サステナビリティ経営を軸にしたKDDIの経営戦略 ―多様化する時代に通信事業者の果たす役割

KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 副統括本部長 兼 サステナビリティ経営推進本部長 最勝寺 奈苗氏との対談です。

KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 副統括本部長 兼 サステナビリティ経営推進本部長 最勝寺 奈苗氏との対談です。

新型コロナウイルス感染症拡大を受け、企業活動や市民生活のあらゆる領域で急速にデジタル化が進みました。Digital Transformation(以下、「DX」という)による新たなビジネスの創出という点においても、通信事業者の果たす役割はますます重要になっています。

そんな世の中の動きを受け、2022年4月、KDDIはサステナビリティ経営を一元的に推進するためにサステナビリティ経営推進本部を、グループ全体のガバナンスを強化するためにコーポレートシェアード本部と経営管理本部内にグループ経営基盤サポート部を新設しました。社会全体としての不確実性が高まり、価値観やワークスタイルが多様化する現在、KDDIは通信事業者として何を目指していくか。環境問題や人財育成にどう取り組んでいくか。今回は、KDDI株式会社コーポレート統括本部 副統括本部長兼 サステナビリティ経営推進本部長の最勝寺奈苗氏にお話をうかがいます。

インタビュアー=
森谷 健 KPMG FAS 執行役員 パートナー

対談時には感染対策を十分に行い、写真撮影時のみマスクを外しています。
所属・役職は、2022年8月時点のものです。

長期志向と社会価値の観点を組み入れ、持続的成長を実現するサステナビリティ経営

森谷:5月に発表された中期経営戦略の軸にサステナビリティ経営を位置付けられましたが、その背景について教えてください。

最勝寺 奈苗 氏

最勝寺 奈苗氏
KDDI株式会社
執行役員 コーポレート統括本部 副統括本部長 兼 サステナビリティ経営推進本部長

1988年第二電電株式会社(現KDDI株式会社)入社。渉外・広報本部IR室長、経営管理本部財務・経理部長、経営管理本部長などを経て2020年執行役員に就任。2022年より現職。サステナビリティ経営の推進、グループガバナンス体制の強化等を統括する。

最勝寺:新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」という)の拡大により、あらゆる領域で急速なデジタルシフトが進むなど、通信を取り巻く環境は急激に変化しています。よく日本はデジタル化が遅れていると言われていますが、リモートワークを含めて、デジタルシフトせざるを得なくなったのは、ある意味COVID-19の発生があったからとも言えます。そのなかで通信の果たす役割というのも、ますます重要になってきています。

また、事業を取り巻く環境も、価値観やワークスタイルの多様化、DXによる新たなビジネスの創出、サステナビリティの重要性の高まり、我々のビジネスで言えば5GやBeyond5Gといった次世代技術の進展などにおいても大きな変化が起きています。こうした変化に対応しながら、我々がありたいレジリエントな未来社会を実現するために、「KDDI VISION2030:『 つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」を掲げ、これからの3年間の中期経営戦略を策定し2022年5月に発表しました。中期経営戦略では、長期的な視点で社会課題とKDDIグループの重要度を勘案して6つの重要課題(マテリアリティ)に決定し、サステナビリティ経営を軸に事業戦略とそれを支える経営基盤の強化を両輪で推進していくことになっています。

森谷:私どもの業界でもデジタルシフトの取組みが進んでいます。そうしたDXは通信業界による長期的な視点での投資によって支えられていると日々痛感していますが、長期的な志向はとても難しいものだと思います。

最勝寺:当社が掲げるサステナビリティ経営は、長期志向と社会価値の観点を組み入れて持続的成長を実現するというものです。もともとKDDIは利益に対する意識が高い風土がありましたが、そこにさらに社会価値、あるいは環境価値を向上させることで、さらなる企業価値の向上と社会の持続的成長への貢献の両立を図っていきます。

これは、単に環境や社会に良いことをすればいいということではありません。事業そのものにサステナビリティを組み入れて収益機会につなげるという、重要な経営課題であると捉えています。考え方のポイントとしては3つ。1つ目は、時間軸を短期から中長期の志向に転換すること。2つ目は、トレードオフの志向から、どちらも諦めずに両方とも実現させるトレードオン発想に転換すること。3つ目は、視点を世界あるいは地球へと広げて、グループ会社やパートナーの皆さまと一緒に取り組むことです。

森谷 社是、企業理念、ブランドメッセージ、フィロソフィを拝見すると、御社はサステナビリティ以前からすでにサステナビリティ経営の本質を捉えているように思えます。経営理念とサステナビリティ経営の関係性をどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

最勝寺 中期経営戦略の全体フレームは図表1の通りです。最上位にあるのが企業理念で、サステナビリティ経営を軸とした経営戦略を含め、全体を支えているのが「KDDIフィロソフィ」です。企業理念やフィロソフィには、サステナビリティ経営に通じる考え方が随所に謳われていますので、私は、サステナビリティ経営はフィロソフィの実践そのものであると考えています。

これまで時間をかけて浸透を図ってきたフィロソフィが、サステナビリティ経営につながっているのは間違いありません。

図表1 KDDIグループの中期経営戦略の全体フレーム

図表1 KDDIグループの中期経営戦略の全体フレーム

ただ今一歩問われているのは、環境や社会の課題を一人ひとりが危機感をもって認識し、その解決策を、事業を通じて実行する必要性を意識することです。そして、トレードオンの発想により、ビジネスモデルを自律的に改革していくことです。

森谷 トレードオン発想というのは御社の戦略を紐解くキーワードだと思います。普段からトレードオン発想で取り組まれているのでしょうか。

最勝寺 現場は売上最大・コスト最小で、どちらかというと短期志向になりがちです。長期的な視点で何かを実行しようとしても、足元の利益を損ねてしまうことはやりたくないという発想になってしまいますよね。その方が簡単ですから。しかし、相反することを両立するというのは、実はビジネスそのものです。ビジネスの醍醐味というのか、難関を乗り越えた先に収益につながるといった事例がたくさんあります。

グループ全体での成長を目指す「サテライトグロース戦略」

森谷 中期経営戦略では、サテライトグロース戦略も1つの大きな方向性として定められています。このサテライトグロース戦略とサステナビリティ経営の関係性についてお話しいただけますでしょうか。

最勝寺 サステナビリティ経営は中期経営戦略の軸ですが、戦略としては事業戦略と経営基盤強化があります。その事業戦略をサテライトグロース戦略と位置づけました。本格化を迎える5Gをセンターに置き、通信事業の進化と通信を核とした注力領域を拡大していきます。特に5つの注力領域として、① DX、②金融、③ エネルギー、④ LX(Life Transformation)、⑤地域共創(CATV等)を定義し、KDDIグループとして通信とのシナジーを発揮し、新たな領域の成長を加速する戦略です。そうなると、やはりグループ会社全体での経営基盤強化が必要になってきます。中期経営戦略は、その両立を図る戦略です。

森谷 新中期経営戦略・サステナビリティ経営の図(図表 2 参照)を拝見すると、経済価値のみならず社会価値と環境価値を高めることで、企業価値の向上と社会の持続的成長がぐるぐると回ってつながり、グループ全体で成長していくことを目指しているように見受けられます。サステナビリティ経営では、自社が短期的に成長していくだけではなく、他者を巻き込んで大きくなっていく。それ自体が社会的価値であり、事業価値であるということでしょうか。

最勝寺 その通りです。当社グループは、パートナーの皆さまとともに社会の持続的成長と企業価値の向上を図り、社会の成長が次の我々の事業戦略に活かされ、そして再び社会に還元されるという、好循環を目指していきます。

森谷 そうした戦略を有機的に機能させるために、コーポレート統括本部が他部署やグループ会社を一生懸命つないでいかなければならないというわけですね。

最勝寺 好循環の核となるのは、まさに事業の成長そのものです。従って、サステナビリティ経営は我々のような専担部署だけがやればいいということではなく、全グループで取り組む必要があります。コーポレート統括本部の役割は、事業に寄り添った形でサステナビリティ経営を推進し、特にガバナンスの観点からグループ経営基盤を強化していくことです。

図表2サステナビリティ経営
サステナビリティ経営

図表2サステナビリティ経営

再エネや省エネ技術の導入で、カーボンニュートラルと気候変動問題に取り組む

森谷 ESG(環境、社会、ガバナンス)の環境の観点からお伺いします。環境問題について、昨今、世間的に注目を集めているのはやはりCO2排出量の削減です。御社は、2022年2月にSBT(Science Based Targets)の認定を取得され、4月には従来の宣言を前倒して、2030年度までに事業活動におけるCO2 排出量実質ゼロ(グループ含めての目標は2050年度)を実現すると発表されました。この宣言を実現するために、具体的にどのような計画をされているのでしょうか。

最勝寺 カーボンニュートラルについては、地球規模で重要な課題であると認識しており、中期経営戦略のマテリアリティの1つに掲げてさまざまなアプローチで取り組んでいます。

当社では年間約100万トンのCO2を排出していますが、その 98%は携帯電話基地局、通信局舎、データセンターといった通信設備で使用する電力によるものです。今回、宣言を前倒しした背景には、第 3世代携帯電話 サービス「CDMA 1X WIN」(3G)を他社に先駆けて2022年 3月末に終了したことが挙げられます。3Gの基地局はかなりの数がありますが、3Gの電波を停止することでCO2排出量に大きな削減効果があることが見えてきました。

3G以外の基地局については、AIを活用し基地局ごとの電力使用量を抑制する実証実験にパートナー企業と着手しています。通信局舎についても、パートナー企業とCO2削減に向けた覚書を締結し、通信用サーバーを制御する検証試験を行っています。今後は、基地局等への太陽光発電の導入、通信局舎への新たな省電力技術の導入などを推進していく予定です。また、データセンターは、KDDI グループがTELEHOUSEブランドでサービスをグローバル展開していますが、全世界ではいち早く2026年度でのカーボンニュートラルを目指していきます。

さらに、KDDIは2021年11月に、気候変動問題に取り組むスタートアップを支援するCVCファンド「KDDI Green Partners Fund」を立ち上げました。その第1号の株式会社エネコートテクノロジーズとは、将来的に基地局や通信局舎への導入を目指して、携帯電話基地局向けの次世代太陽電池の実用化に向けた実証実験を行っています。これらの計画を含め、前倒し可能であると判断しました。

森谷 話題のメタバースやWeb3などが普及すると、通信のトラフィック量が従来よりも増えるとか、5Gは通信距離が短いことから基地局や通信局舎が従来よりも多数必要になると言われています。5G、さらにその先の6Gになると、今までよりも基地局や通信局舎、データセンターの電力量は増えるのではないでしょうか。

最勝寺 使用する周波数の関係から、基地局数が多く必要となるのは懸念ポイントではあります。しかしながら、5GやBeyond 5Gに移行することでより効率的な伝送が 可能となりますし、省電力技術や、再生可能エネルギーを導入することで、 CO2排出量削減を加速していきます。

また、これからの時代、通信設備や局舎などを各事業者が単独で持つというのはなかなか厳しいものがあります。海外ではキャリアによるインフラシェアリングがはじまっていますから、今後はそうしたことも視野に入れて取り組み、それによって、基地局への設備投資と電力消費を抑えられるのではないかと考えています。

森谷 目標を達成するには、Scope3からのCO2排出量も削減しなければなりません。しかし、それにはサプライチェーン全体での実態把握が必要です。

最勝寺 おっしゃるとおり、Scope 3 のCO2排出量削減のためにはより精緻な実態把握が必要となりますが、これは容易なことではありません。この点は当社のみならず、多くの企業が悩んでいらっしゃるのではないかと思います。当社の場合、実態把握はサプライチェーンアンケートを通じて行っていますが、現段階では手作業なところもあり、いかに効率化していくかが今後の課題と言えます。グローバルではいろいろな取組みが進んでいるようですが、日本でも、共通プラットフォームが整理され、各社がデータを入力するような仕組みがあれば、集計も容易になり、効率化が図れるのではないかと考えています。

対談

市場価値に基づく報酬制度、専門性の深耕を可能にする「ジョブ型人事制度」の導入

森谷 次に、社会についてお伺いします。岸田首相は政策として新資本主義を標榜され、人への投資を語られています。また、ソーシャルとサステナビリティ経営では、人的資本への投資という文脈が多いように思います。御社では、人財に関して今どのような取組みをなさっているのでしょうか。

最勝寺 人的資本についても、日本の取組みは遅いとよく言われています。人の教育、多様性、女性の活躍推進など、諸外国に比べるとどれも遅いというのは事実としてあると思います。こうしたことは、やはり打破していかなくてはいけません。KDDIでは、「人財ファースト企業」への変革として、すでに「新人事制度」「社内 DX」「働き方改革」の三位一体の改革に着手しています。今回の中期経営戦略でも「人財ファースト企業への 変革」をマテリアリティの1つに掲げており、今後はこの変革をフェーズ2として、さらに進化させていく予定です。

1つ目の 新人事制度「KDDI版ジョブ型人事制度」は、定められた専門領域で 社員が常に成長を続けプロフェッショナル人財を目指す、という制度です。専門領域は30あり、各専門領域に求められる職務やスキルを明確にした「ジョブ型人財マネジメント」を導入しました。それにより、市場価値に基づく報酬制度、専門性の深耕を可能にします。

経済的価値を追求しようとすると、人は資産ではなくコストと捉えられます。つまり、できるだけ少ない陣容で、「人が足りなくても頑張れ」という働き方を強いるということです。しかし、もはやそういう働き方では太刀打ちできませんし、人の確保も難しい。2022年度は新卒だけでなく、キャリア採用も前年対比で2倍となる過去最大の400名を採用する予定となっています。

森谷 御社は単体で1万人強の従業員がいらっしゃいますが、400名というとかなりの人数になります。

最勝寺 そうですね。ただ、採用した 人たちがそのまま残るわけでもありません。昔の終身雇用とはかなり変わり、転職する人もそれなりにいて流動比率は増していますので、それも見越して採用していく必要があります。

森谷 雇用を巡る環境変化への新たな取組みが、30の専門領域に分かれた「ジョブ型人財マネジメント」ということでしょうか。

最勝寺 はい。特に若い方は自分のキャリアをしっかり考えていて、「自分の強みを伸ばしたい」、「自分の強みを活かした仕事がしたい」というニーズが高まっていますので、そこに応えていけるような制度でなければ、人は集まりません。逆に言うと、そうした専門性を身につければ、ある程度企業間の流動が起きるのはやむを得ないことだと思います。

森谷 御社のなかで人財の市場価値を高めた結果として、他社に進まれる可能性も許容されているということですね。新卒採用でも変化は起きているのでしょうか。

最勝寺 許容しているわけではありませんが、新卒採用を含めて、流動性が高くなっているのは事実です。新卒採用は、2020年度から「OPENコース」と初期配属領域確約型の「WILLコース」という2つのコース制を取っています。OPENコースは幅広い事業領域や技術領域で経験を積みたい人を、WILLコースはこれまでの経験やスキルを活かせるフィールド領域で経験を積みたい人を対象としたものです。たとえば、当社の経営管理本部では、財務会計や管理会計を学んできた学生がWILLコースで採用され、会計領域の専門性を高めていくといったケースが多くなると見ています。

DX人財の育成と働き方改革の推進を着実に進める

最勝寺 2点目の社内 DXは、全社員のDXのスキル向上を図り、プロ人財を育成しようという取組みです。そのために、KDDIでは2年前に、DX人財の育成機関「KDDI DX University」を設立しました。2023年度までにグループ全体でDX人財を4,000人規模に拡大する予定で、DX人財のうち中核を担うDXコア人財をこのKDDI DX Universityで500名ほど育成します。

また、今の中期経営戦略の最終年度となる2024年度には全専門領域にてプロ人財比率を30%まで高め、かつ、全社員約11,000名がDXの基礎スキルを習得することを目標にしており、事業戦略を推進するための組織力を最大化していきたいと考えております。

森谷 DX Universityでの研修期間はどのくらいでしょうか。

最勝寺 一般受講コースは1年、注力育成コースは9ヵ月です。一般受講コースでは現業に従事しながら業務時間の10~20%で研修を受講します。注力育成コースでは最初の2ヵ月間は完全に業務から離れて集中的に学び、その後は業務時間の5~10%程度で研修を受講しながら、全社DX案件のOJTでスキルを磨いていきます。

DXという領域はサテライトグロース戦略のなかでも大変期待する成長領域です。従って、DX人財育成にはしっかりと時間とお金をかけるようにしています。

森谷 働き方改革ではどのようなことをなさっているのでしょうか。

最勝寺 KDDIは、リモート(在宅)とリアル(出社)とを組み合わせた「ハイブリッド型」の働き方へと移行しました。これはやはり、COVID-19の影響が非常に大きいです。比率については会社としての指標はあるものの、社員が充分にパフォーマンスを発揮できるよう、組織ごとに最適な働き方を考えて決定することになっています。

また、社員の声から生まれた社内副業制度も導入しています。これは、就業時間の20%を最大6ヵ月間(延長の場合は最大 1年間)、別の部署の仕事をする時間に当てることができるというものです。希望する部署で働きがいを感じながら前向きに業務に向き合える環境を整えることで、 KDDIに対するエンゲージメントを高めていきたいと考えています。

森谷 ダイバーシティの時代なのでさまざまな意見があるかと思いますが、社員の皆さんはハイブリッド型の働き方に対してどのような反応を示されているのでしょうか。やはり歓迎されていますか?

最勝寺 おおむね歓迎されていると見ています。それに、いったん導入してしまうと、 100%元に戻すというのはなかなか難しいですね。一方、リモートだけでは、コミュニケーション上の問題や一体感の醸成が損なわれてしまうこと、健康上の課題が生じていることもあると認識しています。リモート勤務のメリット、デメリットを考慮して職場単位で最適な運用を考えることが重要と考えています。

森谷 最近読んだ記事に、「コミュニケーションの弊害とは緩やかなコミュニケーション、あるいは想定していないコミュニケーションの不足のことだ」ということが書かれていました。たとえば、会社に行けば普段は話さない相手に目を向けることもあるし、偶然乗り合わせたエレベーターの中で話すこともある。その結果、新しいことが起きる可能性もある。これがないことが弊害だ、と。

最勝寺 おっしゃる通りです。隣の会話から聞こえてくることをベースに自分のなかでいろいろ考えたり、話に加わったりといったことは、どうしてもリモートではしにくいですから。それが仕事に役に立ったり、ヒントになったりもするわけですから、そうした機会がなくなるというのは、リモート勤務のマイナス面でもあると思っています。

健康上の問題もあります。動かなくなりますから体重増加につながったり、人との付き合いが薄くなるとメンタル不調になったりもします。個人としても組織としても、自律的にコントロールすることが求められている、ということではないでしょうか。

連結グループ全体のコーポレートガバナンスを支援する取組み

森谷 ESGのガバナンスは、サステナビリティ経営においてはとても重要な構成要素 です。グループで159社 (2022年3月31日時点)ある御社の場合、グループガバナンスは今後、より重要になるかと思います。そのグループガバナンスをより効果的にする取組みとして、具体的にどのようなことをなさっているのでしょうか。

最勝寺 主に3つあります。1つ目は、CFOの派遣を通じてグループ会社のコーポレートサポート体制を強化することです。子会社側のガバナンス対応は派遣したCFOが行うことになっていましたが、CFOの位置付けが不明確で、フォロー体制が脆弱でした。そこで、2022年 4月に経営管理本部にグループ会社のCFOとガバナンス体制を支援する部署「グループ 経営基盤サポート部」を新設し、派遣するCFOはその部署の所属として、レポートラインを明確にしました。グループ経営基盤サポート部が各社の課題をリスト化し、コーポレートの各本部と連携しながらグループ会社を支援していく体制が整いました。

2つ目は、シェアードサービス活用によるグループ共通業務の集約化・高度化です。コーポレート機能はどの会社にも必要ですが、それを各社で持つことは、要員確保、業務クオリティの 維持、効率性の観点から課題がありました。経営管理本部において2019年 4月から一部の子会社の経理業務を受託していましたが、2022年4月からはコーポレート統括本部にコーポレートシェアード本部を新設し、経理、購買、人事の給与関係の一部の業務をシェアードという形で受託するようにし、体制を強化しました。新会社の設立時や小さな会社ではこうした業務はなかなか手が回りませんから、事業部からは感謝されています。

最後は、リスク統制システムの 構築・高度化です。これは、リスクマネジメント本部が主管となって、共通的な統制手段の整備、リスクマネジメント情報の収集・分析・共有、モニタリング 基盤の 強化を進めています。

中でも、情報セキュリティの強化が重要な課題になっています。情報漏えい事故の防止やサイバー攻撃から情報資産を守るという意味で、セキュリティの強化やデータガバナンス基盤の強化、さらにセキュリティ技術強化などを、技術統括本部情報セキュリティ本部と連携してグループ会社を支援しています。

また、これらの取組みは、グループ経営基盤サポート部を事務局とする「グループガバナンス支援会議」において、コーポレート統括本部の各本部とリスクマネジメント本部、情報セキュリティ本部が集まり、グループ会社の状況と課題の把握、そして的確なサポートができているかを相互にチェックし、サポートの実効性を高めています。

森谷 健

森谷 健 株式会社KPMG FAS 執行役員 パートナー

センチュリー監査法人(現あずさ監査法人)を経て現職。 KPMG FAS転籍後は国内外のM&A案件におけるファイナンシャルアドバイザー業務、バリエーション業務、会計助言業務に多数関与。近年はテクノロジー・メディア・通信セクターにフォーカス、現在 KDDIクライアントサービスチームのリーダーを務める。

森谷 会社のサステナビリティの観点から、技術統括本部とコーポレート統括本部との連携は、今後益々重要になりそうですね。特に情報セキュリティは、昨今の難しい事業環境下では、御社の肝の部分になっていくのではと思います。

最勝寺 グループ会社の統制状況の監査項目の1つに、情報セキュリティ体制の整備があり、これはとても大事です。KDDIは通信事業者なので特に手厚く堅牢なセキュリティシステムを構築していますが、同じレベルを子会社に求めるのは子会社にとっては大きな負担です。デジタルセキュリティを専門とする子会社の協力で、グループ会社のセキュリティ基盤を強化しているところではありますが、要求するレベルを会社の業態や規模によって区分けすることも必要であると思っています。グループ会社の数が多くなり、連結に占める売上や利益の比重も上がっていますので、しっかりフォローしていきます。

森谷 最後に、本誌の読者にメッセージをお願いします。

最勝寺 サステナビリティの取組みは、当社だけやればいいというものではなく、どの企業も一緒に取り組まないと社会・環境に真に良い影響は与えられません。KDDIグループでは、「パートナーの皆さまとともに一緒に取組む」という方針を掲げており、積極的に他の企業の皆さまとも協働していきたいと考えております。

森谷 ありがとうございました。