんていう残業自慢が始まったら、35歳でもリスキリングの対象です。一方で、50歳でも毎日「新しいことを学ぶのが楽しい!」と思っている人はある意味、企業が推進するリスキリングの対象ではありません。そういう人は自らアップデートできているからです。

油布:

そのたとえはわかりやすいですね。つまり、自らアップデートできなくなったらリスキングが必要ということですね。

田久保:

そう思います。私は、リスキリングというのはあくまでも会社が責任を持ってやることだと思っています。ですから、その対象は誰ですかと聞かれたら、会社に強制されないと自分をアップデートできなくなっている人たち全員と答えます。そろそろ自分は一人前だなぁ、最近、昔ほど学んでいないなぁとなったあたりが怪しいかもしれません。

油布:

会社側が時間と費用を負担してリスキリングをすると、仕事をする時間が割かれてしまい、社員も経営者も困るという話を聞いたことがあります。たとえば、企業として個人のリスキリングのために、就業時間よりも早く仕事を切り上げさせることができるものでしょうか。

田久保:

できるかどうかは個別の話になると思いますが、それくらいの覚悟をもってやらない限り、リスキリングにはならないのではないでしょうか。ですから、これは「やれたらやっておいてという程度で、本当にこの会社のリスキリングが進みますか」という問いなのです。たとえば、今の仕事を1割減らしてでもこの知識とこのスキルを身につけてもらわないと2年後、3年後にこの会社はないかもしれない、という絵姿があってはじめて「やれ」と言える話です。

 その絵姿がないまま、単に1割の仕事が減るということだけを前面に出したら、それは現場の部長や課長は全員反対しますよ。「1年後にこういうふうに事業を転換します」という絵姿も示さず、ただ「あなたの部下から1割の労働時間を奪います」と言い出したら、「ふざけるな!」となります。でも、「このままいくと、あなたの部下は1年半経ったら使い物にならなくなりますが、それでもいいですか?」と問われたら、彼らも会社は本気だと思うでしょう。だからやはり、戦略の中心にリスキリングの時間の確保を持ち込まないと、少しも進まないと思います。

油布:

結局、何のためにやるかということですよね。みんなに納得してもらって、腹落ちさせて進めなければならない。昨今は変化が速い時代なので、賞味期限が切れるのも早いですからね。

田久保:

それを経営者が正面きって言うかどうかは別として、経営者の覚悟が問われることは間違いありません。それくらい時代の流れと要求されているものの変化と、必要なスキルが変わってきているのです。

企業間・産業間の労働移動の前に、社内での労働移動を考えるのが優先

油布:

リスキリングによって労働移動を促進させる話題になるとよく言われるのが、「この会社ではあなたのスキルはそこまで必要ないので、違う業種に行ってください。そのためにスキリングをしてください」ということです。これは米国で行われたリスキリングですよね。でも、田久保さんの話はそうではなく、あくまでも社内での異動が前提になっているように思えます。もしかしたら、それがジャパニーズリスキリングなのでしょうか。

田久保:

私のイメージする労働移動は、まずは、会社のなかでのことです。会社が生き延びるためには、スキルの高い人、たとえばDXに長けた人が必要ですが、外から採用するのは大変ですし、コストもかかります。だったら、今いる従業員を育てればいい。彼らを育ててある一定のレベルになれば、生産性を今の1.2倍、1.3倍に上げることもできるはずです。

 これを国家戦略としたのがシンガポールです。シンガポールでは、国全体の生産性を上げるために、国がすごく大きな額の投資をして国民全体をDX型の人間にリスキリングしました。日本も国の政策としてリスキリングに何百億円もの税金を投入しようとしていますが、その前に会社が会社としての生き残りをかけたリスキリング、労働移動というのが当然あって然るべきです。これらが相乗効果になっていければいいのですが、「国がやってくれるのを待っています」と言っているような会社は、長くは持たないかもしれません。ですから、まずは会社がドライブしてやるというのが第一弾だと思います。

油布:

しかし、会社内であれ社外であれ、今いる職場から退出する労働移動という意味では、どうしても「アウトプレースメントなのでは」と受け取られそうですよね。そこは誤解されないよう、きちんと分ける必要がありそうです。

田久保:

たとえば、会社がデジタルシフトすると、デジタルに絡まない仕事が減り、デジタルスキルを持っていない人には仕事がなくなります。そうすると、そこで彼らをリストラせざるを得なくなってしまうかもしれません。でも、デジタルスキルを持つ人を増やし、労働移動することができれば、誰の仕事も奪われない状態を創れるかもしれません。あるいは、デジタルの部分でより付加価値が出せるのなら、人を採用することさえできます。ただ、スキルも知識もない人たちに、いきなり「あなたは明日からデジタルマーケをやってね」と言っても、できないですよね。ですから、リスキリングという話になるのです。

 私は、労働の分布を変えるというのは、国全体で考えたA社からB社への移動でなくても、社内におけるシフトが起きれば、それはそれでいいのではないかと思っています。

対談

経営層は自らアップデートを続け、人材育成をリードしなければならない

田久保:

リスキリングにおいて重要なのは、リスキリング=人財育成、人財の再開発こそこれから先の日本企業をDXしていくための根幹中の根幹、戦略の柱であるという認識をトップがどこまで持てるかです。だいぶ昔の話にはなりますが、たとえば、米ゼネラル・エレクトリック社のCEOだったジャック・ウェルチ 氏は、年間100日単位で研修所のあるクロトンビルに通っていたといいます。ネスレ社でも、社長と会長の2人合わせて年間90日くらい、本社の隣にあるトレーニングセンターで行われる幹部研修に登壇しているという話を聞いたことがあります。トップが人材開発にフルコミットしているわけです。

 そういうことを考えても、人を育てるということを自分の会社の業務として、ミッションとして、どこまで本気で捉えているか。日本にはOJTをやっていればなんとなく育つだろう、「背中を見て育て」的なところがまだ残っていますが、お金をかけて戦略的に、システマティックに人材育成をすれば、リスキリングなんて新しい名前を登場させなくてもよいのかもしれません。

油布:

外資はCEOが中心となって音頭を取っているけれど、日本企業は現場任せになっている。だからリスキリングが進まないということでしょうか? 外資と日本企業、何が違うのでしょうか。

田久保:

もしかしたらと思っていることが1つあります。実は、多くの日本企業では上層部になるとあまり研修を行わなくなります。課長研修くらいまでは熱心に実施しているのですが、執行役員や取締役レベルになると、だんだん研修を受けなくなる。一番アップデートし続けなければいけないのは、そういう層かもしれません。

 その意味では、繰り返しになりますが、「人間をアップデートし続けていくのが我々の会社の戦略の根幹である」という認識をどこまで本気で持てるかというのが、すごく大事なポイントになりそうな気がします。

油布:

そうですね。役員研修といっても、実際に集中していろいろなことを実施しているところは非常に少ないと感じます。研修もリスキリングも人材戦略に含まれますが、企業戦略とつながっていることは多くない。そういう意味では「隗より始めよ」で、トップや役員がその重要性を含めて自らもっとアップデートしていく、そういう意気込みを持ってほしいですね。

田久保:

本当の中心に置いていないのでしょうね、人材戦略を。

油布:

そうだと思います。人材戦略というのは人をコマとして動かすのではなく、優秀な人への投資がまた利益になって跳ね返ってくるというものです。それが資本の基本的な考え方なのですが、それが理解されていないように感じます。人的資本という考え方は昔からあり、最近ではESGといったトレンドに乗って脚光を浴びていますが、やはり基本に立ち返ってほしいと思います。

対談

リスキリングの究極は、リスキリングという言葉をなくすこと

油布:

さきほど田久保さんも仰っていましたが、生産性というキーワードもリスキリングの話でよく出てきます。リスキリングをすると生産性が高まると言われますが、本当にそうでしょうか。

田久保:

生産性を計算式にすると、インプットが分母で、アウトプットが分子です。そうすると、生産性を高める方法というのは、分母を小さくするか分子を大きくするかの2つだけです。このうち日本企業がよくやるのは、分母だけを小さくすることです。「残業を減らせ」だとか、「投入時間を短くしろ」ですね。だから、どんどんシュリンクしていくことになります。

 逆に、投入時間は同じでも、値段を2倍にできたら生産性は2倍になります。日本は「安くて良いもの」を追求する傾向が強すぎる。ある外資系のハイブランドに勤めていたグロービスの学生が、「私の会社では値段を上げる話はでても、値段を下げる話は聞いたことがない」と仰っていました。ブランド力を高めてそれだけの値段をつけることを日本はやってこなかった。また、たとえばDXで付加価値の高い商品を作り出すことができたら、それを高く売ればいい。残業が1.2倍になっても、値段が1.3倍になれば、生産性は上がります。結局、リスキリングで生産性を高めるには、分母を小さくして効率化するか、分子を大きくして付加価値を高めるか、そのどちらかなのです。それを一切やってこなかったのが、この失われた30年です。

油布:

分子を大きくするのにリスキリングが絡んでくるものなのでしょうか。

田久保:

それは、何を「”リ”スキリング」するかによります。何を新しいスキルとして獲得させ、何を付加価値として出せるように学ばせるか。たとえば、以前は時間をかけてエクセルのマクロを作っていましたが、最近では「こういう関数を作って」とChatGPTに入れると、その関数を作ってくれます。それで作業時間が3分の1になったとしたら、それは効率化ですよね。あるいは、ChatGPTと絡めて新しいサービスを生み出すことができて、今までの3倍課金できますとなったら、それは付加価値が上がることになります。でもこれは結局、ChatGPTをきちんと使いこなすスキルを持っていなければ、そうした発想もできないし使うこともできません。ですから、付加価値を上げる(分子を大きくする)ことにも、効率化する(分母を小さくする)ことにも、そのどちらにも関係するような気がします。

 また、今はDXにフォーカスが当たっていますが、リスキリングの方向性がデジタルだけである必要性はないと思います。たとえば、リスキリングで世界の大富豪が喜んで宿泊するような1泊100万円の旅館にふさわしいおもてなしサービスを作れたら、すごく生産性が上がりますよね。それまでが1泊10万円だとしたら、生産性は10倍です。他にも、たとえばグロービスの卒業生の1人に脱サラして1粒1,000円のイチゴ作りを始めた人がいますが、彼は仲間を増やすためにイチゴ作りの学校までつくりました。その結果、これまで都会で働いていたような人がイチゴ学校で学び、十分自分の人生が成り立つくらいのイチゴを作れるようになるのなら、これはこれで1つのリスキリングだと思います。

 ただ、一方で、もしかしたらこういう自発的なものは、リスキリングとは言わないのかもしれませんね。繰り返しになりますが、リスキリングというのは、大元の定義に戻れば会社、ひいては国家の戦略として、会社なり国なりが「やれ」と言ってやらせるものだと私は捉えています。でも、自らのキャリアを考えて「こうしたい!」というのは内発的に起こるものです。ですから、リスキリングと自発的動機に基づく学習欲求の話は分けて考えたほうがよさそうです。

油布:

内発的な欲求からの学びはリスキリングではないということでしょうか。

田久保:

言葉の定義の問題なので、どう定義するかですが、冒頭の話で言えば、若者がスキルアップするという話です。これはもう昔からそうですが、頑張る人は勝手に頑張る、という世界です。一方、リスキリングは、基本的には会社の成長や生き残りをかけた戦略です。まずはリスキリングの位置付けを明確にする。そのうえで、人事戦略の中心にリスキリングがあるということを社長が言い続ける。その本気さを従業員に理解してもらえたら、リスキリングに入る。もちろん、費用は会社が負担し、労働時間中にやります。

油布:

やはり、経営層、役員層がアップデートしている姿を見せることが大切ではないでしょうか。トップが率先して勉強している姿を見れば、従業員にも本気度が伝わるでしょう。その姿を見せなければ、「リスキリングだ!アップデートだ!と言っているあなたは何もしてないですよね」となってしまう。社員はそういうことを敏感に感じ取ります。

田久保:

そうですね。理想は、リスキリングと言わずしても、常にみんなが自分の能力を高めることが大事だと思うことでしょう。もしかしたら、リスキリングの究極は、リスキリングという言葉をなくすことかもしれません。

油布:

そうなると、人材開発のあり方も変わってくるような気がします。一律で行う新入社員研修や管理職研修は別にして、会社の戦略や発展の姿を理解した個人個人が自分たちでアップデートするということが、あるべき姿であるように思えます。

田久保:

一番良いのは、「学ぶ楽しさ」をきちんとインストールすることです。学ぶと成長でき、成果が上がるとか、レベルの高い議論ができるようになるとか、その結果いい友人ができるというサイクルが回りはじめれば、「次もやってみよう」「もっと高いレベルのことに挑戦しよう」と、1人でも学ぶようになります。その状態を作るのが、たぶん一番の成功だと思います。

対談

油布:

社員一人ひとりが学ぶ楽しさに気づいて、その効果を体感できると変わってきそうですね。また、そのような形が本来、教育のあるべき姿だと思います。そもそも教育は個人のやる気を引き出すものであるべきです。本日は楽しく意見交換ができました。ありがとうございました。