2022年3月期有価証券報告書における監査役会等の実効性評価の開示分析

2022年3月期の有価証券報告書において監査役会等の実効性評価に言及する62社の開示分析を行いました。

2022年3月期の有価証券報告書において監査役会等の実効性評価に言及する62社の開示分析を行いました。

2015年にコーポレートガバナンス・コードが策定され、その後の改訂に呼応するように、日本におけるコーポレートガバナンスは深化を続けています。東京証券取引所が定めるコーポレートガバナンス・コードでは、補充原則4-11(3)において、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果を開示することが求められています。一方で、監査役会、監査等委員会または監査委員会(以下、これらを総称して「監査役会等」という)の実効性評価については、コーポレートガバナンス・コードでは明確な規定はありません。

しかしながら、2019年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令の改正により、有価証券報告書における「監査役会等の活動状況の開示」が義務付けられました。これには、監査役会等が実効性を維持し、より効率的かつ効果的に責務を遂行するだけでなく、その状況を外部に適切に示すことが求められた背景があり、監査役会等の実効性評価を開示することはその目的に適う情報開示であると考えられます。

そこで、前年度に引き続き、KPMGジャパンでは、2021年4月1日から2022年3月31日に終了した事業年度に係る有価証券報告書における監査役会等の実効性評価に関する開示状況を分析しました。

調査の方法

日本の上場企業が発行した2021年4月1日から2022年3月31日に終了した事業年度に係る有価証券報告書における「コーポレート・ガバナンスの状況等」のセクションにて、監査役会等の実効性評価に言及した企業を抽出し、該当した62社について、その開示内容を分析しました。

監査役会等の実効性評価に言及した企業の内訳

2022年3月期の有価証券報告書において監査役会等の実効性評価に言及した企業は62社となり、前年の50社から12社増加していました(新たに言及した企業21社、前年は言及があったものの、今回言及しなくなった企業9社)。これら62社を、ガバナンス形態別にみると、監査役会設置会社が最も多く44社(71%)、次いで監査等委員会設置会社が15社(24%)、指名委員会等設置会社が3社(5%)でした。割合でみれば、昨年と比較して大きな変化はみられません。また、これは、東京証券取引所に上場する企業全体のガバナンス形態の選択割合が、監査役会設置会社が67.9%、監査等委員会設置会社が30.1%、指名委員会等設置会社が2.1%という状況※1から大きく乖離していないため、特定のガバナンス形態の企業の開示割合が突出している訳ではないと考えます。

※1 東京証券取引所「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書2021」(隔年で発刊)

開示企業のガバナンス形態別の内訳

開示企業のガバナンス形態別の内訳

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業 (KPMG調べ)
2021年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
2022年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

また、業種別の内訳をみると、どの業界も開示企業の割合は9%以下でした。現状では、まだ取組みの進んだ業界があるというわけではないことがわかります。

開示企業の業種別の内訳

開示企業の業種別の内訳

N=62社 2022年3月期またはそれ以前の直近の有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会、監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)

監査役会等の実効性評価に関する開示の内容

監査役会等の実効性評価の開示内容をみると、評価を実施した事実のみに触れている企業が大半であり、評価の方法、評価項目、評価の結果や、結果として認識した課題等に踏み込んで記載されている割合はまだ多くはないことがわかりました。

まずは評価の実施頻度については、具体的な記載がない企業が33社(53%)と最も多い結果となりました。一方で、実施頻度に言及しているのは29社(47%)であり、そのすべてが「年次」と記載していました。

評価の実施頻度

評価の実施頻度

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)
2021年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
2022年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

評価の方法については、記載のある企業が36社(58%)と記載のない企業が26社(42%)を逆転した結果となりました。記載のあった評価方法の中では、最も多かったのがアンケートの17社(27%)、次いで自己評価が11社(18%)、複数の方法の組合せが4社(6%)、ディスカッションが4社(6%)でした。アンケートが最も多かったこと、また複数の方法の組合せの内容を見ても、アンケートとその他の方法を組み合わせる企業が多いことから、まずはアンケートを通じて、情報の匿名性を保ちつつ、効率的に意見聴取する手法が主流となっていることがわかります。なお、今期は、各監査役等が自由に意見を表明するディスカッション形式にて評価を行う企業が新たにみられ、4社となりました。

評価の方法

評価の方法

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)
2021年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
2022年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

また、評価に際して、社外の第三者である専門家を活用している旨に言及があったのは1社(2%)と僅かでした。第三者である専門家の利用は、評価の客観性を向上させる観点から有効であると考えられますが、監査役会等の実効性評価においては、取り入れている企業が少なく、2021年3月期からさらに減少している状況でした。

評価の方法(第三者の利用)

評価の方法(第三者の利用)

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)
2021年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
2022年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

実効性評価をどのような観点で実施したのかについて、「評価項目」を記載して示す企業も合計10社と少なく、別紙へのリンクを提示し、詳細を説明していた企業はそのうち1社という結果でした。評価項目として取り上げられていた内容を見ると、会計監査人との連携、監査役会の運営などが挙げられており、まさに監査役会等の実効性に直結する項目について評価がされていることがわかります。

評価の項目

評価の項目

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)
21年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
22年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

評価の具体的な結果は、記載のない企業が36社(58%)と最も多い結果でした。具体的な結果に言及した26社については、「実効性が確保されている」、「有効に機能している」といった表現の差はあるものの、監査役会等の実効性が確認された旨を記載していました。

評価の結果

評価の結果

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)
2021年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
2022年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

評価の結果 その2

N=62社 22年3月期またはそれ以前の直近の有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)

評価の結果として認識した課題を示していた企業は14社(23%)と少なく、別紙へのリンクを提示し、詳細を説明していた企業はそのうち1社という結果でした。認識された課題を示すことで、実効性評価の実施がどのような改善に繋がっていくかを説明できれば、さらに有益な情報提供に繋がると考えます。また、認識された課題としては、グループ監査の有効性向上を挙げた企業が半数となっており、コロナ禍において特にグループ会社に対する監査の実効性をどのように確保するかが課題となっていると考えられます。さらに、ESG課題への対応を挙げた企業が3社となりました。

2021年3月期は0社であったことから、サステナビリティ経営が重視される中で監査役会等がそのモニタリングをどのように実施するか、有効性をいかに評価するかが新たな課題になっていると考えられます。

評価の結果、認識した課題

評価の結果、認識した課題

有価証券報告書において、監査役会、監査等委員会または監査委員会の実効性評価に言及した企業(KPMG調べ)
21年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=50社
22年3月期またはそれ以前の直近の事業年度 N=62社

まとめ

有価証券報告書において監査役会等の実効性評価について開示している企業はまだ少数であり、その取組みはまだ一般的なものとはなっていない状況です。この要因として、監査役会等の実効性評価は、取締役会の実効性評価とは違い、コーポレートガバナンス・コードでは明確な規定がないことが大きいと考えます。

しかし、コーポレートガバナンス・コードにおいて、サステナビリティを巡る課題への取締役会の主体的かつ中長期的な視点での取組みが求められるなど、取締役がその業務執行にあたって取り組むべき課題は拡充しています。それに伴い、取締役の職務執行を監査する立場にある監査役会等の業務範囲も拡大しています。

監査役会等が考慮すべきリスクの多様性、複雑性も増している状況下においては、監査役会等がフォーカスすべき課題への対処に適切な時間を割き、実効性を維持しながら責務を遂行することが必要となります。それらが企業のガバナンスを支え、その土台の上でパーパスに基づく中長期的な価値が創造されると言えます。

こうした監査役会等の取組みに実効性を確保すると同時に見える化するために、監査役会等の実効性評価は有意義な取組みとなり得ます。さらに、評価の結果は、監査役会等のさらなる実効性向上に活かすだけでなく、企業報告や対話を通じて説明することで、投資家等の外部からの信頼性獲得に繋げることが大切だと考えます。

例えば、今回の調査からは、長引くコロナ禍においてグループ監査の実効性のさらなる向上を目指す姿勢や、サステナビリティを考慮した経営が重視される中で、ESG課題への対応の有効性評価を課題だとする監査役等の認識を読み取ることができました。これらの情報が示されることにより、投資家等は、当該企業の監査が画一的・形式的なものではなく、リスク・経営課題等の変化に対応した有効な監査業務を実施していることが理解できると考えます。

過去2回の分析結果からは、監査役会等の実効性評価を実施している旨に言及している企業はまだ少なく、その取組み自体が先進的であると言えます。一方で、有価証券報告書における説明の内容については、まだ改善の余地がみられます。実効性評価の取組みを、より意義あるものへと昇華させるために、監査役会等は、自らの役割や責務をどのように捉え、その遂行状況をどのように評価し、さらなる実効性の向上に向けてどのような課題意識を持っているのかを伝えることが大切です。

執筆者

あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
原 征寛

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