本連載は、日刊工業新聞(2022年5月~8月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
企業と共創していく「共鳴型町づくり」としてのスマートシティ
「スマートシティ」という言葉が「デジタルを活用した先進的な町づくり」を表す言葉として一般化されてきた昨今において、本当にそれを実現できている都市は、国内外を見渡してもまれと言えるでしょう。
政権交代などによりそのスタイルを変容させながらも継続して取り組んでいるケースもあれば、大々的に報じられたにもかかわらず頓挫したと言われるケースなど、依然として「スマートシティの完成形」は誰にもわからないままなのです。
このようななか、KPMGコンサルティングは1つ先を見据え、従来の枠にこだわらない新しいスマートシティモデルへの挑戦を始めています。市民が主役となるスマートシティ3.0の考え方をベースに、町づくりをさらに有機的かつ全体的にとらえ、デジタル以外のアナログ的な部分も含めて町づくりへの思いを持つ市民や自治体、企業と理想の町を共創していく「共鳴型町づくり」を実現すべく、準備を進めています。
共鳴型町づくりの実現のためには、従来どおりのスマートシティのノウハウだけでなく、メタバース(仮想空間)や人工知能(AI)、Web3.0などの先進テクノロジーの積極的な活用のほか、社会課題解決に熱意を持っているベンチャーやサービス企業とのエコシステムの形成、未来の主役になるZ世代やアルファ世代の取り込みが重要になってきます。
さらに、この多様なステークホルダーとのつながりを安全なものとするガバナンスやデータマネジメントといった未来の町に求められるリスク管理機能の実装など、あらゆるチャレンジが必要となります。
これは同時に、スマートシティにかかわるすべての企業にとって従来の公共、都市ビジネスへの向き合い方の変革を迫るものとなります。これまでのような契約単位の近視眼的な関係ではなく、共通の目的を達成するためのパートナーとして地域に根差すことが必要不可欠であり、場合によってはドネーションやインベストメントなど、企業側が負担して町づくりをリードすることも求められるのです。
自治体側からみれば市民との協働に加え、社会貢献という企業倫理的な観点だけではなく長期的なビジネスとして取り組む視座と計画性を持ち合わせた「共鳴」パートナーを見つけることも、これからの町づくり、共鳴型町づくりへの重要な出発点となると言えるでしょう。
日刊工業新聞 2022年8月19日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 三村 雄介