TNFD開示ベータ版フレームワークv0.3の解説

2022年11月、自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD) は自然関連のリスク・機会の管理と開示のためのベータ版フレームワークv0.3を公表しました。本記事ではv0.3の主要なアップデートを解説した上で、現在のフレームワークの開発状況の中で企業が取るべき行動について考察します。

2022年11月に公開されたTNFDのベータ版フレームワークv0.3について、主要なアップデートを解説し現在のフレームワークの開発状況の中で企業が取るべき行動について考察します。

概要

2022年11月に、自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD)は、自然関連のリスク・機会の管理と開示のためのベータ版フレームワークv0.3(以下、v0.3)を公表しました。TNFDは、気候変動と同様に、自然関連課題に関するリスク・機会を財務および事業上の決定に織り込むことを目指して設立された国際的なイニシアティブです(KPMGによるTNFD解説)。

2022年6月に公表されたv0.2は全世界で60,000回以上閲覧され、9月に設定されたコメント締め切り日までの約3ヵ月間で、475以上のフィードバックが寄せられました。日本は、英国に続いて2番目に多くのフィードバックを提供した国であると公表されており、TNFDの開発状況に対し、国内の市場関係者らの注目度が高いことがうかがえます。

今後TNFDは、2022年3月にv0.4をリリースし、その後の最終協議プロセスを経て、2023年9月にTNFDの最終勧告(v1.0)を発行する予定です。

大幅なアップデートが行われたTNFDフレームワークv0.3

本記事では、v0.3における3つの主要なアップデートに焦点を当てて解説します。

  1. TNFD提言の開示推奨項目の新設。社会的側面と気候変動に関する項目が新設された。
  2. シナリオ分析に関するディスカッションペーパーの公表。将来的な自然関連リスク・機会を考えるためのアプローチがTNFDによって考案された。
  3. LEAPアプローチに関するガイダンスの拡充。依存と影響の評価についてはより具体的なフレームワークが提供され、リスク・機会と目標設定に関しては方向性が示された。


ベータ版フレームワークv0.3での主要なアップデートの詳細はPDFからご確認いただけます。

いま、企業に求められる行動

TNFDフレームワークの成熟に伴って、企業が開示準備に取り掛かれる領域は広がってきました。しかしながら、自然資本の評価に関する方法論やツールはまだ開発の途上にあります。TNFDが提案するLEAPアプローチは普遍的な枠組みとして有用であるものの、セクター固有の特性や自然資本のタイプ(陸・淡水・海洋・大気)別のアプローチは現時点でカバーされていません。より質の高い分析を可能にするためのセクター別ガイダンスや方法論は、今後整理・公表されていく予定であり、企業はこうしたTNFDの開発状況を考慮しながら、開示準備を進める必要があります。

日本企業にとって自然関連リスク・機会の開示は新たな挑戦であり、TNFDは、各企業が5年以内でTNFD開示を完全に対応するスケジュールを想定しています。この長い旅に向けて今からスタートラインを切るならば、まずは事業活動と自然資本との関係の“全体像”を把握することが肝要です。例えば、自社にとっての「自然資本への依存・影響リスト」を整理しておくだけで、自然資本という複雑な課題が格段に考えやすくなります。それに加えて、TNFDにおいてはロケーションごとの分析がリスク・機会特定の前提となっていることから、トレーサビリティに課題のある企業は、自然関連リスクの高いコモディティ(例えば森林破壊の原因となりやすい牛肉、パーム油、大豆など)を中心に、原料調達地を把握しておくことも重要な基礎固めとなります。トップランナーを目指す企業は、特定の事業や製品にスコープを絞ったLEAPアプローチのパイロットテストを既に実施し始めていますが、上記のように、企業が今から取り組めるTNFD対応はさまざまに存在しています。

KPMGはTNFDフレームワークの開発を行うタスクフォースのメンバーであり、専門家の知見を活かした生物多様性・自然資本関連支援を行っています。支援サービスに関しては、「生物多様性に関する課題対応支援」をご覧ください。

執筆者

KPMGあずさサステナビリティ
シニアコンサルタント 伊藤 杏奈

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