デジタルテクノロジーをドライブする関連産業

昨今のデジタルテクノロジーをドライブしつつある関連産業の話題をまとめました。

昨今のデジタルテクノロジーをドライブしつつある関連産業の話題をまとめました。

ゲームテクノロジーの一般化が加速

著名なベンチャーキャピタリストの方から、次に投資すべきはゲームテクノロジーが一般化していく産業であるという話を聞いたことがあります。

昨今、AR/VRやメタバースと言った言葉をよく聞くようになりました。仮想空間におけるシミュレーションや3Dグラフィックスを用いた情報の可視化なども同様です。また自動運転の学習に自由空間型のゲームコンテンツを用いて学習させるといった手法も開発されるなど、ゲームと非ゲームの領域がクロスオーバーしつつあります。

3Dエンジンで世界トップの米国企業のCEOが元世界最大のゲーム出版社の元CEOの方だったり、世界トップシェアを誇るゲームプラットフォーム事業の創業者が自動運転技術のスタートアップのCEOに就任したりと、人材的にもゲーム業界出身者が広く産業界に転身しています。

すでに米国の大手IT関連企業がメタバースへの参入を表明し、よく知られたサービス名からメタバースを意識した社名に改名するなど、産業界に大きな動きがありました。

教育産業、各種サービス産業へのインパクトに留まらず、監査・税務・アドバイザリーにおいても、最終アウトプットの見せ方の標準・基準が大きく進化する可能性が高く、今後の各産業においての競争領域になるでしょう。

音楽産業におけるデジタルの影響

ゲーム産業と並んで巨大なエンタテインメントである音楽産業ほど、デジタルの影響を大きく受けた産業はないかもしれません。

生演奏という限定的な機会からレコードというパッケージメディアに収めたことで、音楽はあまねく広い層に聞かれるようになりました。時代を同じくして普及したラジオとも相まって、音楽ジャンルも爆発的に増えてゆきました。

音楽コンテンツを0と1の2進数で表現するデジタル録音の発明とともに、アナログレコードやアナログテープの時代は終わりを告げ、その後DAT(デジタルオーディオテープ)からCD(コンパクトディスク)、ネットワークによるダウンロード、そして最近ではストリーミングによる音楽配信へと進化しています。

パッケージメディア時代にはアルバムという形式でまとめて販売されていた楽曲も、デジタルの特性の1つである「アンバンドル」の流れで、1つの楽曲ごとに提供されるケースが増えてきました。

従前は米国でのリリース後、諸外国では少し時間をおいてリリースされるのが通常でしたが、今や全世界で同時にリリースされ、人気アーティストの最新作ともなると、極めて短期間のうちに何億回も再生されています。

聞き手の感想も即座にSNSを通じて共有されることから、人気楽曲は世界規模で人気となるといった、デジタル時代の「売れ方」も顕著になっています。

最近ではビデオストリーミングメディアの活用も重要となり、音楽コンテンツにおけるビジュアル制作の重要性も増しています。

この音楽業界が体験したメディアの進化やビジネスモデルの変遷の歴史を、アナログからデジタルの変化が最初に起こった産業として把握しておくと、これから起こるデジタル移行中の多くの産業の未来を考えるとき、重要な教科書となりうると考えられます。

AIが投入された将棋界から見えるAIとプロフェッショナルの関係

いわゆる人工知能=AIと人の関係は、大きく2つに変わって行くと思います。AIを教える側になるか、AIに教えられる側になるかです。

AIを教える側になるというのは、AIについて他の人に授業をしたり、講義をしたりするということではなく、AIを鍛える側になることを意味しています。その反対側にあるのが、AIに教えられる側になるということです。おそらく1人の人がすべてにおいてAIを鍛える側になることはなく、トピックによってはAIに教えられる側になることもあると思います。

専門性の高いプロフェッショナルが活躍する分野の中で、もっともAIの活用が進んでいるチェス・将棋・囲碁の状況は大変参考になります。

チェス・将棋・囲碁は完全情報ゲームといって、相手の手駒の情報などもすべて見えているものなのですが、チェスで10の120乗の組み合わせ、将棋で10の220乗、そして囲碁では10の360乗の組み合わせがあると言われています。

このような途方もない数の組み合わせの中から、最善手や最善手に近い手を打ち続けるプロの技量は凄まじいものです。将棋では、2002年生まれ、2022年春の時点でまだ19歳の藤井聡太五冠が圧倒的強さを見せていますが、AIによる対局が可能になってから、人間の棋士も強くなっているそうです。

KPMG Ignition Tokyoの対談ウェブコンテンツであるIgnition Odysseyで、レーシングシミュレーターで訓練することでフォーミュラのレーサーを育成するプログラムを立ち上げたドライビングシミュレーションゲーム会社社長の方との対談(前編 /後編)を掲載していますが、e-Sportsという言葉が生まれる前から、現在を見据えた活動をされています。

これも将棋での例なのですが、これまで古くて効果がないとされていた指し手を将棋AIが指したり、AIとの対局で鍛え上げられた新世代の棋士が指したりすることで、その指し手、つまり手法が再評価されています。

これはとても面白く、従来の部分的な解析ではよい手と言われていなかったものが、実は大きなポテンシャルを持っていたことが判明したということになります。これを敷衍すると、さまざまな産業や分野で禁じ手と思われてきているようなアプローチも、より深い解析を行ってみると、実は悪い手法ではないかもしれないという、パラダイムシフトの可能性が生み出されているといえます。

メタバースはオルタナティブワールドなのか、パラレルワールドなのか

2021年後半からメタバースという言葉を良く聞くようになりました。SNSのFacebookが正式社名をメタ・プラットフォームズに変更するというニュースもありました。

メタバースと大きく関連する言葉として、DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)にも注目が集まり始めています。

さらにDAOを構成する基盤技術としてブロックチェーンが用いられ、スマートコントラクトで金融取引情報などを維持すると考えられています。技術的には分散OSが抱える課題との共通点もあるようにも見えるのですが、これをどう解決していくのか興味深いです。

AR/VR、3Dリアルタイムグラフィックス、各種センシングデバイス、ブロックチェーン、AI、スマートコントラクト、Web3.0、分散OSなどなど、一見関連性が少なそうにみえていたこれらの技術が、ここにきて大きな関連性を持ち始めたことに注目しています。

この話題のメタバースですが、MMORPGに代表されるゲームは元来メタバース的な存在なので、ゲーム産業以外の産業で人々の口の端に上っている感じがします。ゲーム産業では過去に何度もメタバース的な世界の洗礼を受けていて、免疫ができているからかもしれません。

メタバースを考える際、現実世界の代替世界(オルタナティブワールド)として捉えられがちで、その場合、現実世界から代替世界へログインして入ったり、出たりすることが基本的なユーザ体験として設計されます。

しかし、この代替世界的アプローチは、過去にユーザ体験的にうまくいかなかったアプローチに見えます。というのも、サービスの立ち上げ当初は物珍しいので良いのですが、代替世界にまで行ってやる事がなかったり、理由がなかったりすると、さびれてしまいます。また、他のユーザがいないとコミュニケーションが成立しないため、人口密度が小さいと、さびれた荒野的な代替世界になってしまいます。

そのため、メタバースを現実世界に対する並行世界(パラレルワールド)として成立させることが、「成功するメタバース」の基本ではないかと推測しています。並行世界では、自分や他者のデジタルツインや仮想的なキャラクターが自律的に行動している世界を作ることが、現実世界と並行世界を行ったり来たりする理由になりそうです。

すでにFacebookでは、先日○○を購入したとか、○○に旅行したなど、ユーザの現実世界の行動に対応した関連広告がAIの判断で表示される、並行世界的なサービスが提供されています。メタへ社名変更したFacebookの今後の動きに注目しましょう。

プロフェッショナルも人間-判断のばらつきがAIよりも大きい事実

メタバースがパラレルワールドとして存在した時に、自律的なAIの存在は無視できないでしょう。まだまだ人には及ばないと思われているAIですが、その概念に疑問を投じる書籍がありました。

ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン等による『NOISE:組織はなぜ判断を誤るのか?』(早川書房)は、組織の意思決定における誤りについて分析した興味深い書籍です。

本書では、ライフルで的を撃つ時、同じ方向にずれるものを「バイアス」、そうではないものを「ノイズ」と呼び、ノイズはいくつかの種類に分類されるとしています。判断者間で異なるもの、時間など外的パラメータで判断が変化するものなどがあります。

裁判官や医師など高度な判断を行うプロフェッショナルの判断が個人間でばらつきを持つことは容易に想像できると思いますが、前日の地元サッカーチームの対戦結果に影響を受けたり、判断する時間や天気によって影響を受けたりするという統計には、少なからず驚かされます。

さらには、1人のプロフェッショナルの判断パターンデータ群を学習させたAIとプロフェッショナルの判断比較では、AIの方が安定的な結果を出すという事例まで挙げられており、さまざまなプロフェッショナルタスクをAI化する方向は正しいと思わせてくれる記述でした。

まだ基本的な分析に留まっているものの、判断という行為の精度に対する今後の考え方に一石を投じる著書で、今後広いプロフェショナル領域において、AIの判断の安定性に注目が集まっていきそうです。

自分のデジタルツインに講演をさせてみた反響

こういったAIの安定性に注目したこともあって、KPMG Ignition Tokyoではアバターが講演を行うためのコンテンツ制作ツール、ACE(KPMG Avatar Conversation Editor)を開発しました。

最新の音声合成とアバター制御技術を使って、架空のキャラクターに日本語・英語で流暢に喋らせることもできますし、人間の外観をキャプチャーしてアバターを作り、さらに日本語や英語音声から人間の個別音声のシンセサイザーを作って、任意のテキストを読み上げさせることも可能です。

KPMGジャパン内では、こういったツールを使って研修のコンテンツを読み上げたり、私自身のデジタルツインを作って海外KPMG内のイベントで30分の講演をさせるなど、活用がスタートしています。人間が喋るよりも滑舌がよく、詰まりもないので、聴衆側のストレスは小さく、評判は上々です。特に英語などの母国語でない言語で喋る場合は、明らかにアバターによる読み上げに軍配があがります。

KPMG Ignition Tokyoではこのアバターをさらに強化し、頭脳的な処理を加えることで、自然対話や質疑応答などを可能にするプロフェッショナルなAI化を進めています。

自社開発のアバターコンテンツ制作ツール

前述のKPMG Ignition Tokyoが開発したACEは、アバターを使った日本語・英語のプレゼンテーションコンテンツを短時間で容易に制作できるだけでなく、アバターの手振りや向き、大きさなども簡単に調整可能です。

通常のビデオ化された発表コンテンツだと、一部差し替えや修正などが容易ではなく、顧客ごとに微調整したり最適化したコンテンツの制作は気軽に行えません。また人間がプレゼンテーションを行う場合は、発表者のスケジュール確保や発表者の急病・急用による欠席対応のバックアップなど、企業側の悩みは少なくありませんが、ACEはそういった企業の悩みを解決できそうです。

※ACEはKPMG Avatar Conversation Editorの略称となります。

執筆者

KPMG Ignition Tokyo
フェロー, パートナー
茶谷 公之

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KPMG Japan technology insight