KPMGの「日本企業の不正に関する実態調査」は、2006年に実施した第1回から数えて今回で7回目となります。
前回調査の2018年以降、日本企業をとりまく環境は劇的に変化しました。長期化する新型コロナウイルス感染症や大国による軍事侵攻などにより、日本企業は事業ポートフォリオやサプライチェーンに関する戦略の見直しを余儀なくされています。また、ステークホルダーからは、ESGへの積極的な対応を求める圧力が年々増していることもあり、旧来の経営体制を変革できない企業は、市場における存在意義すら問われる時代に突入しています。さらにその変革の成否を決定づける重要要素となりうるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)であり、現在、多くの日本企業が取組みを進めていると考えられます。
今回の調査は、過去から実施している調査項目に関して定点観測を継続すると同時に、新型コロナウイルス感染症、ESG 、DXが不正の発生および対策の増加に何らかの影響を与えているという仮説に基づいて関連する質問項目を新設し、各領域からみた日本企業の不正リスクに対する意識の変化と取組みの状況をご回答頂きました。具体的には、新型コロナウイルス感染症が経営管理活動に与えた影響と不正リスクに対する意識の変化、DXの進展による不正リスクに対する意識への影響、ESGのうちガバナンス(不正リスク)への意識の度合いについて新たに質問を設けました。
さらに、前回同様、上場企業に対する書面アンケートに加え、企業においてリスク管理に従事されている方々や、不正調査に従事した経験が豊富な弁護士・公認会計士に加え、ESGの知見が豊富な弁護士にも同様のインタビューを実施し、本報告書に有識者コメントとして付記しました。
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Executive Summary/調査の実施概要
分析結果から見える重要なポイント
PART 01 不正の発生状況
直近3年間における上場企業の不正の発生割合は4社に1社となり、前回調査と比較して減少した。
直近3年間で不正が発生したと回答した上場企業の割合は、24%(578社中137社)と、前回調査(32%)よりも8ポイント低下した。企業グループ種類別に見ると、不正が発生したと回答した企業割合の減少幅は、親会社単体(回答企業)よりも国内外の子会社の方が大きかった。
これは、不正の発生自体が減少したというよりも、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)」の影響を受けて監視機能が低下した事業拠点等で不正が発見され難くなったことを示唆している可能性がある。
発生した不正の内容は着服または横流しが最も多く、前回調査と同様の傾向であった。
不正の内容は、前回調査と同様、「金銭・物品の着服または横流し」が最も多く、直近3年間で不正が発生した企業の概ね7割で発生している。次いで、「粉飾決算等の会計不正」「水増し発注等によるキックバックの受領」の回答が多くなっている。これらの回答状況は、前回調査と同様の傾向であった。
PART 02 不正リスクに対する意識変化
新型コロナの発生前後で不正リスクが増大したと回答した企業では、対面の減少による牽制機能の低下や内部監査の質の低下に不安を抱く傾向がみられた。
約4社に1社の割合で、新型コロナ発生後に不正リスクが「増大した」または「どちらかといえば増大した」と回答している。不正リスクが増大したと回答した理由としては、「リモートワークが増大したことにより、直接的な牽制機能や対面での相互チェック・監査機能が低下」、「各拠点や子会社等に訪問・往査できなくなり、内部監査による牽制機能が低下」との回答割合がそれぞれ71%、61%と高く、対面の機会が減少したことにより、直接的な牽制機能が働かなくなったことを挙げる企業が多かった。
今後注力していきたい施策として、行動規範等の整備やグループガバナンスの高度化に高い関心が寄せられている。
今後、不正の予防・早期発見に向けて注力していきたい施策として、「行動規範等の基準の整備・見直し・周知の再強化」「海外を含むグループガバナンスの高度化」を挙げる企業が多かった。また、不正発生の根本原因として「行動規範等の未整備または不徹底」を挙げる企業も高い割合で見受けられることから、内部統制の基礎となる体制整備が不十分であると認識している企業が少なくないことがうかがえる。
「リモートワーク環境下を前提とした内部監査の導入またはその高度化」、「決算データなどを積極的に活用したモニタリング機能の向上」を回答として挙げた割合はそれぞれ31%、30%に上っており、リモートワーク環境下を前提とした内部監査やデータ分析の実施にも高い関心が寄せられている。
PART 03 DX化と不正リスク
9割以上の企業がITデータの分析の高度化に関心を示しているものの、具体的な取組みに至っている企業はわずかである。
9割以上の企業が、不正リスク検知を目的としたITデータ分析の高度化に関心を抱いてはいるものの、「すでに取り組んでいる」と回答した企業の割合は16%にとどまっており、まだ多くの企業において取組みが進んでいない状況がうかがえる。その背景として、「高度なITの知見を有する人材が不足している」と回答した企業の割合は53%であった。
PART 04 ESGへの関心
9割以上の経営陣が、ESGに関心がある一方で、企業不正の予防・早期発見やリスク・コンプライアンス管理体制の強化に関心があると回答した企業は相対的に少なかった。
自社の経営者がESG経営について「関心がある」「どちらかというと関心がある」と回答した企業の割合は9割以上であり、連結売上高が大きい企業ほど関心が高くなる傾向がみられた。ガバナンス(G)に関する具体的な関心分野として、「コーポレートガバナンスの制度改革や子会社ガバナンスの強化」を選択した企業の割合は47%に及んだが、「会計不正・品質不正・贈収賄・汚職などの企業不正の予防・早期発見」や「グローバルに通用するコンプライアンスやリスク管理体制の強化」を選択した企業の割合は、それぞれ19%、16%にとどまった。
PART 05 品質不正
品質不正が発生すると考えられる要因として、「品質管理・品質保証等に対する経営資源(ヒト・モノ・カネ)の投入が不十分」を挙げた企業が最も多かった。
品質不正が発生すると考えられる要因として、「品質管理・品質保証等に対する経営資源(ヒト・モノ・カネ)の投入が不十分」を挙げた回答の割合が53%で最も多かった。次いで「内部牽制機能・職務分掌が未確立、人事の固定化・業務の属人化」や、「顧客要求に基づく無理なスペック・納期での受注」を挙げた企業が38%、37%と多かった。前回調査において、収益追求・コスト削減が優先され、品質保証の確保が後回しになっていることが主な要因として考えられていたが、今回調査においても日本企業が引き続き同様の問題意識を有している状況がうかがえる。
品質不正が発生する他の要因として、「品質管理・品質保証部門の権限・機能が弱い」を挙げた回答が33%と多かった。この回答結果からは、企業内における品質保証部門の重要性が、組織の上流にあたる設計・開発部門よりも相対的に低いと捉えられている傾向が読み取れる。
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