会計制度委員会研究資料7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」の解説

旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年8月20日・9月1日合併号に「会計制度委員会研究資料7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」の解説」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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この記事は、「旬刊経理情報2022年8月20日・9月1日合併号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

ポイント

  • クラウドを通じてサービス提供を行うソフトウェアは自社利用のソフトウェアに区分される場合が多い。一方、ライセンス販売による場合は、市場販売目的のソフトウェアとして区分される。ソフトウェアの区分によるソフトウェアの制作費の会計処理の定めが実態に合っているか検討する必要がある。
  • クラウドを通じてサービス提供を行うソフトウェアのユーザーにおける導入費用は、実務上、一時に費用処理する場合と利用期間で費用処理する場合があると考えられる。導入時の支払額についての会計処理の考え方を明確にする必要がある。
  • これらの課題への対応として、現状のデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速化に対応したソフトウェアに係る会計基準の開発が望ましい。

1.はじめに

日本公認会計士協会は、2022年6月30日、会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」(以下、「本研究資料」という)を公表した。

本研究資料は、ソフトウェアやゲームソフトの制作費に係る会計処理および開示について、日本公認会計士協会における調査・研究の結果およびこれを踏まえた公表時点における考え方を取りまとめたものである。あくまで一つの考え方に過ぎず、実務上の指針として位置づけられるものではない。

本稿では、本研究資料の概要について解説する。なお、文中、意見に関する部分は、筆者の個人的見解であることを申し添える。

2.検討の経緯および本研究資料の対象範囲

(1)本研究資料の検討の経緯および目的

ソフトウェアの制作費に関しては、1998年3月公表の企業会計審議会による「研究開発費等に係る会計基準」(以下、「研究開発費等会計基準」という)と1999年3月公表の日本公認会計士協会による会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(以下、「研究開発費等実務指針という」)等において定めがある。これらの会計基準等の公表から20年以上経過しており、情報技術の進展やIT環境における変革により、会計基準等の設定時に想定されていないソフトウェアおよびその周辺の取引に関して多様な実務が生じている。しかし、これに対応した改正は行われてきていないものと考えられる。

このため、本研究資料は、実態調査を踏まえ、ソフトウェアおよびその周辺の取引に関して、研究開発費等会計基準、研究開発費等実務指針および「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」で示されていないものについて、実務上の課題を抽出し、会計処理にあたり一定の指針となる考え方を示す会計基準の開発に資することを目的としている。

(2)対象範囲

本研究資料の検討対象は以下のとおりである。

  • ソフトウェア等に関する会計処理の基準比較
  • クラウドサービスのベンダーの会計処理
  • クラウドサービスのユーザーの会計処理
  • コンピューターゲームの制作費用の会計処理


クラウドサービスのベンダーの収益に関する事項は、企業会計基準29号「収益認識に関する会計基準」が本研究資料の公表時点においては適用してから間もないため、検討対象外である。また、ベンダーにおけるリース取引に関する事項は、企業会計基準委員会(ASBJ)においてリース会計基準を現在開発中のため、検討対象外である。

なお、クラウドサービスのベンダーの会計処理については、ソフトウェアの受注制作や市場販売とは異なるソフトウェアの提供形態であるSaaS(Software as a Service定義は後述)を検討対象としている。

3.ソフトウェア関連取引(クラウド・コンピューティング)の概要

クラウド・コンピューティングとは、「共有化されたコンピュータリソース(サーバー、ストレージ、アプリケーションなど)について、利用者の要求に応じて適宜・適切に配分し、ネットワークを通じて提供することを可能とする情報処理形態。ネットワークサービスの一つ」(「クラウドサービス利用のための情報セキュリティマネジメントガイドライン」2013年度版(経済産業省))と定義されている。クラウドサービスとは、クラウド・コンピューティングの形態で提供されるサービスであり、その分類は図表1のとおりである。
 

図表1 クラウド・コンピューティングのサービスによる分類

クラウドサービスの分類 サービスの内容
SaaS
(Software as a Service)
ネットワークを介して、ソフトウェアの機能を提供するもの
PaaS
(Platform as a Service)
ネットワークを介して、オペレーティングシステム、データベース、アプリケーションの実行環境や開発環境を提供するもの
IaaS
(Infrastructure as a Service)
ネットワークを介して、CPU、メモリ、ストレージなどハードウェアのリソースを提供するもの

(出所) 本研究資料図表2をもとに筆者作成

また、クラウド・コンピューティングの実装方法により、プライベートクラウド(単一の組織専用)、コミュニティクラウド(特定利用者の共同体の専用)、パブリッククラウド(一般利用者向け)、ハイブリッドクラウド(プライベート、コミュニティ、またはパブリックの組み合わせ)として分類される場合もある。

4.SaaSのベンダーの会計処理

(1)わが国の会計基準等におけるソフトウェア制作費の会計処理

制作目的別に、販売目的のソフトウェア(さらに受注制作のソフトウェアと市場販売目的のソフトウェアに区分)と自社利用のソフトウェアとに区分し、それぞれの会計処理が規定されている(図表2)。
 

図表2 市場販売目的のソフトウェアと自社利用のソフトウェアの主な会計処理の比較

  市場販売目的 自社利用
資産化の開始時点 最初に製品化された製品マスターの完成時点 将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる状況になった時点
費用処理方法 見込販売収益又は見込販売数量に基づく償却 一般的には定額法。ただし、各企業がその利用実態に応じて見込販売収益に基づく方法等合理的な方法を採用する。
減損会計 減損会計の対象外
(別途減損に類似した処理あり)
減損会計の対象
償却期間 原則3年以内 原則5年以内

(出所) 本研究資料図表7をもとに筆者作成

(2)国際的な会計基準との比較および会計と税務の比較

ソフトウェア等に係る会計処理については、IFRS®基準(以下、「IFRS基準」という)はソフトウェア制作費として個別的に会計処理を定めておらず、IAS第38号「無形資産」の研究費および開発費の取扱いに従う。一方、わが国の研究開発等会計基準はソフトウェア制作費として個別的に会計処理を定めている米国会計基準の体系に近いともいえる。主要なソフトウェア制作費の処理に係る3基準比較およびわが国における会計と税務の取扱いの比較は図表3および図表4のとおりである。
 

図表3 ソフトウェア制作費に係る3基準比較(日本基準は会計と税務)1

  日本基準 IFRS基準 米国基準
市場販売目的ソフトウェア 製品マスターの制作費は研究開発部分を除き、資産計上。 ソフトウェアに係る研究・開発費に関して個別の規定はなし。
内部で生成された無形資産の一般原則に基づくため、自己創設の無形資産の認識規準を満たした日以降に発生する支出を資産化する。
技術上の実行可能性の確立後に発生した製品マスターの制作コストは資産計上。
技術上の実行可能性は、機能、特性および技術上の性能要件を含めた設計仕様を満たすように製品が製造されるために必要な計画、設計、コーディングおよびテスト活動のすべてが終了した際に確立される。
自社利用ソフトウェア 将来の収益獲得または費用削減が確実であればソフトウェアの制作費用を資産計上。 同上 内部利用ソフトウェアの開発プロジェクトは初期プロジェクト段階、アプリケーション開発段階、導入・活動後段階に区分される。
初期プロジェクト段階および導入・活動後段階で発生した費用は発生時に費用処理。
アプリケーション開発段階における発生費用は資産計上。

(出所)本研究資料図表5をもとに筆者作成

1 参考文献「表解 IFRS・日本・米国基準の徹底比較」有限責任監査法人トーマツ(中央経済社、2021年)
(株)中央経済社、「研究開発税制の概要と令和3年度税制改正について」2.令和3年度税制改正概要(経済産業省産業技術環境局技術振興・大学連携推進課)


図表4 日本の税務 2

市場販売目的ソフトウェア 完成品となるまでの間に製品マスターに要した改良または強化に係る費用の額は、当該ソフトウェアの取得価額に算入。
研究開発費はソフトウェアの取得原価に算入しないことができる。
自社利用ソフトウェア ソフトウェアの利用により将来の収益獲得または費用削減に確実につながらないことが明らかな場合以外は資産計上。

(出所)本研究資料図表6をもとに筆者作成

2 参考「研究開発税制の概要と令和3年度税制改正について」2.令和3年度税制改正概要(経済産業省産業技術環境局技術振興・大学連携推進課)

(3)実務の調査の内容と認識された課題

本研究資料においては、現行の実務を把握するために、有価証券報告書の「事業の内容」において「SaaS」という用語を使用している企業を対象として監査人にアンケートを実施した。汎用的なソフトウェアをSaaSにより提供していると回答のあった26社のソフトウェアの取扱いを集計した結果、サービス提供のためのソフトウェアの分類は、自社利用16社、市場販売目的1社、資産計上なし9社であった。

資産計上している企業のなかにも、研究開発費との制作原価の区分方法、償却の方法および期間には多様性があった。

自社利用に区分する企業が多い理由は、研究開発費等会計基準において、「ソフトウェアを用いて外部へ業務処理等のサービスを提供する契約等が締結されている場合のように、その提供により将来の収益獲得が確実であると認められる場合」は自社利用に区分することとされているためと考えられる。しかし、基準設定時において、顧客に対してソフトウェアの機能そのものをサービスとして提供して収益を獲得するような取引は、必ずしも想定されていなかったものと考えられる。アンケートの回答において、クラウド関連のソフトウェアの開発では、特にアジャイル開発のように機能単位の小さなサイクルで、計画から設計・開発・テストまでの工程を繰り返すことにより開発を行うケースが多く、開発単位での収支を把握することが困難であり、ソフトウェアの資産計上の判断が困難であるとの意見もあった。

また、業界団体に属する企業の方々にもヒアリングを行った。

これらの結果、本研究資料では、次の課題を認識している。

  • SaaS取引のように、研究開発費等会計基準の設定後に新たに生じた取引については、どのように会計処理すべきかが必ずしも明らかではない。そのため、ソフトウェアとしての資産計上の要否や、ソフトウェアとして資産計上する場合の区分、資産計上の開始時点、資産計上したソフトウェアの償却方法や償却期間等の判断に困難を伴っている。
  • 自社利用のソフトウェアと市場販売目的のソフトウェアの両者の区分や、収益獲得を目的とするソフトウェアを自社利用のソフトウェアとして分類した場合におけるソフトウェアの資産計上の開始時点の取扱いは現行のソフトウェア実務に合わない可能性がある。

5.SaaSのユーザーの会計処理

(1)わが国の会計基準等の扱い

クラウドサービスのユーザー側の会計処理について、現行の会計基準の体系のなかでは明確な規定は設けられていない。そのため、ユーザーがサービスの提供を受けることに対して継続的に支払う費用およびユーザーが支払う初期設定費用やカスタマイズ費用の会計処理が検討対象となる。

(2)現行の実務上の課題

  1. サービス利用料
    ユーザーにおいては、サービスの利用に応じて利用料を定期的に支払う形態が一般的であり、サービス利用料は、その発生に応じて費用処理することになると考えられる。なお、SaaSの利用に際して支払う利用料がリースに該当するかについては論点がある。

  2. 初期設定費用や自社向けのカスタマイズ費用
    初期設定費用やカスタマイズ費用が、月次のサービス利用料に含めて請求されているようなケースでは、適切に区分した上で、それぞれについてその実態に応じて適切な会計処理を行う必要がある。

    通常の自社利用のソフトウェアにおいては、研究開発費等実務指針において、ソフトウェア本体の購入代価の他、初期設定費用や自社向けにカスタマイズした費用についてもソフトウェアの取得価額に含めることとされている。これに対して、SaaSにおいては、ベンダーがソフトウェアを保有しており、ユーザーはソフトウェアがオフバランスとなっていることから、ユーザーが導入に際して初期設定費用を支払う場合やユーザー向けにカスタマイズした費用を支払う場合の会計処理が論点となる。

    ユーザーはソフトウェアに対する支配を有していないこと、会計基準上の明示的な規定がないため自社のソフトウェアとして計上することは難しいことから、支払時に一時に費用計上することが考えられる。

    なお、初期設定費用等は、資産性の要件を満たす可能性がある場合もあるとも考えられるが、資産計上するにあたっての会計基準の明示的な規定はない。また、わが国においては、無形固定資産に係る包括的な会計基準がなく、現行の会計基準のもとでは、無形固定資産に計上できるものと明確に判断することは難しい可能性がある。初期設定費用等が、SaaSに係る原契約の適用期間にわたって継続してサービスの提供を受けるものに対する費用が含まれていると考えられる場合、その部分は(長期)前払費用に該当する可能性があると考えられる。ただし、実際には、費用の性質が必ずしも判然としないケースがあり、何に対する費用であるかの判断が今後の課題となる。

    会計処理の検討にあたっては、国際的な会計基準における規定や取扱いとの整合性を図っていく必要があると考えられる。

(3)国際的な会計基準との比較

クラウド・コンピューティング契約のユーザーに係る会計処理については、IFRS解釈指針委員会の取扱いがある。また、米国基準については、ASU(会計基準アップデート)が公表されている。これらの国際的な基準との比較は図表5のとおりである。

図表5 クラウド・コンピューティング契約のユーザーに係る会計処理の3基準比較

  日本基準 IFRS基準 米国基準
クラウド・コンピューティング契約のサービスの受手の処理 (会計)
特になし。(※)
契約にリース、無形資産を含まない場合、サービス契約として処理。
導入費用は無形資産の定義を満たすか判断。
無形資産の定義を満たさない場合、導入サービスとソフトウェアへのアクセスする権利が別個のサービスか判断。
別個の場合、サプライヤーの導入サービス提供時に費用処理。
別個ではない場合、サプライヤーが契約期間にわたりソフトウェアへのアクセスを提供する時点で費用認識。
クラウド・コンピューティングに係る取引がソフトウェア・ライセンスの使用を含む場合、顧客はそのライセンスの要素を内部利用ソフトウェア・ライセンスに係る要求事項と同様に処理。ソフトウェア・ライセンスの使用を含まない場合はサービス契約として処理。
サービス契約とみなされるクラウド・コンピューティングに関連する導入コストの会計処理について、内部利用目的のソフトウェアを取得または開発する場合に適用する既存の要求事項と同様の要求事項を適用。

※税務上の取扱い

(4)今後検討すべき課題

クラウドサービスのユーザーにおいては、初期設定費用等の資産化の可否について会計処理が実務上論点となることが多い。実務上は長期前払費用として計上しているケースがあると考えられるが、企業間によって処理が異なることがないよう、資産性の要件などを明確化していく必要がある。

6.コンピューターゲームの制作費用

(1)会計基準等の扱い

コンピューターゲームは、ソフトウェアとコンテンツが複雑に結合された製品という特性がある。本研究資料は、コンテンツの会計処理そのものについて直接的に取り上げることはせず、ソフトウェアの会計処理に主眼を置いて検討を行っている。

コンピューターゲームの制作に係る会計処理は、IFRS基準においてはIAS第38号「無形資産」、わが国の会計基準においては研究開発費等会計基準等に基づき取り扱われるが、それぞれの会計基準において、コンピューターゲーム特有の特性等を踏まえた具体的な会計上の取扱いを明示する体系はないものと考えられる。

(2)調査内容と結果

本研究資料において、コンピューターゲーム開発業を主要な事業としている19社を対象として監査人にソフトウェア資産の取扱いについてアンケートを実施した。その結果、貸借対照表上の科目を確認したところ、無形固定資産7社、流動資産6社、無形固定資産および流動資産2社、資産計上なし4社であった。

無形固定資産に計上している根拠は、ゲーム上の仮想空間に関わるプログラムをユーザーに利用させるSaaSに相当するサービスの形態であるため、自社利用のソフトウェアとして位置づけられるとの考えに基づくことなどであった。

流動資産に計上している根拠には、コンピューターゲームはプログラムとコンテンツが複合したものであるが、開発費用におけるコンテンツ開発のためのコストの比率が非常に高く、全体としてコンテンツとしての性格を有すると考えられることなどがあった。

(3)現状の課題

現状、研究開発費等実務指針などの規定を基礎として各社が実態に応じた会計処理を選択適用している状況である。このため、ゲーム開発費に関する資産計上の開始時期、償却開始時期、償却方法、貸借対照表上の表示科目等に多様性がある。実務上、多様な会計処理の選択が可能となっている現状において、コンピューターゲームに関する無形資産の会計処理に関する会計方針の開示の取扱いが明確ではない。

7.実務上の課題とそれを踏まえた提言

(1)本研究報告において認識した実務上の課題

  1. 市場販売目的ソフトウェアと自社利用ソフトウェアの区分
    実務上、クラウドを通じて不特定多数の利用者に向けてサービス提供を行うソフトウェアは、自社利用のソフトウェアに区分されているものと考えられる。そのため、ソフトウェアのライセンスの販売とクラウドを通じてソフトウェアを不特定多数の利用者に利用させるサービス提供は、契約形態が異なることにより前者は市場販売目的のソフトウェア、後者は自社利用のソフトウェアと会計処理が大きく異なることとなり、実態が大きく異ならないサービス提供に係る制作費が異なる会計処理となる懸念がある。市場販売目的のソフトウェアとして区分すべきものについての考え方を明確にする必要がある。

  2. ソフトウェアの区分に基づく会計処理の相違による問題点
    クラウドを通じてサービス提供を行うソフトウェアが、自社利用のソフトウェアに区分される場合、市場販売目的のソフトウェアの取扱いを参照したほうが実態に合う場合もある。一方、ソフトウェアのライセンス販売は、市場販売目的のソフトウェアではなく自社利用のソフトウェアとして取り扱うほうが実態に合うとも考えられる。ソフトウェアの収益認識との関係も考慮し、ソフトウェアの区分によるソフトウェアの制作費の会計処理の定めが実態に合っているか検討する必要がある。

  3. ソフトウェア制作費の資産計上要件
    自社利用ソフトウェアの制作費の資産計上要件は、将来の収益獲得または費用削減が確実であることとされているのみである。そのため、同様の形態でサービスを提供するソフトウェアの制作費の資産計上要件が各社の判断に依拠し、資産計上の要否および開始時点の判断が異なる可能性がある。資産計上の開始時点の判断に関するガイダンスが必要である。

  4. クラウドを通じてソフトウェアを利用するサービスを受ける場合の処理
    導入時に支払う導入初期費用は、実務上、一時に費用処理する場合と利用期間で費用処理する場合があると考えられる。導入時の支払額についての会計処理の考え方を明確にする必要がある。

  5. コンピューターゲーム・ソフトウェア制作費
    ソフトウェアとコンテンツは、別個のものとして会計処理する場合、コンピューターゲームの動作を制御するプログラム部分についてはソフトウェアとして処理することになる。オンラインを通じてゲームサービスを提供するサービスの場合、クラウドサービスのベンダーと同様の論点があるものと考えられる。

(2)今後の取扱いの明確化に向けての提言

実務上の課題に対応するためには研究開発費等会計基準と研究開発費等実務指針からソフトウェアに関する取扱いを切り出して、現状のDXの加速化に対応したソフトウェアに係る会計基準を開発することが望ましいものと考えられる。現状普及しているクラウドを通じてサービス提供するソフトウェアに関連する取引について、同一の経済実態に対して同一の会計処理を行うことが可能となる指針が示されることで、財務諸表利用者の理解可能性も向上するものと考えられる。

また、会計基準のなかでDXの加速化に対応したソフトウェアに関連する取引に関する基本的な考え方を整理しておくことが望ましいと考えられる。これらの検討をするうえで、国際的な会計基準の考え方が参考になるものと考えられる。将来の国際的な会計基準の検討の方向性や開発動向も踏まえたうえで、わが国における現状のデジタル化に対応したソフトウェアに係る会計基準を開発することで、国際的な会計基準の動向と乖離することにもならないものと考えられる 。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部 公認会計士
波多野 直子(はたの なおこ)

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