自然と共生し成長する:TNFD開示フレームワーク ベータ版の公表

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が2022/3/15に公表した開示フレームワーク ベータ版v0.1について、KPMGは、解説レポート「TFNDベータ版 フレームワークの導入~取締役会や企業経営者は自然関連のリスクと機会について何をしるべきか~」を公表しました。

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が2022/3/15に公表した開示フレームワーク ベータ版v0.1について、KPMGは...

自然関連課題への認識

「自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD) 」は、企業が自然に与える影響や自然への依存に関する理解を促すことで、自然関連のリスクと機会の分析を企業経営や財務の意思決定の核心に組み込むことを目指しており、自然に害を与えるのではなく便益をもたらすアウトカムに向け、世界的な資本の流れを変えることを、最終的な目標としています。

私達は、自然は無償のものだと考えがちですが、そうではありません。

世界の経済的産出の半分以上が自然に依存しており、海洋、河川、湖、土地、大気、生物へのダメージや喪失には代償が伴います※1

自然の劣化と生物多様性の喪失は、資源、サプライチェーン、地域社会の豊かさに影響を及ぼし、資産と投資の価値を減少させ、多大なる財政リスクをもたらします。反対に、ネイチャー・ポジティブな(生物多様性の喪失を食い止めプラスに転じさせる)経済への移行は、約4億人の新たな雇用を創出し、年間事業価値10兆米ドルを生み出すと推定されています※2。投資家は、自身が抱えるエクスポージャーを特定し、資本の配分先を決定するために、自然関連リスクと機会をより深く理解したいと考えています。

※1 「Half of World’s GDP Moderately or Highly Dependent on Nature」世界経済フォーラム2020年1月19日
※2 「How our economy could become more 'nature-positive'」世界経済フォーラム2022年2月14日

自然関連財務情報開示タスクフォース (TNFD)は、世界の金融の流れを自然にとってマイナスの結果から自然にとってプラスの結果へのシフトさせることを最終的な目標として、企業が高まりゆく自然関連のリスクを開示し対応するための、統合的なリスク管理及び開示のフレームワークを開発・提供するために設立されました。

保有総資産18兆3000億米ドル超の34機関を代表するタスクフォース・メンバーが、TNFD共同議長と共にTNFDフレームワークの開発に取り組んでいます。また先進的な研究機関、基準設定機関、データプロバイダ等から、13名のナレッジパートナーがタスクフォースの開発作業に参与しています。そして、300を超える企業や団体がTNFDフォーラムに参加しタスクフォースの活動を支援しています。

TNFDは、高まる自然関連リスクについて企業が開示し対応できるよう、2023年中にフレームワークを提供する予定です。より良い情報により、金融機関や企業は自然に関連するリスクや機会を意思決定プロセスに組み込むことが可能になります。

TNFDイニシアチブは、グローバル・キャノピー、国連開発計画(UNDP)、 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、世界自然保護基金(WWF)が創設パートナーとなり、2020年9月に設立されました。その後、9か月の準備期間を経て2021年6月に正式に発足しました。TNFDは、英国、オーストラリア、スイス、オランダの各国政府、国連開発計画、地球環境ファシリティー (GEF) 、子ども投資基金 (CIFF) の資金提供を受けています。

TNFD開示フレームワークについて

TNFD は、気候変動と同様に自然関連課題に関してもその要素が財務および事業上の決定に織り込まれるべき、という気運の高まりに応えて設立されました。TNFDは、グローバルでの、市場主導による、科学的根拠に基づいた、政府支援によるイニシアチブです※3。しかし、世界共通の尺度として温室効果ガス換算の排出量で計測される気候変動とは違い、自然関連課題はより多面的であり、生物多様性の喪失は地域によって大きく異なります。

TNFDは2022年3月、事業と自然の関係についての対話を加速させるために、自然関連リスクの管理と開示フレームワークの初回ベータ版を公表しました。(日本語版Executive Summary含む)これはまだプロトタイプであり、完成されたフレームワークとしてのすべての側面を含んでいるわけではありませんが、企業、金融機関、資産運用会社、保険会社、投資家、アナリスト、規制当局、証券取引所、および市場サービスプロバイダーを含む幅広い市場関係者に、事業が自然に与える影響だけでなく、自然が事業に与える影響に関しても、よりよい理解を促すものとなっています。

自然に関連するリスクと機会を、どのように事業や投資の決定に織り込み、効果的に開示するかについての議論への関与を奨励しています。

開示フレームワークについて

TNFDフレームワークの初回ベータ版は、次の3つのコンポーネントで構成されています。

  • 広範な市場関係者による自然と自然関連のリスク・機会への理解を支援するための、科学的根拠に基づく重要な概念と定義を含む、基礎的なガイダンス
  • 気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) が作成した気候関連ガイダンスのアプローチと用語に沿った開示推奨事項
  • 自社の事業リスクやポートフォリオ管理プロセスに自然関連リスクと機会の分析を組み入れることを検討する企業や金融機関のための、実践的なガイダンス

3月に公開されたベータ版は作業文書であり、市場関係者との協議とパイロットテストからなる18ヵ月間におよぶプロセスの開始を意味します。

TNFDによると、ベータ版の後続バージョンは、2022年6月 (v 0.2) 、2022年10月 (v 0.3) 、2023年2月 (v 0.4) にそれぞれ公表される予定となっています。このプロセスは、2023年9月に予定されているTNFD提言 (v 1.0)の最終的な公表において集約されます。

最終的な目標は、世界的な資金の流れを、自然を支援し保護する (ネイチャー・ポジティブなアウトカムを促進する) 活動へと向かわせ、自然に害をなす活動から切り離す、その転換を支援することです。TNFDは、自然関連課題への理解を深め、企業のリスクと機会への理解を支援し、効果的な情報開示のガイダンスを提供することで、それを達成していくことが期待されます。

※3  Taskforce on Nature-related Financial Disclosures

2022/9/15に、TNFDベータ版フレームワークの解説レポートを追加しました。

既存のESG報告を補完する

サステナビリティとESG報告に関するグローバルな展望は急速に変化しています。報告フレームワークを取り巻く状況は既に複雑化していますが、その中で公表されたTNFDフレームワークの草案は、その複雑な状況においても重要な発展を示すものです。

TNFDは、ミッション・概念・構成において、気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) の取組みに倣っています。TCFDのイニシアチブにより、企業のレジリエンスと財務パフォーマンスにもたらされる気候変動の影響に関する理解と開示は大きく改善されました。TNFDは自然関連情報開示に同様の影響を与えることを目指しています。相互に整合性のある構造をもたせ、気候と自然に関連したリスクと機会の連携的な情報開示に向けて企業を支援することを通じて、この2つのフレームワークが補完しあうことが期待されます。

2021年11月の気候変動枠組み条約COP 26において、IFRS財団が基準設定団体である国際サステナビリティ基準審議会 (ISSB)を設立しました。TCFDは、その重要な先駆的存在です。ISSBの将来の基準はTCFDと整合性のある構造をとることが予想されており、それゆえに今回TNFDで草案されたフレームワークにも同じことが想定されます。TNFDが公開する情報は、ISSBが自然関連の情報開示に関する独自の基準を公表する前に、自然がどのように自社の事業に影響を与え、また自社の事業が自然にどのような影響を与えているかに関する開示に先行して取り組みたいと考える企業にとって有益なガイダンスとなるでしょう。

「自然資本」 の活用

私達はあまりにも長い間、ほぼ手遅れになるまで、自然の恩恵を当たり前のものと考え搾取してきました。自然は私達すべてにとって不可欠なものです。経済活動は、プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を越えて拡大することはできず、自然との調和の中で成長する必要があります。自然の喪失と気候変動は表裏一体であるため、気候に関する世界的な目標を達成するためにも、自然関連情報を事業や財務の意思決定に組み込むという変革が必要です。TNFDは、ネイチャー・ポジティブ経済を主流化することを目指しています。すなわち、金融の役割をより効果的かつ有意義に活用し、システミックな市場主導型フレームワークに自然の価値を組み込む、重要なグローバルイニシアティブです。企業と金融機関の皆様が、今回公表されたベータ版フレームワークを試し、フィードバックを提供して開発に貢献し、TNFDの発展を支えてくださることを、心より願っています。

最後に

投資家と規制当局における課題認識において、自然はより重要な位置を占めるようになっています。資本は、従来は貨幣によるもののみを意味すると考えられてきました。しかしながら、人々と経済にとっての価値を蓄え提供する役割を持つ資源ならびに資産こそが、資本であるといえます。自然資本とは、自然を伝統的な資本と同様に捉える考え方です。投資すれば価値を生み出し、劣化させれば価値が限定されてしまう。今こそ企業はこのコンセプトを受け入れ、TNFDの取組みに関与すべきです。

TNFDフレームワークは、バリュー・チェーンおよび投資ポートフォリオにおける自然関連リスクへのエクスポージャーを特定し、関連する開示を始めようとしている市場関係者を支援することを意図して開発されています。また(市場関係者が)、自然が与えてくれるビジネスモデル、サプライチェーン、製品およびサービスにおける変革や将来保証の機会を捉えること、指標、目標および内部報告プロセスを確立させることも目指しています。

新しいTNFDフレームワークを適用することによって、ユーザーは伝統的な意味での資本と同様に自然を評価し、また企業、資産運用会社および保険会社が自然に配慮したより良い意思決定をすることができます。ぜひ、TNFDフレームワークの開発にご参加ください。

本記事は、KPMG IMPACTのGrowing with natureの記事にKPMGオーストラリアが公開している、KPMG welcomes Taskforce on Nature-related Financial Disclosures Beta Framework releaseの記事の一部を追加しており、それら2つの記事の抄訳です。

執筆者

KPMGオーストラリア
KPMGインターナショナル 自然資本および生物多様性担当 グローバルリーダー
TNFDタスクフォースメンバー
ディレクター Carolin Leeshaa(キャロリン・リーシャ)

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