本連載は、日経産業新聞(2022年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
産官学が連携した米国コロラド州の取組み
スマートシティは、一過性の取組みではなく「街」づくりとして中長期的な都市機能や市民生活の向上を目指していくものです。
時代の流れとともに求められる都市の機能や課題が変化していくなか、スマートシティの社会実装には「柔軟に地域課題の解決に取り組む人材の育成」と「解決手段としての情報技術などの発展を促す環境の整備」が不可欠です。
この2つのポイントを押さえるうえで、大学の果たすべき役割は大きいと言えます。
2019年に文部科学省が公表した「大学を核としたスマートシティ創成について」では、スマートシティの創成・展開における大学の役割として、(1)最先端の情報科学などの研究の推進と社会実装(2)先進技術を活用し都市の課題を解決できる人材の育成を挙げています。地域差はありますが、2022年現在、スマートシティの取組みで大学のプレゼンスはある程度高まってきていると言えるでしょう。
岸田文雄政権が打ち出した「デジタル田園都市国家構想」では、大学がイノベーションの創出や事業推進などさまざまな役割を担います。ただ、起業家精神のある学生や大学発スタートアップの数が諸外国に比べて少ないなど、人材育成の観点ではさらなる施策が待たれる状況です。
大学と連携したスマートシティの海外事例の1つに、米国コロラド州デンバーでの取組みがあります。コロラド大学デンバー校と、官民連携組織「コロラド・スマートシティ・アライアンス」、同州で科学技術分野の起業を支援するインキュベーター(支援者)の「イノスフィア・ベンチャーズ」の三者が進めるものです。
同大学は学内のみならず地域経済全体の活性化やコミュニティの発展を目的とする「2030ストラテジックプラン」を策定し、オープンイノベーション区画の整備などコミュニティと一体となった街づくりを目標に掲げています。この計画に基づき、市も参画するコロラド・スマートシティ・アライアンスとの戦略的提携を結び、産官学が共鳴しあう「スマートシティエコシステム」の構築を目指しています。
2022年8月には同大学が開設を進める「スマートシティ・インキュベーター・アクセラレーター・プログラム」に、米商務省経済開発局による200万ドル規模の助成が採択されました。研究基盤や人材をもつ大学、官民が参画するスマートシティ推進組織、スタートアップ支援のノウハウをもつベンチャーキャピタル(VC)のパートナーシップにより、今後、スマートシティの各分野での起業やスタートアップの事業展開が加速していくことが見込まれます。
大学が街と一体となった発展目標を策定し、自治体・企業などと足並みを揃えて事業を推進し、VCと連携しながら課題解決に取り組む事業者の成長を支援していく、コロラド・デンバーの構図は、日本のスマートシティの取組みで大学が果たす役割の具体的な例として学ぶべき点が多いのではないでしょうか。
産官学連携のあるべき姿を各地域の関係者が模索していくなかで、地域の一員として大学がスマートシティの社会実装に深く関わり、研究機関・教育機関としての機能を強化し、地域にさらに貢献していく、という好循環が生まれていくことを期待します。
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日経産業新聞 2022年10月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日経産業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 石山 秀明