多様性を活かす社会からその先へ ~スポーツを通じた新たな価値共創~

今回は、JBFA専務理事兼事務局長の松崎英吾氏に、KPMGジャパン 人事/人材開発統括責任者の宍戸通孝がお話を伺います。

今回は、JBFA専務理事兼事務局長の松崎英吾氏に、KPMGジャパン 人事/人材開発統括責任者の宍戸通孝がお話を伺います。

特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会(以下、「JBFA」という)は、「ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」というビジョンを掲げ、国内のブラインドサッカーおよびロービジョンフットサルの普及・育成をはじめ、ブラインドサッカー日本代表の強化や、地域行政や企業と連携した小中学校向けのダイバーシティ教育や啓発イベントなど、幅広い事業を展開しています。KPMGジャパンはJBFAのビジョンに共感し、2014年に経理業務サポート、2015年に内部統制サポートを実施、また、同年よりパートナーシップを結び、JBFAの活動およびブラインドサッカーの普及発展を支援してきました。
今回は、JBFA専務理事兼事務局長の松崎英吾氏に、KPMGジャパン 人事/人材開発統括責任者の宍戸通孝がお話を伺います。

対談時には感染対策を十分に行い、写真撮影時のみマスクを外しています。
所属・役職は、2022年5月時点のものです。

JBFAの存在価値

宍戸:2021年のパラリンピックで、5人制サッカー(ブラインドサッカー)日本代表チームは5 位の成績を残しましたね。KPMGジャパンでも、社内で応援サイトや社内SNSを立ち上げ、多くの職員が応援しました。試合がテレビでも放映され、障がい者スポーツやブラインドサッカーについて興味を持った方も多いかと思いますが、いかがですか。

対談

松崎 英吾氏(写真右)
NPO法人日本ブラインドサッカー協会
専務理事 兼 事務局長

千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)理事、一般財団法人インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション代表理事。「ブラインドサッカーを通じて社会を変えたい」との想いから、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。「サッカーで混ざる」をビジョンに掲げる。また、スポーツに関わる障がい者が社会で力を発揮できていない現状に疑問を抱き、障がい者雇用についても啓発を続けており、サステナビリティがあり、事業型で非営利という新しい形のスポーツ組織を目指す。

 

松崎:おかげ様でパラリンピックは、たくさんの注目をいただく機会になったと感じています。KPMGジャパンの皆さまにも応援いただき、あらためてお礼申し上げます。ありがとうございます。パラリンピックでは、勝つこと、注目を浴びることは、とても重要なのですが、それが障がい者の社会での生き方や教育の受け方などの変化につながらないとすれば、非常に寂しいことです。勝てば勝つほど、障がい者が生きやすくなる、社会参画しやすくなるような取り組みが、私たちの存在価値を高めていくと感じています。

宍戸:なるほど、スポーツでの成功と視覚障がい者の社会参画の促進を両立させることに意義があるとお考えなんですね。松崎さんは具体的にどういった問題意識をお持ちになり、視覚障がい者スポーツの発展に取り組まれているのでしょうか。

松崎:現在の日本には、障がい者手帳をもつ視覚障がい者はおおよそ31万人ほどです。そのほかの障がいに比べると、障がい者のなかでも少数派といえます。また、医療技術の発達から、特に若い視覚障がい者は年々減っています。しかしながら、彼らが働く場所がまだまだ少ないことには変わりありません。かつては「鍼・あん摩」の国家資格取得が就職および長期的な職業につながりましたが、今は国家資格を有しない簡易なマッサージなどの参入が進み、それらの仕組みが機能しにくくなっています。企業においても、「視覚障がい者は、見えない、見えにくいからできない」と思い込んでいる節があります。しかし、本人が「見えない、見えにくいからできない」ということと、会社や社会が「できないとみなしているから、できない」ことには違いがあります。

この障がいの捉え方の違いを「障がいの社会モデル」と呼んでいます。私たちはブランドサッカーで世界一を目指していますが、勝つことだけが目的ではありません。JBFAの「当たり前に混ざり合う社会を実現すること」というビジョンのもと、これらの障がい者を取り巻く環境が変わり、彼ら・彼女らの職業選択肢が増えるといった未来も必要だと考えています。

ブラインドサッカーとは

視覚に障害がある人でもプレーできるようにルール設計された、転がると音が出るボールを使用する5人制サッカーです。アイマスクを装着した4人のフィールドプレーヤーと、目が見える晴眼者(もしくは弱視者)のゴールキーパーがピッチに立ち、ガイドがゴール裏より指示を出します。選手は、感覚を研ぎ澄ませ、ガイドやゴールキーパー、監督の声やボールの音、仲間を信じる気持ちを頼りに、プレーを展開します。

 

ブラインドサッカー

スポーツで彼・彼女らに出会って、 障がいが見えるようになった

宍戸:松崎さんはいつ頃から、そのような視点を持たれていたのでしょうか?

松崎:実は、私は、もともとは障がい者の存在に無関心な人間でした。大学卒業後、出版社で働いていた時も、本来は障がいの有無に関わらず「本を読む権利」があるはずなのに、視覚障がい者を読者として考えたことは一度もなかったはずです。

しかし、ブラインドサッカーに出会い、仲間ができたことによって、「この本をブラインドサッカーの仲間たちは読めないんだ」とはじめて気がつき、そういうところで、資本主義社会で経済活動をする自分と、大好きなコミュニティで活動する自分の、捉え方の違いに気がつきました。「かわいそうだから助けてあげよう」ではなくて、「この人たちが本を読めないのはおかしい」と、自然と考え方が変わってきました。

ブラインドサッカーを通じて、自分の視野を広げてみたら、耳が聞こえない人、脳性麻痺の人、精神障がいの人がサッカーを楽しんでいることにも気づきました。スポーツで彼ら・彼女らに出会って、障がいが「見える」ようになったのです。そして見えるようになったら、今度は課題が見えてきました。戦後の日本は、経済成長をより効率的に進めるために、政策としても障がい者を分けて管理してきました。これにより、健常者と障がい者が社会で出会わない、出会いにくい仕組みができていました。しかし、今では、社会の意識やシステムが変わりつつあります。法定雇用率なども取り沙汰されていますが、現実として、6%が障がい者であり、いま健康な人でも、心身の機能低下や事故等により、誰でも障がい者になり得ます。私たちは必ず老いていくわけです。障がい者は社会的弱者と括られがちですが、弱いわけではありません。ですから、彼ら・彼女らが持っている力とは何かを考える必要があります。

宍戸:そうですね。「弱い」と決めつけるのではなく、「できないこともある人」と捉える必要がありますよね。松崎さんもお話しされたとおり、企業・個人を取り巻く環境が大きく変化を迎えている中で、人的資本経営という観点からも、多様な一人ひとりの個性を活かす職場づくりが重要とされています。このことは、健常者と障がい者とで変わりがないのではないでしょうか。

ビジネスの場においても、ESG/SDGs経営と言われて久しいですが、長期的な価値を生み出すサステナブル経営かどうか、多様なステークホルダーから厳しく評価されています。たとえば、我々であれば、監査業務を通じて信頼される資本市場の構築の責任を果たすため、クライアントの先にいるさまざまな投資家の視点を理解しなければいけません。しかしながら、1人の人間がさまざまな投資家の目線を持つことはきわめて難しい。複数の目で見るとしても、同質の人間が同じ考えで、同じ結論しか持っていないのでは、物事を多面的に捉えることができず、意味がありません。いろいろな経歴、価値観、経験の人がいたほうが良く、その面からも、多様性が大事だと考えています。

自らの体験によって 気がつくことは、誰かに 教えられるよりも効果が高い

宍戸 視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現するというビジョンの実現のために、JBFAでは具体的にどのような活動をされているのでしょうか。

松崎 わずか10年前でも、障がい者スポーツは「障がい者のためだけのスポーツ」という見られ方をしていました。当事者も、障がい者だけで集まって「自立に向けて頑張りましょう」と。しかし、本当の意味で変えていくには、マジョリティである見えている人、障がい者とされない人たちの見方、マインドセットに働きかけなければなりません。地域コミュニティや会社の中で受け入れてもらわないといけませんから。

そこで、我々は健常者の方に「見えない体験」をしてもらう学校向け教育プログラムである「スポ育」という事業や企業向けの「ダイバーシティ研修(OFF T!ME Biz )」などを実施しています。それらの身体的な体験機会を通して、障がいを違いとして理解することや、違いのあるなかで自らの個性を発揮する大切さ、それらをチームワークでいかに乗り越えていくかに気づいてもらいたい。こうしたプログラムを通じて、多様な状態を活かし合う原体験をしてほしいと思います。

宍戸 たしかに、自らの体験によって気がつくことは、誰かに教えられるよりも効果が高いですよね。

松崎 はい、我々は「共体験」をとても大事にしています。理由は、多様性や障がい理解は、理屈として理解することと、腑に落ちてそれらを包摂して利活用することには、大きな壁があるからです。昨今、「多様性が大事だよね」「一人ひとりの違いを個性として捉えていくのは大事だよね」という意見に賛同しない人は少ないと思いますが、現実には障がい者の雇用率もまだ1桁台。俯瞰しても、女性の管理職割合も経営職割合も圧倒的に少なく、多様性を数値化して見ると、変化がまだ途上であることは明らかです。
 
そして、その裏側にあるのが無意識の偏見、アンコンシャスバイアスだと、我々は考えています。

アンコンシャスバイアスを可視化する

松崎:障がい者が社会参画することへの同意はあるのに、変化の兆しがあまり感じられない。理屈は共有できているのに、実体の変化につながっていないのではないか。その背景を探っているなかで、アンコンシャスバイアスに出会いました。ただ、アンコンシャスバイアスは「無意識」なもので、主観的アンケートなどでは測定できない。測定するには認知心理学で研究されていた独特な手法が必要でした。当時、これらを測定できるシステムが日本になく、私たちで研究者とともに開発しました。

そして、実際に障がいに関するアンコンシャスバイアスを測定してわかったのは、日本は他の国々と比べても、「障がい者も共生する社会が大事」という表面の同意と、それに関して行動を起こそうとした時の心持ちのギャップが大きいということです。これを変えていくには、内発的な動機付けにアプローチすることが大切です。法律や企業のルールを変えることも大事ですが、それら外発的動機付けだけでは、無意識は変わりません。

無意識への効果的なアプローチの1つに、ともに身体性を伴う体験をすることがあります。アンコンシャスバイアスに働きかける文脈において、実はブラインドサッカーの出番は思っている以上に多いのではないのかと思っているところです。

宍戸:すごく興味深いお話ですね。同時に、アンコンシャスバイアスの測定の結果を受け止めることに恐れも感じます。

松崎:アンコンシャスバイアスは、物事を効率的に判断したり、危険回避のための不可欠な脳の働きなので、偏りがあること自体は悪いことではありません。ただ、その働きが、時代や価値観と合わなくなることがあります。その時に、少し立ち止まって見直すことが大切です。

測定結果は、確かにショッキングな場合もありますが、アンコンシャスバイアスの抑制要因は、みずからのバイアスの程度を知ることにもあります。「自分はこのくらいかな」という主観的な感覚と測定結果に表れた数値のずれの把握自体が大切なのです。

我々はこのアンコンシャスバイアス指標を経営の管理指標にしています。ここに働きかけができてはじめて、我々の「混ざり合う社会」というのが前進していると言えると思えるからです。組織としての傾向や価値観の偏りを可視化することができるため、今では、研修会社やNPOの研修に、我々の仕組みを役立てていただいています。

宍戸:健常者同士にも無意識の偏見はありますよね。たとえば、「アイツの言うことなんか聞いても無駄だ」といったような。先ほど「物事を多面的に見るには多様性が必要だ」と言いましたが、「健常者の中の多様性」にも目を向けなければならないなと。

松崎:実はそこもつながっています。目に見えてわかりやすい違いを受け入れるコミュニティを作っていくと、意識しにくい違いに対する許容度も上がっていくという調査結果があります。

私たちは、障がいに関するアンコンシャスバイアスを測定し、企業研修などで提供していますが、障がいに対する理解を通じて、人種や性差などの他の違いへの偏見に意識を向ける効果も生まれると考えています。

対談

IDE(インクルージョン、ダイバーシティ&エクイティ)のエクイティをどう捉えるか

宍戸:KPMGでは、「IDE(インクルージョン、ダイバーシティ&エクイティ)」を大切に考えています。ここまで、多様性やそれを受け入れる社会について触れてきたと思いますが、エクイティについてもお伺いしたいと思います。私は、エクイティは公平な機会へのアクセスを実現することであり、インクルージョンやダイバーシティを支えるインフラのようなものだと考えています。その意味で、多様なメンバーからの良い意見や知見を得られるチャンスを自ら遮断してしまうことは、エクイティに反することだと思っています。

松崎:障害者差別解消法には「合理的配慮」という概念があります。たとえば、視覚障がい者と健常者の新入社員がいて、等しくPCを支給したとして、エクイティが担保できていると言えるでしょうか?視覚障がい者は今ではPCを使えるのですが、そのためには読み上げソフトが必要です。PCだけを与えられても、それで同じスタートラインには立てません。障がい者の社会参画の文脈では、障がいを起因として特別な配慮をすることに合理性が認められる場合は、法人として必要な配慮をしなければいけないことになっています。それを合理的配慮と言いますが、エクイティの概念に近いと感じています。

宍戸:「合理的配慮」、同じ人間として一緒にやっていくうえで、スタート地点に並ぶための配慮ということですね。

私は、障がい者を雇用する特例子会社あずさオフィスメイトの代表取締役社長も務めています。あずさオフィスメイトには軽度から中程度の知的障がいや精神障がいを持つスタッフが100人ほど所属し、あずさ監査法人内の事務業務の一部を請け負っています。コーチと呼ばれるジョブコーチが、一人ひとりの特性を見極め、それぞれに適した仕事をアサインしていることもあり、社内便の回収・配達、PCへの入力作業、印刷、中古文房具のリサイクルや補充、オフィス共有部のメンテナンスなどを、非常に正確に対応してくれており、もはや法人になくてはならない存在と言っても過言ではありません。皆とても生き生きとした表情をしていて、とあるスタッフに好きな作業を聞くと、「文房具補充が好きです。文房具を数えて補充をするときに、会社で働く人たちの役に立っていると実感できます」と答えてくれました。また、新人が入ると彼ら内で指導したりと、成長に驚かされたりもします。

一方で、その配慮を受ける側の心持ちも気になります。以前、アメリカに駐在している時に仲良くなった黒人が、「黒人の一番まずい点は、黒人自身が何もできないと思っていることだ」と言っていたことがあります。これも1つのバイアスだと思います。同じように、障がい者側のバイアスというのもあると思うのですが、どうでしょうか。

※知的障がい者の社会的自立を支援することを目的に2011年4月に設立されたあずさ監査法人の特例子会社

 

松崎:とても興味深いポイントです。実は、障がい者の障がいへのアンコンシャスバイアスについて、調査ができる環境を整えているところです。これまでは事例が乏しく、測ってみないとわからないのですが、実際に社会が変わった時に、障がい者側が変われるかどうか。どちらが先かとか大きさは関係なく、お互いに、変化の兆しを感じながら少しずつ変わっていかなければいけません。開発学で言うエンパワーメントですが、変わっていくプロセスが大事だと思っています。

パラリンピックを経て、障がい者の「従来とは違う可能性」を健常者は感じることができたと思います。他方で、障がい者自身にも変化があり、スポーツを通じて得た社会的スキルや自信を活かし、スポーツのフィールドの外である「社会」でもチャレンジが生まれています。

マジョリティの社会と視覚障がい者のそれぞれの変化によって、「障がい」に対する見方、マインドセットが変わっていく。その小さな変化の積み重ねが、大きく社会を変えていくのではないでしょうか。短期的に結果は出ないでしょうが、5~10年、あるいはそれ以上をかけて、障がいのあり方が大きく変わっていければと思っています。

宍戸:双方のマインドセットの変化の積み重ねによって生まれる変化ですね。組織に落とし込むと、たとえば、KPMGには海外の主要国の代表が参加する会議体が数多くあるのですが、言語面から起こる気持ちのバリアなのか、日本で、グローバルでの重要な役割を担おうとする者はほとんどいませんでした。しかし、7~8年前より積極的に海外での重要な役割にアサインするようにすると、言語の問題はさほど生じず、日本の発言力が高まり、本人も自信をつけ、続いてチャレンジしようとする者も増えました。女性のリーダーシップ職の増加も同様です。かつて、一歩後ろからサポートする立場が自分に向いていると考える女性が多かったのですが、それはそれまでの環境がそのようにさせてしまっていたのです。女性を対象としたキャリア開発のための階層別研修やネットワーキングなどを行うことで、リーダーシップマインドが醸成され、リーダー層にチャレンジをして活躍する女性も増えてきています。

社会や人々の意識を変えるとなると、時間はかかりそうですが、とにかく続けていくことが大切ですね。私たちは、松崎さんはじめJBFAの皆様が掲げているビジョンを信頼し、ともに社会を変えていきたいという想いでパートナーシップを結んでいます。社会課題解決に向け、さらに新しいことに一緒に取り組んでいければと思っています。

対談

KPMGジャパン
人事/人材開発統括責任者
宍戸 通孝

1986年朝日新和会計社(現・あずさ監査法人)入所後、2007年にパートナーに就任し、2015年理事(現執行理事)、2019年専務理事に就任。現在は、あずさ監査法人で、製造業、卸売業。サービス業等さまざまな業種の監査に関与しているほか、M&Aディールアドバイザリー業務にも従事。また、KPMGジャパンの人事/人材開発関統轄責任者、あずさ監査法人HR統轄、ダイバーシティ統轄担当として、多様な個性を持つ一人ひとりが「高品質なサービスの提供をもってクライアント・社会に貢献する」という共通の目標に向かい、お互いの多様性を認め、活かし合いながら、高い能力を発揮し合うことを目指し、インクルージョン、ダイバーシティ&エクイティの推進に取り組んでいる。

スポーツの価値の共創に向けて

松崎:KPMGジャパンが、スポーツを通じた社会貢献を大切にしている理由について教えてください。

宍戸:私たちは、スポーツには社会を動かす大きな力があると考えています。これは松崎さんもよく理解されていると思いますが、スポーツには、身体と心の健康以外にも、コミュニケーションに代表される非認知能力の習得や、多様な人々や社会をエンパワーする力があります。国連でも「スポーツの持つチカラ」として対話の促進や障がいの有無に関わらないすべての人々の社会への参画などを挙げています。

図表1 社会的価値を含む「スポーツの3つの価値」

対談

私たちは、地域や社会といった多様なステークホルダーに対して、スポーツが持つ「真の価値」を可視化して、その価値を最大化しようという取組みに挑戦しています。また、その過程で私たち自身も一緒になって楽しく取り組むことにより、内部のコミュニケーションにもつながれば良いと考えています。

その考えの基となっているのは、「スポーツの価値算定モデル調査」レポート(2020年3月、日本政策投資銀行)で提言している、社会的価値を含む「スポーツの3つの価値」です(図表1参照)。SDGs(持続可能な開発目標)など地域・社会への貢献活動を促進する流れが社会全体にある中で、3つの価値を可視化・定量化することで、スポーツがハブとなり地域や社会との「対話」や「共創」が生まれ、価値を最大化できると考えています。

地域貢献としては、同じ新宿区に拠点を置くクリアソン新宿*1の地域パートナーとなっています。KPMGジャパン職員とともに、スポ―ツの価値を通じて地域課題の解決に挑戦したいと考えています。また、スポーツを通じたSDGs活動の推進を支援する“地域協創型デジタルプラットフォーム”を湘南ベルマーレ*2と構築するなど、地域におけるパートナーとともに、社会の課題解決を担えればと思います。

*1 KPMG/あずさ監査法人は、スポーツの価値を通じて新宿区の社会課題解決に挑戦する新宿クリアソンとパートナーシップを結び、クリアソン新宿が目指す「新宿区に対する社会的価値」の可視化・定量化に向けて取り組んでいる。

*2 KPMGコンサルティングは、湘南ベルマーレと協働し、地域のステークホルダーと連携・協創してSDGs活動を推進するためのプラットフォーム「地域協創型デジタルプラットフォーム」を構築し、デジタルを活用した一過性ではないSDGs活動の地域連携・活動・成果の見える化を実現し、「Act(地域・社会活動)」「Excite(ファン・地域の認知・盛り上がり)」「Extend(コアサポーター・スポンサーの維持・増加)」「Grow(チーム強化・成績向上・地域活性)」のサイクルを回すことで、SDGs活動という社会連携活動とチーム本体の強化が常に循環し、サステナブルに成長していくための仕組みの実現を目指す。

松崎:そして、ブラインドサッカーも今年新しく設立されたトップリーグで、KPMGジャパンも、リーグ第3節の冠スポンサーと新リーグを通じて「混ざり合う社会の実現」に向けた価値の可視化に、「IDE共創パートナー」としてともに取り組んでいただくことになりましたね。これまで障がい者スポーツは草の根的にスポーツをする機会の創出を図ったものが中心で、国内最高峰のリーグ戦というのがありませんでした。そこで、我々はパラリンピックの機運を活かし、挑戦しようと決めていました。

特集

©JBFA
LIGA.i(リーガアイ)
ブラインドサッカートップリーグ

これまでの国内リーグを再編して、KPMGカップを移設した「LIGA.i(リーガアイ)ブラインドサッカートップリーグ」を創設しました。タイトル内の小文字の「i 」は、競技性(=Intensity)、興行性(= Influence)、組織性(= Integrity)の頭文字を取っています。新リーグを通じて社会的インパクトを生み出し、「ブラインドサッカーはパラスポーツだ」という概念を覆し、「当たり前に混ざり合う社会」を実現したいと考えています。

宍戸:7月に第1節と第2節、9月には第3節が開催されますね。ぜひ、混ざり合う社会の実現に向けて、力を合わせ共創できればと思います。本日はありがとうございました。