本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
スマートシティ推進の糸口となる3つのアイデア
これまで14回にわたり、スマートシティ3.0の最近の動向や課題を整理し解説してきました。また、前回はKPMGコンサルティングが提唱する「共鳴型町づくり」の取組みを紹介しました。市民目線でのスマートシティ推進、市民の理解を得た社会実装、データ利活用や持続的な運営などが、スマートシティの取組みの多くに共通する課題です。本連載の最終回にあたり、スマートシティ推進の糸口となる3つのアイデアを提案します。
まず1つ目は、“Quick Win(クイック・ウィン)”戦術です。スマートシティの取組みの多くは、社会課題解決を目的の1つとしていますが、実態は供給視点、技術視点のものが多く、市民の理解・共感を得ているとは言いがたい状況です。また、市民の漠然とした不安感が、データ利活用の障害となっている事例も見られます。これらを一気に解決することは困難ですが、まずは目に見える、わかりやすい成果を出し、少しずつ市民の理解を得ていくことが近道と考えます。クイック・ウィン戦術により、共感・共鳴する市民や企業を増やしていくことが、結果として市民目線でのアップグレードされた都市、スマートシティの実現への近道と言えます。
2つ目に“データ利活用による定量効果の可視化”です。最近のスマートシティの取組みでは都市OSやデータ連携基盤の活用が進んでいます。これは、都市活動・インフラに関連するさまざまなデータを取得して横断的に分析し、都市マネジメントに活用するというものです。しかし実際には、取組みの多くは一部領域での活用にとどまっています。数年先の都市全体のマネジメントへの展開のため、まずは、スマートシティ関連の計画立案、実証、その効果検証に焦点を当て、データを活用した定量的なシミュレーション、評価を行うことが、データ利活用の第一歩と考えます。
3つ目はアップグレードされた官民連携の枠組みでの推進です。人・モノ・金・情報の継続性を確保するとともに、クロスセクター効果による資金活用の効率化、中核人材とノウハウ・情報の継承・蓄積を目指す考え方です。具体的には、自治体と関連企業が共同で設立した新組織に資金と人材を集め、長期的なスマートシティ推進・マネジメントの中核を担わせるのです。
KPMGではこれを“デジタルPPP(官民パートナーシップ)”と呼び、一部の自治体で取組みを始めています。今後、デジタルPPPの主体となる推進組織が、クイック・ウィンとしてわかりやすい成果を出し、データを活用して定量的に示すことにより、スマートシティの取組みが加速されることに期待します。
日刊工業新聞 2022年8月26日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 馬場 功一